武田家の返事と新次郎の初恋
天正二十三年(1595年)七月三十日
相模国 小田原城
「殿!大殿!右府様!武田家から返事の文が届きました!」
「うむ。右府様、読んでいただきたく」
武田家の話し合いから10日後、返事の文が北条家に届く。文を受け取った氏直が信長に「読んでくれ」と頼むと、信長は
「うむ」
そう言って、文を受け取り読み出す
「では、読むとしようか。「右府様ならびに北条家の方々へ武田家当主の武田勝四郎にございます。右府様より御提案されました、二郎伯父上の子供達と、五郎叔父上の娘の婚姻のお話、お受けさせていただきます
そこで、右府様と北条左京大夫様と相模守様へお願いしたい事として、二郎伯父上と五郎叔父上を小田原城へ同行させていただきたく!二郎伯父上は盲目ですが
それでも、娘の竜代殿の婿となる殿方、嫡男の勝二郎殿の嫁になる姫君の声を小田原城で聞きたいとの事です!介添は五郎叔父上がやりますので、小田原城へ同行させていただきたく存じます!」との事じゃが左京大夫、相模守殿。よろしいかな?」
文を読み終えた信長は、氏直と氏政に確認する。2人は
「これも、親心から来る行動ですから良いでしょう」
「倅の意見と同じく」
竜芳や五郎が小田原城へ来る事を了承する。それを聞いた信長は
「忝い。それでは今から、二人が了承してくれた旨を書くので完成したら再び武田家に届けてもらいたい」
そう言うと、文を書き出して20分くらいで書き上げると
「完成した。それでは相模守殿!これを武田家に届けてくだされ」
「承知した。お主、行って来い!」
「ははっ!」
氏政へ文を渡して、氏政は家臣へその文を渡して武田家へ走らせた。こうして、北条家としては武田家一行が到着するまでは、これと言ったやる事の無い待つだけの状態になった
そんな状態の大人がやる事と言えば、武芸の稽古か、宴会の2択になりがちなので、大広間はあっという間に宴会がスタートした
大人達が酒盛りしている頃、子供達はと言うと
「出来ました!」
「睦子殿!素晴らしい出来です!端切を縫い合わせて、これほど綺麗な小袖が出来るなんて!」
「む、睦子殿!次は、この端切を縫い合わせて小袖を作ってもらいたいのですが、よろしいですか?」
「睦子殿、若葉殿の次は、私に小袖を作ってもらえませんか?」
「ほっほっほ。美弥も若葉も右府様が小田原城に居られる間は、睦子も小田原城に居るのですから、慌てずとも良いではありませんか
それに、里見殿に嫁いだ玉は睦子から裁縫を学んで、将来的な節約に繋げようとしているのですから、貴女達も、今のうちに少しでも睦子から学んだ方が良いと思いますよ?」
「督姫様にそう言われると」
「分かりました。睦子殿、教えてください」
氏直の正室、督姫の部屋で遊んでいた。その理由として、信長が働いて暇だった睦子が、時間潰しに刺繍をして、それを督姫の侍女にプレゼントした結果、
督姫に話が行き、そこから小袖を作ってくれと頼まれて、更に義勝と夫婦になった玉が督姫への挨拶の為に督姫の部屋を訪れると、睦子の見事な裁縫の腕と、
端切が着物になっていくのを見た玉が、睦子に裁縫を教わり、そこから美弥と若葉にも話が伝わっていったと言う展開だったのだが、まだ子供が新次郎だけの督姫は
「ふふっ。娘が多く居たらこれだけ楽しいのでしょうね。比左殿の前例があるのだから、私もまだ子を産めますし、近い内に左京様に話をしてみましょう」
娘が欲しい気持ちが出て来て、氏直に子作りの話をしようと決断した。そんな督姫だが、睦子を見て
「それにしても、睦子。貴女のお顔は何処かで見た事がある様な気がするのですが、誠に近しい親類は居ないのでしょうか?」
「何処かで見た事がある顔」と口にしつつ、睦子に親戚関係を聞く。しかし睦子は
「督姫様。私の近しい親類は、母の兄で数年前に亡くなった源四郎伯父上しか居なかったので。母上は弟を産んで、産後の肥立ちが悪かったのか、伯父上より先に亡くなってしまいましたし、
父上にあたる方は、私も顔を見た記憶が無いので、どの様な方か分からないのです。それでも弟の栄太郎が一人立ちするまでは、私が頑張らないといけませんし
此度の右府様が実行する、伊達家の特産品を畿内で販売する一行に参加させていただいた事は、見聞を広める好機ですから!出来るかぎり多くの銭を稼いで、
栄太郎の元服の際、立派な武具を買えるだけの蓄えを持っておきたいのです」
唯一の親類の伯父は亡くなり、母はその前に亡くなって、父の顔は知らない。と言うだけでなく、弟の為に銭を多く稼ぐ!との決意を示す
それを聞いた督姫は
「睦子は、幼いながらに立派ですね」
そう言いながら、睦子の頭を撫でる。睦子の話を聞いていた玉と美弥と若葉に至っては
「私達より若いのに、なんて立派な」
「この裁縫の腕も、弟を養う為と考えると」
「私達が如何に甘いか分かります」
泣きすぎて、裁縫の動きが止まっていた。そんな面々に睦子は
「皆様、私一人でどうにかしているわけではありませぬ。ありがたい事に伯父上と縁があった伊達家の御母堂の義姫様の側で働かせてもらえたから、今があります」
そう言って、空気を変えようとしていた。そんな睦子に督姫は
(ふふっ。睦子ほど我慢強くて、しっかりした娘なら新次郎の側室に推挙したいですね。側室だったら左京様も納得してくれそうですし。見目も可愛らしいお顔ですから、良いと思います)
内心そう思っていた。そんな時に神様のイタズラとしか思えない展開が起きる。それは
「母上。新次郎です。父上が何やら話があるそうですので、連れて来てくれとの事です。開けますぞ」
新次郎が督姫の部屋に来た事だった。新次郎の声を聞いた督姫は、少し時間をかけて
「新次郎、丁度良い頃に来てくれましたね。部屋に入って来なさい」
新次郎に部屋に入る様、促す。促された新次郎が襖を開けると、そこには
「ご覧なさい新次郎!とても可愛らしい姫君だと思いませんか?」
督姫の手によって、目一杯化粧をして可愛くなっていた睦子が居た。睦子を見た新次郎は
「は、は、は、は、母、上。可愛らしい、ひ、ひ、姫、君、です、が、父、上が、お、呼び。ですので」
顔を真っ赤にして、言葉もたどたどしくなる程、睦子の可愛さに胸を打たれていた。某スパイ偽装家族人気マンガの次男の様に。そんな状態の新次郎だったが
「用件は伝えたので、失礼します」
そう言って、督姫の部屋を後にした。それを見た督姫は勿論、玉と美弥と若葉は
「あらあら新次郎」
「督姫様、これは」
「もしや新次郎様は」
「そこから先は、言わずに楽しみにしましょう!」
新次郎の初恋を応援しようと、一致団結した。




