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後編3

まだもう少し続きます。

 参謀役と言うのは、変態の集まりである--


 大戦時代、後のどこかの王妃が言った言葉である。


「俺、宰相辞める」

「何でっ?! しかも突然何っ?!」


 隣を並走していた明睡の言葉に、朱詩は唖然とした。ちらりと後方を見れば、もう一神の上層部が我関せず状態で方向転換した。逃げた。


「くっ! 茨戯が此処に居ないってのに!」


 茨戯は外組だ。一度萩波の所に行っているから、遅れての捜索になるが、あの男にとってはそれ程のハンデでは無い。むしろ、ハンデという意味がわからん。


「そもそも一体どうしたのさっ」

「……俺が変態だって」


 どこかで何かの幻聴でも聞いたのか?いや、こいつの事だから聞いたのかもしれない。朱詩は頭が痛かった。


 後に、『氷の宰相』とか呼ばれ、鋼を超えた精神力で周囲の雑音を全て跳ね返すとさえ言われる明睡も、この頃はまだ弱い部分があった。むしろ、時々情緒不安定さを露わにする事がある。


 たぶん、その一種だと思う。


「何? また果竪の声でも聞こえた?」

「果竪は俺の事を変態なんて言わないっ」

「……」

「なんで黙るんだよっ」


 明睡は黙ってしまった朱詩を怒鳴りつけた。


 いや、何でも何も……。


「あ~~、そもそもお前、誰かに変態って言われたぐらいで動じる様な可愛らしい肝っ玉の持ち主じゃないじゃん。例え、まだ弱くて脆い部分があったとしても。情緒不安定でも」

「はっ! 当り前だろう? 今まで妬みも嫉みもあらゆる嘲笑も受けてきたんだからな。今更、変態と言われたって動じるか」


 そう言って鼻で笑う明睡は、それはそれは麗しかった。


 まあ、男のくせして『女』だとか、男に抱かれて喜ぶなんて変態とか、お前は男じゃなくて男に可愛がられる『女』だとか--まあ色々と言われるのは毎回の事だったけれど。

 この、『女顔』のせいでっ!!


「じゃあ、果竪に変態」

「やめろ! お前は俺の心を抉る気かっ」

「抉られてるじゃん」


 あと、果竪は変態って言わないならそもそも抉る抉らない以前の話になるのだが。


「なんかお前、果竪が『明睡の変態』とか言ったら、その場で動けなくなって見事に足止めされるかもね」

「そんな事はっ--」


 それ以上言葉の続かない明睡。というか、どうして屋根の上を疾走しながらこんな会話を交わしているのだろうか?自分達は。


「というか、俺が変態なら上層部全員が変態だろっ」

「化け物と呼ばれても良いけど、変態は却下。むしろ変態はボク達に群がる奴らだろ? 例え果竪に言われてもボクは納得しないね」


 誇りと名誉とプライドにかけても納得は出来ない。


「そもそも、言わせないな」

「だよね、あと、果竪は『変態呼ばわり』した事はないよ。ボク達の事」

「そ、そうだよな」

「思ってるかもしれないけど」

「っ?!」


 美しい瞳に涙を湛え、唇を噛み締める姿は……こう、ゾクゾクと来る。来るけど、今更朱詩がそれでどうにかなる事は無かった。


「そうか……思われてるのか」

「むしろ思われていないというのが理解出来ないよ」

「何でだよ!」

「だって、ロリコンを永遠の主として戴いているし」


 明睡は黙った。

 しかし、以外としぶとかった。


「いや、ロリコンは」

「変態の枠組みから除外したら殴られるからね!」


 むしろ、子供に手を出す変態なんぞクタバレっ!!


「分かってる! だが、萩波と果竪の年齢差は五歳差」

「三十が二十五に手を出すのは年齢的には犯罪じゃないけど、十七の男が十二の少女に手を出すのは犯罪だよね?! どう考えても犯罪だよねぇっ?!」

「っ……」


 王侯貴族とかなら、十歳以下での婚約や婚姻だってある。しかし、彼等は元々は王侯貴族では無い。萩波は違うけど。


「諦めよう、明睡」

「……そうか、やっぱり変態か俺達は」


 なんか地の底まで沈んでしまった。


「あ~~、で、突然そんな事を言いだしたけど、本当にどうしたのさ? 幻聴? 幻聴だよね、それしかないよね。最近疲れてるしさ」

「そうか……いや、もしかしたら過去を思い出したのかもしれないな。大戦時代に言われた言葉があるし」



 参謀役と言うのは、変態の集まりである



「……ああ、うん」


 その変態が何を基準にしているのかは分からないけれど、後の各国の参謀役となる青少年の心を激しくえぐり取った一言である事は朱詩には否定出来なかった。

 実際、えぐり取られた凪国の面々--明睡を筆頭とした者達を見ているし。


「というか、なんで参謀役ってだけで変態なんだ!」


 むしろ、各国の王の方が変態--いや、変わり者揃いであると言うのに。


 うちの国王様とか国王様とか国王--いや、あれはタダのロリコンだ。


「知らないよ。まあ、今はそれを置いておこうよ。今大事なのは果竪を見つける事だよ」

「そ、そうだな」

「ボク達もそんなに時間は割けないし、さっさと見つけて連れ戻さないと」

「ああ。さっさと見つけないとな……」


 そう言った明睡を見ながら、朱詩は口を開いた。


「見つかるよ」

「……朱詩?」

「絶対に見つかる。見つける。どれだけ逃げたとしても、絶対に逃がさない--だよね?」


 朱詩の笑みを暫く見ていた明睡は、ゆっくりと口元を引き上げた。


「そうだな--ああ」


 絶対に、連れ戻--


「まあ、果竪からすれば、またロリコンの所に連れ戻されるなんて悲劇しか無いけど」

「そしてそこに連れ戻す俺達も俺達だよな」


 正に鬼畜の所行。

 良心の欠片すら無い仕打ちである。


「そもそも、萩波が果竪に手を出さなきゃいいんだよっ」

「無理だよ。だって明睡も涼雪が部屋で裸で横たわっていたら絶対に手を出すでしょ? ボクも小梅が着替え中の所に出くわしたら襲う、何が何でも襲う、そして絶対に部屋から出さない」


 さらっと、犯罪を告白する友神に、明睡は思わず顔を背けた。でも、否定出来ない。


「って、何涼雪の裸を想像してんだよっ! 殺すぞテメェ!」

「それなら、小梅の着替え姿を想像したキミこそボコボコにしてやるんだからっ」


 そうして器用に怒鳴りあいながらもしっかりと王都探索を行う二神に、違う方面を探索して再度合流した上層部の一神は--半径十メートル以内に入らない様に注意した。

 彼の本能が「近づいてはならない」と囁いていたから。





 そんな、昔馴染みこと友神達がアホな会話を繰り広げている中、果竪は結構ピンチに陥っていた。


「……なんですと?」

「だから、蛇男(仮名)」


 名前を知らないのだから仕方が無いではないか。しかし、蛇男と呼ばれた方は額に青筋を浮かべていた。


「じゃあ、なんて呼べば良いんですかっ! 名前知らなきゃ仮名で呼ぶしかないでしょっ!」

「もっとセンスのある名前で呼べませんかね?! ええ、呼べませんよねっ! 貴方みたいな下等でクズな輩にセンスなんてないですからっ!」

「センスで飯が食べられますかっ」


 いや、芸事関係はセンスが必要で--と言うツッコミをする者は此処には居なかった。


「分かりました。では、スネークと」

「……そ、それなら」

「いや、それただ英語にしただけですよ!」

「騙されたらダメですっ!」


 蛇は嫌でもスネークは良いのか。

 思わず受け入れようとした蛇男を、部下達が一生懸命に止める。


「ちっ! なんと卑怯なクズかっ」

「受け入れたのはそっちだって」

「受け入れてなどいないっ!」


 顔を真っ赤にして怒りを見せる男を余所に、果竪は「どっちでも良いよ」と切り捨てた。


「ふんっ! その様な顔をしていられるのも今のうちだ」

「そんな顔ってどんな顔ですか」

「だから--いや、すぐにその顔を恐怖に染め上げてやろう」


 その時だった。


 遠くから、ズシン、ズシン、と地面が震える音が聞こえてくる。いや、実際に地面が揺れている。


 お腹に来る様な重たい音に、果竪はふと自分が入ってきた窓を見た。


 音は外から聞こえてくる。


「何?」


 耳を澄ませれば、小さいが何かが破壊される音と、悲鳴が幾つも聞こえてくる。

 そこに意識を集中させ過ぎた。


 後ろから、果竪の身体が強い力で突き飛ばされる。


「きゃっ!」

「果桜っ!」


 玉環の悲鳴が上がる。周囲に居た男達が玉環を捕らえているのが見えた果竪は、そのまま床に転がった。しかし、すぐに二、三神の男達が駆け寄り、果竪を開け放った窓から外へと投げ落とした。


「っ--」


 雨で地面がぬかるんでいた事。そして、壁を登った時に設置していたロープに手が届いた事で、落下スピードが弱まり、地面への衝撃が軽く済んだ。


「潰れませんでしたか。なんと悪運の強い」

「日頃の行いが良いから」


 窓からこちらを見下ろす蛇男に、果竪はそう言い返した。そして、果竪はにっこりと笑った。


「また殺し損ねたね。二度もし損じるなんて、それ程でも無いって事かな?」


 相手に対して憎まれ口を叩く。これで怒り狂うならまだ良いが。


「その強がり、どこまで持つでしょうかね」


 蛇男はそう言うと、ニヤリと笑った。それを注意深く観察していた果竪の耳に、先程よりも聞こえてくる悲鳴の数が増えた。


 一体何が起きていると言うのだろうか。


 いや、それ以前に、この地面の揺れは。


 地面の揺れはまだ続いていた。と、その時、果竪の後ろからビリビリと空気を震わす咆哮が響き渡った。


「……魔獣?」


 それは、十メートルはあろう大きな巨体を持つ獅子の身体を持つ魔獣だった。しかし、顔は虎で、背中には漆黒の翼が生え、尻尾は鋭い猛毒の棘を持つ。


「そう--A級魔獣の『黒獅子』ですよ」


 魔獣は、その強さによってランク分けがされている。

 上からS級、A級、B級、C級、D級--。また、A級は特A級と普通のA級に分かれていたりなど、結構ややこしい。


 因みに、魔獣は大戦時代に開発された生物兵器で、大戦時代、そして終結後にかなりの数が狩られたが、それでも逃げ延びた魔獣は天界十三世界の各地に散らばって存在していた。

 しかも、元々魔獣という生物兵器には繁殖能力は無かったが、大戦後期にどこかの馬鹿が繁殖能力の獲得に成功してしまったせいで、その後の魔獣達は繁殖によって増える事が出来るようになってしまった。


 その為、少しでも取りこぼしがあれば、勝手に繁殖して数を増やしてしまう。


 また、それ以外にも、魔獣が増える原因はあったが--。


 果竪は、『黒獅子』を見つめる。口の中に収まりきらない鋭い二本の長く太い牙を見せつけ、大量の涎を流す『黒獅子』。


 その素早さと攻撃性から、A級に名前を刻まれているそれは、大戦時代、また大戦後も多くの神を食い殺してきた。


「そいつの牙から逃れる事は出来ませんね」

「どうして、こいつが……」


 果竪は、この辺りの地形を思い出す。

 『黒獅子』の生息地は限られている。

 こいつが居るのは、草原という、比較的障害物の少ない場所だ。森や山の中ではその俊足と巨体を生かし切れず、迷い込みでもしなければ殆ど居ない筈。


 しかも、雨が嫌いという特性から、こんな大雨の中に出てくるのは普通なら有り得なかった。


「『黒獅子』だけではありませんよ。今頃、沢山の魔獣達が餌にありついて喜んでいるでしょうね」

「は?」


 沢山の?


「掃除はきちんとしないと」


 果竪は、蛇男の言葉に周囲を見渡した。そして、耳を済ませば、雨音にもかき消されない悲鳴の数々が聞こえてきた。


「貴方……もしかして、この村に魔獣を」


 蛇男はにっこりと笑った。


「冥土の土産に教えてくれますか? 貴方達、この村を魔獣に襲わせようとしているんですか? その魔獣はどうやって?」

「だから掃除と言ったでしょう? ああ、魔獣に関しては企業秘密です」

「そう--まあとにかく、貴方達が連れてきたって事ね」

「さあ? 確かに生息地は違っても、絶対などはありませんからね。例えば、『突然変異種』とか」


 話は終わりです--と言う蛇男が指を鳴らす。

 すると、『黒獅子』は動き出した。


 操れもするのか--。

 思えば、蛇男の言葉を聞いている間、『黒獅子』はこちらを威嚇しても襲ってこなかった。


「『黒獅子』。その巨体に見合わぬ瞬発力と、強靱な肉体、強い力で獲物を追い詰め、その牙で仕留める魔獣。一度狙われれば逃げ切れない。でもね」


 普通の少女ならば、動けぬままにその牙の餌食になるだろう。

 しかし、果竪は違った。


 『黒獅子』の特性を冷静に思い出していく。


 神力が自由に使えた大戦時代でさえ、この『黒獅子』の餌食となった者達は多い。しかし、弱点が無いとは言わない。

 むしろ、あの蛇男は果竪を完全に見誤っていた。


 果竪は平凡で無能だ。


 しかし、ある一点において、果竪は誰をも凌ぐ能力を発揮する。


 そう--守るべきものがある時、果竪は誰よりも冷静かつ的確に行動する。



 蛇男は、それを素速く見抜くべきだった。



「『黒獅子』の弱点は」


 『黒獅子』がこちらに走ってくる。果竪は、『黒獅子』に向けて二本の小刀を投げつけた。それは見事に、『黒獅子』の目を貫いた。


 凄まじい咆哮が響き渡る。


「『黒獅子』は視覚と聴覚に優れているけれど、嗅覚はからっきしダメ。だから、視覚と聴覚を潰してやれば良い」


 と言いつつ、果竪は聴覚は潰さなかった。


「や~い、こののろま! アホ、馬鹿! 悔しかったに此処まで来てみなさいっ」


 そして『黒獅子』はある程度の知性を有する。そう--自分が馬鹿にされている事は分かるぐらいの知性は。


 だから、果竪は『黒獅子』を罵倒し、自分へと引きつけて。


「やめろっ!」


 蛇男は気付いた。

 気付いたけれど、どうにも出来なかった。


 果竪は蛇男を見上げながら言った。


「自分の所のでしょう? 後始末ぐらい、自分でしなよ」


 『黒獅子』が建物の入り口へと突き進む。そのまま、建物へぶつかり、大きく震わせた。中から悲鳴が上がる。


「こっちこっち!」


 今の一撃で、扉が中に良い具合にひしゃげてくれた。これで、中から外には出られない。そのまま、果竪は後ろへと回る。『黒獅子』が音におびき寄せられて走り出した。


「裏口もね」


 予め、果竪はそこから出られない様に外から板を打ち付けていた。

 何も、何の準備も無しに果竪は玉環の所に行ったわけでは無い。


 忍び込んでも玉環をこの建物から出されてしまえば元も子もない。

 だから、予め経路をこっちで決めさせて貰ったのだ。


「大雨だから、外の巡回は少なくしたんだと思うけど、それが命取りだね」


 一階にある窓も、全部塞がせて貰った。


 だから--。


「はい、どうぞっ」


 裏口も、『黒獅子』が突っ込み、扉が大きくひしゃげてしまった。元々、頑丈な作りをしていた分、ひしゃげたそれは開かないという自体を引き起こしてしまった。


「ほら、どうしたの? その程度で私を食べようとしていたの?」


 『黒獅子』を挑発した果竪は、そのまま『黒獅子』の懐へと飛び込んだ。

 先程まで居た場所に、小刀が突き刺さっている。


「男のくせして、器が小さいわね」

「ちっ--」


 蛇男が放った小刀は、一つも果竪に当たらなかった。それどころか、小刀を回収さえされた。


「で、どうします? まだやります?」

「大きな口を叩くな、このクズ」

「クズですか。ああでも、これだけは言っておきます--逃がしませんから」


 果竪は怒り狂う『黒獅子』へと視線を向けると、再び口を開いた。


「さあ来なさい! 食べてみたらいいよっ! ねぇ、ほら!」


 蛇男は、気付いた。果竪が何をしようとしているのかを。


 しかし、止めろ!!と叫ぶには遅く、ならばと外を見まわしても自分の所の兵士は居なかった。


「ちっ! 役立たず共がっ」


 蛇男は舌打ちをしながら、配下の者達に玉環を連れて外に出る様に言った。その行動は素速く、それ程時間はかかっていなかった筈だ。


 この村から別の場所に行くには、二つの道がある。一つは、先が土砂で崩れている。もう一つは、土砂は無いが、来た道を戻る道である。


 今は仕方が無いから、来た道を戻る道に進むしか無い。


 しかし、その道は。


「き、貴様……」

「勝手にぶつかったのは、『黒獅子』ですよ。私は、必死に『黒獅子』から逃げだそうとしていただけですから」


 来た道が土砂で覆われていた。

 そして、その土砂の発生源には、『黒獅子』の下半身が土に埋まった状態となっていた。息絶えているのか、気絶しているのか。


「これで逃げ場は無いですね。ああ、私を突き落とした森に行ってみます? そこから抜け道は無いですけどね」

「こ、この、女……」

「って事で、そこで大神しくしていてくれますか? ああ、村に戻っても良いですよ。戻れるものなら」


 唯一安全だったあの建物から出てしまった今、もう戻れる場所が無い事は蛇男にも分かっていた。なぜなら、魔獣達には、村を破壊しろと命令しているからだ。

 あの建物以外の、全てを。

 村神達も全て食えと。


「ああ、でも玉環だけは返して貰います」

「黙れ--ふざけるな、このクズがっ」


 蛇男は、玉環の身体を抱えると、そのまま村の中央へと向かって走り出した。


「往生際が悪い」


 そう言うと、果竪は蛇男を追いかける。途中、後ろを振り返ったが、そこでは残された兵士達がその土砂崩れを何とかしようとしている姿が見えた。


 確かに、土砂崩れは起きてはいるが、絶対に通れないわけでは無い。ただ、今の雨では、二回目、三回目の土砂崩れが起きるのは必死だ。しかし、雨が上がるまで時間を稼ぎ、注意して渡れば、何とかならないでもなかった。


「その前に、さっさと玉環さんを取り返さないと」


 果竪は時間稼ぎを行おうとする蛇男を追いかけた。




 因みに、果竪は村神達が襲われている事は分かっていた。本来の果竪であれば、玉環を助けるべきか、それとも先に村神達を助けるべきかで迷った筈だ。

 しかし、村神達が襲われている事に気付いた時、果竪は村に近づく二つの気配に気付いていた。


 この、忘れたくても忘れられない、気付かないふりをしたくても出来ない、気配。

 果竪はそれをよく知っていたし、ついさっき会ったばかりだ。


 まさか追いかけてきた?


 いや、追いかけて来なかったとしても、村に情報を集めに来たのかもしれない。

 だが、今は不幸中の幸いである。


 彼等が来たならば、きっと村に現れた魔獣達に対処してくれるだろう。

 だから、果竪は玉環の方にかかりっきりになれたのである。


 さて、あの蛇男はどうするのか。



 被害者を装うのか、それとも--。

 いや、確実に被害者を装うだろう。


 だからその前に、玉環を連れ戻さないと。



 気配は、村の入り口付近で立ち止まっている。そこに、魔獣も居るだろう。



 蛇男がそこに辿り着くまでが、タイムリミットである。




 果竪は平凡で無能で、役立たずと呼ばれている。

 しかし、守るべきものがある時の果竪は、誰よりも強い。


 それに気づけるかで全てが決まる事を知る者達は、極僅かの限られた者達だった。


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