泣いてもいい場所
本日もお読みいただきありがとうございます。
(人´∀`).☆.。.:*・゜
―――
葵
「静音! 洋と、洋一のこと聞いた……
雫は? 雫は大丈夫なのか?」
息を切らしながら駆け寄ってきた葵の声には、
焦りが滲んでいた。
静音
「兄様……雫は床に伏せっております。
心の負担が……大き過ぎたようです」
その言葉を聞いた瞬間、
葵は息を呑み、
ゆっくりと、
雫の部屋の方へ視線を向けた。
雫がどれほど傷つき、
どれほど泣いたのか――
その姿を想像しただけで、
胸の奥がきりきりと締めつけられる。
ただ、
雫の痛みまで自分のもののように抱え込み、
必死に、
それを胸の奥へ押し込めようとしているようだった。
静音
「兄様……雫の側にいてあげてください……」
葵はそう言った静音に視線を戻すと、
その目元は、
赤く腫れていた。
何度も涙を拭った跡が残っている。
葵
(静音も……ずっと堪えていたのか)
はっとしたように、
葵の目が、
わずかに揺れた。
葵
「静音……お前も無理はするな……」
そう言った声は、
かすかに震えていた。
ぽたり、と。
葵の頬を伝って、
涙が一筋落ちる。
それを見た瞬間――
静音の胸の奥で、
張りつめていたものが切れた。
静音
「洋も……洋一も……
あんなに優しくて、いい子だったのに……っ」
声にならない嗚咽が溢れる。
葵
「あぁ……まったくだ……」
涙混じりに、うなずいた。
静音は、
兄の言葉に慰められながらも、
まだ胸の奥の熱が引かず、
俯いたままだった。
その時。
庭先の向こうで、
かすかに砂利を踏む音がした。
遠慮するような、
静かな足音。
風に揺れた木々の葉が、
さわさわと鳴る。
そのわずかな物音に、
静音の耳がぴくりと動いた。
はっとして顔を上げる。
視線の先には、
縁と火の童子がいた。
静音と葵の様子を見て、
縁は、
まるで痛みを分け合うような、
どこか切なく、
やさしい目をして。
火の童子はただ、
そっと見守るように、
そこにいた。
言葉にしなくても伝わるような、
包み込む眼差しの、
縁と、目が合った。
幼子のように兄に甘えて泣いている姿を、
見られてしまった静音は、
少しだけ気まずそうに目を伏せる。
そして、
そっと葵を見る。
静音
「兄様……雫のところへ行ってあげてください」
小さく、
けれど優しく背中を押すように、
そう告げた。
縁は、そっと二人のもとへ歩み寄った。
縁
「……葵くん」
それは、葵のことも気遣う声だった。
縁
「静音のことは、僕たちに任せて。
だから……雫さんのところへ行ってあげて」
静かな言葉だった。
葵は一瞬、迷うように静音を見る。
その横には――
火の童子が、
炎が揺れるように静音の隣へと
すっと寄り添っていた。
火の童子
「葵、静音にはアタイらがおる、安心して行ってやりぃ」
ぶっきらぼうで、
短い言葉。
けれど、
その一言が、
胸の奥にじんわりと沁みていく。
そっと背中を押されるような、
あたたかな力だった。
葵は小さく頭を下げる。
そして、縁と火の童子に、
葵
「……頼む」
かすれた声でそう言って、
雫の部屋へと
駆け出していった。
葵の背中が遠ざかっていく。
足音が廊下の奥へと消えていったあと、
庭先に、静かな沈黙が落ちた。
静音は、
そっと縁と火の童子の方へ向き直る。
静音
「……ありがとうございます。
お二人とも……本当に」
深く、頭を下げた。
縁はやわらかく微笑む。
縁
「ううん。僕たちは、そばにいただけだよ、落ち着いたかい?」
その隣で、
火の童子がくすっと小さく笑った。
火の童子
「せやけど静音も、
兄ちゃんの前やと、幼子みたいになるんやなぁ」
静音
「……っ!?」
かあっと頬が熱くなる。
静音
「わ、忘れてくださいっ……!」
慌てて両手をぶんぶん振る。
縁が楽しそうに肩を揺らした。
縁
「え〜、でも可愛かったのに〜」
静音
「縁さままで……!」
思わず抗議の声が上がる。
けれど、
二人の軽いやり取りに、
張りつめていた胸の奥が、
ほんの少しだけほどけた。
静音は小さく息を吐き、
表情を引き締める。
静音
「……でも、いつまでもここに引き止めてしまっては、
他の討伐地区の皆さまが困ってしまいます」
「縁さまたちも……行ってください。
私なら、もう大丈夫ですから」
まっすぐな瞳だった。
縁と火の童子は、
一瞬だけ顔を見合わせる。
そして、優しくうなずいた。
縁
「……そうだね。
でもね、静音」
静音は顔を上げる。
縁
「辛いときは、ちゃんと頼ってね」
火の童子
「ほんまやで。無理しすぎたらあかんからな」
二人の言葉に
静音の胸の奥が熱くなる。
静音は力強くうなずいた。
静音
「……はい!」
次の瞬間。
二人の足元に光の陣が広がる。
やわらかな転移の光が、
二人の姿を包み込み――
ふっと、
光が消えた。
残された庭に、
静かな風だけが吹き抜ける。
静音は、
消えた光の跡を見つめながら、
ぎゅっと胸の前で手を握りしめた。
最後までお読みいただきありがとうございます(*´∀`)
次回も呼んでいただけたら幸いです。




