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9話 さて、魔力が戻りました。出発です❗



 魔力がなくて、器用でもない穀潰し。そして透明の瞳。それが今の私。



 それがなぜ、ピンク王太子と婚約になるのですか私にはわかりません。


 王太子妃になるのなら魔力は必要ですし、外交力も必要。今の私にできるはずもないのに、何故婚約となったかと理由を聞かれれば、


  ピンク王太子の一目ぼれ。




 私はためいきをついて、前々から準備していたトランクを持って外に出て、叫んだ。




 「私の力、水、翠、風、焔、白、陰よ!私の中へ還りなさい」




 しばらく待ちながら空を見渡すと、いく筋の光が私に向かってやってきた。10年の役目を終え、魔力が持ち主の身体に還りにきたのだ。


 そして、フィリアの身体の周囲を囲むと、すうっと吸い込まれ消えていった。


 「?白とシャドウが戻ってないですね。ウーン。ま、よいでしょう。風さえあれば飛べますからね。早くとんずらしなきゃピンクオウジサマが到着しちゃいます」




 ピンクオウジサマはよい方だと思います。穏やかで、やさしくて。ですが、魔力の恩を恋と間違われているようです。あの頃、まだ7歳でしたもの。勘違いされても仕方ありません。


 ですが、お小さいけれど私から魔力を奪ってしまったことが、大事件だと、責任を取るつもりでひとめぼれなどと言って。気の毒な方。そんな責任を感じることなく、好きな人と結婚できるように私は消えますから。


 「水色の瞳でやさしく微笑むオウジサマは、私はいらない、必要ないです」そう呟いて、トランクを握りしめる。ちょっと寂しく感じましたが見ないふりをしましょう。私は強いですから。




 これからどうしましょうか。魔力を魔石に込める仕事をすれば食べていけるでしょう。バカ高い魔力量だから、きっと、楽々生きていける。それとも、どこかのギルドで魔術師として活躍するのでもよし。なんやかんやで生きていける力はありますね。そうして生きて、ピンクのオウジサマの知らない場所で結婚して、小さな家庭を作れば万々歳です。それで穏やかに暮らすのはなんて素敵なのでしょう。


 身体に魔力がみなぎって来ました。瞳を閉じて、風の魔力に集中します。風魔法は翼になり、自由自在に空を駆けることができるのです。


 瞳を開け、地面を蹴ると、フワッと身体が浮きました。



 「……風よ。私をここより遠い町へ、カイル様のお姿が見えない町へ運んでくださるかしら」

 

 トランクには服の替えと溜め込んでいたお金が入っています。しばらくはどこかの町でゆっくり過ごすつもりです。ほとぼりがさめたら、働きましょう。


 身体が空に舞い上がり、どんどん小さくなる地面を見て、フィリアは今後の方向性を考えていた。


 だから、本当に気づかなかったのだ。薄緑の瞳から、透き通る涙が流れていることに。なぜだか痛む胸に、気がつかないふりをしていた。魔力なしの時に失ってしまった家族との別離と、変わらぬ優しさを向ける王太子から逃げてとんずらすることは最善策であると信じたい。



 本心は、どこにあるかフィリア本人さえも分からなかったのだ。


 この消える判断が、王太子の怒りを買い大惨事になるなど、フィリアは想像すらしていなかった。

 


 ✳✳✳



 「……カイル様」




 遠慮がちに、ヴェイルは怒りの主に声をかける。本当はシャドウを発動して隠れたいのは山々だが、主を放置したら、フィリアの家族が、報復されそうだから放置できずにいた。




 「なんだい?ヴェイル」


 いつも通りの柔らかい笑顔(目は笑ってない)王太子にヴェイルは若干引いた。


 訂正。シャドウを発動する直前くらいドン引いた。




 「フィリア様のお姿がどこにもないと」


 「そうみたいだね」


 「白とシャドウの魔力以外をお身体に戻されたと」


 「フィリアは、仕事が早いよね」


 「お部屋には書き置きで、魔力なしの家の恥は消えますからと」


 「どうやら、そうとう家族に痛めつけられたみたいだ」


 「そして、カイル様には、責任を感じず、お好きな方とご結婚されてほしいと記されていたよう…」

 

 ドォォンッ


 ヴェイルがいい終える前にカイルが背を預けていた壁に穴があいた。


 パラパラと拳についていた破片を払いながら、カイルは、微笑んだ。

 

 (今の魔法は、白魔法じゃない。拳で穴をあけたぁー!!)


 「さて、問題だよヴェイル。私の好きな人は誰だと思う?」




 「そ、れは」

 (シャドウ、発動!)

  

 「結婚したい相手は?」


 「フィリア様です」

  





 ヴェイルの目の前には、爽やかな笑みをたたえた悪魔がいた。








 「正解だ。じゃあ、フィリアの家族に、やんわりと話を通しにいこう」




 絶対にやんわりではないだろう!シャドウの力で隠れようと心にヴェイルは決めたのだった。


 

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