奴隷と亜人とイーリシアの街。その1
「いいか、お前ら、新しいご主人様には絶対逆らうな。そして、ここでの生活は悪くなかったと、色々気遣ってもらった、とそう言うんだ。いいなっ!」
奴隷商の御主人が、涙目で私達にそう言います。
私隊は、今から、新たなご主人様に御目通りすることになっており、その為の身支度をしているところです……なので、出来れば着替え終わるまで外に出ていて欲しいのですが……。
奴隷の分際でそんな事が言える筈もなく、私は黙って与えられた衣類に着替えていきます。
本来であれば、先ず新たなご主人様候補が私達を見分し、品定めをしてから購入するのですが……。その為、着ているのは身体のラインがよくわかる薄手のワンピースです。
恥ずかしいですが、わつぃたと女性の奴隷は、そう言う事を目的として飼われることも多いので、仕方がないのです。
ですが、今回のご主人様は、「亜人であれば無条件に購入」するらしく、見分を飛び越えて購入手続きをするそうなのです。
ここに居る亜人奴隷は、私を含め獣人が5人……内訳は、ネコ族の私とうさぎ族の少女、狼族のお姉さん、後、熊族と虎族のおにいさん……とドワーフの男の人とハーフリングの姉妹、そしてエルフの少女の合計9人です。
私たち獣人族は、話によれば「安い」のだそうですが、エルフさんは非常に高価だと聞きます。
先日のオークションでは金貨80枚まで値が上がったとか。
だから、そんなエルフさんを含めて私たち全員を購入されるなんて、新しいご主人様は、一体どのような方なのでしょう?
「まぁ、お金持ちであることは間違いないわね。」
私の考えを読んだのか、狼族のお姉さん……シェーラさんが少し苦々しげに言います。
お金持ちと言えば貴族様。シェーラさんは貴族様のお怒りに触れて奴隷に落とされたと聞いていますから、あまりいい気分じゃないのでしょう。
着替え終わった私達に、奴隷商の御主人が再度声をかけてくる。
「いいか、この私は、お前たちを大事に扱っていた、必ずそう答えるんだぞっ!」
かなり必至でそう言い捲し立てる奴隷商。先程表が騒がしかったけど、なにか関係があるのでしょうか?
まぁ、確かに、環境としては悪くありませんでした。
食事は粗末ではありますが、ちゃんと1日2食出されましたし、私達女の子には健康や美容にも気を使ってもらい、女性スタッフから色々と教えてもらいましたし……。
でも、それって、私達に高値を付ける為……商品を綺麗に磨き上げるのと変わらない行いですよね?
……まぁ、それでも、私たち獣人はもっと酷い扱いを受けると聞いていますから、きっとここは待遇としてはいい方なのでしょう。
身支度を整えた私達は、そのまま店の表へと連れていかれる。
そこには、やっぱりお貴族様らしい女の子がお供を従えて待っていました。
……あのお方が新しいご主人様?
年のころは私より少し上かな?あまり変わらない気がします。
ゆるふわな金色の髪がとても綺麗なお姫様。……こういってはなんですが、あまりこのような場所に相応しく無いです。
そのお姫様の横と少し後ろに控えている、年上のお姉さん。
お姫様の横にいる方のお姉さんが、私をじっと見てる……私、というか……ミミ?
ひょっとしてネコミミが好きなのでしょうか?その後ろにもネコ獣人さんの姿が見えますし……って、あれはっ!
「リズ姉っ?」
思わず漏れ出た私の声に、ネコミミ獣人さんがピクッと反応します。
「まさか……ミィナ?ミィナなのっ!!」
だっと走り寄ってくるネコ獣人……リズ姉の姿を見て、私は思わず泣き出してしまいました。
……だって……もう二度と会えないと思っていたのに……。
「ミィナっ!無事なのねっ!」
ギュッと抱きしめてくれるリズ姉。あぁ……このぬくもり……この匂い……リズ姉だぁ、リズ姉……リズ姉……。
私は堪えきれず、リズ姉の胸の中で泣きじゃくってしまいました。
その後、私を抱きしめながら、リズ姉が、誰かに私の事を説明しているのを聞きながら、私は何時しか、泣き疲れて眠ってしまったのでした……。
◇ ◇ ◇
「この娘……ミィナは、私の妹……みたいな存在。」
ミィナが泣き疲れて寝てしまったので、後の事はイーリスたちに任せ、リィズがミィナを抱え、一足先に宿へと戻った私たち。
そのリビングで、リィズがぽつぽつと過去の事を話し出す。
「私がいた村は、獣人達だけの隠れ里。親がいない私達はお互いに寄り添い合い助け合って生きてきたの……。」
リィズの話では、その隠れ里は、奴隷狩りから逃げてきた集団が集まってできたものだという。
だから、リィズを始め、親を失った子供たちがそれなりにいたのだが、大人たちも完全に面倒を見ている余裕はなく、リィズ達は自分で生きる術を探さなければならなかった。
ある時、食べられるものを探しに森へ入ったところ、ミィナたちが、偶々近くにいた奴隷商たちに見つかる。
リィズは自分を犠牲にしてミィナたちを逃がすことに成功するが、後になって、奴隷商の仲間が隠れ里を襲い大量の奴隷を手に入れたと聞かされた。
しかし、リィズはすでに奴隷に落とされた身であり、何も出来ず悔し涙を流したという。
それを見て、嬉々として散々嬲ったのが、あの時森にいた例の奴隷商らしい……遠慮せず殴っておけばよかったよ。
「もう、二度と会えないと思ってた……。でもまさかここで会えるなんて……。カナミ……この恩は忘れない。一生かけて返していくからね。」
「あ、ウン。」
いつになくまじめなリィズの態度に、私は思わずたじろぐ。
こういうの慣れてないのよねぇ。
「あ、そうだ、お礼はもふもふで……。」
言いかけたらリィズにそっとミィナを差し出された。
「それはこの娘から直接。」
……うん、そんなに嫌なのかぁ。
私は仕方がなくミィナを起こさないように抱き抱えると、そのままベッドへと運び込むのだった。
◇ ◇ ◇
朝の陽ざしがレースのカーテンを透かして、まぶたをくすぐる。
私はもぞもぞとベッドの中で身じろぎをして――そこで気づいた。
……あれ? 服、着てない!?
思わず布団をがばっと押さえつける。な、ななななんで!? 昨日の夜、寝る前に脱いだっけ? いやいやいや、そんなはずない!というか、昨日は、リズ姉と再会して、感極まって――それから覚えてないよぉ。
横を見る。
そこには、すやすやと眠る見知らぬお姉さん。
……えっ!? 誰!? どちらさま!?
いや、待って。冷静になれ、私。昨日は……たしか……えっと……?
(……ダメだ、何も思い出せない!)
ただ、このお姉さんはリズ姉と一緒にいたという事だけは辛うじて思い出せた……そして脳裏をよぎるのはただ一つ。
――私、知らないうちに大人の階段を……!?
顔が一気に真っ赤になる。心臓がドンドン暴れ出す。や、やっちゃったの私!? 初めてがこんな……あああああ!!
……うぅ……でも、私奴隷だし、仕方がないよね……。でも、初めてが女の人だなんて……、しかも覚えてないって……。
私が顔を真っ赤にし百面相をしていると、隣の「お姉さん」がもぞりと身を起こした。
ぼさぼさの髪をかきあげながら、眠たげに目をこする。
「……ふぁ。おはよう……」
おはようって!! いやいやいや、おはようじゃないでしょ!? この状況、どう考えてもおはようだけで済まされるレベルじゃ――
私は布団をかぶったまま、覚悟を決めて正座した。
そして、口から飛び出した言葉は――
「ふ、ふつつかものですが、末永く可愛がってくださいっ!」
一瞬、沈黙。
お姉さんはきょとんと私を見つめ、ぱちぱち瞬きをする。
「……え?あ、はい、よろしく??」
「あのっ、やはり、朝は「お目覚めのチュー」で起こした方がいいのでしょうかっ?
……。
……あれ? 私、もしかして何か間違えた……?お姉さんがキョトンとしているよ?
「か、可愛ぃっ!本気でチューしたくなっちゃうよぉ。」
お姉さんに抱きしめられながら、私の顔はトマトみたいに赤くなっていたと思います。
えっと、誰か説明をしてくださぁいぃぃぃぃ……。あ、後、お姉さん、キスは、もう少し落ち着いて、心の準備ができるまで待ってくださると……。あぁ……これが大人の…………。
リィズの妹分のミィナちゃんです。
当初はただの同族だったはずなんですが、リィズの影が薄いので、何とか絡めようと考えていたら……。
なんか、余計リィズの影が薄くなりそうで怖いです><
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