睦子と栄太郎は全てを知る
「越前守殿。申し訳ありませぬが、睦子と栄太郎は勿論ですが、婿殿と駒、伊達家の隆次郎と藤五郎、そして摩阿を連れて来てもらえませぬか?」
「そうですな、善は急げとも言いますし。利兵衛、京六郎達を連れて来てくれ」
「ははっ」
義光に頼まれた勝家は、利兵衛に名前の出た面々を連れて来る様に命令する。勝家の命令を受けた利兵衛が大広間を出て
面々を探しに行くと、道乃の部屋に全員集合していた。そこでは
「睦子、貴女の裁縫の腕は素晴らしいですねえ。私も裁縫は少しばかり自信があったのですが
着物に縫い合わせて、更に素晴らしい着物に仕立てるのですから!六花、よく見て覚えなさい!睦子の様に小さい頃から裁縫を覚えたら、嫁ぎ先で倹約につながるのですから!」
「六江、あなたもです!いきなり全ての事が出来ない事は当たり前ですが、先ずはひとつの事が出来る様になりなさい!
その為に裁縫を覚えておきなさい!絶対に役立ちますから!」
「「はい!」」
「あらあら、雷花殿も花江殿も、まだ姫達の嫁入り話は早いと思いますよ?」
「高代殿、六花は六三郎様と違い、普通の子です!だからこそ嫁ぎ先で六花が侮られない様、裁縫を含めて倹約出来る様にしないといけないのです!」
「高代殿、私の六江も同じ普通の子です。柴田家の領地は大きく、更には実家の明智家も越前国一国を領有しておりますが
それでも嫁ぎ先次第では、六江が侮られる事も有り得ます!なので、今のうちに得意な事を増やしておかないと!」
「は、はあ。そうなのですね」
睦子の裁縫の腕に驚嘆した、雷花と花江がそれぞれの娘に睦子の裁縫の腕を少しでも覚える様にと、発破をかけていた
その様子に高代は「そこまでしなくても」と、声をかけたが、雷花と花江の迫力に負けて、それ以降の言葉が出なかった
そんな中で道乃はと言うと
「あらあら栄太郎、甲六郎と共に着物を畳んでいるのですか。お利口ですねえ」
甲六郎と栄太郎が着物を畳んでいる様子に頬を緩めていた。それを見ていた京六郎と駒姫は
「京六郎様、私も早く京六郎様の子を産みたいです」
「駒、儂はまだ元服しておらぬ。なので、子作りは元服してからじゃ。それまでは待ってくれ」と、新婚夫婦特有の甘い空気を醸し出していた
そんな中、そこに宗六郎の姿は見えなかったので、何をしていたのかと言うと
「宗六郎様、掃除はさっき行なったばかりですから!」
「高代様の側に居てください!」
いつもの様に、雑巾掛けをしていた。そんなタイミングで
「宗六郎様」
「利兵衛の爺様!」
利兵衛が宗六郎を掴み上げる。利兵衛は勝家と同い年だが、まだまだ小さい子供くらいは担げる様で、宗六郎を掴むと
「宗六郎様、母君はどちらにおられますか?」
高代の場所を質問すると、宗六郎は
「あちらです!皆様も居ます!」
道乃の部屋を指差す。摩阿姫以外の面々は集まっていたので
「これは丁度良い」と笑うと、部屋に行き
「道乃、他の奥方様達も一緒に居るのであれば、大広間に京六郎様と駒姫様、睦子様と栄太郎様も連れて来なさい!儂は摩阿姫様を連れて来る!」
道乃に全員を連れて行けと頼むと、道乃は
「はい」
返事をして、全員で大広間に向かう。それとほぼ同時に利兵衛は摩阿姫を探しに行き薙刀の授業が終わって休憩していた摩阿姫を見つけると
「摩阿姫様、出羽守様がお呼びです」と伝えて、そのまま大広間に連れて行った
摩阿姫が到着すると、全員集合しており、それを確認した信長が
「これで全員揃った様じゃな!それでは出羽守!お主が説明せよ」
「ははっ!」
義光に説明を促す
「それでは。睦子と栄太郎、これから儂がお主達に話す事、まだ十歳くらいのお主達には理解出来ないかもしれぬが、良く聞いてもらいたい」
義光の言葉に2人は
「「はい!」」
しっかりとした返事をする。返事を聞いた義光は
「良い返事じゃ」
と、笑顔になる。そこから説明を始める
「さて、それでは話すが睦子と栄太郎よ。今から話す事は、お主達の父親の事じゃ!実は、お主達の父親は、儂の父親と同じ人なのじゃ
つまり、睦子と栄太郎は、儂の四十歳ほど歳の離れた妹弟になるのじゃ」
義光の言葉に栄太郎は分かっていなかった様だったが、睦子は
「も、最上様!それは誠の話なのですか?私は源四郎伯父上から
「父は栄太郎が産まれて間もない頃に亡くなったから、母を不憫に思った栄林様が側仕えとして母を召し抱えた」と教えられていたのですが」
これまで教えられていた内容を義光に伝える。それを聞いた義光は
「睦子、その話はお主の伯父である源四郎殿がお主達を戦や政に巻き込まない為の方便じゃ
お主達が幼いからこそ、守る為についた嘘なのじゃ」
伯父の優しい嘘であると伝える。そこから
「改めてじゃが睦子と栄太郎、お主達が今まで側仕えしておった義姫は儂の妹、つまりお主達の姉にあたる
きっと源四郎殿の話を聞いて、お主達の為に何も言わなかったのじゃろう」
義姫が2人を保護していた理由を推測していた。それを見ていた駒姫が
「父上!今の話、誠ですか?それならば、睦子と栄太郎は私から見たら叔母と叔父になります!私より歳下なのに、誠なのですか?」
「自分より歳下の叔母と叔父なんて信じられない」と伝えるが義光は
「儂も最初は疑っておった。だが、先程話に出ていた源四郎殿の嫡男が、最上家の分家である中野家に仕えておる事じゃが
儂は中野家の家臣に柴田家があるとは知っておった。その柴田家の先代が父上、つまり駒の祖父の側に居る事も知らされた記憶がある
それに父上は隠居した時、まだまだ元気であったからな。まあ、つまり父上が頑張った結果じゃ!駒にとっては叔母と叔父じゃ
しかし、儂や義にとっては妹弟じゃ!それに二人の両親は勿論、頼りになる親類は源四郎殿の嫡男しか居らぬ!
そんな状況で儂達の前に現れたのも、ある意味、巡り合わせじゃろう!話が長くなったが睦子と栄太郎!
これからは儂がお主達の親代わりじゃ!そして、これからは「最上」の名字を名乗る事を許そう!」
話し終えると、2人に「最上姓」を名乗る許可を与えた。それを聞いた睦子は
「最上様、ありがとうございます」
と言って、頭を下げた。栄太郎も睦子の真似をして頭を下げた。しかし義光は
「これ!これからは兄上と呼ぶのじゃ!」
「兄と呼んでくれ」と伝える。それを聞いた睦子は
「はい。兄上」
兄上呼びをする。呼ばれた義光は
「儂の弟妹は全員四十歳を超えておるから、これからは子育てなど無いと思っておったが、まだまだ幼い二人の為に頑張らないといかぬな!」
とても嬉しそうに、これからの予定を口にしていた。こうして六三郎の知らない所で問題がひとつ解決していた。




