私のいる世界ではネコは話すことができるらしい
目の前のネコが突然こう言った。
「明日、世界が滅ぶぞ。」
………最近のネコってしゃべるのか…。
「そんなわけないじゃろ。」
心まで読むのか。多芸だな。
もうこの世界がネコに支配される日も近いな。
「いや、そんなわけないじゃろて。わしが特別なだけじゃ。
あと、そろそろわしの話を聞いてくれんかの?」
困ったような顔をしながら私の顔を下から覗き込んでくる。
ネコなのに口調がおじいちゃん口調というか年老いているというか…。
だというのに声が微妙に若いからちぐはぐな印象だ。
いや、まあ語尾に”にゃ”とかつけられても困るだけなんだが。
あ、また話が脱線してしまった。
えっとなんだっけ、話を聞いてほしいだっけ。
ならしっかり返事をしてあげないとな。
「いやだ。」
改めて黒くまんまるな目をしっかりと正面から見て聞き逃すことがないようにはっきりとネコに向けて言い放った。
目を見開き口を軽く開け放ちながら固まってしまったネコを置いて振り返り、来た道を引き返す。
半袖で家を出たのにこの暑さはさすがに耐えられないな。こんがりおいしく焼きあがってしまいそうだ。
いっそこの街ごとクーラーで冷やすというのはどうだろう。
うん、我ながらいい発想だ。もしや天才か?
「おぬし、ことの重大さを理解しておらんのか!この世界が滅ぶんじゃぞ!」
復活したのか先ほど話していたネコが黒いしっぽをふりふりと軽くふり私の隣まで走りながら叫ぶ。
しつこいな。あ、だけど私も気になることがある。
立ち止まりもう一度綺麗な濡れ羽色の毛をしたネコを見つめ問いかける。
「君に一つ聞きたいことがある。」
「な、なんじゃ。ようやく話を聞く気になったのかの?」
さっきも話していて気になっていたのだが話すとめんどくさくなる気がして聞いていなかった。
だがもう一度話かけられたんだ、もう我慢せずに聞いてしまおう。
「私はこんな話を聞いたことがある。」
「う、うむ。」
「黒は日光を吸収する、と。君って黒猫だよね。暑くないの?」
「い、いまはそんな話をしとる場合じゃない!!
明日、この世界が、滅ぶんじゃぞ!!もっと他に聞くことがあるじゃろ!!」
言い聞かせるように一つずつ叫びながら説明するネコというのも珍しい。
いや、そもそも話せること自体が珍しいのか。
「もっと他に聞くこと?」
「そうじゃ!たとえば『なぜネコが話せるのか』とか、『世界が滅ぶってどういうことか』とか、『なぜそれをわしが知っているのか』とか色々あるじゃろ!」
「あー、なるほど」
つまりこのネコも私の周りの人間と変わらないのか。
要するに、私が常識と”ずれている”から自分の想像通りにならずペースを乱されそれを正そうと叫んでいるのだろう。
そうと分かれば私がとるべき選択はひとつ。
また改めてネコの目を見る。
今度はその心の奥底まで覗きみるように真剣に。
「君の言いたいことはわかった。けど私の話も聞いてほしい。」
「な、なんじゃ。」
先ほどまで無視していたのに急に真剣な眼差しで見つめたからだろうか、それともやはり黒猫は暑さに弱いのか、立っている地面には軽くシミができるほど汗をかいている。
そして先ほど目の前の彼、もしくは彼女がしてみせたようにひとつずつ言い聞かせるように言葉を放つ。
「今日、私の晩御飯はすき焼きなんだ。」
「な、な…」
またしても口をあんぐりとあけて固まってしまったネコを置いて歩き出す。
今日はいい肉を買おう。




