厄介者と呼ばれた蒼、火の童子の言葉で目を覚ます
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―――
葵に追いついた蒼と澪斗は、
荒れ狂う神域の回廊で再び激突していた。
蒼の焔が廊下を焼き尽くすように広がる。
蒼
「……邪魔どいて!」
蒼が放つ凄まじい火力の焔が、
葵を護る悪鬼たちを次々と灰へ変えていく。
その熱波の合間を縫い、
澪斗は鋭い印を結んだ。
澪斗
「拘束の理――捕らえろ!」
何本もの水の鎖が葵の四肢を狙うが、
葵は翻る衣のまま、
避けることさえせず薄く笑った。
葵
「諦めろ、澪斗。その術を教えたのは私だぞ? 対処法など、すべて熟知している」
葵は軽く手を払っただけで水の鎖を弾き飛ばした。
澪斗の眉がわずかに揺れる。
その時――
最後の一体を焼き尽くした蒼が、
澪斗の隣に並び立つ。
二人がかりで攻勢に出ようとした、
その刹那――
葵の口元が僅かに歪む。
葵
「拘束の理――捕らえろ」
皮肉にも、
澪斗の得意とする術と同じ言霊。
だがその威力は隔絶していた。
澪斗
「……っ!?」
水の鎖が、
一瞬で二人の体を絡め取る。
葵は動けない澪斗に近づくと、
その額に指を触れた。
葵
「澪斗……お前には少し、眠ってもらおう」
抵抗する間もなく澪斗の意識が遠のき、
がくりと膝をつく。
続けて、
葵は矛先を蒼へと向けた。
葵
「蒼……お前の噂は天界でも聞いていたよ。焔の力が強すぎて、同族からさえ忌み嫌われていた厄介者。……いつも、独りぼっちだったらしいな?」
蒼
「……黙れ……!」
言い返そうとする蒼の声を、 葵の冷徹な言葉が遮る。
葵
「火の童子がお前を引き取ったのは、炎神に押し付けられたからだ。……」
蒼
「ちがう!そんなはずは……っ」
葵
「ないと言い切れるか?
お前なら、天界で持て余されていた
"爆弾" を押し付けられて、本心から喜ぶか?
火の童子の優しさは、同情という名の義務ではないのか?」
蒼の心に、一瞬の疑念が生まれた。
その隙を葵は見逃さない。
葵
「幻の理――」
蒼の視界が暗く沈む。
―――
気づけば、
蒼は天界の端に立っていた。
そこは冷たく白い天界の端だった。
幼い蒼が独りで座っている。
『蒼、あっち行けよ!』
『近寄るなよ、お前の焔に触れたら僕たちまで燃えちゃうだろ!』
同族の子供たちの心ない声が、
容赦なく降り注ぐ。
蒼は耐えきれずにその場から逃げる。
そして蒼はひとり、
天界の隅に座り込んでいた。
ぽたり。
頬を涙が伝う。
蒼
「……蒼だって……好きでこんな焔じゃない……」
声が震える。
蒼
「どうして……蒼だけ……」
その頃――
術に嵌めた葵は、
力なく項垂れた蒼を見下ろし、
葵
「ふぅ、やっと大人しくなったか」
そう言って葵は、
軽く息を吐いていた。
だがその直後、
屋上から伝わる雫の神気の揺らぎに、
葵の顔色が険しく変わる。
葵
「……まずいな。雫の様子がおかしい」
焦燥に駆られた葵は、
拘束された二人をその場に残し、
屋上へと姿を消した。
静まり返った回廊。
葵が去った直後、
眠っていたはずの澪斗が目を見開いた。
澪斗
「……はぁっ、はぁ……! 危なかった」
彼は術を警戒し、
密かに「解呪の呪符」を仕込んでいたのだ。
幻術に囚われ、
虚空を見つめる蒼の姿に澪斗は焦る。
澪斗
「あぁ、どうしよう蒼が……!どうすれば解ける?思い出せ……兄様との訓練の記憶を――」
澪斗は蒼の鎖を解きながら必死に思い出す。
兄との訓練の日々。
幼い頃の記憶が蘇る。
―――
澪斗
「兄様!もし幻術にかかってしまったらどうすれば?」
かつての兄の声が、
記憶の中で答える。
葵
『いい質問だな、澪斗。幻術に嵌まった者がいたら、外側の人間が "会話" を試みるんだ。
幻術は心の傷を見せて精神を壊す術。
だから外から声をかけ続け、会話が成立したら、闇から引き上げてやる言葉を紡げ。
帰ってこれるかは、対象者の心次第だがな』
かつての葵の教え。
澪斗は蒼の肩を掴み、
必死に呼びかけた。
澪斗
「蒼! 蒼、聞こえてる? 僕だ、澪斗だ!」
蒼は虚ろな瞳のまま力なく答える。
蒼
「……蒼は、厄介者だから……とと様やかか様さえ手に負えなくて……炎神様に僕を預けたんだ……」
うわ言のように繰り返す蒼に、
澪斗は衝撃に言葉を失った。
蒼はいつも僕の隣で戦ってくれていた。
澪斗
「だったら……今度は僕が……! それだけじゃない、違うだろ!」
澪斗の懸命な呼びかけにも、
蒼は虚ろに同じ言葉を繰り返すだけで、
会話が成立しない。
もう何度目かも分からない否定の言葉。
同じやりとりと、会話にならない焦りと苛立ち。
蒼
「……違うことなんてない。こんな蒼のこと、好きな眷属なんて……」
また同じこたえ。
澪斗はつい反射的に、
澪斗
「火の童子様がいるじゃないか!!」
澪斗の叫びに、
蒼の指先がぴくりと動いた。
そして――
蒼
「……でも、火の童子は、炎神様に押し付けられただけで……本当は天界に返したいって……」
会話が成立し始めた――
澪斗の胸に安堵と希望が灯る。
澪斗
「そんなわけないだろ!幾ら主神様でも、
本人の意思を無視して
そんな役目を押し付けたりしない!思い出せ!
火の童子様は一度でも、お前を面倒だと言ったのか?」
澪斗の問いに、蒼は言葉に詰まる。
その時だった。
頭上から、声が落ちた。
火の童子
『なんや! こんなところで一人で泣いて!』
顔を上げると、そこには出会った日と同じ、眩しい笑顔の火の童子が立っていた。
蒼
「……みんなが、焔が強すぎるから、あっち行けって……」
火の童子
「なんやそれ! 強いんはええことやないか! そんな言葉に負けんと、
気が合う奴探して一緒におったらええ!」
蒼
「……蒼に優しくしてくれる人なんて、天界にはいない……」
蒼
(これ……初めて火の童子に会った日だ……間違いない、そうだこの後……。火の童子は、なんて言ってくれたんだっけ……?)
目の前の火の眷属は、
胸を張って言い放った。
火の童子
『ほんなら現世に一緒に来たらええ! アタイがアンタの気の合う仲間になるわ! 強い焔は大好きなんや!』
蒼
(……蒼は……馬鹿だ……火の童子のこと疑っちゃうなんて……火の童子はいつだって……)
火の童子は、
一度だって蒼を否定した事はなかった。
現世で加護を間違えて巨大な火柱を上げた時――
火の童子
『こりゃええ勢いや! 蒼がおればこの地の悪鬼もどっかいくわな!』
大和とイタズラが過ぎて、
燈真に怒られて感情が昂り、
日の粉で髪を燃やしてしまった時も――
火の童子
『なんや、燈真パーマみたいでええやないか!』
そうだった。
初めて自分を認めてくれた。
その笑顔が眩しくて、温かくて、
思わずその手を取ったんだ。
蒼は幻術の中の火の童子をみあげた。
火の童子
『なんや! ぼーっとしとらんで名前くらい名乗らんかい!』
蒼
「あ、……えっと、蒼……蒼、です」
火の童子
『蒼か、ええ名前や! ほんなら今日からアタイの弟子や。炎神様の所に許しもらいにいくで!』
そう言って火の童子が蒼へと手を差し出す。
その手を見つめながら蒼は思い出す。
火の童子は、
どんな時も褒めてくれて、
蒼を信じてくれていた。
そして、この戦いの前夜。
火の童子
『アタイがピンチになる前に、さっさと合流して、一緒に戦ってくれな!』
蒼
『うん……任せて!』
蒼
(――っ!約束!)
蒼は火の童子の手を掴む。
その瞬間――
蒼の視界が弾け、
目を見開いた。
視界が切り替わり、
目の前には涙目の澪斗がいた。
蒼
「……澪、斗……?」
澪斗
「良かった……! 戻ってきてくれた!」
蒼は、澪斗の疲弊した様子に、
必死に自分を闇から引き上げてくれたのだと悟り、
静かに微笑んだ。
蒼
「……ありがとう……澪斗。助かった……」
だがその時。
余韻に浸る暇もなく、
頭上から、
凄まじく神気が膨れ上がるのを感じ、
二人は同時に顔を上げた。
そして――
ドォォォン!!
爆発音――
天井から砂がぱらぱらと落ちてくる。
蒼と澪斗は顔を見合わせた。
蒼
「……火の童子……!」
澪斗
「急ごう」
今は――
再会の言葉は、
あとでいい。
二人は同時に地を蹴り、
階段を駆け上がった。
大切な仲間の元へ。
そして――
決戦の屋上へ。
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