scene1 奪われた輝き
火球が宙を裂き、標的へと一直線に向かう。
「《ファイアボルト》!」
リーナは高らかに詠唱し、紅蓮の魔法を放った。だが——
ボンッ——
派手な爆発音が響いたものの、その炎はただの火花のように弾けるだけ。標的のゴブリンは少し焦げただけで、すぐに鋭い牙をむき出しにした。
「……は?」
リーナの表情が凍りつく。
こんなはずはない。
彼女は王都の名門魔法学院を卒業し、勇者パーティの魔法使いとして名を馳せていた。強大な魔力を誇り、どんな魔法も完璧に操れるはずだった。
それなのに——
「なんで、火力がこんなに落ちてるのよ……!?」
焦りが胸を締めつける。
そんなリーナの動揺を見透かすように、仲間の一人が吐き捨てた。
「おい、リーナ。お前、もしかして手を抜いてるのか?」
「違うわよ! 何かがおかしいの!」
リーナは必死に反論するが、相手は鼻で笑う。
「おかしいのはお前の実力だろ?」
「……っ!」
彼女は奥歯を噛みしめた。
(どうして……? 私の魔法は、前よりもずっと弱くなってる?)
考えられる可能性は——
——ユークがいなくなったこと。
彼がいた頃、魔法を使うたびに妙な安定感があった。詠唱も滑らかで、魔力の消費も最適だった。だが、今は違う。
「まさか……ユークの”補助”が影響していた……?」
考えたくなかった。あんな地味な男の存在が、自分の魔法に関係していたなんて。
「……そんなわけ、ない……!」
無理やりそう思い込もうとした。だが、事実は残酷だった。
次の戦闘でも、彼女の魔法は思うように力を発揮しなかった。仲間たちの視線は次第に冷たくなり、ついにはリーダーから言い渡される。
「リーナ、お前……もう必要ないかもな」
——すべてが崩れていく。
かつて誇り高く、誰よりも強いと信じていた自分が、今や戦力外だと烙印を押される。
「そんな……私が、役立たず……?」
彼女は立ち尽くしたまま、震える指先を見つめていた。
——輝いていたはずの自分が、どんどん色あせていく。
その夜、リーナはただ一人、月明かりの下で呟いた。
「……私は、間違っていたの?」
その問いに答える者は、誰もいなかった。
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