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一度すべてを失った私が、「選ばない」という選択で世界を壊すまで  作者: 優雨セレス


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第27話 強制選択

 ――“最悪の選択”。


 それが、頭の中に流れ込んできた瞬間、呼吸が止まった。


 見たくもない未来が、勝手に開く。


 リディアを見捨てる。

 ミレイユを囮にする。

 アルベルトを切り捨てる。

 自分だけが残る。


 どれも、私なら選ばないものだ。

 選びたくないものだ。


 なのに、目の前に並べられる。


 ひとつだけ選べ、と。


「……っ」


 膝が揺れる。

 思考が裂ける。


 今までの“選ぶ”は、私のものだった。

 迷っても、悩んでも、最後には自分で決めていた。


 でもこれは違う。


 これは、選択の形をした暴力だ。


「セレスティア様……!」


 ミレイユの声が聞こえる。

 遠い。

 いや、遠くされている。


 視界の端で彼女が膝をついていた。

 リディアも、片手を壁についている。

 アルベルトは歯を食いしばり、何かに耐えていた。


 創る側は、少し離れた場所でこちらを見ていた。

 相変わらず輪郭の曖昧な姿のまま、ただ静かに。


「選べ」


 低い声だった。


「お前たちは、いつか必ず捨てる。ならば今、決めろ」


 その言葉と同時に、別の未来が流れ込む。


 炎の中で泣くミレイユ。

 血に染まったリディア。

 崩れ落ちるアルベルト。

 その中で、何も選べず立ち尽くす私。


 違う。

 違う。

 違う。


 これは未来ではない。

 未来の皮を被った、悪意だ。


「……セレスティア」


 アルベルトの声がした。

 苦しそうな、掠れた声。


「これは……本物か」


「いいえ」


 私は、即答した。


 声が震えていないことに、自分でも少し驚く。


「本物ではありません」


 創る側が、わずかに首を傾ける。


「なぜそう言い切れる」


「簡単です」


 私は息を整える。


 流れ込んでくる最悪の光景を、ひとつずつ見送る。

 受け取らない。

 飲まれない。


「これは“未来”ではなく、“前提”だからです」


 沈黙が落ちる。


 リディアが、苦しげに顔を上げた。

「前提……?」


「ええ」


 私は彼女を見る。


「“誰かを捨てなければならない”という前提を押し付けられている」


 それが、この攻撃の本質だ。


 選択肢の形をしている。

 でも、自由はない。


 最初から答えを狭められている。


「……なら」


 ミレイユが、小さく言う。

「選ばなければ……」


「駄目です」


 私は首を振る。


「今回はそれも織り込まれています」


 選ばない、という選択すら、創る側は見ている。

 拒絶も、沈黙も、保留も、すべて“選択の一種”として処理される。


 だからこそ、厄介だった。


「じゃあ、どうする」


 リディアが問う。

 声は苦しい。

 でも、まだ折れていない。


 いい。

 それでいい。


「分けます」


 私は言った。


「……何を?」


「選択を、です」


 創る側の気配が、わずかに揺れる。


 正解に近づいた時の反応だ。


「一人に選ばせるから、壊れる」


 私はゆっくりと言葉を重ねた。


「なら、一人で完結させなければいい」


「そんなことができるのか」


 アルベルトの問いは、半分疑いで、半分願いだった。


「できます」


 私は言い切る。


 できるかどうかではない。

 やるしかない。


「聞いてください」


 私は全員を見る。


「今見せられているのは、“一人が決めた結果”です。なら逆に、一人で決めなければいい」


「……具体的には?」


 リディアが聞く。


「自分の選択を、自分の中で完結させないことです」


 少しだけ間を置く。


「口に出してください」


 その瞬間、全員の表情が変わった。


「言葉に?」


 ミレイユが目を見開く。


「ええ」


 私は頷く。


「心の中の選択は閉じたままです。でも、言葉にして他人に渡した瞬間、それは一人の選択ではなくなる」


 創る側が、初めて一歩踏み出した。


「……戯れ言だ」


「そうでしょうか」


 私は視線を逸らさない。


「あなたが今まで狙ってきたのは、ずっと“個”でした」


 個体。

 思考。

 選択。

 観測。


 全部、一人の内側で完結するものだ。


「だから、“共有された選択”は扱いにくい」


 その一言で、創る側の沈黙が深くなる。


 やはりそうか。


「リディア様」


 私は呼びかける。


「はい……!」


「今、あなたが見ている最悪の選択を言葉にしてください」


 彼女は息を飲む。

 痛みに顔を歪めながら、絞り出すように言った。


「……私は、セレスティア様を切り捨てる未来を見せられています」


 その瞬間、空気が揺れた。


 見えない圧が、少しだけ軽くなる。


「アルベルト殿下」


「……俺は、リディアを見捨てて王宮だけを守る選択だ」


 さらに軽くなる。


「ミレイユ」


「わ、私は……っ、皆さんの足を引っ張る前に、自分からいなくなる選択を……」


「それを選ばないでください」


 私はすぐに言った。


 彼女が顔を上げる。

 泣きそうな目で。


「それはあなた一人の答えではありません」


「……はい」


 小さく、でも確かに返事があった。


 よし。


 繋がった。


「セレスティア」


 アルベルトが言う。

「お前は何を見ている」


 私は、ほんの一瞬だけ黙った。


 見えている。

 ずっと見えている。


 この三人を全部救うために、別の誰かを捨てる未来。

 あるいは、この三人のうち一人を選んで、二人を失う未来。

 そして一番悪質なのは――


「……私が一人で全部背負う選択です」


 静かに言う。


 言葉にした瞬間、胸の圧が少しだけ軽くなった。


 そうか。

 やはりこれだ。


 一人で抱えたままでは、切られる。


「やめろ」


 創る側の声が、初めて強くなった。


「それは分散ではない。濁しだ」


「違います」


 私は即座に否定する。


「これは“共有”です」


 一歩、前に出る。


「あなたは、完成した答えだけを扱う」


 だから。


「未完成のまま、複数人で持つ答えは、切れない」


 創る側の輪郭がぶれた。


 空間そのものが軋む。


 当たっている。


「……厄介だな」


 その声には、明確な苛立ちがあった。


 これまでで初めてだ。


 私は少しだけ息を吐く。


 勝てる。


 少なくとも、この段階は。


「皆さん、続けてください」


 私は振り返らずに言う。


「見せられるものを全部、言葉にしてください。独りで持たないで」


 リディアが頷く。

「私は、正しさのために誰かを切り捨てる未来を見ています。ですが、それを正しいとは認めません」


 アルベルトが続く。

「俺は守ると言いながら、結局何も守れなかった未来を見ている。……同じことはしない」


 ミレイユが震える声で。

「私は、皆さんの邪魔になる未来を何度も見せられています。でも……っ、それを決めるのは、私じゃなくて、今の皆さんです」


 よく言えた。


 その瞬間、空気が大きく揺れた。

 押し付けられていた選択肢が、輪郭を失っていく。


 創る側が、一歩下がる。


「……ありえない」


「ありえます」


 私は言った。


「選択は、一人の中で完結するときだけ暴力になる」


 だから。


「分け合えばいい」


 沈黙。


 長い沈黙。


 やがて創る側が、ゆっくりと顔を上げた。


「……お前は、そうやって一回目を壊したのか」


 その問いに、私は少しだけ目を細める。


「いいえ」


 正直に答える。


「一回目の私は、分けられませんでした」


 だから壊した。


 全部、自分で決めようとしたから。


 創る側は、その答えを聞いてしばらく黙っていた。

 そして、低く笑った。


「なるほど」


 空気が、変わる。


 重さが引く。

 だが、その代わりに別の緊張が立ち上がる。


「なら、次はそこを奪う」


 嫌な予感がした。


「言葉を奪えば、また一人に戻る」


 その瞬間、ミレイユが喉を押さえた。

「……え?」


 リディアも、アルベルトも同時に顔を歪める。


 声が出ない。


 私はすぐに理解した。


 そう来るか。


「……本当に、性格が悪いですね」


 静かに言うと、創る側はほんの少しだけ笑った。


「褒め言葉だ」


 その言葉は、誰かを思い出させた。

 軽薄なあの男の声音に、少しだけ似ていて。

 だからこそ、ひどく不快だった。


「セレスティア様……!」


 ミレイユが何かを言おうとしている。

 でも音にならない。


 言葉を共有できなければ、この場はまた一人の戦いに戻る。


 だが。


 私は、一歩だけ前に出た。


「大丈夫です」


 三人を見る。


「方法は、まだあります」


 リディアが目を見開く。

 アルベルトも、鋭くこちらを見た。


 私は胸に手を当て、ゆっくりと息を吸う。


「言葉がなくても、伝達はできます」


 創る側の気配が、わずかに強張る。


「……何をする」


「簡単です」


 私は視線で三人を繋ぐ。


「今度は、“私が”皆さんを読む番です」


 その瞬間、床が大きく震えた。


 揺れではない。

 拒絶だ。


 創る側が、この選択を嫌がっている。


 なら、これが正解だ。


 私は静かに笑った。


「ようやく、次が見えてきました」


 創る側の輪郭が、明確に歪む。


「……来い」


 その声と同時に、世界がもう一度ひび割れた。


 次の段階が、口を開く。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は、「強制された選択」を

“一人で持たない”ことで崩す回でした。


でも創る側も、すぐに次の手を打ってきます。

今度は「言葉」そのものが奪われました。


ここからは、もっと静かで、もっと危険な段階です。


少しでも続きが気になったら、

ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次は「声のない選択」です。

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