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1-26.愛故

 「な、なんで、ミクズは襲ってくるの?今まで、協力してくれてたのに」

 

 『そうですわね。…主様は、私の最愛の方です。生きていた時にも、ここまで愛している殿方はいなかったと、断言出来ます』

 暗闇の中、妖しく光る赤い鳥居の上に腰掛けながら、ミクズが恍惚とした表情でアカードを見つめる。


 「あ、ありがとう…」

 ド直球で過激な愛情表現にアカードは慣れてきたといえ、照れてしまう。

 

 「って、そうじゃなくて…なら尚のこと、なんでこんな状況になってるの?戦う必要なんてないじゃん!」


 『ええ、ええ。戦う必要なんてありませんわ。主様が私と一緒にいる、それだけを望んでくだされば!』


 「…うん?一緒にいて楽しいし、頼りにしているよ?それこそ、これからも一緒にいたいと思っているよ?」


 『それは分かっていますわ!ただ…それだけでは足りないのです。何も考えず、何も行動せず、何も決めず、ただ私にされるがままに生きてほしいのです』


 「…えええ、それは流石に…」


 『ほら、抵抗されますよね?変わらないものなんて御座いません。仮にあるとするならば、変わるという事実だけです。主様の共に居たいというお気持ちも、いつかは変わってしまいますわ』


 「そんなことは…」

 

 『正に、教えてくれたではありませんか。彼らの抱いた強烈な憎悪ですら、時の流れには勝てなかったとろいつか主様が私から離れるかもしれない…そんな可能性、微塵も許す訳にはいきませんわ』

 

 「…」

 (どうしよう、何て答えれば良いか、本当に分からないいいい。カーディさん頑張ってよ!!!)


 『だから、食べることも、排泄も、身体のお手入れも、全てを私が出来るようにしようと、私がいなければ何も出来ないようにと、初めてコン石から顕現できた時、主様にそのような術を掛けましたの』


 「えぇぇ…掛かってるの!?僕」


 『いえ、残念で仕方がないのですが、主様はそれを弾いてしまいました。驚きましたわ、本当に。だからといって、諦めることはできません、絶対に。…だから、やり方を変えてみましたの』

 ミクズが嬉しそうに赤い鳥居の上から飛び降りてくる。

 

 『…運が良いことに、主様は次々に過酷な試練に巻き込まれる星の生まれでした。なので、主様の心が折れるの待つことにしたのです。時に負荷を掛けて、それが極まった時に甘い言葉を流し込んで、主様が私の胸に飛び込んで、目を、耳を、閉じて、何も考えられなくなる機会を待っていましたの』

 

 「ちょ、ちょっと待って!そのために、僕の身体を操っていたの!?死ぬかと思ったよ!」

  カーディとの訓練でボロ雑巾のようになっていた日々がフラッシュバックする。

 

 『ええ、でも主様ったらいじめられるのが好きだったのか…普通なら死んでもおかしくない負荷を掛けても笑っているんですもの。正直、ビビりましたわ』


 「いやいやいやいや!!逃げられるなら逃げたかったよ!!」


 『いえ、それはウソですわ。心が折れたと思うタイミングで流し込んだ甘言は悉く、拒否したではありませんか』


 「…」

 (だって、破滅しそうな気がしたんだもん)


 『今回も、わざわざ寝かしつけて、”駆け付けても間に合わない”という言い訳までご用意したのに、振り返らず、出ていこうとしたではありませんか』

 ミクズから笑顔が消え、右手の赤い刀からの圧力が上がっていく。


 「…ッ」


 『もう、手足を切り落として、心を砕いて、私のモノにするしかないじゃないですか?』

 ミクズがゆっくりとアカードに向かって歩き出す。 


 「そ、そんなこと…!」

 のどに詰まった言葉を吐き出した途端、ミクズから風の刃が放たれ、アカードの傍をかすめていく。


 『最早、私達の間に言葉はいりませんわ。覚悟を決めてください…縁を結ぶは狐の業、深く絡めて魅せましょう。深葛(ミクズ)、推して参ります』

 アカードも、説得は無理だと悟る。

 だが、ミクズの要望には答えられない。


 「…アカード、推して参るよ」

 だから、刀を握るしか無かった。

 

 『…あああ!あああ!、それでこそ、主様ですわ。愛していますわ』

 ミクズの尻尾が広がり、無数の風の刃が飛来する。

 アカードは自分でも信じらない速度と反射神経でそれを搔い潜っていく。


 『まずは腕からいきましょうか』

 風の刃をかわし切ったアカードに、ミクズが瞬時に間合いを詰め、刀を振り下ろした。


 「はやッ!!」

 カーディの倍の速度はあろうかというミクズの切り込みにアカードは悲鳴を上げながら、刀を合わせる。

 

 「ぐッ!!!」

 ミクズは右腕一本で振るっていたはずなのに、両手で受けたアカードが吹き飛ばされる。

 だが、刀は落とさない。

 受け身を取って、ミクズに向き直る。


 『良いですわ!まだまだいきますわよ!』

 

 「…冗談でしょう…」

 ミクズの周囲に大量の狐火が出現する。ミクズが微笑むと同時に、無数の火の矢がアカードを襲う。

 刀で弾き、飛び退き、転がり、息をつく暇もなく、アカードはかわし続ける。

 

 「痛ったあああ」

 絶え間ない火の矢に加え、ミクズが放った風の刃によって、右腕を切り裂かれ、アカードは受け身を取り損なう。


 『あら?まだ繋がっていますの?ですが…』

 アカードの前に瞬時に移動したミクズが、アカードの右腕を切断した。


 「あああああああああああ!!」

 一気に重さが無くなった気持ち悪い感覚と共に、焼けるような痛みがアカードの脳を焼く。


 『まずは一本。次は脚…、いえ、左腕にしましょう』

 ミクズが再び刀を振るうも、アカードは転がって避ける。


 「はあ、はあ、く…そ!」

 頭の中がぐちゃぐちゃになっている。視線の先には刀を握った自分の右腕が落ちている。


 『あら?元気ですわね。はい』

 ミクズの風の刃がアカードの左腕も切断する。


 「いったああああああああああああああああ」

 バランスを失い、その場でアカードは転げまわる。


 『主様、早く楽になってください。諦めて、私のモノになってくださいまし』

 ミクズはそう懇願しながら、アカードの右脚に刀を刺す。


 「あああ、ど、どうして!?」

 

 『何度も言わせないでください。…愛しているのです』

 右脚が切り落とされた。


 「ああああああ!!」

 

 『…大丈夫ですわ。この空間では死ぬことはありませんから。だから、存分に壊れてください』

 最後の左脚も斬り飛ばされる。


 「あ…あ…し…が…」

 

 『ふふふふ、初めてみる表情ですわ…もっと見ていたいですが、おかわりといきましょうか…』

 ミクズが赤く光ると、切り落とされたアカードの四肢が再生していく。

 再び生えてきた自分の右腕を呆然と見ていると、ミクズが笑顔で、右腕がぶら下がった刀を渡してきた。


 「な、なに…こ…れ」


 『言ったではないですか、腕ぐらいなら生やして見せると、脚はオマケです。…さて、立ってください』

 ミクズが抱えるように、アカードは立たせる。


 『いつまで持ちますか』

 再び、ミクズから大量の狐火が放たれる。


 「あ…あ…」

 次の瞬間、アカードはかわし切れずに燃やし尽くされていた。


===

 『やっぱり四肢がないと抱きしめやすいですわね』


 「……」 

 最早、何回死んだのだろうか。ミクズに抱きしめられながら、山となっている切り落とされた自身の四肢を見つめる。

 凄まじい痛みに脳がどんなに悲鳴を上げようとも、どうやら、この空間は気絶することも許してくれないようだった。


 『はああああ…このまま食べてしまいたいですわ』

 アカードの顔について血を舐め取り、ミクズは笑いながら、牙を剥く。


 『…どうですか、主様、こんなこともう辞めましょう。私のモノになるっと言ってくれさえすれば、終わりにしますわ。もう痛いことなんてしませんわ。今後、主様に降りかかる災難、苦難、全て払って差し上げますわ。ただ、ただ、私と一緒にいればそれでいいのです』

 再びアカードの四肢が再生していく。


 『だから…受け入れて、抱きしめてくださいませ』

 

 「……」

 焼ききれた脳にミクズの甘言が流れ込んでくる。

 

 (ここから抜け出せるなら…この痛みが終わるならば…)

 アカードの腕がゆっくりと上がり始める。


 (こんな辛い思いをする必要なんてないじゃん…悪くないよ、全部やってくれるならば…むしろ幸せじゃん…こんなにも暖かいなら…)

 

 「…み、ミク…ズ…」


 『はい、主様』

 よりキツク、ミクズが抱き締める。

 

 (…でも)

 

 「……ぱり、…それ…は、男とし…て…ダ、メなん…だ」

 ゆっくりミクズを押し退き始める。


 『!!?な、なぜ?!!』

 思い返せば、自身の成長は異常であった。技術的な躍進はまだ分かる。だが、それに伴った身体的な急激な変化はとても”成長期”では説明できない。

 

 「ご飯…、とても、美味しかった…よ」


 『…気付いておりましたか』


 「あれだけ、美味し、ければ、ね」

 急激な成長が始まったのは、ミクズがアカードの食事を用意し始めてからだ。あの異様に美味しい食事に、どういう仕組みか分からないが、アカードを急激に成長させる何かを仕組んでいたと考えれば合点がいく。


 『ですが、それがなんだと言うのです?私を拒否することにどう繋がるというのです?ただ、主様が強くなるお手伝いをさせて頂いただけではありませんか??』


 「…は、はは…やっぱり…ミクズは凄く、怖がりなんだね…」


 『な、なに…を?』

 ミクズがアカードをいつも以上に強く抱きしめた時は、いつだったか。

 追い詰められた時、ここぞというタイミングでミクズは、アカードに甘言を流し込んでいた。だが、それを断った時こそ、ミクズはアカード愛しく思い、強く強く、抱きしめていた。

 

 「…僕も、ミクズと、一緒に居たいよ?」

 ミクズから腕一本分離れたアカードが、ミクズの目を見る。


 『…な、なぜ、まだそんな、意思が…!』

 

 「だけど、それは、ミクズのモノとしてではなく、一人の男として、人間、として、隣に、いたい」

 

 『……ッ』

 それこそがミクズの本当の願い。だからこそ、アカードを強くしようと全力を尽くしていた。だが、誰かが誰かである限り、意思を持つ限り、いつかは別れが来るかもしれない。嫌われるかもしれない。

 それが堪らなく、怖かったのだ。


 「だから、一緒にいるた、めにも、ミクズ。君を誘いは受けるわけにはいかない」

 

 『…そ、そんな、ず、ずるいですわ!!!そんな、そんな、言い回し、私は、どうすれば…!!』

 孤独の辛さを、一人で食べる食事の不味さを、味わっていたアカードは、ミクズと繋がった時から、ミクズが孤独に恐怖していることが、良く分かっていた。


 『は、はじめから、ですの…?初めから、分かっていたのですか?』

  死体集めという無理難題を、初めて出会ったにもかかわらず、アカードが受けてくれた事実を思い出す。


 「なんと、なく、ね」

 

 『………生きてきた時間も含め、ここまで恥ずかしいと思ったことはありませんわ』


 「…僕も、裸を見られた時は、恥ずかしかったよ」


 『そんなの比ではありませんわ!!なんなら、今すぐ私の裸を見せても良いぐらいですわ!!』


 「ははは、今、見せられても、ね」

 アカードの返り血で真っ赤に染まっているミクズを見て、笑う。


 『…どうすれば、良いのですか…私は』

 気付けば、ミクズの刀は露散している。


 「…一緒に居てくれれば、良いんじゃないかな?今まで通り、冒険して、ご飯を一緒に食べて、朝を迎えて、それで、良いんじゃないかな?」


 『で、ですが、いつか主様が私のことを嫌いになったら?』


 「ミクズが僕のことを嫌いになるかもし」

 

 『断じてそれはありません。命を賭けて誓えます』

 食い気味でミクズが応える。


 「なら、僕も命を賭けるよ。あ、でも、喧嘩はするだろうし、ミクズの言うことを聞かないこともあるだろうけど…一人ぼっちにしたら、僕の命を奪っていいよ」


 『…主様、意外とタラシなのですね。…約束ですよ』


 「…うん。でも奪うときは、ひと思いにやってね」

 アカードはなんとか今話せているが、顔の筋肉のピクつきが止まらないでいた。


 『ええ、その時は躊躇いなく』

  その一言と共に、周囲の黒い世界が崩れていった。

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