第1話 あのシスター、読書家です。
気楽に書くので気楽に読んでもらえると嬉しいです。
どうもおはようございます。シスター見習いのルミナです。私は奇跡が使えないダメダメなシスターで、とうとう司教様から『仕事はいいからシスターの観察をしなさい』と言われました。観察対象は誰でもいいらしく、話しかけてもいいらしいです。どうやら私が観察任務を行っていることを先輩たちは知っているそうです。
司教様はどうしてこんなことをさせるのでしょうか?私にはわかりません。
あの人はおちゃらけたジジ……ご老人なのでノリで命令したのかもしれません。クソですね。ですが言われたことはキチンとやります。シスターを目指すなら当然です。私は手始めにいつも図書館にいるシスターを観察しました。
古い書物が沢山置いてある荘厳な図書館の中で、彼女はいつも本を読んでいます。
彼女の名前はシスター・リード。茶髪で丸っこいメガネをいつもかけています。リード先輩はご飯やトイレの時以外ずっと図書館に引き篭もっています。
何やってるんだ!このサボり魔め!と他の人が見たら言われてしまいそうですが、読書というのはシスターの大切なお仕事の1つなのです。神様のお言葉である聖典を読んで解釈したり、時には翻訳の仕事も任されることがあります。リード先輩はきっと仕事が忙しく、ずっと図書館にいなくてはならないのでしょう。
私はリード先輩が座っている席から丁度見えない位置に座りました。聖典を読むふりをしながらリード先輩を観察します。なんだか悪いことをしているような気もしますが、全て司教様のせいにしておきます。神様、お叱りならどうか司教様に。
リード先輩は机に沢山の本を積み上げています。どれも分厚くて難しそうです。そんな本を毎日読んでいるリード先輩はやっぱりすごいです。見てください。あのキリッとした横顔。真剣に神様と対話をしている証拠です。
リード先輩は何を読んでいるんだろう?ふと気になりました。よくよく観察してみると、横に置いてある本は確かに分厚いですが、今読んでいる本はそこまで分厚くありません。私は気になったことをそのままにはしません。梯子を使って聖典を棚に戻すフリをしながら先輩が読んでいる本の題名を覗き見ました。
『転生したらシスターだった件について』
いやいやいやいや、そんなバカな。それ娯楽小説ですよね?あのリード先輩が仕事中にこんな本を読むわけありません。そうです。アレはきっと福音書なのです。福音書には聖人様の生涯や教えが記されています。きっと転生したらシスターだった聖人様の人生が書かれているんです。私もまだまだ勉強不足ですね。
「ルミナ、そんな高いところで何をしているの?」
リード先輩が私に気がつきました。私は慌てて降りようとしますが、足を滑らせてしまいます。
「あっ!」
「危ない!」
頭から落っこちた私は床ギリギリのところで宙に浮いています。リード先輩が物を宙に浮かせる奇跡で助けてくれました。ですが奇跡が消えると私は結局頭をぶつけてひっくり返りました。シスターにあるまじき体勢です。
「ふふっ、大丈夫?」
「は、はい。なんとか……」
私は立ち上がってリード先輩にお礼を言います。先輩は「気にしないで」と言ったあと、また福音書を読み始めました。私は意を決してリード先輩に話しかけます。
「あ、あの!その福音書って……」
「福音書?これは小説だよ?」
(ですよねぇー)
私は心の中でそう呟きます。
「読みたいなら貸してあげるよ」
「い、いえ!結構です!それよりリード先輩、もしかして今までずっと小説を読んでたんですか?」
「うん。そうだよ。最近は毎日ずっと読んでるかな」
(何やってるんだ!このサボり魔め!)
私は心の中でそう叫びます。
「せ、聖典や福音書とかを読んだりは……」
「1回しか読んだことないね。内容も覚えちゃったし」
ナチュラルに優秀です。羨ましい。
「娯楽小説って面白いんだよ?私はそれを普及する活動をしてるの。もう図書館の半分は娯楽小説で埋まってる」
「え!?」
気づきませんでした。いつの間にか図書館がリード先輩に乗っ取られようとしています。新手の宗教改革です。
「司教様も毎日10冊読んで『わしもはやく転生したい』ってぼやいてるよ」
あのクソジジイ、今すぐ転生させてやろうか。
「そんなことしてたら神様に怒られちゃいますよ!」
「大丈夫大丈夫。聖典にも書いてあったでしょ?『汝の好むものを広めよ』って。私は娯楽小説が好きだから、それを広めてるんだよ。ルミナも何か好きなものを見つけて、それを誰かと共有してみたら?きっと楽しいよ」
「わ、私も別に小説が嫌いなわけではありませんよ……ただ、私は早く立派なシスターになるために、沢山勉強しなくちゃいけないんです!」
「それなら小説で勉強しよう!この本とかおすすめだよ。『田舎に追放されたシスター、成り上がって司教をぶん殴る』。これ実話らしいよ」
「実話!?すごいです!あ、あの、借りてもいいですか?」
「もちろん!」
リード先輩はそう言うと楽しそうに笑いました。私たちはその後なんやんやありまして、互いにおすすめの小説を紹介したり、読んで感想を伝え合う仲になりました。
先輩は実は聖典や福音書を全く読まないサボり魔でしたが、好きなものを全力で広めようとするその姿勢は、敬虔な信徒そのものでした。
P.S. 司教様、あとで話がありますので私の部屋に来い。




