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実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
神無月―葵禁忌の葵と邪悪な雫―決戦編―【完結】

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堕ちた雫が還るまで

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*



――激闘から数日後。




各神社には、ようやくいつも通りの穏やかな時間が戻ってきていた。


境内を撫でる風はやわらかく、木々の葉がさやさやと鳴る。


縁側にはあたたかな陽が差し込み、


湯気の立つ抹茶の香りが静かに広がっていた。


この日、豊穣神社には笑成えなとユッキーが参拝に訪れていた。


縁側に並んで腰を下ろし、

真白ましろ優羽ゆうはたちとともに抹茶を口に運びながら、他愛ない話に花を咲かせる。


激しい戦いがあったことなど、

まるで遠い昔のように思えるほど、

そこには穏やかな時間が流れていた。


ふと、


笑成が湯呑みを見つめたまま、

ぽつりと呟く。


笑成

「……葵さんが、大切な人のためなら何でもしちゃうって気持ち。あたし、分かっちゃうな」


つむぎ

「えっ、笑成さんもですか?」


笑成

「うーん、自分が断れない性格って言うのもあるけど、それでもやっぱり、大切な人の笑顔が、自分の生きる力になることってあるじゃないですか」


「もっと笑ってほしいとか、もっと幸せにしたいとか……その笑顔を作れているのが自分なんだって思うと、なんだか心が満たされるっていうか……」


一瞬、縁側に静かな間が落ちる。


その気持ちは、完全に否定しきれるものではなかった。


大切だからこそ、守りたい。

笑っていてほしいからこそ、手を伸ばしたくなる。


笑成

「愛ってきっと、そういうものじゃないかな?」


その言葉に、真白たちの視線が自然と集まる。


だが、その隣でユッキーは茶菓子を頬張りながら、

割って入った。


ユッキー

「だからといって、悪いことまでしちゃうのはダメですけどね!

理由はともかく、真白様たちを傷つけたこと、あたしは許さないんだから!」 


ユッキーはプンスカと両手を振り回し、

怒った仕草を見せる。


その必死な様子に、真白たちは思わず顔を見合わせ苦笑いした。


だが笑成は、そんなユッキーを見て、ふっと悪戯っぽく目を細めた。


笑成

「じゃあユッキーは、私が死なないために一緒に他の精霊の魂を集めてってお願いしても、断れるの?」


笑成の問いに、場がしんと静まり返った。


真白も、優羽も、紡も、思わずユッキーへ視線を向けた。


どんな答えが返るのか、興味深そうに見守る。


けれどユッキーは、迷うことなく胸を張り、


当然のように言い放つ。


ユッキー

「そんなことになったら――

 あたしは迷わずまた真白様たちに、助けても 

 らうに決まってるじゃない!」


笑成

「!……ふふっ、確かに!それが一番!」


あまりにも彼女らしい答えに、笑成が吹き出した。


「あはは! それは間違いないですね」


真白

「ええ。とてもユッキーさんらしいです」


ユッキーは「何よぉ」


と言いながらも、どこか誇らしげで。


優羽も肩を揺らして笑い、

重たかった空気は少しずつほぐれていき


縁側には穏やかな空気が満ちていった。


そんな穏やかな午後――

本殿への報告のため、真白は静かに立ち上がった。



神前に進み、深く頭を垂れる。

やがて降りてきた豊穣神の気配は、


春の陽だまりのように穏やかで、

やさしかった。


豊穣神

「真白」


その声に、真白は顔を上げる。


豊穣神

「龍神より、葵の封印のためのすべての準備が整ったと伝えがありました」


豊穣神

「明日にでも、龍神神社へ赴きなさい」


真白は背筋を正し、凛と応じる。


真白

「――かしこまりました」


真白の返答に、豊穣神は慈愛に満ちた眼差しを向ける。


やわらかな神気が、そっと真白を包み込む。


豊穣神

「悔いの残らぬよう、やれることをしてきなさい。

……例え、望まぬ結果になったとしても、

それは運命が定めたこと。自分を責めてはなりませんよ」



その言葉は、真白の胸の奥深くへ静かに染み込んでいく。


真白は一瞬だけ目を伏せ、それから穏やかに微笑んだ。



真白

「……ありがとうございます、豊穣神様」


その笑みはやさしかったが、同時に、覚悟を決めた者の静かな強さも宿していた。




翌日――




龍神神社の祠の前には、真白をはじめ、静音しずね澪斗みなとつむぎあお、そして大和やまとの姿があった。


重く張り詰めた空気のなか、ただ、水面だけが不気味なほど静かに揺れていた。


やがて――


その水面が、ゆらりと盛り上がる。

次の瞬間、水の封印箱に閉じ込められた葵が姿を現す。


箱の隙間から、葵の憎悪に満ちた罵声が飛んだ。


「お前たちを許さない……! 雫を奪ったお前たちをっ!」


響く罵声は、祠の空気を震わせる。


だが、その声に応える者はいない。

あおと大和は冷やかな視線を送り、


身内である澪斗と静音は、ただ悲しげに兄を見つめていた。


そんな中、蒼が不快そうに眉を寄せながら、


「真白……こんな奴に慈悲なんて……要らないんじゃないの?」


蒼の言葉に大和も黙って頷くが、


真白は首を横に振った。


真白

「それでも、雫様の最後の願いです……『葵さまを助けてほしい』と」


その名が出た瞬間だった。


葵の形相が変わる。


「――雫だと……!?」



「……っ、その雫を、お前たちが殺したんだろうがぁ!!」


狂ったように叫ぶ葵。


その時、空気が一変する。


水が震え、地が低く唸り、そこに立つ全員の背筋を強制的に正させるような威圧。


祠の奥から、圧倒的な神威が降りてきた。


――龍神だった。


龍神

「騒がしいぞ、葵」


龍神の鎖が葵の体を縛り上げ、札でその口を封じる。



龍神は真白たちへ視線を向ける。



龍神

「豊穣の子よ。そなたが申した願いぞ」


その言葉とともに、龍神は祠の前へひとつの魂を置いた。


けれどその光は、透き通った清らかさだけではなかった。


龍神

「悪鬼の部分は焼けたが、穢れが深すぎて成仏もできぬ状態だ。一応、我の鎖で繋いでおく」


長年の穢れにまみれ、黒ずんだ光を放つ雫の魂は、重く、長い苦しみの痕跡を残している。



淡く揺れる、雫の魂――



その魂にもまた、やわらかな水の鎖が巻きつく。


雫の魂を目の当たりにし、葵が嘘のように大人しくなる。


(……雫……)


真白と紡は雫の魂の前へ静かに歩み寄り、共に手をかざした。


やがて、清らかな白い神気が指先から溢れ出す。


とてもやさしく――


長い年月をかけて魂に沈殿した穢れだけを、丁寧にほどいていくように。


その光景に、葵が再び激昂した。


「んーー!!んー!んー!!

(何をする気だ!! 雫に触れるな!!)」



龍神

「まだ騒ぐか……見苦しい」


龍神が呆れる表情を向ける中


真白は、

葵をまっすぐ見つめ、

静かに語りかけた。



真白

「葵様……雫様は――

 葵様と同じように、あなたの幸せを願って 

 いたんです」


葵の瞳が揺れる。


真白

「葵様、あなたも……そうだったのですよね?」


返事はない。

だがその沈黙こそが、答えだった。


真白

「だから僕たちは、お二人のねじれてしまった運命を救いたいんです」



真白

「これから雫様の魂の穢れを浄化します」


葵が何かを言おうとするが、龍神の札がそれを許さない。


「んーー!んーーーー!んーーー!

(浄化だと?!何を馬鹿なことを!)」


真白

「これまでは、僕一人の力では、長い年月をかけて魂に蓄積された穢れを祓うことはできませんでした」



「んーー!んーー!んーー!

(頼む!頼むからやめてくれ!)」


真白

「ですが今は――同じ力を持つ紡がいます」


紡は小さく頷き、真白の隣でそっと神気を重ねる。


真白

「一人では無理なことも、二人なら……」


言葉が終わるより先に、白い神気が一段と強く輝いた。


二人の神気が混ざり合い、真っ白な光のベールとなって雫の魂を包み込む。


あたたかく、けれど澄み切った光。


それはまるで冬の終わりに差し込む春の陽のようで、


見ているだけで胸の奥の冷たいものが溶けていく。



龍神が目を細める。



龍神

「……なんと、素晴らしい」


龍神が感嘆の声を漏らす中、


穢れだけが、じわじわと滲み出るように剥がれていく。


黒ずんだ澱は光に触れるたびにほどけては、消え、静かに祓われていった。


やがて光がゆるやかに収束し――


そこに残ったのは、穢れをすべて祓われた、

透き通るほど純粋な、雫の姿が浮かんでいた。



その姿を見た瞬間――


葵の瞳が、大きく揺れた。


そこにいたのは、

もう穢れに蝕まれた亡霊ではない。


かつて葵が愛した、

あの頃と同じ――


やさしく、穏やかな雫だった。


祠の空気が、静かに震える。


その場にいた誰もが、

息を呑み、言葉を失っていた。


だが――


ただ一人。


鎖に縛られたままの葵だけが、

震える声を漏らす。


「……雫……?」


その名を呼んだ瞬間、


長く歪み続けていた運命が、

わずかに動き出した。


最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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