第15話 狙われる側の条件
――見つけた。
その一言は、空気を変えるには十分だった。
違う。
さっきまでとは、完全に違う。
今までは“広く切っていた”。
でも、今は違う。
――“一点を狙っている”。
私を。
「……セレスティア様」
リディアの声が、わずかに低くなる。
守る側の声だ。
でも。
「下がってください」
私は、静かに言う。
「え?」
「今回は、私が対象です」
短く。
はっきりと。
「全員が近くにいると、巻き込まれます」
アルベルトが、歯を食いしばる。
「だが――」
「離れてください」
視線を向ける。
拒否を許さない目で。
彼は、一瞬だけ迷って。
そして。
「……わかった」
引いた。
リディアも、すぐに下がる。
ただし。
完全には離れない。
介入できる距離を保つ。
いい判断だ。
「……来るよ」
男が、低く言う。
今度は軽さがない。
本気だ。
私は、息を整える。
ゆっくりと。
無駄な思考を削る。
――止まらない。
それが、今までのルール。
でも。
今回は違う。
“狙われる側”。
この条件で、同じルールが通用するか。
わからない。
だから。
確かめる。
影が、動いた。
速い。
直線。
迷いがない。
私は、一歩踏み出す。
同時に。
思考を回す。
次。
その次。
止めない。
考え続ける。
影の軌道が、わずかにズレる。
「……!」
当たらない。
かすめるだけ。
空間が歪む。
床が削れる。
でも。
私は、切られていない。
「……反応してる」
男が、低く呟く。
その通りだ。
さっきまでとは違う。
これは。
“私に合わせて動いている”。
「……なるほど」
私は、小さく息を吐く。
理解した。
これは。
単純なルールではない。
「セレスティア様!」
リディアが叫ぶ。
でも。
私は振り返らない。
必要ない。
今は。
考え続けることが最優先だ。
影が、再び動く。
今度は、フェイント。
左右に揺れる。
速い。
でも。
読める。
いや。
“読む必要がない”。
私は、止まらない。
思考を止めない。
それだけで。
軌道がズレる。
「……やっぱり」
男が、笑う。
「そういうタイプか」
「……どういうことですか」
アルベルトが問う。
「この子」
男は、私を指さす。
「“思考が観測になってる”」
その言葉で。
すべてが繋がる。
「……ええ」
私は、頷く。
「そういうことです」
リディアが、息を呑む。
「つまり……」
「止まらなければ」
私は言う。
「切られません」
影が、止まる。
ほんの一瞬。
理解した。
あるいは。
確認した。
そして。
「……厄介だ」
低く呟く。
初めて。
感情が混じった。
私は、わずかに口元を上げる。
「ありがとうございます」
皮肉ではない。
事実だ。
厄介であるという評価は。
この状況では、優位性だ。
「……だが」
影が、ゆっくりと姿勢を変える。
さっきとは違う。
構えが変わる。
「それは、お前だけだ」
その瞬間。
視線が動く。
私から。
外れる。
「――!」
リディア。
彼女に。
「避けて!」
私は叫ぶ。
リディアは動く。
でも。
わずかに遅い。
彼女は。
“私ほど速く考えていない”。
影が、滑る。
音もなく。
その軌道は。
完全に。
彼女を捉えている。
「……っ」
リディアの目が、見開かれる。
理解した。
でも。
間に合わない。
私は、動く。
考えるより先に。
体が動いた。
彼女の前に、入る。
「――!」
衝撃。
視界が揺れる。
何かが、通る。
でも。
止まる。
「……あ」
リディアの声。
遠い。
私は、ゆっくりと息を吐く。
体は動く。
意識もある。
でも。
「……なるほど」
小さく呟く。
「そういう条件ですか」
リディアが、私を見る。
顔が、青ざめている。
「セレスティア様……!」
「大丈夫です」
短く言う。
嘘ではない。
ただし。
完全ではない。
何かが。
少しだけ。
“ずれている”。
思考が、遅れる。
一瞬だけ。
ほんのわずかに。
「……当たったのに」
男が、低く言う。
「切れてない」
「ええ」
私は頷く。
「完全ではありません」
影が、こちらを見る。
明らかに。
興味を持っている。
「……それ」
低く言う。
「何をした」
「簡単です」
私は答える。
「選択を、変えました」
影が、わずかに揺れる。
「……なに?」
「本来なら」
私は、ゆっくりと言う。
「私は避けるべきでした」
でも。
「今回は、違う選択をしました」
前に出る。
一歩だけ。
「“守る”という選択を」
その瞬間。
空気が変わる。
理解が、走る。
「……なるほど」
男が、笑う。
「ルール、もう一つあったね」
「ええ」
私は頷く。
「“選択が変わると、結果も変わる”」
影が、沈黙する。
完全に。
計算している。
更新されたルールを。
「……面白い」
低く言う。
さっきとは違う。
本気の声で。
そして。
「なら」
わずかに、前に出る。
「次は、それごと切る」
その瞬間。
空気が凍る。
私は、静かに息を吐く。
そして。
理解する。
――次は。
“選択そのもの”が狙われる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
「避ける」から「選ぶ」へ。
そして今度は、「選択そのもの」が狙われ始めました。
ここから先は、さらに一段階上の戦いになります。
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次は「選択が壊れる瞬間」です。




