第22話 二回目のルール
――“二回目”だ。
その認識が、遅れて実感に変わる。
鐘の音が、まだ残っている。
さっきと同じ場所。
同じ廊下。
同じ人間たち。
でも。
「……違う」
私は、静かに呟いた。
空気が違う。
同じはずなのに、同じではない。
「セレスティア様……?」
ミレイユが、不安そうにこちらを見る。
「ええ」
私は頷く。
「今、何が起きたかわかりますか」
「……わかりません」
正直な答え。
いい。
それでいい。
「では」
私は、一歩だけ前に出る。
「確認しましょう」
廊下を見渡す。
人が動いている。
騎士が走る。
侍女が指示を飛ばす。
どこかで見た光景。
だが。
違う。
「……時間が戻ったわけではありません」
私は言う。
「え?」
「“続き”です」
その一言で。
ミレイユの表情が、わずかに固まる。
「……どういう意味ですか」
「簡単です」
私は振り返る。
「私たちは、一度失敗しています」
そして。
「その結果の上で、もう一度選んでいる」
沈黙。
理解が、ゆっくりと進む。
「……じゃあ」
ミレイユが、小さく言う。
「さっきのは……」
「無駄ではありません」
私は即答する。
「すべて、積み重なっています」
その瞬間。
足元に違和感が走る。
「……っ」
床を見る。
ひび。
ほんのわずかだが。
確かに、残っている。
「……残ってる」
ミレイユも気づく。
「ええ」
私は頷く。
「完全なリセットではありません」
これが。
二回目のルール。
「……つまり」
私は、ゆっくりと言う。
「“やり直しではない”」
一歩、踏み出す。
「“上書き”です」
空気が、少しだけ重くなる。
その時。
足音が近づく。
速い。
焦った足音。
「……殿下」
アルベルトが現れる。
さっきと同じ位置から。
だが。
違う。
「無事か」
短く問う。
「ええ」
私は答える。
そして。
観察する。
彼の目。
さっきよりも。
わずかに。
“知っている”。
「……何があった」
彼が言う。
「同じことを聞きますね」
「何?」
「いえ」
私は小さく笑う。
「確認です」
ここが、重要だ。
私は、一歩だけ近づく。
「殿下」
「なんだ」
「あなたは」
視線を合わせる。
「何回目ですか」
沈黙。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
彼の呼吸が止まる。
「……」
その反応で、十分だった。
「……やはり」
私は、静かに言う。
「あなたもですね」
「……何を言っている」
否定。
だが。
遅い。
「隠さなくて結構です」
私は、淡々と続ける。
「一回目で、何を失いましたか」
その瞬間。
アルベルトの目が、揺れる。
はっきりと。
「……っ」
言葉が、詰まる。
否定できない。
それが、答えだ。
「……なるほど」
私は、小さく息を吐く。
これで、確定した。
「複数いる」
ミレイユが、息を呑む。
「……同じように」
「ええ」
私は頷く。
「“経験している者”が」
その瞬間。
空気が、変わる。
理解が走る。
これは。
個人の戦いではない。
同じ土俵の者同士の。
「……なら」
アルベルトが、低く言う。
「なぜ動ける」
いい問いだ。
私は答える。
「違うからです」
「何が」
「選び方が」
短く。
はっきりと。
「あなたは、決めている」
アルベルトの目が、細くなる。
「……何を」
「守るものを」
沈黙。
それが、肯定だった。
「そして」
私は続ける。
「それが、あなたを縛っている」
その言葉で。
彼の顔が、歪む。
怒りではない。
理解だ。
「……では」
彼が問う。
「お前は」
「決めていません」
即答する。
「まだ」
それが。
違いだ。
そして。
その瞬間。
廊下の奥で、悲鳴が上がる。
「――っ!」
全員が、そちらを見る。
人が倒れる。
一人。
そして、もう一人。
「……始まった」
私は、静かに言う。
同じ現象。
だが。
さっきとは違う。
「……早い」
ミレイユが震える。
「ええ」
私は頷く。
「“前の結果”が影響しています」
つまり。
悪化している。
「……なら」
アルベルトが言う。
「どうする」
私は、少しだけ考える。
そして。
答える。
「変えます」
「何を」
「順序を」
短く言う。
「今回は」
一歩、前に出る。
「先に“崩れる場所”を潰します」
その瞬間。
全員が、理解する。
これは。
ただの対応ではない。
“先読み”だ。
「……できるのか」
「やります」
私は言う。
迷いなく。
そして。
走り出す。
次の崩壊へ向かって。
――二回目の選択を、始めるために。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに「二回目のルール」が明確になりました。
やり直しではなく、“積み重なっていく世界”。
そして主人公だけでなく、
他にも“経験者”がいることが判明します。
ここからは一気に、読み合いと先手の戦いに入ります。
もし続きを気にしていただけたら、
ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。
次は「先に崩れる場所」です。




