第26話 神と誠
神界に『エニィウェアゲート』が開かれ神様は何事かとお茶の入ったの湯のみをコタツテーブルへと置く。
「まさかお前さんがここに来るとはのう……」
「いつかは神様に顔を見せようと思っていましたので」
驚いた神様に誠はどうやら挨拶に来ていたようだ。神様は相変わらずマイペースな感じでお茶をズズズと音を立てながら飲んでいた。
「どうじゃ、お前さんも」
「すみません、ありがとうございます」
神様はテーブルに置いていた急須に入っているお茶に誠の分の湯飲みに入れる。
「いただきます」
誠は湯飲みを手に取りお茶を飲み干す。そのお茶の味は日本にいた頃と同じ味で恐らく日本でも高級茶であることは間違いないだろう。誠はこのお茶を一気に飲んでは失礼だと感じたからなのか畳に置いてあった座布団に正座をする。
「そんなに固くならんでもいいのじゃけどな……」
「いえいえ、僕がそうしたいだけですので。それに僕のおじいちゃんの家ではこうやってお茶を飲んでいましたので」
誠は祖父の家でお茶を飲むときは大抵正座していた。祖父からは茶道を叩きこまれているためその習慣が抜け切れていないのだろう。誠の祖父は茶道、剣道、柔道、空手、合気道に古武術等かなり長けている存在らしいのだ。
「そうじゃったな、お前さんをあの世界で転生させた後お前さんの過去の経歴をゆっくりと調べていたのじゃがお前さんの血族はかなりのエリートのようじゃな。父親は芸能プロダクションの社長で母親はマンガ家と両親の方もかなり成功しているみたいじゃがお前さんはごく普通の一般……いやっ、高校卒業した後の進路を考えても社長になれるほどの器量はあるみたいじゃな」
誠の父親は芸能プロダクションの社長であり草凪財団の創設者でもある。草凪プロダクションは数々の芸能分野に貢献をしており、今の芸能界があるのも草凪プロダクションがあってこそと言ってもいいだろう。誠は父親の企画資料等を時々見せてもらったりしているのだがその中には”アイドルファイト!スチューデントアイドル育成計画”なるものがある。父親から聞いた話によれば高校生を対象としたアイドルの大会でありプロアマ問わず出場できるようでその中から次世代の芸能界に必要な逸材を見つけるためのプロジェクトだとのことだ。
アイドルファイトなる大会は日本では一年後に開催される予定であり、スチューデントアイドルの応募者を募集中だとのことだ。この大会自体は恐らくではあるのだが数年後には全国から沢山のスチューデントアイドルが輩出されることは間違いなしと誠もそのプロジェクトに参加する予定だったみたいだ。
「それで誠よ、お前さんに実は話さないといけないことがあるんじゃ……それはの、実はお前さんの総合的な能力を底上げしたと同時に神として転生させたみたいなのじゃ……」
神様は誠に土下座しながらそのことを暴露した。いきなりのことで誠の頭の中ははてなマークが浮かび上がり状況を飲み込めずにいた。
「神様、一体何を言っているのか理解できないのですが……」
「お前さんもわしと同じで神になったということなのじゃよ」
誠が今まで難なくことが運べていたのは全て神の眷属になったという事実があってこそだ。その事実をすんなりと受け入れた誠を見て神様は「その達観とした姿勢、まさしく神そのものじゃな」と頷く。
「神様に聞きたいことがあって来たんですけどいいですか?」
「何を聞きたいのかな?まさか普通の人間に戻す方法とかじゃ……?」
「いいえ、最近魔人族の動きが活発になり魔王が復活したとかなんとかって噂が多くてですね。それを聞きたいと思ってきたんです」
誠は魔人族を仕切っているボスについて一体何者なのかを尋ねたかったみたいで神様は珍しくも眉間に皺ができ顔はかなり引き攣っていた。
「その魔王のことなんじゃが……実はわしが昔手違いで転移させた日本人なのじゃよ……鈴木徹彦と言って今は魔王ベルと名を変えている」
なんと先代のワトソン王国国王が自分の命と引き換えに封印した魔王というのが手違いで異世界に転移させられた日本人であるという衝撃的な事実を神様の口から明かされることになるなんて誰が想像しただろうか。というよりも神様が手違いで何度も同じ失敗していることに誠自身唖然としていた。
「その鈴木徹彦という男は何故魔王を自称するようになったのですか?」
誠は興味本位で神様に尋ねる。
「彼が魔王を自称したのはわしに復讐するためじゃろう。わしも後から彼をこの神界に呼び戻そうとも思ったのじゃが神界の掟でわしは色んな世界を管理している身としては彼一人の為に神の権力を振るうことができなかったのじゃ。そのせいで彼はあの世界で心は邪悪なる力に蝕まれ人としてではなく魔人族として生きていく方法を選んだのじゃよ。もっと早くにわしが神界に呼び戻し日本に連れ返せばこんなことにはならなんだのじゃ。ところでお前さん、あのジョセフという男と出会ったみたいじゃがどうじゃったかの?」
神様は鈴木徹彦の話を延々と語っていたかと思いきや、さっきまで険しかった表情は穏やかになり急に話題を変え始めた。
「ジョセフですか?僕が見た印象、彼は仲間の為ならば自分の命すら犠牲にしても構わないと思う人物でした。それに彼と一騎打ちをしてみたんですがどうやら僕が本気を出していなかったことにも瞬時気付いていたみたいで正直僕以上に人間を辞めたのでは?と思える部分もありました。魔力のコントロールが上手だったりと」
「正直なところわしにもジョセフが『パープルサンダー』という光属性と闇属性の複合魔法を使用しても死なないのかは謎に思っているところじゃ」
「それは回復魔法で治癒しているからじゃないのですか?」
「いや、それだけでジョセフがあそこまで動けるのはおかしいのじゃよ。ジョセフは魔法を使う以前からあの世界で瀕死の重傷を負ったりしていたみたいじゃがわしも疑問に思ってお前さんのように神の眷属にしてしまったのか確認したのじゃが奴は言語能力だけあの世界で適応できるだけの能力を授けただけでそれ以外はお前さんが以前いた日本にいた時となんら変わらないのじゃよ。まあジョセフはあの世界で魔力解放をしてもらったりと強くはなっているのじゃが元々魔法が使えない身でありながらあそこまで頻繁に使用して無事でいられること自体が謎なのじゃよ……」
神様を頭を捻らせながらも何故異世界で無事に生きていられるのか分からずにいたみたいだ。
「神様の話を聞く限りやっぱりジョセフってすごいんですね」
「そうなんじゃよ、他の神達にもジョセフの話をしたら人間の身でありながらあの適応力といい人間離れした行動には驚かされているよ。そこで予言の神から一つ、ジョセフに警告してはくれぬかな?」
「《《警告》》とは?」
「ジョセフに『パープルサンダー』はもう使うなと伝えてくれるかの?簡単に言うならあれをこれ以上酷使すれば確実に死ぬということじゃ。ただ死ぬのであれば転生も可能なのじゃがあの複合魔法は他の複合魔法よりも殺人的な消耗を繰り返し仕舞には根源そのものも消滅してしまうため転生させることは不可能になるのじゃ……」
神様は誠に伝言を残し、誠は「分かりました。神様からの伝言はちゃんとジョセフに伝えます」と言い『エニィウェアゲート』を開き異世界へと戻る。




