36話・神さま信じます!
わたしはベルナンが向かった闘技場が気になっていた。ここでアイギスの裁判が行われるのだ。容疑は公女マリカの殺人容疑。まったくもって物騒な罪をでっち上げたものだ。あのヘリオスめ。アイギスにそんな罪をかぶせて今に見てらっしゃい。と、思うものの、今のわたしはベルナンに捕らわれてるし何にも出来ない自分に腹が立つ。
わたしは馬車のなかで、腹立ち間際に大きなうさぎのぬいぐるみに八つ当たりした。十一年前、わたしがこの世界に来た時に持って来たものだ。亡くしたと思われていたものはベルナンが拾っていたらしく、それを彼は大事にとっていたそうだ。
新品まではいかなくともそこそこ綺麗な状態で保護されていたぬいぐるみは、わたしのもとに返って来たが、ぬいぐるみは動物の兎のぬいぐるみではなくキャラクターもので知られる某サン○オ商品の赤ずきんを被ったウサギちゃんで、耳は太く長く顔は大きく胴体は顔より小さく脚もまた太く短かった。幼児受けする二、五頭身のサイズだ。さすがに年頃になったわたしには不要と思える物だが、何を思ったかベルナンが子猫のわたしの玩具に渡して来たのだ。
(だからわたしは十七。幼児じゃないんだって)
と、いうわたしの申し出は却下され、ほのぼのとこちらを見つめて来るうさぎ頭巾には苛立ちしか覚えない。
(このこの…)
頭突きをお見舞いしているとへなん。と、ぬいぐるみが倒れ込んで気が済んだわたしは顔を上げた。それでもアイギスの様子は気になる。車内をうろうろと歩き回って落ち着かないわたしを見かねてかナリッサが、
「裁判が気になるのですね? では私が様子を見て参りましょう」
と、言ってくれた。本当は連れて行って欲しいんだけど駄目なんだって。ベルナンからわたしを馬車から出さないように言われていたらしい。
申しわけありません。と、機械的に頭を下げながらも彼女は申し訳なさそうな目をわたしに向けて馬車から降りて行った。
わたし付きの彼女が簡単にわたしから離れられたのも用心深いバルナンのこと、他にも影の者を待機させてるからだと分かる。猫の身になってから外の気配とかよく分かっちゃうんだよね。いまも馬車を囲むように離れた所から息をつめて観察してるらしい人間の息遣いが聞こえて来るから。
『はあ。アイギスはどうなったんだろう?』
ため息しか漏れて来ない。わたしはうな垂れてその場に寝転がった。
教会のお昼の鐘が鳴るのと同時に裁判は開始となっていた。その約束の鐘が鳴り響くまでにアイギスの無実を証明する騎士が現れないことには裁判は行われない。そうなると裁判を棄権したと見なされて決闘裁判の判決としては持ちかけた側の勝利となり、この場合、アイギスの無実を証明する機会が奪われ彼はパルシュ国王に裁かれる事となっていた。どっちにしろ無実を勝ち取る為には裁判に勝利するしかない。
わたしは馬車の中に一匹残されてハラハラしていた。姿の見えない神さまに救いを求めようと、わたしは天を見て唸った。
『お願い。神さま。いつもは神さまなんていやしないだなんて捻くれた態度取ってごめんなさい。わたしのお願いを聞いてくれたら神さまのこと信じるから。どうか助けて…』
「では信じてくれますか?」
馬車のドアが開いて見慣れた顔がひょっこり現れた。
『ハンス』
「姫さま。お助けに参りましたよ。お迎えが遅くなって申しわけありません」
どういう手を使ったのだろう? 馬車の周囲には見張ってる者の気配がなかった。なぜか馬車には誰もいない。
「ちょいと魔法で騒ぎを起こしてそちらに間者の目を逸らしましたので」
ナイス。ハンスさん。さすがだ。やることに抜かりはない。
『でもここでわたしがいなくなったと知れたら…』
「大丈夫ですよ。司教さまがなんとかおさめて下さいますから」
「司教って、リアン司教のことですか?」
「んまあ。そんなことです。取りあえずは私と共に来て下さいますか? マリカさま」




