暗殺者
誤字報告ありがとうございます!非常に助かります!
勇者様がアルバート皇太子殿下の部屋へ突入する半日ほど前…。
「お前がアルバートか。思ったより幼いんだな」
「え…おさ…。ぼ、僕は大人です!バルトロ帝国の皇帝だって立派に務めてみせます!」
おぉ…。無理して背伸びしてる感じが凄いな…。
ミレーヌに案内されて護衛対象のアルバートの部屋に来たんだけど、アルバートは幼稚園児か小学校低学年って感じだ。これで大人は無理があるだろう…。
「大人だって言い張ってる時点で子供だ。本当に大人なら言わなくても大人扱いになる。周りに認められている事が重要なんだ」
「う…うぅ…」
あ、ごめん!泣かないで!実際に子供なんだから無理しなくて良いんだよ?って伝えたいんだけど…ライト的な感じだとどう言えば良いんだろう…。
「貴様!殿下になんたる無礼を!」
「ん?お前は?」
「第一騎士団団長のイグニス・バウスだ!バルトロ帝国より侯爵の位も賜っている!」
「そうか。しばらく黙っていろ」
俺が団長殿に手を向けると、手の平から数本の光の鎖が飛び出て団長殿の身体に巻き付いた。鎖は口にも巻き付いて猿轡状態になっている。
ちなみに、ハルトは団長殿を力不足だって言ってたけど、見た感じAランク相当の力はあると思う。あくまでも「今回の任務を達成するには」って事みたい。
「ふっ…ふぐっ…ぐぬぅ…」
俺は、バランスを崩して転がりながら唸ってる団長殿を放置して、アルバートへと向き直った。
「さっきは言い方が悪かった。別にお前を否定したかった訳じゃないんだ」
「え?」
「皇帝の重圧に耐えようと頑張ってるんだと思うが、皇帝だろうと何だろうと1人で何でもできる訳じゃない。足りない部分は協力し合えば良い」
俺も全然1人で生きて行けてないしね…。
「でも僕自身も頑張らないと…」
「会ったばかりだが、お前は頑張れる奴だと思う。そんなお前が自覚するほどの頑張りは、頑張り過ぎだ」
「でも…早く成長するためには無理をしなきゃ…」
「確かに無理をしなきゃいけない瞬間はあるかもしれない。でも、それを日常にすれば潰れるだけだ。それが原因で目的を達成できなかったら本末転倒だろう?」
「うん…」
うーん。言葉とは裏腹に納得してなさそうかな…。
何だろう?頑張りたい?何か目標がある?それとも遠慮?
「お前の親父なんて周りに頼りまくってたんだろ?それに比べれば遠慮する必要は無いんじゃないか?」
「僕は………お父様よりも叔父様の様な皇帝になりたい!」
叔父様って言うと…影武者をしていたジョンさんの事だよね?
すると、アルバートの発言を聞いたミレーヌが割って入ってきました。
「それならば尚更ですわ。叔父様はよく会議を開いてらっしゃいました。それは、皆の意見を聞く為…つまり頼っていたという事ですわ」
「あ…確かに…」
「ですから、叔父様の様になりたいのならば、信頼できる者を増やす事ですわ」
「はい!お姉様!その為には、僕も信頼して貰える皇帝にならないとですね!」
「そ…その通りですわ!」
凄いな…信頼とは一方的じゃ成り立たないって言ってるんだよね?出来過ぎる弟にミレーヌも若干引いてます…。
本当に子供か?………うん。魔眼で見る限り7歳だ…。
「ミレーヌ。影武者をしてた叔父さんはどういう人だったんだ?」
「そうですわね…。子作り以外の実質的な皇帝公務を全て行っておりましたわ」
「内容としては?」
「軍備を拡充しても安全の維持にしか使わず、戦争はしない人でした。それよりも内政に力を入れて、餓死者や孤児を随分と減らしましたわ」
「ほぅ…」
「我が国でも一部では亜人への迫害があったのですが、それを禁止する法を作ったり。亡命や難民の受け入れもしていましたわ」
「ほ…ほぅ…」
「後は、他国のいざこざにも首を突っ込んで仲裁したりしてましたわ。未然に防止した戦争は数知れないですわね」
「そうか…」
アルバートくん。目標が高すぎるんじゃないかな…?頑張り過ぎちゃう原因は目標か…。
そういう理由なら止め辛いけど…。まぁ…あまり無理し過ぎない様にね…。
アルバートとの話が一区切りになった所で、後ろからハルトに話し掛けられました。
「ライト。悪いんだけどそろそろ伯父さんの拘束を解いてもらっていい?」
「ん?ハルトの伯父さん?」
「うん。改めて俺基準で紹介すると…そこで光の鎖にぐるぐる巻きにされてるのが、俺の母親のお兄さんでイグニス伯父さんです」
わーお!ごめーん!拘束してるのすっかり忘れてた…。
改めてイグニス団長を見てみると、随分と落ち着いています。暴れる事は無さそうですね。
「分かった。すぐに解除しよう」
光の鎖を解除すると、無言なまま立ち上がって俺の元へと近付いて来ました。そして俺を睨み付けます。怖いな…。
「皇帝陛下が亡くなってから…」
「ん?」
「不安に押し潰されそうだった皇太子殿下の表情が、少し和らいだ様に思える。感謝する」
……え?まさか、拘束した結果お礼を言われるなんて…。
イグニス団長は俺にお礼を言ってからアルバート皇太子殿下の元へと向かいました。
「あー、伯父さんは基本的には良い人なんだよ?」
「その様だな。これからはいきなり拘束するのはやめておこう」
「そうして貰えると助かるかな」
じゃあアルバートとの顔合わせも終わった事だし…。俺は黙って見守っていたサリオンに声を掛けました。
「これからどうする?あと、防衛手段を考える為にも皇帝がどうやってやられたのか知りたいんだが」
「あー…皇帝陛下はね…。疲れたから1人になりたいとか言い出して、兵士を全員追い出しちゃったみたいなんだよね。その隙に謁見の間で玉座ごと後ろから…」
は?既に時空属性持ちに侵入されてたのに、その部屋で1人になるとか馬鹿なの?
何だろう…何かが引っ掛かるな…。
「陛下をお護りする事ができず、申し訳ありませんでした」
「それは良いのです。お父様が国を治めていると帝国が滅んだかもしれません。アルバートが継ぐ事になれば結果オーライですわ」
結果…オーライ…。むしろ望ましい?あ、もしかして!
流石に時空属性持ちの不審者が侵入した空間で1人になりたがるとは思えない。もしかして…知らなかった?
侵入者が時空属性持ちな事を知っているのは、俺とミレーヌとハルト…。ミレーヌとハルトが報告しなければ…。
それに、皇帝に言われたからって兵士が皇帝を1人にさせるかな?普通は本人に気付かれない様に守る気がする。
言われた場合は放置する様に、事前に根回しがあった?そんな事が出来るのは…。
そして、皇帝が亡くなってアルバートが後を継ぐ事は、実は帝国にとって望む所だったのか…。
俺はミレーヌの方に目を向ける。すると、ミレーヌが笑顔で答えてくれました。
ニッコリではなくて…『ニヤリ…』という笑顔で…。
よし!この事を考えるのはやめよう!
「と言う事で、相手は時空属性持ちである可能性が高い。正直、最初はライト君も容疑者に上がったんだけど…ミレーヌ様とハルトと私が否定したよ。まぁ、犯人の心当たりはあるしね…」
なるほど…。確かに客観的に考えると俺が凄く犯人っぽい…。
信用してくれてありがとう!
「そうか。それは信用に応えないとな」
「時空属性に対抗する為にライト君には皇太子殿下の側にいて欲しい。俺は念のため謁見の間を見張る」
「あぁ。分かった。アルバートの事は任せてくれ」
「それじゃ、よろしく頼むね」
そして、サリオンは部屋を出て行きました。
さて、何も起きなければアルバートの側で座ってるだけか…新しい魔法でも考えてようかな…。
…………。
………。
……。
「アルバート。ずっと部屋に閉じ込められていて辛くはないか?」
「いえ。部屋の中でも出来る事はありますから」
俺はアルバートの机を覗き込んでみた。
夕食を食べてから何をしてるのな?と思ったら…勉強してらっしゃる。しかも法律の勉強っぽいな。アルバートは本当にできた子や…。
そうして俺がアルバートに感心していると、急に扉の外が騒がしくなった。
「うっ!」
「ぐぁっ!!」
「アルバート。俺の後ろに」
探知で外の様子を確認しようと思ったんだけど、そんな間も無くすぐに扉は開かれた。
兵士は10人くらい居たはずだ…早いな…。
扉の先には、手足が斬られて倒れている兵士と、久しぶりに見たクラスメイトの顔があった…。
「さて、アルバートってのはどいつだ?」
おい勇者…。まさかお前がアルバートの暗殺に来たのか?お前…何をやってるんだよ…。
いや、行動を共にしてない俺に言える事じゃ無いか…。クラスメイトを守る為に仕方なくやっているのかもしれない…。
そんな勇者様が…俺のことを睨んでいる…。あれ?高杉透だってバレてないよね?
「何だお前は?」
「帝国に雇われている護衛だ」
「そうか…それは残念だったな。お前の仕事は失敗する」
勇者様は聖剣を片手に部屋の中へと入って来た。こちら側からみると盗賊か殺人鬼みたいだな…。
「お前は…なぜアクル王国に従って暗殺なんてしているんだ?」
「な、なぜアクル王国だと?」
動揺した勇者様は簡単に所属をバラしてしまいました。こんな単純な誘導尋問に…チョロいな…。
「こんなに堂々と敵対してくるのはアクル王国くらいだろ?で、お前は人質でも取られているのか?」
「うるさい!金が必要なんだよ!!」
………は?ちょっと待てよ…。金?嘘だろ?聞き間違いだよな?おい!勇者様!正義の勇者様よっ!!
「お前は…金なんかの為に…人を…こんな幼い子を…殺しに来たって言うのか…」
「俺だってやりたくてやってる訳じゃない!でも…借金を返すのに必要なんだから仕方がないだろう!」
「金は別の方法でも稼げる…。仕方なくは…ない」
駄目だ…頑張って抑えてたけど…魔王覇気が溢れ出てしまう…。
「うっ…ぐぅ…。お前何者だ…。ただの護衛じゃないだろう」
「煩い。とっとと掛かってこい」
勇者が魔法の詠唱を始める。そして、詠唱の終わった勇者は俺を指差し、その指先からは光の束が放たれた。
俺は右手に光属性の魔力を集中させると、勇者が放ったレーザービームを受け止める。俺に受け止められた光の束は拡散され、部屋にはオーロラの様な光の波が降り注いだ。
「ほぅ。綺麗だねぇ」
ハルトが随分と呑気な事を言っている…。
「どうした暗殺者。その程度か?」
「なんだと!俺は暗殺者じゃない!」
「金の為に人殺しを請け負ったんだろう?暗殺者じゃなくて何なんだ?」
「だまれぇ!!」
勇者が聖剣で斬り掛かってくる。………ちゃんと修行していなかったのがよく分かる剣筋だ…。
俺は、聖剣の斬撃を避けながら勇者の腹に膝蹴りを入れた。
勇者は後ろに倒れ込み、腹を抑えながら吐瀉物を吐き出す…。
「ごほっ…うぐぅ…」
「おい、暗殺者。人を殺しに来たのだから…もちろん殺される覚悟も出来てるんだろうな?」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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