時空vs時空
※今回は勇者視点になります。
「勇者様。もう1人殺して貰えませんか?」
「は?俺を暗殺者や殺人鬼とでも思っているのか?そんな説明で承諾する訳がないだろう…」
イザベラ王女に呼び出されて来てみれば…まさかの殺害依頼だった。この前はモモの為に仕方がなかったが、意味もなく殺人に関わるつもりはない。
立花が文句を言いに来た時…白鳥さんも悲しそうな顔をしてたしな…。
しかし、イザベラ王女は気にした素振りも見せずに続きを話し始めた。
「標的は先日退治して頂いたバルトロ帝国皇帝の息子です。息子も倒せれば、帝国を更なる混乱へと落とし込む事ができます」
「イザベラ王女…。俺の役目は魔物から世界を救うことのはずだ。人間相手の戦争は自分たちでやってくれ」
正直な所、時間があるのならダンジョンに潜りたい。俺個人の戦闘力は別だとして、パーティとしての戦闘力は聖女パーティに負けていると思う。聖女パーティに勝つ為にはパーティメンバーを鍛えないと…。
しかし、イザベラ王女は困った表情を見せると、俺が聞きたくない話を喋り初めた…。
「勇者様。現在の借金は金貨1500枚になります」
「ぐっ…分かっている…。何が言いたいんだ?」
「いえ、いつ返して頂けるのかな?と、思いまして」
「だ、だからこそ…帝国なんかに関わっている時間は無いんだ!返す為にもダンジョンに潜って稼がないとだろう!?」
イザベラ王女は頬に手を当てて何やら思案する素振りを見せている。何だか演技みたいだ…。
「稼げる所に行く為にはゲートスクロールが必要です。しかし、スクロールを使えば借金が増えてしまいます。差し引きで多少の利益は出るかもしれませんが、利子の増加量より稼げますでしょうか?」
確かに今のペースでは無理だ…。でも、奥に行って利益が増えれば、1回の突入で金貨100枚くらい稼げる様になるかもしれない…。
頭の中でそんな計算をしている俺を見ながら、イザベラ王女がポツリと呟いた。
「金貨500枚」
「なっ…何がだ?」
「今回の暗殺。成功報酬ですが金貨500枚で如何でしょうか?」
「うっ…」
「最初に大きく返済しておけば、利子が減って後々楽になりますよ?」
そんな事は勿論分かってる…。くそ…。
「イザベラ王女。この前と同じ所から行くのか?流石に警戒されてるのではないか?」
「ふふふ。前向きになって頂きありがとうございます。そうですね…駄目そうならば私が転移で逃します。それでも相手に緊張感は与えられますから嫌がらせくらいにはなるでしょう」
「その場合の報酬は?」
「金貨100枚で如何ですか?実質何もしないで100枚というのは、かなりお得だと思いますよ?」
畜生…。今回…今回だけだ…。
「分かった。引き受けよう」
「ありがとうございます。それでは今夜向かいますので、ご準備の方は宜しくお願い致します」
準備と言われても特に無いな。先に寝ておくか。
はぁ…。また…白鳥さんに嫌われてしまうのかな…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「では、参りますよ?」
「あぁ」
「承知しました」
メンバーは前回と同じ。イザベラ王女、俺、騎士団長のクリシュナだ。
イザベラ王女は謁見の間に続くゲートを開くと、その中へと消えていった。俺とクリシュナも続けてゲートを潜ると、目の前には先日と同じ空間が広がっていた。
いや、1つだけ違う…。部屋の真ん中には1人の男が立っている。
イザベラ王女はその男と知り合いみたいで、気軽な感じで男に話しかけた。
「あら?何故、冒険者ギルドのグランドマスターがこんな所に?公私混同ではないですか?」
「バルトロ帝国からの正式な依頼ですよ?イザベラ王女殿下。やはり貴方でしたか」
冒険者ギルドのグランドマスター?それって…冒険者ギルドのトップじゃないか…。
「あら、主語が無いので何の事なのかよく分かりませんが…。もしかして、いま何かの犯人に一方的に決め付けましたか?」
「おや、心当たりはあると思うんですけど…」
「はっきりおっしゃって下さい。私が犯人じゃなかったら機密情報の漏洩になってしまうから明言できないのですか?その程度の確信度合いで冤罪を掛けられては困ってしまいますね」
たぶん皇帝暗殺の事を言っているんだろう。多分イザベラ王女も分かっているとは思う。でも…どうやら認める気は無いみたいだ…。
「………はぁ。まぁ良いです。ここに侵入してる時点で捕らえる理由にはなりますから。しかも1度も城に入れた事が無いはずのイザベラ王女…ですからね。詳しい事は後で聞きます」
こいつ…1人で俺達をどうにか出来るつもりか?随分と舐められたものだ…。しかし、せっかく俺のやる気が上がったのに、イザベラ王女に止められてしまった。
「勇者様。ここで時間を掛けては兵が集まって来てしまいます。これの相手は私とクリシュナでやりますので、勇者様は目標の所に向かって下さい」
「大丈夫なのか?」
「はい。問題ありません」
「そうか。分かった」
俺はイザベラ王女の指示に従って、謁見の間から出る為の扉へと走り出した。邪魔をされると思ったんだが…グランドマスターとやらは何の邪魔もしてこない…。
そして、俺はそのまま謁見の間の外へと出ていった。
「あら、行かせてしまって大丈夫なのですか?」
「えぇ。こちらも準備はしてありますから。それに、さっきの男を囮にして隙を突こうとしている女狐がいますしね」
「そうなんですか?狐に侵入されるなんて、帝国の兵士は随分と気が緩んでらっしゃるのですね」
「本当に…ねっ!」
イザベラ王女の前に転移したサリオンがイザベラ王女に斬りかかる。しかし、そこにはイザベラ王女の姿は無かった。
「2人とも初手は転移でしたか」
「こっそりと魔法を準備するのはお互い得意みたいだね。やっぱり行動の読み合いになりますか…」
「そうですね。どうしても呪文という準備が必要ですから。あ、でも、魔王は呪文を使わずに魔法を行使していたらしいですよ?」
「知ってますよ。ギルドの文献によれば魔王だからって訳じゃないみたいだけどね…」
サリオンは喋りながら、剣を構えるクリシュナをチラッと見た。
「1対1なら呪文と並行して体術で勝てそうなんだけど…転移以外で移動したらクリシュナが邪魔してきそうだな。ラインハルトを借りてくれば良かった…。まぁ、ミレーヌ様をこっちに連れてくる訳にもいかないし…仕方がないか」
「では、行きますよ?」
「あぁ、こちらもね」
それから、サリオンとイザベラ王女の果てしない鬼ごっこが始まりました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ちっ…アルバートって奴の部屋は何処だ…」
城の奥の方にあるはずとは聞いていたが細かい場所は分かっていない…。しかし、走っていると兵士10人程で守られている部屋を発見した。
「護衛が多い…。そこか!」
俺は光属性魔法で兵士の手足を切り落とした。この世界は部位欠損を治せる世界なので、これくらいやっても大丈夫だろう。
一瞬で兵士を倒した俺は、部屋の扉を勢い良く開け放つ。
「さて、アルバートってのはどいつだ?」
あの皇帝の息子なんだ、どうせ我儘王子だろう。俺は部屋の中を見渡した。そして、俺は王子っぽい子供を発見する。
思っていたより子供だな…。しかし、俺はそんな事よりも、子供の前に立っている存在が気になって仕方が無かった。
何だ…。黒ずくめに仮面?凄く…怪しい奴…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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