scene4 黒き契約
重い鼓動が、体の奥から響く。
(これは……何だ?)
レオナールは拳を握りしめた。
たしかに感じる、圧倒的な魔力の流れ。
だが、それは今までのどんな魔力とも違っていた。
黒く、淀み、底なしの深淵を思わせる”異質な力”――。
(これが……俺に与えられた力……)
ゆっくりと手を開く。
指先から、黒い霧のようなものが立ち昇るのが見えた。
まるで意思を持つかのように、うねりながら空気に溶けていく。
「どうだ? その力の感触は」
ローブの男が、静かに問う。
レオナールはゆっくりと顔を上げた。
「……悪くない」
それどころか、体の隅々にまで力が満ちていくような感覚すらあった。
まるで、生まれ変わったような――。
「だが、これは……一体?」
ローブの男は、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「“黒き誓約”……それがお前に授けられた力だ」
「黒き誓約……?」
「簡単に言えば、お前は”代償”と引き換えに、常人を超えた力を得る契約を結んだということだ」
レオナールは眉をひそめた。
「代償、だと?」
「そうだ。何かを得るためには、何かを差し出さねばならない。それが、この力の本質」
ローブの男の声には、どこか楽しげな響きがあった。
「お前の場合は――“かつての誇り”と”人間としての限界”だな」
「……」
レオナールは、その言葉を噛み締めるように沈黙した。
かつての誇り――勇者としての栄光。
人間としての限界――つまり、自分が”普通の人間”ではなくなるということか。
(だが……そんなもの、もうとっくに捨てた)
ユークに敗れ、勇者の名を奪われ、誇りなどと呼べるものは何一つ残っていない。
「……それで、俺はどこまで強くなれる?」
レオナールの瞳が鋭く光る。
ローブの男は満足げに頷いた。
「いいだろう。ならば試してみるがいい。その力が、どれほどのものかを」
次の瞬間――
周囲の闇が、一気にうねり出した。
「!?」
影が形を持ち、まるで意思を持った獣のようにうごめき出す。
「こいつは……!」
「試練だよ、レオナール」
ローブの男が、指を鳴らした。
ズズッ……!!
影は膨れ上がり、黒い狼のような姿を形成した。
だが、その瞳は人間のような知性を持ち、不気味な光を宿している。
「“黒の獣”――契約者を試す存在だ」
レオナールの全身に戦慄が走る。
(こいつは……ただの魔物じゃない……!)
圧倒的な威圧感。
ギルドで戦ってきたどんな強敵よりも、異質で、恐ろしい存在。
「さあ、レオナール」
ローブの男は、ゆっくりと言った。
「その力を、見せてみろ」
レオナールは、ゆっくりと息を整える。
(やるしかない……!)
そして、黒き力をその身に纏い、レオナールは”黒の獣”へと挑みかかった――。
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