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カナみんクエスト ~魔王を倒せ!?……イヤだよ、めんどくさい~  作者: Red/春日玲音


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奴隷と亜人とイーリシアの街。その2

土煙が舞い、地面がひび割れる。

狼獣人の少女シェーラの跳躍は、猛禽の一撃にも似た迫力を帯びていた。

爪が振るわれるたび、鋭い閃光が走り、空気が裂ける。


「ハッ!」

私は身をひねり、ギリギリで爪をかわす。

だが次の瞬間には尾が唸りを上げて迫る。

砂利を蹴り上げて身を低くした私の頭上を、獣の尾がうなりを残して通過した。


一撃ごとに畳み掛けてくる。

爪、牙、尾、そして膂力を活かした蹴り。

シェーラは本能と技が渾然一体となった連撃で、容赦なく私を押し潰そうとしていた。


……うーん、身体強化って実は一番便利なスキルじゃないの?

私はシェーラの攻撃を避けながら、そんな事を考えていた。


「どうした! 避けるばかりかッ!」

額から流れ落ちる汗も気にせず、シェーラは吠える。

その姿は勝者のものだった。

誰が見ても彼女が押している。いや、圧倒しているはずだった。


しかし——。


「……うーん、そうねぇ。」

息を乱さず、私は冷ややかに呟く。

……確かにすごいんだけど、相手の実力が図れないのはちょっとねぇ。


「遊んでいるのか……っ!?」

私が冷ややかな笑みを浮かべると、シェーラの胸を怒りが灼く。


勝負を決める——そう決意した様に、彼女は地面を強く蹴り飛んだ。

砕け散る岩片。

高く跳躍した瞬間、背筋がしなり、全身の力が爪先へと集めていくように見えた。

……これを喰らうのは少し不味いかな?


「これで終わりだァッ!」

月光を裂いて放たれる必殺の一撃。

風そのものを切り裂く、獣の大技。


——だが、その刹那。


私の指先が、静かにスラナイフを走らせ、その蹴りをいなす。

銀光の軌跡がわずかに弧を描く。

そして……

「おいでませ、スラちゃん達っ!」

スラナイフの刀身が輝く。


「……っ!? な、なに!?」

視界の端で何かが弾けた。

次の瞬間、シェーラの腕に、足に、柔らかな感触が絡みつく。


「う、動か……っ!? ぬ、ぬるぬるして……!?」

透明な塊。

無数の小さなスライムが、ぷるぷると震えながら彼女の四肢を包み込んでいた。


必死に振り払おうとするが、絡みついたスライムはずるずると粘り、さらに仲間を呼ぶように次々と溢れ出す。

スライムの絡めとられ、おかしな格好のまま身動きが取れずにいるシェーラ。

その滑様子は、戦場の緊迫を一瞬で呑み込み、滑稽なまでの静けさを運んできた。


「くっ……は、離せッ! こんなもので……!」

獣の咆哮すら、粘液の「ぷるぷる」という音にかき消される。

シリアスな戦場に似つかわしくない、あまりに間の抜けた光景。

こうして狼少女の猛攻は、ぷるぷるの軍勢によってあっけなく封じられた。


私はわずかに口角を上げ、肩を竦める。

「降参してくれると嬉しいかな?っていうか、早く降参しないと、女の子としてかなり恥ずかしい姿をさらすことになるよ?」

シェーラがジタバタともがいているうちに、足を大きく拡げ、お股を少し上にあげた状態で固定されてしまっている。

幸いにもホットパンツを穿いているので、大事なところは見えないが、それも時間の問題。

何といっても、今シェーラに纏わりついているスライムたちは、女の子の衣服を好んで溶かし、女の子たちを辱めるのが好きというエロスライムなのだから。

……ってか、何でこんなスライムが来るのよっ!

これじゃぁ私がまるでエロい人みたいじゃないのっ!


スラナイフに新たに加わった機能……「スライム召喚」

これは任意にスライムを呼べるというただそれだけのもの。

どんなスライムが来るかはお楽しみ……。

うん、役立たずな機能だと思ったでしょ?だけど、それは使い方次第だという事を目の前の光景が証明している。

ってか、凄い事になってるね……。


「降参……する?」

「するっ、するから助けてぇ……あぁぁ、いやぁぁぁぁ……!!!!」

シェーラの悲鳴を聞きながらスライムさんを送還する。

うん、ごめんね、ここまでするつもりはなかったんだよ、ホントだよ?


小さな女の子のように泣きじゃくるシェーラをあやし慰めているのは、ネコミミ少女のミィナとウサミミ少女のウルナ。

シェーラの事は彼女らに任せて、私はリィズやイーリスの待つ場所へと戻る。


「あれでよかったの?」

私はリィズに尋ねる。

「ま、まぁ、……よかったというかやり過ぎというか……。」

リィズが視線を逸らす。

そしてイーリスとマリアさんの視線が冷たい。


「うぅぅ、そんな目で見ないでよぉ。大体リィズがやれって言ったんだし、イーリスも煽っていたじゃない。なのにぃ……。」


事の発端は、奴隷たちの態度だった。

取りあえずは移動しながら話を聞くという事で、急遽馬車をもう一台と馬を用意したのだけど、どうも動きが鈍いのよねぇ。

いう事を聞かないわけではないので、ペナルティはギリギリ発生しないんだけど……多分、イーリスが幼いから舐められているのよね。側にいる私やマリアさんも、この世界では成人して間もないという年齢だしね。


で、奴隷の過半数が獣人族と言う事で、リィズに相談したら「格付け」が必要と言われたの。

エルフやドワーフは知らないけど、獣人族は、強きものに従うという習性があるらしいのね。

だから手っ取り早く戦って、どっちが上かをわからせるって言うんだけど……。


まぁ、ネルフィーを負かしたことで、この後は一応素直に動いてくれると思うけどね。


「カナミ……いつの間にスライム召喚なんてものを……。」

リィズが少し慄きながら聞いてくる。

意外と便利なんだよ?スライム。


某国民的RPGのせいでスライムは最弱の魔物というイメージがある。

実際には、「核」さえ潰せば簡単に倒せるので、この世界でも弱いイメージはある。

スライムは確かに弱いかもしれない、でも、それはスライムに戦うための知恵がないからだ。

スライムは核さえ潰すことができるなら、幼児にだって退治できる。しかし、逆に言えば「核」をつぶさない限りスライムを倒すことは出来ないのだ。


その身体は刃物をものともせず、切っても分裂するだけ。核以外の場所は衝撃を受けても何の痛痒も感じず、その身体に取り込まれたが最後、溶かされ捕食されるという、実はとんでもなく凶悪な魔物なのだ。

だから、「核」をつぶされないように少し考えれば、そこらの冒険者風情では手も足も出なくなる、凶悪な魔物の出来上がり、というわけ。

と言っても、スライム自体は温厚な性格のものが多く、野生のスライムは余程の事がない限り人を襲う事はない。

また、汚物を取り込み、分解して栄養価に変えるため、排泄処理などに利用されることもあり、便利な魔物として各地で利用されていたりもする。

そんなスライムだが、あのエロスライムのように、まだまだ知らざれる生態を持つものは多く、謎大き魔物でもあったりするのだ。


閑話休題


取りあえず、格付けが終わったこともあり、休憩を終えてイーリスの街に進む私達。

ここからイーリスまでは約1日半の距離がある。

事案がもったいないので途中、奴隷さん達と面接しながら移動することにした。


と言う事で、イーリスの乗る馬車に、私とイーリス、そしてリィズが座り、体面にドワーフとサンとハーフリングの姉妹が座っている。

ドワーフさんのガタイが大きいけど、ハーフリングの姉妹は小さいから、丁度いい感じ。ってか、この馬車片側3人のスペースだけど、ドワーフさんだと二人で一杯ね。逆にハーフリングなら4人はいけそうね。

因みにマリアさんとマイナは御者席で、他の奴隷さん達はもう一台の馬車に乗って後からついてくる。


っとそれより、まずはこの人たちとのお話合い。

私はドワーフさんに、奴隷になる経緯から尋ねることにした。


「儂の名はドライン。ふむ、奴隷になった経緯とな?大して面白い話ではないがの。ちょっとしたミスをして責任を取らされて奴隷になった。そんなところじゃな。」

うん、よくわからないよ。奴隷商で扱われていたところから犯罪奴隷ってわけじゃなさそうだけど……。

この世界、犯罪奴隷に関しては、刑罰の意味を込めて、先ずは鉱山送りとなるため、奴隷商での直接の売買は成されない。から、あそこで売られていたという事は、犯罪奴隷扱いになっていないという事なんだけど……。

ドワーフはあまりしゃべりたがらないっていうけどさぁ、単に口下手なだけじゃぁ?

私はチラッとハーフリング姉妹の方へ視線を向ける。

ハーフリング姉妹は、少し困ったように顔を見合わせるのだった。





次回から、奴隷さん達のお話……の予定。

ってか、知らないうちにどんどん新機能が増えるスラナイフ。

多分、これが一番チート



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