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実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
神無月―葵禁忌の葵と邪悪な雫―決戦編―【完結】

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雫は葵の記憶へ還る ― 愛しているよ

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*

ブクマやリアクションしてくれた皆様ほんとうに、ありがとうございます!

―――




その姿を見た瞬間、祠の空気が変わる。


もうそこにいたのは、悪鬼でも、穢れに蝕まれた魂でもない。


約八十五年ぶりに、本来の姿を取り戻した "雫" だった。


雫は、自分の手を見下ろし、小さく震える息を吐いた。


「……ああ……体が軽い、戻れたのですね……」


その声には、安堵と、

信じられないというような戸惑いと、長年抱え続けた苦しみがすべて滲んでいた。


「葵様、私、ずっと苦しかった……

葵様が道を踏み外すのを留めることもできず、ただ傍にいることしかできない自分が、

ずっと、苦しかった……」


その言葉に、葵は息を呑む。


箱の中から見つめるその瞳には、すでに憎しみはなかった。


雫の声を聞いた葵の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。


「……雫……」


震える声で名を呼ぶ。


目の前にいる。

あの日、失ったはずの、心の底から愛した人が、確かにそこにいた。


雫はゆっくりと葵へ向き直る。


「葵様……申し訳ありませんでした……あなた 

を禁忌に落としてしまったこと……」


静音しずね様と澪斗から、大切なお兄様を奪ってしまったこと……誓約の一族として役目を果たせず、途絶えさせてしまったこと……」


一つひとつ、噛みしめるように謝罪を重ねる。


静音は唇を噛み、澪斗は目を伏せた。

責めたいわけではない。


けれど、失ったものが決して小さくなかったことも、また事実だった。



その時、

静寂を切り裂いて龍神の鎖が解かれた。


雫は驚き、目を見開いて龍神を見上げる。


長い年月を魂のまま彷徨い、

悪鬼にその身を裂かれ、

それでも自我を保ち続けた代償は、


あまりに重かった。


すでに雫の魂には、

輪廻の輪へと還る力さえ残されていない。


その残酷な真実を、龍神だけが静かに悟っていた。


龍神の慈悲を受け、雫は深く、深く一礼する。


「龍神様……ありがとうございます」


震える声で感謝を伝えた雫は、ゆっくりと

真白と紡の方へ向き直った。


魂を穢れから救い出してくれた二人へ、

感謝の思いを込めて言葉を紡ぐ。


「穢れを祓ってくれて、ありがとうございます。それから、葵様を止めてくれて、ありがとうございました」


その微笑みは、見ている方が痛くなるほど、穏やかで清らかだった。


だが、代償を払い続けた魂は、すでに限界を迎えていた。


雫は葵のもとへ歩み寄る。

拘束された箱の前に立ち、

やわらかく微笑んだ。


「……やっと、元の自分に戻れました、葵様と共にいた日々は……とても幸せで、そんな毎日をくれて、ありがとうございました」


その一言ごとに、葵の瞳からぽろぽろと涙が溢れていく。


「私の弱さが、あなたを闇へ落としてしまった……」


その言葉に、その場の誰もが息を止めた。


「でも、葵様との日々を、無かったことにはしたくないんです。だから……葵様……」


「いつか、日向のもとへ帰れる日がきたら……私のことを思い出して、生きてください」


「葵様、あなたを愛せて――幸せな一生でした」


そう言って雫は、満開の花のような笑顔を見せた。


その笑顔は、あまりにもやさしく。


あまりにも美しく。


あまりにも儚かった。


次の瞬間、雫の輪郭が光へとほどけていく。


きらきらと、春の陽に溶ける雪のように。


頬を伝う涙の雫さえ光の粒になって、空へ散っていく。


「雫……っ、待って……!」


伸ばしたくても、届かない。


鎖に縛られたまま、葵はただ泣き崩れることしかできなかった。


雫の体は、透き通るような黄金の粒となって宙を舞う。


それは消滅という残酷な結末でありながら、まるで彼女自身が祝福を纏っているかのような、美しい最期だった。


雫の姿は、もうどこにもなかった。


残された静寂の中で、葵がかすれた声を落とす。


「私は、間違えていたのか……? 雫のためと言いながら……私は、自分のために雫を苦しめていたのか……っ」



その懺悔のような言葉を、真白は静かに受け止めた。


真白

「……いいえ」


真白

「雫様も、葵様と同じ気持ちだったからこそ……悪鬼に魂を削られながらも、葵様を守るために自我を保っていた。あなたの心が完全に壊れてしまわないようにと」


葵がゆっくりと顔を上げる。


真白

「悪鬼へ落ちてもなお、葵様の傍にいたことが……雫様にとって幸せだった日々ではなかったのなら」


真白

「きっと、最後にあんな笑顔は見せなかったと思います。その魂をすべて使い切ってでも、あなたに『幸せだった』と伝えたかった。」


真白

「――あの笑顔が、すべてですよ」


葵の目から、また涙が溢れる。


すると龍神が、重く、しかしどこか哀しみを滲ませた声で告げた。


龍神

「長き時を魂のまま過ごし……悪鬼に千切られながらも、お前を守るために自我を保ち続けていた」


龍神

「それほどまでに、お前が大切だったのだろう」


龍神

「代償に、その魂は消滅し、輪廻にさえ帰れなかった」


龍神

「……だが最後、自分に戻れた時の波動は、穏やかで安らかであったぞ」


その言葉に、葵は深く俯いた。


龍神

「だからといって――お前の罪が消えるわけではない」



空気が張り詰める。


龍神の双眸が、まっすぐ葵を射抜いた。


龍神

「哀れな我が子よ。そちに裁決を言い渡す」


龍神

「禁忌に落ち、他の眷属に危害を加え、世に混乱を招こうとした」


龍神

「よって――禁錮三千年を言い渡す」


三千年。気の遠くなるような時間。 


龍神

「だが葵よ。この三千年の間に、そちが悔い改めることを望んでいるぞ。そちの大切なものは……雫だけではないはずだ」



龍神の視線の先には、

泣き崩れる二人――

静音と澪斗がいた。


静音

「兄様、立ち直ってください……雫の最期の願いのためにも……」


澪斗

「兄様が戻ってくるまで、僕が姉さんと神社を守ります。いつか日向に帰れる日まで、ここでずっと、待ってますから……っ」


その言葉に、葵は目を見開いた。


信じられないものを見るように。


そして、

胸の奥に押し込めていたものが、

一気に溢れるように。


「……静音……すまなかった……弱くて、愚かだった私を……許してくれ……」


静音は泣きながら、何度も頷いた。


葵は澪斗にも目を向ける。


「澪斗……本当に立派になったな。静音と、龍神神社を……頼む」


澪斗は唇を引き結び、涙を堪えながら、しっかりと頷いた。


そして――


龍神による封印の儀が始まる。


祠の前に青い光の陣が広がる。

無数の水の紋様が重なり合い、神域そのものが深い蒼に染まっていく。


鎖に繋がれた葵の箱が、

ゆっくりとその光の中へ沈み始めた。


意識が遠のく中、


葵は遠いあの日――


まだ何も壊れていなかった頃の記憶を思い出していた。


――ねぇ、雫。私は眷属だから……


――人の子が、とてもとても好いていると伝えるとき、なんて伝えたらいいのか……教えてくれるかい?


あの時、雫はぱちりと瞬きをしたあと――

にっこりと、幸せそうに笑ったのだ。


――それはですね……


――“愛してる”って言うんですよ


青い光の中へ沈みながら、葵は目を閉じる。


そして、もう届かない相手へ。


それでも確かに存在した愛へ。


噛みしめるように、その言葉を口にした。


「……雫」


「愛しているよ……」


「これからも……ずっと……」


その声は、光に溶けていく。


例え愛すべき魂が消えても、


この愛だけは――雫は葵の記憶へ還る ― 愛しているよ


青い光が収まった後、

祠の前には、ただ穏やかな風だけが吹き抜けていた。

最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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