10話 海辺の町でキレ者おじいちゃんと交渉です。
ここは、私のいた伯爵領から風魔法で数時間飛んだ場所。大分離れたヨックミックという町。キルラルト国と隣国ライザル国との中間点の街らしい。
以前聞いた話では、王都から早馬での移動でも20日ほどかかるから、しばらく追っての心配はないでしょう。
ま、出ていけと言われていたから、素直に家を出ただけで、追われる心配はないし、カイル様のお相手は、いくらでもいますから。心配はないはず。
そう、ライラお姉さまがカイル様と婚約すればよいです。ずっとお慕いしていたのは私は知っていました。
心配はある。白魔法、シャドウが還ってこない。カイル様とヴェイルが関係しているとしたら、今後、再会の可能性は捨てきれないということ。
(対策はしておいた方がいいかもしれませんね)
再び魔力を集中させる。翠の魔力。大地の防御魔法だ。
「翠の力、大地の力。私に目的があって近づく者を察知し……私の盾となれ」
詠唱の後、濃い翠の光が私を包む。
「これで誰か来たら分かる。弾くこともできますね。邪魔は、されたくありませんから。たとえカイル様でも……」
これからはゆっくりエンジョイ新生活。過去は忘れて未来に生きましょう。正直過去は重すぎてめんどくさい。さ、忘れましょう。
事前に身分証明書も持ってきたから、家もすぐ購入できるでしょう。我が伯爵家は事業も成功しているし、不動産がひとつ増えても気付かれない。誰かが仕事で買ったと思う位です。
「さ、まずは家を探しましょ。ワクワクします」
✳✳✳
「ほぅ、お嬢さんはティルーシア伯爵家の4番目の令嬢フィリア様ですか。……して、なぜこの町に滞在するんじゃ?」
ヨックミックの町長は不思議そうに私を見る。家を買うなら、町長に相談することが早いと考えた私は早速町長を訪ねた。
「私は、自分探しの旅をしてみたい、伯爵家から離れようと思いました。水、翠、風、焔の魔力を持っているので力試しをしたいと思い、ヨックミックの町へ来ました。ギルドもありますし、何かお役に立てるかと思います」
「確かにそれだけの魔力があれば、ギルドの即戦力になるの。力だめしか。女性の身で、なかなか面白いの」
楽しそうな顔で町長がそう言った。
「まずは……、住む家を買いたいのです。お金はあります」
鞄の中から金貨を10枚出すと、町長は首を横に振った。
「伯爵家のお嬢さん。ギルドに入るなら、専用の借家が沢山ある。その中から選びなさい。少なくとも、それだけあれば50年は借りられる」
金貨10枚の価値がそれだけになるなんて。老婆になるまで引きこもりできそうですね。
「ありがとうございます。では、ギルドの借家買います!」
町長は頷くと風魔法で言霊を送った。風魔法は遠くにいる人に言霊も届けられる。手紙よりも早くできるため、役に立つ。
「今、ギルドに迎えを寄越すよう言霊を送ったからの。しばし待ちなさい。伯爵家の家出お嬢さん。王太子の愛が重くなったかの?ただのマリッジブルーだとしたら、帰りなさい」
「!」
「ほ、……図星かの。ギルドに所属するなら、腹芸も必要じゃ。まだまだじゃの」
(この町長、キレ者ね)
「カイル様から逃げたのではありません。魔力なしは家の恥。消えてくれと言われたから、消えてやりましたの。他人に貸していた。魔力は身体に還りました。役に立つのは本当です。ですが……伯爵家に連絡入れるのであれば、私はすぐに消えますから」
海辺の綺麗な町で、それなりに大きい。出ていくのは惜しいが町長には最初からお見通しだったようだ。また探せばよい。
いつまで消えなければならないかわからないけれど。
いつかは必要とする世界が私にもある。
「今、迎えを寄越すよう連絡したと言ったじゃろ。ギルドに身を寄せなさい。伯爵家には連絡せん。安心しなさい」
椅子から立ち上がり暇を告げようとした私に町長は穏やかに言った
え? 連絡しない?家出と分かっていて?
……。罠か!!焔の魔力に集中する
意味ふーな町長に警戒しつつ聞いてみた。攻撃準備よーし。目標、おじいちゃん。
「…なぜ?……受け入れて下さるんですか?」
攻撃準備よーし!状態の私に、町長はニカッと笑った。
「それだけの魔力を秘めている人材を王宮以外で使えるんじゃ。ヨックミックは安泰になるからの。家は、お前さんを捨てたんじゃろ?だったら、ワシが拾ってもいい。捨てた相手に連絡して、よい人材を逃したくないしの」
おじいちゃん。町の利益優先か。
「伯爵家から連絡が万一来たら、見聞の旅に来ていたとフォローするから、安心してこの町にいなさい」
「ありがとうございます。……この町で頑張ります!」
「その意気やよし!」
私の当面の居場所ゲットです。
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目の前には穏やかだが、闇のオーラを纏う王太子。伯爵家当主はダラダラと汗をかいていた。伯爵には白魔法使いではなく、魔王に見えていた。
「あなた方は、私の婚約者に対して厳しい態度を取っていた。そしてその結果、フィリアは姿を消したでよろしいか」
普段は優しい水色の瞳だが今は白く輝いている。相手に対して真実のみを告げさせる白魔法だ。
「はい。出ていけ、と魔力なしはいらないと。フィリアに告げていました。殿下には我が3番目の娘、ライラをと」
「伯爵。私はフィリア以外はいらない、分かっていて言ってるのか?」
カイルの心は伯爵の真実を聞くたびに冷えきっていった。
魔力がないと審査されてから家に居場所がなかったフィリア。これが真実なら会う機会があった時にさらってしまえば良かったと後悔した。
少なくとも、自分がこの家に婚約者を訪ねた時は家族はフィリアに普通に接していた。そしてフィリアも違和感なく明るく振る舞っていた。それが、偽りだとは。
この伯爵家、とり潰してやろうか。
そんな危険な策がよぎるが、フィリアの帰る場所や、伯爵の肩書きは婚姻に必要だ。悩むところだ。
「で、父親君。フィリアのいそうな場所、思い当たる場所があるなら、吐いてもらおうか。今夜は寝かさないよ。というか、寝たら君の後ろに潜んでいるヴェイルが、君を暗殺するから」
「ひぃっ!」
にっこり微笑んだ王太子。巷では物腰が柔らかく、人柄が穏やかで立派らしい。
「殿下、今すぐ探します。ありますとも!たくさん心当たりあります!」
「そう。嘘じゃないよね?…もし嘘だったら、許さないから。確実につぶすから。フィリアは公爵家の養女になればいいよね。いらないよね。こんな家。じゃあ任せて今日は帰るよ。」
「「・・・・・・・」」
「ティルーシア伯爵、フィリアとの婚約式、楽しみにしているよ」
それから魔王王子が帰った後の伯爵家は荒れに荒れた。
「早く、早く!フィリアを探し出せー!!」
伯爵の大声が邸に響いていた。




