伊達家の裏仕事を担う者達
天正二十三(1595年)十月十一日
陸奥国 伊達家屋敷
蘆名家の事件が起きた翌日、伊達家の屋敷は政宗と愛姫夫婦が居ない事以外、いつも通りの日常を過ごしていた。
政宗夫婦が居ない現在は、政宗の右腕的存在の片倉小十郎景綱が代理として政務を取り仕切っていた。そんな中、景綱が部屋で休んでいると
「片倉様。早急にお伝えしなければならない事が起きました」
天井の裏から声が聞こえてくる。その声に景綱は
「黒脛巾組の頭か?殿達の身に何か起きたのか?」
驚く事なく、いつも通りの対応を始める。声の主は伊達家の裏仕事を担う黒脛巾組と呼ばれる間者集団の頭で、
陸奥国内は勿論、関東や北陸、更には畿内にまで配下の者達を派遣している情報収集や敵の撹乱を得意としている集団である。その頭が景綱へ、ある事の報告に来ていた
「殿は奥方様と共に田村家にて過ごしております。本題に入りますが、蘆名家の当主、蘆名平四郎義広殿、一族の針生平三郎盛春に討たれました」
頭は冷静に景綱へ、蘆名家の事件を伝える。報告を聞いた景綱は
「何じゃと!それでその針生達はどうしておる!?」
慌てて立ち上がるも、冷静に盛春達の動向について質問する。質問を受けた頭は
「はっ!現在のところ、針生達は蘆名家の領地の完全征圧に力を入れております。ですが、ひとつ気になる事がありまして」
盛春達の動きを報告するが、気になる事があると景綱に伝えると、景綱は
「申してみよ。これで万が一、伊達家との戦になった場合、憂いはひとつでも無くしておきたい!」
報告してくれと、頼む。頼まれた頭も報告を開始する
「ははっ!それでは、気になる事ですが、その針生平三郎の弟である平四郎盛秋が、此度の蘆名家攻めに参戦しておりませぬ。事情は分かっておりませぬが
針生家の領地は、伊達家と田村家の中間と言って良い位置にありますので、気になっております」
頭の報告を聞いた景綱は、しばらく考える
(殿が居ない事が露見したら、針生達が攻め込む可能性が高い!しかも、この様な場合、その存在感だけで頼りになる藤五郎殿も居ない事まで露見したら、
それだけでない!万が一にも相馬家までもが針生達と共に伊達家に攻め込む可能性がある!殿が田村家から伊達家に戻ってもらうには!
いや、それだけではない!殿の性格では、針生達が田村家に攻め込んだ場合、針生達を殲滅するまで戦を止めないと見て良い!しかし、このままでは!
どうにか殿を田村家から伊達家に戻しても、田村家が大丈夫である為には、どうすれば!いや、待て!確か田村家には、あの方が居るはず!)
景綱は何か思い出した様で
「頭、殿が滞在しておられる田村家周辺には手の者は居るか?」
頭に「田村家周辺に配下は居るか?」と確認すると、頭は
「はい。殿が連れて行きました産婆の中に女子が二名、家臣の中に三名、田村家の領地に百姓家族として紛れこませた者が五名ほど、その者達を使って確認したい事でも、あるのですか?」
紛れ込ませた人数を景綱に伝える。それを聞いた景綱は
「うむ。田村家に柴田播磨守様一行が残っておるのか調べて欲しい!残っておるのであれば、田村家は柴田様一行と田村家でどうにか出来ると見て良い!
なので、殿にこの事を伝えて、伊達家に戻ってもらう様、一刻も早く動いてくれ!その事を伝える文を書く!」
そう言って、急いで文を書く。墨が乾いた事を確認すると、折りたたんだ後、天井へ投げる。投げられた文は天正の隙間に入っていき、頭が手に取ると景綱は
「その文を殿に急いで届けてくれ!」
「ははっ!」
頭に文を急いで政宗に届ける様、命令し、頭は返事をすると、音も無くその場を立ち去った。頭が去った後の景綱は
「蘆名家の領地は、会津の南部じゃ。これで北上して来たら、伊達家に戦を仕掛けてくると見て良い。しかし、もしも東側に進めば、田村家や相馬家に攻め込むか味方になれと調略するかもしれぬ!
そうなってしまわぬ様、今は針生達の動きを注視するしかないか。こうなっては、針生家の領地が小さいながらも伊達家と田村家の中間地点にあるのが、
もどかしい!こうなっては、黒脛巾組の動きがどれだけ早いかじゃ!頼むぞ頭!」
黒脛巾組の動きが早い事を願っていた。その願いが届いたのか、頭は信長や政宗が2週間前後で到着した田村家領地に、独自の裏道を通りながら半分以下の5日で到着した
頭は到着すると早速、百姓として紛れ込ませた配下の者達の家に入り込むと、
「皆!伊達家が戦に巻き込まれてしまうかもしれぬ事が起きた!今から説明するから、しっかりと聞いてくれ!」
事の次第を配下の者達に説明する。説明を聞いた配下達は
「それは、確かに早く殿へ伝えなければなりませぬな!」
「しかし、殿へその事を伝えたとしても屋敷までの道のりで針生伊達家の領地があるのが」
「頭、如何なさるのですか?」
それぞれの意見を出す。そして頭は
「殿の元へ行く!それだけじゃ!少しばかり、変装してな」
そう言って衣服を着替え、少しボロい袴姿になった。こうして、政宗に伝える準備は整った
陸奥国内が少しずつ慌ただしくなって来た頃、盛春伊達家に殺された義広の実家の佐竹家も異変に気づく
「父上。この三ヶ月ほど、蘆名家に養子に行った四郎からの文が届きませぬな」
佐竹家嫡男の義宣が、父の義重にそう話すと義重は
「確かにのう。よし、蘆名家に何かしらの文を送ってみるとしよう!何の反応も無ければ、伊達殿には悪いが、陸奥国に少しばかり入らせてもらうとしよう」
その様な決断をくだす。父の決断に義宣も
「ははっ!それでは早速、四郎へ文を書きます!」
そう言って、文を書きだして10分後
「出来ました。墨も乾いたので、それではよろしく頼むぞ!」
「ははっ!」
家臣に文を渡して出発させた。此処から、佐竹家も真実を知っていく。




