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授業見学

 風呂を出た僕たちはいつもの様に分担して晩ごはんを作り、少し早めの晩ごはんを済ませた。それから共用のパソコンをチェックすると僕たち2人宛にエイミさんからの連絡が届いていた。


「ユウリ宛じゃなくてあたしにも?一体なんだろう」


 2人で内容を確認すると、その中身は明日以降の僕の授業に関する事が書かれていた。テストの結果は非常に優秀で、高校生レベルだと判定された。その結果を踏まえてしばらくの間通常授業は行わず、期間を置いて改めてテストを行うという事だった。


 そのテストのタイミングは、新たな検査装置を手配出来た時に合わせるという。つまり今日やった事をやりなおし、それから改めて僕の授業内容を決めるという事だった。


「それまでの期間は自習及び各種授業や訓練の見学をする事。やる気があればそこに参加しても良い、だってさ。流石ユウリだね」


「またテスト受けなきゃいけないんですね……ところで今日のテストの内容、明らかに僕の年齢に合ってなかったんですけど、そういうものなんですか?」


「いや、あたしがエイミさんに報告したからそうなったんだと思う。定期連絡でユウリの事も聞かれてたから、すっごく頭が良いって伝えて置いたの」


 まぁそうだろうとは思っていた。とは言えこの様子だと、どちらにしても追加でテストを受けさせられる事になっただろうし、余計な手間が省けたと喜んでおいた方が良い。


「それじゃあ明日、学校の案内をお願いしても良いですか?」


「え、あたしが?良いんだけど、いやでも……」


「エイミさんからの連絡にもそうやって書いてありますよ」


「うぐっ……分かった。でも口数が少なくなるのは勘弁してね」


「勿論です。別にあのテンションでも、少し説明してくれるだけで構いませんので」


 アカリさんは乗り気では無いけど、このぐらい別に構わないだろう。何故アカリさんが外でああいう態度なのか、直接聞くことはしないが少しぐらい探っておきたい。ある程度予測はしているけど、それが合っているという確信は全く無い。




 翌日僕たちは一緒に登校した。特待生はどこかの教室に集まってホームルームを行うという事も無いので、学校側に決められたスケジュール通り、授業が行われる教室に向かうだけで良い。僕はそのスケジュールすらまだ決まっていないので、どこに行くのも自由だった。


 その為人それぞれ登校してくる時間も違うし、授業が無い時間に校内をうろついている人もいたりする。でもこの朝一の時間は校内をうろついている人は僕たちだけだった。それも当然で、この時間に授業が無い人はもう少し後から登校してくるからだ。


「どこから行く?」


「端から順番にと思ったんですけど、やってる教室とやってない教室があってそうもいきませんね」


「なら午前中は座学、午後は実技系っていう風に回っていこうか」


「それでお願いします」


 そもそもどこでどんな授業が行われいるか知らない僕が予定を建てられるはずもなく、全部アカリさんに丸投げして案内してもらうことにした。


 午前中に見て回った座学に関しては、やっぱりというか魔法科学の授業は興味深かった。他の普通科目に関しては特に目新しい事もない中で、これだけは僕が全く知らない知識に溢れていた。


「午後は実技系という事ですけど、具体的にどんな内容のものがあるんですか?」


「戦闘訓練、魔法実験、魔法機器の組み立ては人が多い。他にもあるけど、見ながらのほうが分かりやすい」


 昼食を一緒に取りながら午後の事を聞くと、相変わらずぶっきらぼうな感じだった。それでも今日一緒に居て分かった事もある。


 アカリさんはどうやら生徒たちに恐れられているみたいだった。舎弟とか、目を付けられたという言葉が周囲から聞こえたので間違い無いと思う。昨日見たアカリさんの戦闘力なんかが関係してそうだなと予想しているけど、その辺りはまだ分からない。


 午後になり再び学校内を回っていく。実技系は全て魔法に関係するものなので、まだ使い方を習っていない僕にはどうやって魔法を使っているのか分からない部分が多い。


「ちなみに魔法に関する校則とかってありますか?」


「人に危害を加えなければ特に制限は無い。でも制御できないうちは、魔法訓練室で先生に見てもらいながらやるのが普通」


 それなら明日から空いた時間は訓練室に行ってみようかなと考えていると、いつの間にやら最後の場所にやってきていたらしい。学校の校舎とは明らかに造りが違う、とても頑丈そうな建物だ。ここは戦闘訓練棟というらしく、つまりアカリさんがメインで授業を受けている場所だ。


 無表情だったアカリさんは、途端に厳しい表情になると厳重な扉を開いた。中は格闘技のリングと観客席を思わせる様な構造になっていて、恐らく中心には結界の様な見えない壁が存在している。恐らくというのは別にアカリさんから説明を受けた訳ではなくて、僕自身がそう感じ取った事による予測だからだ。


「……今日は休みじゃなかったのか?」


「今日はこの子の見学。私は参加しない」


「噂になってた奴か。どういうつもりだ?」


「別に。学校側の指示」


 中に居たやたらガタイの良い男性がこちらに気付き話しかけてくるが、すごく険悪な雰囲気だった。2人の間に何かあったのか、それともアカリさんに何かあるのか、この場にいる全員を見る限り後者の様だ。結界内で戦っていた人たちまでアカリさんを睨んでいる。


「お前、名前は?」


「僕は……」


「普通自分から名乗らない?」


「……ちっ。俺はハルトだ」


「僕はユウリです。突然の訪問ですみません。今日は見学させて貰おうと思って来ました」


 礼儀正しい挨拶をすると、ハルトと名乗った男は少し面食らっていた。でもすぐに僕から目を逸らしてアカリさんを睨みつけている。対するアカリさんは誰とも目を合わせようとせず、ただリングの中心を見続けてる。


「いつまでサボってるの。普段通り訓練してくれないと見学の意味が無いんだけど」


「……お前ら!ぼさっとしてんな!」


 ハルトが一喝すると全員がそそくさと動き始めたのを見るに、ハルトはこの中ではボス格らしい。ただそれ以上にアカリさんの存在が謎過ぎて気になってしまうけど、今は訓練の見学に集中する。


 見たところ特別な武術等を使っているという風には見えない。それでも魔法によって身体能力を強化しているのか、動きは人間のものとは思えないし、なんなら宙に浮かびながら戦ったりしている人もいる。魔法の規模を見る限り、結構レベルは高い方だと思えた。


 その戦い方にも個性があって、接近戦一辺倒の人もいれば魔法で炎を出したりする人、ただひたすら防壁で耐え続けながら隙を伺う人など様々だった。その様子をただじっと見ていた僕の横にハルトがやってくる。


「ユウリ、参考になるか?」


「僕はまだ魔法を使えないので何とも言えません」


「正直な感想を言え」


「……あまり強くなさそうです」


 勿論今の僕と比べればこの人達の方が強いだろう。ただその程度と比べられるという時点で大したことは無いし、僕が魔法の使い方を覚えたらすぐに追い抜いてしまいそうだ。


「大した度胸だ。あの女と一緒にいるだけの事はある」


「アカリさんは優しいですよ。もしかして皆さん、ビビってるんですか?」


「口の利き方に気をつけろ。まぁいずれ知る事になる。あいつと一緒にいるつもりなら気を付けろ」


 それだけ言うとハルトはどこかに行ってしまった。僕も別に何か聞きたいことがあった訳では無いので引き止めたりはせず、しばらくリングの中の戦いを見てから訓練場を後にした。


 そのまま放課後という事になり、アカリさんと一緒に寮に帰る。学校を出るまではずっと無口だったアカリさんだけど、寮に戻ってからはいつもの調子に戻っていた。


「今日一日見て回ってどうだった?面白そうな所とかあった?」


「とりあえず早く魔法を使えるようになりたいので、明日はそっち系の座学と訓練室に行こうと思ってます」


「そりゃそうか。魔法の才能があるから特待生になったのに、今のままじゃお預けだもんね」


 今日は僕が1人で晩ごはんを作っている。今後の料理当番は交代制でやっていこうという話になっただけで、特に深い理由は無い。その間アカリさんはソファーでくつろぎながらテレビを眺め、料理が出来るのを待っていた。


「……他に何か気になった事とか、質問とかは無い?」


「ありがとうございます。でも今は特に無いですね。むしろ僕が聞いてあげられる事とかありますか?」


「はは、ユウリには敵わないな。ごめん、今のはずるかった。でもご飯前は辞めておこう。後で聞いてもらえる?」


「勿論です。それじゃあすぐに食べてしまいましょう」


 多分アカリさんは自分の話をするかどうか迷っている。でも僕としては言いたくないことをわざわざ言ってもらう必要も無いし、アカリさんが学校でどういう扱いを受けていようと気にしない。僕にとってのアカリさんは優しいお姉さんであって、怖い人でも何でも無い。


「うーん!ユウリが作る料理はやっぱり美味しい!あたしも教えてもらった時は上手く出来るんだけど、後でもう一回作ってみると何か違うんだよね」


「その辺りは慣れですよ。タイマーできっちり測っても、食材によってベストのタイミングは微妙に違うので」


 同じ種類の野菜を使っても鮮度や水分量によってどの程度火に掛けるかをちょっとずつ変える。そういう所が料理を作る時の個性なのだと僕は思っている。そんな説明を聞きながらニコニコと笑っているアカリさんは、やっぱり学校であんな目を向けられる様な人には見えない。


 ご飯を食べ終わった後は、いつも通り一緒にお風呂に入る。もはや定番になっていて、今日は別々に入ろうとか言われたら困惑してしまう気がする。ただ流石に、今日ばかりはセクハラ染みたボディタッチは無かった。


「あたしね……ハルト達の親を殺しかけたの」


「……親の仇みたいな目で睨んでるなって思ってたけど、本当にそれに近い理由だったんですね」


「3年前、アイの就職が決まったっていうニュースがあってからすぐの事だったんだけどね。本当に凄いことだからって、学校でアイの魔法開発の成果を発表する場を設けられたの。学校の出資者とか国のお偉いさんとか、生徒の保護者も招待されて多くの人が集まってた。でもそこにアイを狙った犯罪組織が襲撃してきて……」


 アカリさんはその時既に戦闘能力を買われ、学生で唯一要人の護衛に付いていたらしい。もちろんアカリさん以外にも国から要人に対する護衛や警察等が多く集まっていたけど、犯罪組織が一枚上手だった。一般には知られていない様な魔法を使われ、警察達では手が終えなくなっていった。


「学校はあっという間に犯罪組織に制圧されていった。あたしを含めた数人の護衛は、国のお偉方とアイを守るために一箇所に集まって防衛する事になった」


 犯罪組織の要求はアイさん1人だった。その為に他の無関係な人たちを人質に取り、アイさんの身柄を要求するというのは想像に難くない。でも国の要人を含めた上の者達は、それを良しとしなかった。


「そこであたしに1つの指示が下された。その指示は単純なもので、犯罪組織の殲滅。もしくは最低でも時間稼ぎ」


「それってつまり……」


 捨て駒にされたという事だった。交渉しようとしてきた相手に対して暴力で応えるのだから、アカリさんも人質も当然命の保証なんて無い。そして時間稼ぎと言うだけあって、その間に要人たちが逃げるなり増援が来る算段があったという事だ。


「でも殺しかけたって事は、誰も死んでないんですよね?」


「確かに死んではいないよ。でも死なずに済んだっていうだけで、大怪我をした人もいたし精神的なショックとかもあっただろうからね」


 それでアカリさんは、多くの人を危険な目に合わせた人物として学校内で恨まれている。真相を知らない人は手柄に目が眩んだとか、蛮勇で無関係な人を巻き込んだという風にアカリさんを見ているのだ。


 なまじ実力者なだけにその噂は疑われず、直接文句を言いに来る程度胸がある人物もいない。それでアカリさんは学校で避けられていたという事らしい。

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