第5話後編:港町の和装と、波止場の鯛めし
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今回は新調した和装、波止場での絶品「鯛めし」……そして宿で明かされる「純金マリア観音」の衝撃!
ほのぼの日常と命がけの緊迫感が交錯する二人を、ぜひお楽しみください!
1. 藍染めの旅装束と、波止場の出会い
朝市で手に入れた当座の資金を手に、二人はまず波風と激流に揉まれてボロボロになってしまった互いの衣服を仕立て直すことにした。
御所浦の港に面した古い呉服商の店先には、潮風に強い素朴な藍染めの着物や、旅用の麻布の羽織がずらりと並んでいる。
「いらっしゃい……おや、お前さんたち、服がすっかり傷んでボロボロじゃないか。どこから流れてきたんだい?」
気さくな店主の女将さんが心配そうに声をかけてくれる。先ほど商談で手に入れた銀貨を渡し、二人のサイズに合わせた旅装束を一式買い求めた。
宿の裏手でさっそく着替えを済ませ、現代の南蛮服からしっくりと馴染む和装姿へと変わった二人。四郎が自分の袖をパタパタさせながら、少し照れくさそうに振り返る。
「……どうかな、アーシュアン。変じゃない……?」
「いや、すごく似合ってるよ。……まるで、どこかの旅の若様みたいだ」
質素な和装に身を包んだ四郎が、おずおずと裾を整えるその初々しい姿に、アーシュアンは胸がじんわりと温かくなるのを覚えた。
男装して過酷な運命を背負う少女であっても、ふとした瞬間に見せるこういう無防備なところは、やはり年相応に愛おしい。心の中でそっと微笑みながら、アーシュアンは次の連絡船の出立まで少し時間が空いたことに気づいた。
「少し暇だな。波止場でも覗いてみるか」
「うんっ!」
ふたりで足早に向かったのは、入り組んだリアス式海岸が美しい島の波止場だった。
防波堤に腰を下ろして潮風を受けていると、近くで網の手入れをしていた島の漁師の老人が、からからと気さくに声をかけてきた。
「おや、若いお兄さんたち、暇を持て余してるならこれでも使な。そこの仕掛けを下ろせば、身が締まった立派な赤い鯛が釣れるかもしれねぇよ」
手渡された竹の釣り竿を使い、見様見まねで糸を垂らすと、夕陽が傾きかけた穏やかな海面で、アーシュアンの脳内にシステムの微弱な反応がピピッとお知らせを告げた。
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『ぴこん! 水面下15mに魚影反応。――なかなかの大物の気配です』
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「おっ、なんか引いてるぞ!」
「あ、わわっ、すごい重いよっ、アーシュアン!」
ふたりで力を合わせて竿を引き上げると、海面からふわりと跳ね上がったのは、夕陽を浴びて黄金色と鮮やかな紅色にきらめく、見事な天然の鯛だった。
「わぁっ、釣れた――っ……! すごい、大きな鯛だよ、アーシュアン!」
2. 絶品の鯛めしと、思いがけないハプニング
島のおばあちゃんの手を借りて調理してもらい、塩とわずかな出汁で炊き上げられた「鯛めし」は、現代のどんな美食にも勝る素朴で力強い絶品の郷土の味だった。
「いただきまーす!」
四郎がホクホクの鯛の身が乗ったご飯を上品に一口ほおばり、「んんっ……! おいしいっ……! お魚の甘みがすごいよ、アーシュアン!」と幸せそうに目を輝かせる。
隣で「よーし、こっちも!」と気合を入れたアーシュアンは、あまりの美味しそうな見た目に耐えきれず、箸で鯛の身をごっそりすくい上げると、そのまま大きなお口でガツンと頬張った。
――次の瞬間。
「ぐぇっ……!? げほっ、ごほっ……!!」
勢いよく食べたせいで、ほぐしきれていなかった鯛の鋭い小骨が、アーシュアンの喉の奥深くにグサリと引っかかった。
顔を真っ赤にし、両手で自分の喉を抑えて波止場の上でタジタジと悶絶するアーシュアン。
「ちょっ、アーシュアン!? 大丈夫……っ!?」
最初は驚いていた四郎だったが、苦悶の表情で必死にもがくアーシュアンのあまりのコミカルな姿に、ついに耐え切れなくなった。
『あはははっ! もう、アーシュアン、どんだけ慌てん坊なのっ! あはは、苦しそう、ぷっ、あはははっ!』
普段の神童としての威厳はどこへやら、四郎はお腹を抱え、波止場に崩れ落ちるようにしてキャッキャと声を上げて爆笑した。
「笑い事じゃないよ……っ! 骨が……! 喉がロックされてる……っ!」
涙を浮かべるアーシュアンと、腹の底から楽しそうに笑い転げる四郎。二人の間から、ピリッとした緊張感が心地よくほどけていくのだった。
3. 宿での密談と、純金マリア観音の顕現
夕食を終えて、宿の静かな部屋に戻った二人は、朝市で手に入れた例の品々と向き合っていた。
アーシュアンは宿から借りたたらいに温かなお湯を張り、微量の塩と木灰を混ぜ合わせた。朝市の一角で見つけた、あの黒ずんだ小像を取り出す。
「アーシュアン……さっきのは、その……」
「はは、笑いたいだけ笑うといいさ。……それより四郎、これを見てくれ」
アーシュアンが苦笑いしながらぬるま湯に浸した手ぬぐいで小像を丁寧に擦り始めると、長年こびりついていた煤と漆の層がハラハラと剥がれ落ちていった。
そして次の瞬間——!
『ピカァァァァン……ッ!!』
部屋の行灯の灯火を受け、黒ずみの奥から息をのむほど眩い純金の輝きが溢れ出した!
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『詳細鑑定完了:【純金製 潜伏マリア観音坐像】』
『評価:重量約2.3kg、純度99.2%(24K純金)。当時の小判換算で数百両規模の超高額価値を検出』
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「……っ!? き、金……!? 純金の観音様じゃとおおおっ!?」
あまりの光景に、四郎は声を失って丸い瞳を見開いた。
「これって、やっぱり……隠れキリシタンの『マリア観音』だね……」
「ああ。それも、ただの骨董品じゃない。本物の24K純金像だ。……四郎、よく聞いてくれ。この時代、キリシタンの信仰は幕府によって厳禁とされている。こんな御法度の品を持ち歩くことが、どれほど恐ろしい意味を持つか分かるかい?」
アーシュアンの真剣な声音に、四郎はごくりと喉を鳴らした。
「もしこれを役人や幕府の隠密に見つかれば、所持しているだけでも即座に死罪だ。それだけじゃない。村全体が詮議を受け、踏み絵を強要され、無関係な人々まで芋づる式に処刑される。文字通り、僕たちの首がいくつあっても足りない……いつ爆発してもおかしくない、死の御札を抱えているのと同じなんだよ」
その重く残酷な真実に、四郎は小さく肩を震わせた。キリシタン弾圧の恐ろしさを誰よりも肌で知っている少女にとって、その言葉は冷たい刃のように胸に突き刺さったはずだ。
それでも、四郎は覚覚悟を決めたように、純金の温もりを宿す小さな像を両手でしっかりと包み込んだ。
「……それでも、どうして手に入れたの?」
「リスクは巨大だが、これだけの純金なら、この天草の地で力を持つ大庄屋や有力者の懐に潜り込むための、唯一無二の切り札になる。飢えに苦しむ民に米を買い、万の兵を養う巨大な軍資金に変わるんだ。この時代を生き抜いていくには、これくらいの裏のカードを握っていなきゃならない」
言葉を終えたアーシュアンを見つめ、四郎は溢れ出る感動とともに純金像をいとおしそうに胸に抱きしめ、アーシュアンの羽織の裾を小さな手でぎゅっと握りしめた。
「怖いかい、四郎?」
「ううん……あなたが一緒なら、怖くないよ。命がけの秘密だって、あなたと一緒なら……。……これからも、ずっとそばにいてね」
そのまっすぐで温かい瞳を見つめ返し、アーシュアンは「ああ、誓って守り抜くよ」と力強くうなずいた。
4. 次なる舞台・倉岳への船出
翌朝——。
御所浦の港を離れた二人の連絡船は、天草の海を渡り、険しい山々が海へと迫る次の目的地——倉岳町(棚底の港)へと近づいていた。
海から見上げる倉岳の山容は圧倒的で、雲を戴くような険しい山肌が島の中央にそびえ立っている。
「おおい、気をつけてな! 倉岳のほうは山が高くて険しいから、麓の道も足元に気を付けるんだよ!」
船頭の威勢の良い声を背に受けながら、二人は新調した藍染めの旅装束の裾を風になびかせ、力強く船上に乗り込んだ。
甲板に並んで立ち、遠ざかっていく御所浦の美しい海岸線と、これから挑む倉岳の雄大な山々を眺めながら、二人は胸の内に秘めた「御法度の聖品」の重みと、覚悟を新たにする。
「どんな景色と出会いが待ってるか楽しみだな。行こう、四郎!」
「うんっ!」
胸に忍ばせた秘密の純金聖品と、システムという未知の力。
美味しい鯛めしと骨ギャグの温もり、そして幕府の弾圧という逃れられない歴史の影。すべてを飲み込んで、二人の乗った船は新たな舞台へと力強く漕ぎ出していくのだった——。
最後までお読みいただきありがとうございました!
鯛めしの骨で悶絶するアーシュアンと爆笑する四郎のギャップ、いかがでしたか?
「死の御札」となる純金聖品を手に、二人は次なる舞台「倉岳」へ!
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