第25話 清掃
ランクによってはクエストを受けられる内容もかなり違う。赤は日本でいうところの清掃業に配達、ゴブリンやリザードマン等の低レベルの魔物の討伐を主にしており、黄色からは討伐クエストを本格的に受けられる。緑から銅までは割愛するとして本来ドラゴン討伐ができるのは銀からだと言われている。金、白金などは国家に多大な影響を及ぼす魔物を討伐できるのだ。
ジョセフ達の冒険者ランクは赤であるのだが誠の特例により銀レベルのクエストを受けられるようにしてくれたみたいだ。そのおかげでギルドに出向くと同業者からはドラゴンを討伐したことが一気に広まっており女性冒険者からは「勇者様」呼ばわりされる始末だ。当然男性陣からは顔も知らない相手から妬まれたりとジョセフにとっては最悪な状況に発展してしまったと思っているみたいだ。
世界を救う気などジョセフは微塵もなかったというのに「救世主様がお通りだぞ!」「勇者様~!」だったりとハーレム生活が悪い意味で充実しまっていたのだ。
ジョセフの周囲には黄色い声援と豊満な胸を持つ美女達がジョセフの隣にいようとジョセフの腕に胸を押し付け色仕掛けしようとしたり面倒くさく感じていた。男性陣からしたら「俺達に格差を見せつけている」と不満を募らせていたからなのかジョセフは男性冒険者達から殺意を向けられていた。
中には「ジョセフ、覚悟!」と酔っぱらいに絡まれたりしたため『エレクトリックショック』を拳に一点集中し暫く体を麻痺させ動けなくしたりと魔力を無駄に消耗している。
他の酔っぱらいは『エレクトリックショック』で麻痺した酔っ払い冒険者を見たからなのか一気に酔いが覚め床に倒れ、顔面は蒼白になり泡を吹いていた。
冒険者ギルドでは酔っ払いが羽目を外してなんてことはよくあることなのだが魔法で制裁を受けるものは多くはない。
ジョセフは暫く無理をせずにこなせるクエストからと思い簡単な街の清掃でもと思い張り紙をベリっと剥がしそれを受付のお姉さんに渡していた。
「街の清掃をしたいのですがいいですか?」
ジョセフは受付のお姉さんに尋ねる。
「清掃ですか?ジョセフさんのランクを考えたら魔人族の討伐とかどうかなと思いましたが……街の清掃でいいんですか?」
「街の清掃をやりたがる冒険者もいないでしょうしやった方がいいと思って」
受付のお姉さんは(あなたほどの腕前なら赤のプレート向きのクエストよりもっと上位のクエストをこなした方が功績をあげられると思うのに……)と内心思っているようだ。
「分かりました。それではどのような清掃をすればいいのか用紙がありますのでそれを確認してからクエストを行ってください」
受付のお姉さんはクエスト内容の書かれた用紙、日本でいうところの指示書みたいなものをジョセフにニコニコと笑みを浮かべ渡す。営業スマイルって奴だろうけどジョセフは一言「ありがとう……」と言葉を残しギルドを出る。
今回のクエストは街の清掃ということなのだが今のジョセフの容体を考えればまともに戦闘できそうにない。それはジョセフ自身一番分かっていた。
『パープルサンダー』を無理に二度も使用した反動からなのか手の震えが止まらず倦怠感すらある。マリーに回復してもらったっていうのに何故だか自分の身体じゃないみたいな気がする。
日本で喧嘩に明け暮れていた時だってこんなことはなかったっていうのに異世界に来てからというもの何度も死にかけるような戦いをしているからなのか戦闘力が以前よりも漲っているような感じすらするのだ。某バトル漫画の主人公のように。
そんなことを考えながらジョセフは清掃を開始していた。
冒険者ギルド周辺はゴミや汚れがかなり多く誰も掃除をすることが無いためいわゆるツケみたいなものなのだが清掃で金がもらえるってのはジョセフにとってはありがたいことだ。
清掃をしているのは主に冒険者が宿泊に使っている宿で人手が現在足りないとかで急遽冒険者を派遣しなければいけない状態になったらしい。最近はリサの計らいで宮廷で寝泊まりしているがここまで宿の扱いが酷いと宿の人だけでは綺麗にするのは難しいだろうと思いながらジョセフは黙々とモップがけをしていた。
まず冒険者達が寝泊まりしている部屋を隅々までモップで綺麗にしているのだが床に媚びり付いた汚れを取ろうにもシミになって取れなかったりと面倒くさいものだ。ベッドは女を連れ込んでいたからなのか独特な臭いが染みついているからなのかこれは選択しても取れるか分からないし本当にここをラブホか何かと勘違いしているのかと疑問に思ってしまう。
この世界にラブホという概念があるかは知らないが少なくとも女郎などのような風俗業を営んでいる店はあるのだろう。
以前ジョセフ達が色々とお世話になった宿屋をここまで酷く利用していたのかと考えれば少し腹も立つのだがどうせ女を連れて如何わしいことをするのならもう少しスマートにやってほしいとも思う。童貞のジョセフがどうこう言うことでもないのだが。
「ジョセフさん、最近あなたがここの宿を利用しなくなってからというもの質の悪い冒険者が寝泊まりするようになってねえ……」
「…………」
宿のお姉さんが困りが顔でジョセフに愚痴を言い始める。まあ実際に清掃をし始めてこのありざまを考えれば愚痴の一つや二つ言いたくなるのは当然だ。
「ジョセフさん達が寝泊まりしていた頃はテレサちゃんもいたからなのかもう少しおとなしいお客さんが寝泊まりしていたのに最近では品のないお客さんばかりだしこっちも商売上がったり下がったりて感じよ……」
行きつけの宿屋に入った瞬間品の悪そうな冒険者ばかりで宿のお姉さんにセクハラ紛いのことをしたりとお世辞にも繁盛しているとは思えないのだ。
全てのモップがけが終了し今度は宿の裏に溜まったゲロ等の汚物処理だ。ジョセフは井戸の水を汲みながらでゲロの溜まった桶の中を掃除しているのだがこれがとてもじゃないがこれが一番大変であった。
何がキツイのかと言えば嘔吐物と言うのは人間の体液も混ざっているため悪臭がとても酷く感染して病気にならないかそこが心配であった。
「どうりで冒険者を派遣したがるわけだとは思うが早く清掃を済ませなくては……」
ジョセフは言葉を発しながらペースを上げる。
「全ては金を稼ぐためとはいえ無茶のない仕事を選んだはずなんだけどここまで清掃というのが大変な仕事だとは思わなかったよ……」
ジョセフは革ジャンの袖で額を拭いながら呟いていた。
(一般就労している大人達というのは毎日こんなにきつい思いをしながら金を稼いでいるのかと考えれば尊敬するべきなんだと思うよ。中卒だの高卒、Fラン大学卒という理由で馬鹿にされている人達だって一生懸命金を稼ぐためにキツイ思いをしているわけだからもっと尊敬されてもいいと思うんだけどな)ジョセフは日本で真面目に働いている人達に尊敬の意を表していた。
「…………ふぅ~、やっとゲロの処理も終わった…………」
ジョセフは全ての清掃を終了し宿主に報告をする。
「えっ?もう終わらせちゃったの!」
すると宿主とお姉さんは驚愕した様子で大声をあげる。清掃なんてしたことのないジョセフが試行錯誤しながら掃除をしていたのだが身体能力が以前より向上していたのか半日かけて終わる業務内容を3時間で終わらせたからだ。
「たった3時間で隅々まで綺麗にするなんてジョセフ君本当に人間なの?」
「俺は人間だよ」
人間であることをアピールしたがジョセフ自身今の自分の身体能力を考えたら人間なのか分からなくなってきた。
異世界の住人にここまで驚かれるなんてジョセフはいつからチート主人公の仲間入りをしたものかとも思ったが現実はそんなに甘くはない。ジョセフがどんなに強くなろうとも間違いなく誠には勝てないだろう。時間停止だったりと時空間を操れる能力でも習得しない限りは。
神様からチート能力を授かっている人間ってのは総合的なステータスを考えれば限界値というもの自体が皆無に等しいため幾らでも強くなれるだろうしもっと細かく言うならば某バトル漫画の瀕死の状態から回復すれば戦闘力が倍以上にもなるとかいうチート設定盛り込んでいるようなものだから人間よりも身体能力の優れている魔人族でも勝てるか正直怪しいものだ。
漫画的に考えたらそれって面白みがないけど仕事や学校生活が上手くいかない人達からしたらワンパンで敵を倒せる主人公ってのは最高にカッコよくヒーローのようなものであるためスカッとするのもまた事実ではあるのだ。
この世界には確かビーストテイマーという魔獣と契約して冒険するジョブが存在したはずだがジョセフもいつか獣と契約結んでみようか構想に入れており、今後ランクを上げて強い魔物と戦うことを考えるなば獣魔契約したほうが無難なのかもしれない。
清掃が終わりギルドに戻るとそこにはマリー達がいた。
「ジョセフ君、もう動いて大丈夫なの?」
「…………大丈夫だよ、マリー。清掃の仕事をさっきし終えたばかりだけどこのとおり至って正常さ」
マリーはジョセフの容体を心配しているのだがマリーってこんなに過保護なお母さんタイプだったか?疑問に思った。
「ところでマリー、今テレサ達と何をしているんだい?」
「何って、いいクエストがないか探しているところだけど。この前のドラゴン討伐はあたし達にはまだ早いってことが身に染みたから自分達の背丈に合ったクエストを選ばなきゃいけないしね」
マリーは珍しくクエスト選びに慎重になっており何か違和感すら感じていた。ジョセフの件もあるだろうからその辺を対処できなかったことに責任感を感じているのだろうがジョセフは何もそこまで考え込む必要もないのにと思いつつジョセフは自分自身いきなりドラゴンの討伐を引き受けたことをみんなには申し訳ないと思っているところだ。
「なあジョセフ、同じギルドメンバーとしてハッキリ言うなら俺もマリーと同じようにもう誠とは関りを持たない方がいいと思うぜ。これは俺達の為にそうしろって言うのもあるがいつかお前の命があいつの為に尽きるんじゃないかって思うからだよ。あの胡散臭さとか特によ、俺は気に食わねえし…………」
佐藤夏樹は歯を食いしばり苦虫を嚙み潰したような表情で本音を吐露し始める。
「マリーと佐藤夏樹の言うようにこれからは無理のないように一つ一つこなしていこうってことをさっき話し合っていたんだ。それにお前には…………」
テレサは最後に何か言いたそうだったがなんとなくは予想がついている。リサという婚約者がいるのだから命を粗末にするなと言いたかったのだろう。
「…………分かった」
ジョセフは一言だけ言いながら受付のお姉さんに清掃が完了したことを報告しに行った。受付のお姉さんは「かしこまりました。クエスト達成ってことで報酬の方をご用意していきますね」とにこやかに言う。
受付のお姉さんは清掃の報酬金を用意しカウンターにゆっくりと置き「今回の報酬です。中身があっているか確認お願いします」と報酬内容の確認を促す。
報酬の額を確認する為袋を開け逆さまにする。硬貨がチャラチャラと音を立て中にはくるくると回転しているものもあった。クエストを受ける際に書いてあった額通りの報酬があるのか丁寧に硬貨を一枚一枚数える。
「ちゃんと銀貨20枚は入っているみたいだな……」
銀貨20枚を袋に戻しテレサ達の元へと駆け寄る。
「んで、クエストは決まったのか?」
ジョセフはテレサ達に尋ねる。
「それなら次はギルドから5キロほど離れている場所に荷物を配達するクエストがあるんだけどそれやらない?」
ジンジャーがニコニコと俺に尋ね返す。
「OK……」
ジョセフは二つ返事で答え、受付のお姉さんのもとへと再度クエストの張り紙を渡しに受付へと向かう。




