scene3 堕ちる翼
王都の路地裏。
薄暗い灯りがかすかに揺れ、湿った夜の空気が漂う。
レオナールは、目の前のローブの男を睨みつけていた。
「……力をやる、だと?」
ローブの男は静かに頷く。
「そうだ。お前が失った力を取り戻したいのなら……」
差し出された男の手。
その手を取れば、何かが変わるのか?
(バカバカしい……!)
レオナールは歯を食いしばった。
一度は「勇者」とまで呼ばれた男だ。
今さらこんな得体の知れない奴にすがるなど、情けないにも程がある。
「俺は……」
だが、言葉に詰まる。
(力がなければ、何もできないのも事実だ……)
敗北。嘲笑。
自分を見限っていった仲間たち。
そして――ユーク。
「……くそっ!」
レオナールは壁を殴った。
「迷うことはない」
ローブの男の声は、どこまでも冷静だった。
「お前は知っているはずだ。力のない者に、価値などないと」
「……」
「今のお前は、ただの負け犬だ。誇りも、名誉も、すべて失った男だ」
「……黙れ……」
「だが、力さえあれば――」
男は、ゆっくりと手を広げた。
「お前はまた、立ち上がることができる」
レオナールは拳を握りしめた。
心の中のどこかで、この男の言葉に頷いてしまいそうになる自分がいた。
(俺が……もう一度……)
視線を上げる。
ローブの男は、まるでレオナールの心を見透かしているかのように、静かに微笑んだ。
「答えを聞こうか。レオナール」
レオナールは、ゆっくりと右手を伸ばした。
――そして、その手を取った。
次の瞬間。
ズゥン――!!
強烈な魔力が、レオナールの全身を駆け巡った。
「……っ!?」
視界が歪む。頭が割れるような痛みが走る。
(こ、れは……!?)
体の奥深くに、黒い何かが流れ込んでくる感覚。
まるで、“何か”が自分の内側に根を張るような――。
「これが……お前に与えられた”新たな力”だ」
ローブの男が、満足げに言った。
レオナールは、荒い息をつきながら、両手を見つめる。
力が――満ちていく。
「ああ……これが……!」
かつて勇者であった頃のような、圧倒的な力の感触。
いや、それ以上だ。
(すごい……! これなら、俺は――)
その瞬間、脳裏にユークの姿がよぎる。
「お前は俺がいなければ、何もできないのか?」
「ふざけるな!!」
レオナールは、自分の中に湧き上がる歓喜を振り払うように叫んだ。
「この力は……何なんだ?」
ローブの男は、ゆっくりとフードを下ろし、微笑んだ。
「お前が”堕ちる”ための翼さ」
その言葉に、レオナールは息を呑んだ。
――これは、本当に望んだものなのか?
――それとも、もう引き返せない道なのか?
王都の夜は、ますます深く沈んでいった。
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