第23話 チートすぎるだろ!
誠は無属性魔法『エニィウェアゲート』を発動し、一気にホームズ王国の領地へと移動したのだ。
「こいつホントチートだな……」
最初から分かっていたことだったのだ。ジョセフ自身がチート転生者に勝てないことくらいは。
そして誠が本気を出せばジョセフの攻撃は一発も当たることはできなかっただろう。神に力を授かった人間とそうでない人間とではこれほどまでに差が出るという当てつけなのかと考えるだけで敗北感で自信を失いかけそうだ。
だがジョセフは自信喪失をすることはなかった。その代わり抜け殻のようにベッドで眠りにつき溜まりに溜まった性欲を処理していなかったことを脳内に過らせながらもする気力すらなく目は虚になっていた。
扉を開く音が小さく聴こえリサがジョセフの横で眠りについているのが分かったがジョセフは気付かないふりをしてそのまま目を閉じたまま眠っていた。
「ジョセフ様、私の話を聞いてくれますか?」
リサはジョセフの心を読みながら傍から見たら独り言でも言っているのか?と言葉を発し始めた。
「私はジョセフ様の身に何もなかっただけでも嬉しく思っています。あの誠という方からは人とは違う何かを感じていましたので正直ジョセフ様が決闘を申し込んだときは止めたくて仕方がありませんでした…」
声を震わせながらも話を続けようとしているが涙で声が詰まり上手く思っていることを口に出せないことを歯がゆく思いながらも話すことを辞めようとはしなかった。その優しさがあるからこそ今のジョセフがあるのだろう。
「ジョセフ様、私にもっとジョセフ様のいた世界について教えてもらってもいいですか?ジョセフ様からは普段悪に近い禍々しいものを感じているのに暖かさも一緒に備わっている気がするんです。私が今まで見てきた人でジョセフ様以上に光と闇療法を併せ持った人を見たことがないんです」
光と闇、ジョセフの心が闇堕ちしたのも元を辿れば中学時代の出来事が原因であろう。中学の頃好きになった女子に告白してみたら罵声を浴びせられたり普段ジョセフのことを虐めていたクラスメイト達からはゲラゲラと笑われたりとプライドをズタズタにされそれに怒りを感じ好きと告白した女子に渾身を込めた拳を頬に一発入れ、必要以上にぶちのめした後一緒にいたクラスメイト達にも制裁と称して蹂躙していた。
一人残らずぶちのめした後、ジョセフの拳は血だらけになっており自分の手を見て嘔吐してしまいながらもジョセフ自分は悪くない!悪いのは自分の心を弄んだ相手だと自分に言い聞かせていた。それがきっかけでジョセフは誰も愛さず、信用できる仲間以外と交流することを極力避けるようになっていた。
多分エミリー以外の女に好意を寄せた当てつけなのか呪いなのか分からないがもう二度と女に恋はしないと二次元に走り、オタクではありながらも体を鍛え、鍛錬の成果を発揮することを前提に学校にいる不良とわざと喧嘩をしたりと荒れた生活に明け暮れていた。
リサはジョセフの心を読みながらうんうんと頷き共感し、涙がこぼれ始めジョセフの頬へと雫となった涙がぽつっと当たる。寝ながら話を聞いているジョセフでもリサがジョセフの過去を知って心を痛めていたのは分かった。ジョセフは心が読めなくてもリサが声を詰まらせながら涙を流していることから、リサが想像もできない荒れた生活をジョセフがしていることに悲しみすら感じたのだろう。
ジョセフがリサと初めて会った時から感じていた光と闇の心から温かさが滲み出ているのにそれを理解しようとしない地球の人達に嫌悪感すら抱いたのかこれ以上リサはジョセフに尋ねることはなく、すうすうと寝息を立てていることが分かった。
隣にリサがいてくれるだけでもジョセフには癒しになる。そんなリサを悲しませてしまったこの落とし前をどのような形でつけようか考え込んでいたのだが答えを見出すことができなかった。今すぐに見つけなければいけない答えではないのだろう、だからこそ心に焦りすら感じないのか余裕がある感じた。
草凪誠達は冒険者が集まっている宿で泊まるらしくまた明日宮廷に来るみたいだがジョセフ達がドラゴン討伐に行く必要性があるのかと疑問に思いハッと目が覚め辺りを見てみるとまだ外は暗く、まだ1~2時間程度しか経過していないのだろう。
今朝二度寝したことが原因なのか寝付きが悪く部屋を抜け出し中庭で夜風に当たりながら頭をすっきりしようと考える。中庭にはテレサとジンジャーが会話をしておりなんだかいつもよりも物静かであった。
「テレサはジョセフのことどう思っているの?」
「どうっていい仲間だと思っている…」
「本当にそれだけ?私はジョセフのこと好きだよ」
ジンジャーはテレサに問うもテレサは顔を赤くし誤魔化すかのように恋愛感情など持っていないアピールをしている。ジンジャーは今思っている思いを吐露し、それでもリサという婚約者がいることから自分ではとても敵わないと諦めかけていた。
「何の話しているんだ?」
ジョセフはわざとのように二人に話しかけ、テレサはいつもなら見れない慌てた様子で奇妙な素振りをする。何か隠しているなとすぐに察することができたがそれが何なのかはジョセフには分からなかった。
「ジョセフか…てっきり落ち込んでいるのかと思っていたが…」
「落ち込んでいたさ、でもいつまでも不貞腐れてたらリサに顔向けができないからな」
「そうだな、リサの為にもそうするべきだな…」
テレサは真顔で一言そう言い他にも何か言いたそうにしていた。
「テレサ、この際だからジョセフに告白しちゃいなよ~」
「バカ、何変なことを言うのジンジャー!」
「だってテレサがあんまりハッキリ言わないからいけないんじゃん」
「何の告白をするつもりだ?」
ジョセフはそうジンジャーに尋ねると「本当は分かってるくせに」と肘でジョセフの体を軽く突く。
ジンジャーはいつものテンションでジョセフに突っかかるのだがテレサはジョセフの顔に何かついているのかと聞きたくなるくらいじっと見つめ目が合うとすぐに視線を逸らす。
「テレサ、それで何の告白をしたいのかいい加減教えてくれないか?」
「そっ、それは…私がジョセフのことが…好きだってことだ!」
(はっ?急に何を言い出すのかと思ったら好きですと伝えるための《《告白》》だったのか…)ジョセフはそう思いながら一瞬思考を停止させた。あの生真面目なテレサがジョセフに実は好意を寄せていたなんて言われても今更感が強かった。そう思うとテレサもメルヘンチックというか乙女だなとジョセフは思ってしまった。
「そうだったのかテレサ、俺のことが好きならもっと早くに行ってくれればよかったのに…」
「バカ!お前がリサと婚約しているのにその…簡単に言えるわけないだろ!」
「つっても一夫多妻認められてるんだから普通に告白すりゃいいじゃん」
ジョセフはテレサの恋心なんか知らずぶっきらぼうに言ったがジンジャーはやれやれと呆れつつも何か言いたそうである。
「あのさあジョセフ、私も実はジョセフのこと好きなんだよね」
「……んっ?」
ジンジャーはジョセフに告白をし、ジョセフは間抜けな声を発する。
ジョセフは(いやいやちょっと待て!何このハーレム展開、いきなりすぎてマジで意味わからないんだけどこんな出来事実際に起きていいのかよ!それに何で俺なのか理解できない。日本にいた頃はオタクキモイだ死ねだのと罵られていた俺がこんな美少女たちに好意寄せられていいわけがない。ただでさえキモオタだってのにこんなのラノベやアニメが好きなオタク達が知ったら批判殺到されてしまうぞ!)と内心状況を整理できずにいた。
「テレサとジンジャーは俺のことが好きだったことを今告白したということだけどいつから好きになったの?俺もジンジャーのことは初めて会った時から可愛いなあとは思っていたけどさ」
するとジンジャーの心臓はバクバクと高鳴りキュンとときめきデレデレになっていた。テレサはというといつもの冷静さはなくりそれを見たジョセフはテレサのことを可愛いと思えてきた。完璧に見える女性ほど以外に抜けてる部分があったりするとギャップ萌えしたりとオタク心を燻ったりとキュンキュンしちゃうものだ。
リサとアイリスという二人の婚約者がいるっていうのに他の女にまで手を出したら流石にリサに殺されそうだと思ったジョセフはこれでリサが承諾したら完全にご都合主義であり、ジンジャーやテレサはジョセフと年齢も近いため本格的に恋愛するならテレサとジンジャーを選んだ方が無難であった。
(地球で確実にリサと婚約してますなんて暴露してみろ、確実にロリコンになるけどジンジャーとテレサならまあロリコン扱いはされないから俺としてはジンジャーがいいんだよなあ…というか誰か一人を選べと言われても俺には選べん!俺にとってリサ、アイリス、ジンジャー、テレサは俺の一番の女なんだからよ……)ジョセフは自分は決して最低な男ではないと自己暗示をかけていた。
四人もいるのに全員が一番の女という矛盾が生じてしまったがそれは突っ込まないでほしいとも思っていた。
「ジョセフに初めて会った時に私を助けてくれただろ?その時からだ」
「私は単に一目惚れかな~」
ジンジャーとテレサのジョセフのことが好きになった動機が一目惚れってところがまさにラノベ展開でウハウハとハーレム展開になるのかと考えたらジョセフは語彙力を失い言葉が全く浮かばずにいた。
「一目惚れかよ…」
「「別にいいでしょ」」
ジンジャーとテレサは異口同音しジョセフは右手で帽子の上から頭を掻きむしりハアっと溜め息を吐き肩を竦める。
ジョセフはジンジャーとテレサの告白が一目惚れだと知って複雑な気持ちになってしまいジョセフはリサとジンジャーにどう答えを返せばいいか分からずただ驚愕することしかできずに沈黙とした様子でいるしかできなかった。
「テレサ、ジンジャー、俺は君達の告白をどう受け止めればいいかまだ分からない。分からないけど君達のことは勿論俺も好きだし愛していると言ってもいい…」
ジョセフは咄嗟に愛していると言ってしまったが本当に愛しているというと思っているのかはまだ疑問に感じる部分はあるがもしリサのように大切にしたいと思っているのなら今思っているこの気持ちはまさしく愛なのだろう。テレサとジンジャーは愛しているという言葉に反応し顔を赤くし両手で頬を包み首を振りながら照れ隠しをしていた。
「まさかジョセフにそこまで言われるとは思ってもいなかったよ、私はてっきりリサがいるから振られるかと思っていたのに…」
「えっ!?」
「私もテレサみたいに失恋するのかと思ってたなあ。ジョセフに愛しているなんて言われたらもう《《引き下がれないよ》》」
(ちょっと待て、本当に何でラノベ展開が急加速しているのか全然分からないんですけど俺みたいな奴が異世界でモテていいのかよ?もし日本に帰れたとして侑の小説のネタとしてこれが書籍化なんてしたら読者からご都合主義、チーレム野郎、死ねロリコンてアンチが続出してしまうぞ。リサにはそういう風に言えばいいんだ?同じ冒険者仲間と言えどリサが納得してくれるか分からないってのによ!)ジョセフはまたもや脳内で妄想をしていた。
「ちょっとジンジャーの言っていることが俺には分からない…」
「だって、私玉砕覚悟でテレサと一緒に告白して断られていないんだから諦めようにも諦めなくていいてことだからもっと積極的にアピールしちゃうよって意味で引き下がれないって言ったの」
ジンジャーをここまでメロメロにさせてしまったってことはジョセフの異世界生活は今後大変になっていくであろう、ジョセフは(どうしよう…別に女の子にモテたいって思うのはオタクなら当然だし超嬉しいのだが本当にそれでいいのか?二人はリサのように心が読めるわけでもないのにそんなことでいいのか?)とジョセフは自分の胸に手を当てながら考える。
「分かったよ、取り敢えず明日リサに伝えとくよ」
「うん、リサが私達をジョセフの婚約者になることを許可してくれるといいよね~」
ジンジャーはルンルンとしながらかなりのんきな態度でそう言う。
「そっ、そうだな…私もそれを願ってるよ」
テレサは照れながらジンジャー同様リサに反対されないことを願う。
「やべえ、どうしよう…テレサとジンジャー俺の婚約者になる気満々だよ、どう考えても。リサが簡単にこの件を受け入れてくれるか分からないってのに変なこと言っちゃったし顔から火が出てきそうになるよ」
ジョセフはもうすでに錯乱しておりいっそのこと死にたいと自殺願望すらあった。
そのまま寝室へと戻りジョセフが寝るベッドでリサは「ジョセフ様ぁ…私達の愛の結晶を作る準備はできていますわよ」と寝言を言いながら気持ちよさそうに眠っていた。リサの横にそっと仰向けになりそのまま眠りにつき明日テレサとジンジャーと婚約者にしていいか確認をしなければいけないので夜更かしはできないでいた。
今日は珍しく眠気も強く、横にいるリサからはとてもいい匂いがしてその匂いにつられてジョセフはそのまま眠りについてしまった。ジョセフは日記を書き忘れたことを思いながらも無理に書く必要はないと思い、明日思い出せるところだけでも書けばいいと思った。
異世界の夜は日本の夜と違い、ろうそくがないと周囲が見えないほどに暗くとても静かだ。その静けさもあってか安眠することができ、ジョセフは横にリサがいることでさらに気楽に過ごすことができる。
この世界の月というのも日本にいた時のように黄色くとても美しく月見団子でも食べたい気分なのだがワトソン王国では米が無いため団子や餅、白米を食べることができない。日本人として白米が食べられないってのは一番辛いことだ。
白米と味噌汁があるからこそ日本人なんだと実感できるのだがジョセフは血筋だけを考えれば完全に北欧系アメリカ人だけど日本に正式な手続きで帰化しているから細かいことは気にしないでほしいって感じであった。日本にいた頃は金髪碧眼が珍しいからと虐められたりしたがジョセフにとってだから何だって話である。
ジョセフ達は日本人である以前に同じ地球人として何故神や目、肌の色が違うからと難癖付けられなければいけないのかが理解できない。そもそもが日本人は基本黒髪黒目で直毛が多いから髪型も統一しなきゃいけないなんてことが納得いかないからだ。ジョセフはそんな日本の古い体制が大嫌いである。
ジョセフは髪が長かろうと色が違おうが他人様に迷惑をかけなければ別にいいと思っており、不良が普段から問題起こしてもそんなに周囲の奴らってのは叩かないくせに真面目な人間が不良をぶちのめしたら問題視されたりと理不尽すぎて嫌気さえさしてしまう。
日本人というのはそういう人達を迫害するかのように促している。小学校の頃、授業の一環として人権学習というものを習っていたがそれをちゃんと真に受けている人間は多分殆どの人間は何とも思っていないのは結果として明らかだ。
差別をしてはいけない、人権を大事にしろと言って自分達の意見に賛同しない人間にはことごとく冷たい態度で接したりと世の中は偽善者だらけだ。人権を守るのは当然大事なことではあるのだか、たった一時間の授業で教師が生徒達に論し生徒達は「人権というのがいかに大切で差別は良くないのかをこの授業を通してわかりました」と言いつつもそれを生真面目に実行する人などはないからだ。そんな偽善者がこの世の中心にいるのかと考えるとこの世界に神は存在しないと思っていたがジョセフは自分を異世界に転移させた神は何故、この実態を今まで放置していたのかは理解不能だ。
夜はぐっすりと眠ることができたジョセフは目を開けてみるとカーテン越しからでも分かる日差しが強く差し込む。普段サングラスをしているジョセフからしたら太陽の光というものは眩しすぎるため外出した時はサングラスがないと目を開けられないほどだ。
リサは何処だとジョセフは横を見てみるとリサはいつの間にか起きていたみたいでこの部屋にはもういないみたいだ。
「もしかして俺寝坊でもしたのか?」
時計がないため今が何時なのかも分からずジョセフがどのくらい眠っていたのか推測することもできずにいた。考えているよりも着替えようと革ジャンを羽織りサングラスをかけ帽子を被る、これがジョセフのトレードマークであるためこれだけは絶対になんて言われようとスタイルを変える気は一切なかった。
リサ達はどこだと部屋を出て左右確認をするのだが見当たらず食堂へと向かうためにレッドカーペットの敷かれた階段をゆっくりと降りる。
「やはりサングラスがあるというだけでも安心して物事を見ることができる、日本ではサングラスというものは悪印象を持たれているが目の保護をするため俺には必需品のようなものだ……」
ジョセフはそう言いながら食堂へと入ると食堂にはリサにアイリス、ジンジャー、テレサ、マリー、佐藤夏樹と両陛下がジョセフが来るのを待っていたようだ。
「ジョセフ、今来たのか。みんなお前が来るのを待っていたんだぞ」
佐藤夏樹はテーブル席に座りながら大きく手を振る。テレサは「佐藤夏樹、はしたないぞ」といつものように厳しく指摘をする。
昨日のデレていたテレサとは思えない様子でジョセフは軽く苦笑いをしながら空いているテーブル席へと着席する。右側にはリサがおり左にはアイリス、前にはテレサ、右斜めにはジンジャーが言ったり両手の花とを軽く通り越して某VRMMOを題材にした小説の主人公並みにハーレム野郎ですよアピールしている感が色濃く出ていた。
テーブルには上品な食事がずらりと並んでおりまるでフランス料理専門の高級レストランにでも来たのかと錯覚してしまう程で料理の色はとても艶のあり新鮮さが増していた。ジョセフはフランス料理の店に行ったことが一度もなかった。漫画やラノベでよく見かける光景だからなのかフランス料理がどんなものかジョセフは想像することしかできなかった。
ジョセフがテーブル席に座ったことで食事を開始し佐藤夏樹は「うまいな!」と料理をハムスターのように口の中に頬張る。佐藤夏樹が美味しそうに食べているからどれほどのものかとジョセフは一口食べてみると味に関しては流石王族の食べる食事なだけあって調味料もしっかりしているなという感じで食していた。
(日本の飯と比較すればまだまだ味気ない感じはするのだが好き嫌いは言ってられないからこれも慣れるしかないな……)ジョセフはいつものように味になれるように心掛けていた。
食事を終えた後はすぐに誠のもとへと向かうために準備を整え、宮廷を出る。馬車の御者台にはテレサとジンジャーが、ジョセフ達は荷台へと乗り込み冒険者ギルドへと急いで走らせる。
ジンジャーは行商をしていたからなのか馬の扱いにはかなり長けている。そのおかげで急速に走らせても全然酔うことはなかった。
宮廷からギルドまでの距離は10~20キロくらい距離があり、日本みたいに道路が渋滞しているわけでもないので到着する時間もかなり早い。これがもし車でいっぱいになっていたなら4~50分は下らないだろう。
街中はいつものように賑わっており、ジョセフは我が家に帰ってきた感があり一息拭きながら安心してしまった。まるで10年以上離れていたかのような錯覚さえしてしまい茫然としたまま荷台から降りる。
馬車を置き、ギルドまで2~3分ほど歩き、ギルド内には受付の隣の部屋にカフェのような場所があり、そこには誠達が軽く食事をしながらジョセフ達が来るのを待っていたみたいだ。
「ジョセフ、君がここに来ることを信じていたよ。トキやリンは自信喪失して依頼を引き受けないんじゃないかと思っていたみたいだけど」
テーブル席に女子に囲まれた誠はニコニコとした表情で言葉を発するが誠の仲間の言う通り少し自信喪失しかけて依頼を辞退しようかとも考えていたことは嘘ではない。いくら誠が手加減していたとはいえあそこまで強いのならばわざわざジョセフにクエストを依頼しなくとも難なく魔王ですら軽く討伐できるのでは?と疑いもしたが誠自身色んな人脈を広げていきたいのだろうと思った。
「……どうかな、君ほどの実力者が俺達にクエストを依頼すること自体未だに理解はできていないが一度引き受けたクエストだ。男の誓いに訂正はないよ」
「やっぱりジョセフはできる男だね」
誠はニヒルな笑みを浮かべジョセフは気持ち悪いとすら思えてきたが誠のパーティメンバーは「流石は誠」と言わんばかりに褒め称えており、何かこの誠という男に洗脳魔法でもかけられているのではと疑問すら思ったが単なる盲目的なだけで洗脳などはされていなかった。
(愛は盲目というしそういうことにしておこう……)とジョセフは心の中で思った。
「それで依頼なんだが受付の人にでも言えばいいのか?」
「うん、一応受付のお姉さんには君達が僕の依頼を引き受けるだろうからと伝えているからそうしてもらえると助かるよ」
ジョセフはすぐさま誠の方を離れ受付の方へと向かいその旨を伝える。受付のお姉さんは「確かに誠様からクエストの依頼を受けているみたいですね」といつものように書類を確認し読み上げる。ジョセフは受付のお姉さんが読み上げた内容をうんうんと頷き説明を聞き早速クエストに行こうと誠に尋ね、あの時のように急に右手を出し何か呪文名を唱える。
「『エニィウェアゲート』」
誠は無属性魔法『エニィウェアゲート』を発動し、一気にホームズ王国の領地へと移動したのだ。
「こいつホントチートだな……」
佐藤夏樹は舌打ちしながら誠のことをギラっと睨み、ハーレムしていたため殺意をかなり感じていたみたいだ。
「ジョセフのハーレムはまあ一緒に冒険しているからそんなにイライラもしないけど昨日のチートっぷりを見れば一発殴りたくもなるな」
「そう言うなよ、あいつは神様の手違いで死んだんだから俺達と違ってチート能力授かっても仕方のない立場なんだし」
「それでもなんていうんだ?あの胡散臭い感じとか俺達と同じくらいの歳とはおもえないっていうかさ……」
誠のことをあまりよく思わないのか佐藤夏樹は誠の敵を目の敵状態であり、後ろにいたマリーも誠を見る目線がとても険しかった。
「佐藤夏樹君の言うようにあたしもあまりいい印象は悪くないわ……」
「マリーと佐藤夏樹いつの間にか利害一致している感半端なくなったな……」
ジョセフは小声で言葉を発しマリーと佐藤夏樹は「そうか?」と言いたそうな顔で首を傾げ少し訝しそうにしていた。(いつの間にあそこまで意気投合したのかは分からないがあの二人出来てんじゃないのかな?)ジョセフからしたら誰がどう観てもそう思うに違いないと思った。
「うふふ、マリーさんと佐藤夏樹さんはジョセフ様が知らない間に色々と親睦が深まっているみたいですよ」
リサはくすくすと笑いながらジョセフに教えていた。どうやらリサは心を読まずとも何か知っている気がしたのだがジョセフは勝手な思い違いかそれともジョセフが知らないだけでマリーと佐藤夏樹は恋人関係にでも発展しているのかと思ってしまった。
「なあリサ、佐藤夏樹とマリーは恋人関係にでもなったのか?」
「もうジョセフ様、そこまでは発展はしていないですけど寸前ってところなの分からなかったんですか?」
「他人のことに目配りできるほど俺も器用な人間じゃないんでね、誰が誰と付き合おうとあまり気にしていなかったんだよ」
「ジョセフ様はそんなことでは女の子に嫌われますよ?私だからジョセフ様の考えていることが手に取るようにわかりますけど」
リサはそうやってジョセフに説教を始め(リサは心が読めるから手に取るようにわかるのは当然じゃん)と内心ツッコミを入れる。
テレサとジンジャー、アイリスですら誠に関しては少々引き気味で「あの誠って男なんか謙虚そうに見えて意外とナルシスト入っていて気持ち悪い」「ああゆう男は何をしでかすか分からん」「ジョセフの方が断然いい」と不人気である。それくらいジョセフのことを支持してくれるのは本人としてもありがたいのだがジョセフ自身誠同様ハーレムなのは否めなかった。
「それでドラゴン討伐なんだがドラゴンてのはどこにいるんだ?」
「ドラゴンはこの領域に現れているみたいなんだけど正確な位置までは分かっていないんだよ」
誠は地図を出しドラゴンが出現した場所を指さすもワトソン王国がどの位置にあるかも分からないジョセフからしたら何が何だか分からない状態だ。誠という男の言葉の一つ一つが薄っぺらで何も感じることがないのだから。
テレサ達が不愉快に思うのも無理はないがあそこまで露わにしているとジョセフ自身同じ気分になりそうでいた。
「すまん、ワトソン王国とホームズ王国の領地がどの辺だとかそういう地理関係が分かっていないから地図で教えられてもって感じなんだが……」
「そうだったんだ、それはちょっと悪いことしちゃったなあ……」
誠は軽く謝罪の言葉を述べジョセフに頭を下げる。ジョセフは別に謝らなくてもいいのにと思いながらもドラゴンを討伐できるほどのランクに達していないのに特例で討伐することになったことには未だに違和感を拭えない。昨夜の決闘にしろ誠はまだ何か隠していることがあるに違いないとジョセフは察していた。
間違いなくジョセフにわざと負けてジョセフをプロデュースするつもりでいるのだろうけどジョセフは誰かに命令されるような生き方を異世界でまでするつもりはなかった。ジョセフはただ自由気ままに生きたいだけであり、最近このように何かに巻き込まれやすいことに悪霊に憑りつかれているのではと思うようになっていた。
(最近魔王が復活したとかで魔人族も行動が活発になったりとしているらしく冒険者ギルドの張り紙にも魔人族討伐依頼などがあったけど全て誠一人で解決できる内容じゃないのか?)みねうちとはいえジョセフの攻撃をわざと食らっていたがそのおかげでジョセフの心は軽く抉られたというのに誠はそんなことを微塵も考えてはいないのだろう。
誠にとってはそれが最良な考えなことなのだろうけどジョセフはプライドを傷つけられていたことに腹を立てていた。
(ラノベ主人公特有の鈍感な性格っていうのは本当に嫌になってしまうよ……)ジョセフは内心そう思うとリサからは「ジョセフ様も人のことは言えません!」とツッコミを入れられた。
マリーの誠を見る目がかなり殺意的で佐藤夏樹は嫉妬から生じたからなのかずっと睥睨としており、ジョセフのメンバーには毒のようなものだである。テレサとジンジャーもいけ好かない顔しており誠との関りはジョセフ自身これっきりにしたかった。
リサはジョセフの心を読んでいるからなのか心配した眼差しでジョセフのことを見つめ話しかけようとするも気遣いからなのか何も言えずにいた。アイリスはというと辺りをキョロキョロとしながら外に出られると修学旅行ではしゃぐ学生みたいにわくわくとドキドキが止まらないみたいだ。『エニィウェアゲート』見たことのある場所ならどこへでも移動できるチート魔法なのだがまさにラノベ主人公って感じであり、何でもありな展開はもはやギャグの領域だとしか思えない光景であった。
「誠、君の使っている魔法は今のところ『エニィウェアゲート』くらいしか使っていないが他にはどんな魔法が使えるんだ?」
「基本的に僕が知っているなら全属性使えるよ。ただ魔力のコントロールが難しいから光と水、無属性を中心に使っているけど……」
基本的に全て使えるとはマリーと同じようにチートの領域だ。コントロールが上手くできないうえに火力が低いということを考えればマリーよりは劣るが魔王や邪心クラスの敵が出現しても死ぬことはまずないだろう。ただ、誠も転生したとはいえ元々魔法の無い世界の人間であることを考えればコントロールが難しいのは何らおかしいことではないのだ。
ジョセフ自身魔法を軽く発動しただけで体力が消耗したり吐血したりと大惨事な目に遭ったから魔法というものは一歩間違えれば己自信を破滅に追い込むことになるためその辺を改善できたらとジョセフは思う。
そんなこんなで歩き続けているとゴブリン以外にゴリラに似た魔物に遭遇したりと戦闘になることもあったりで魔王復活説もあながち嘘じゃないなとすら思える。誠は『エニィウェアゲート』以外の魔法を発動するチャンスだと思い見てみると確かに魔法の威力は雑魚には通用する程度の威力だ。
「雷神よ、我に力を与えたまえ『スパーク』!」
誠はジョセフが得意としている『スパーク』をラノベや漫画みたく詠唱した後に呪文名を言い青白い電流が誠の右手を覆い、『スパーク』の軌道は魔物へと乗りゴブリンの体は無惨にも飛び散る。
ジョセフと誠の『スパーク』の違いは誠は外部の破壊に特化しておりジョセフのはその逆で内部の破壊を極意としており、誠というか本来の使い方は放出するように発動する魔法でありジョセフのように指先や拳に集中させるといった使い方は本来しないものだ。というよりは一点集中することは困難であり全属性魔法適正のあるマリーですらそれができないみたいだ。
そうこう考えていると誠の後ろから生き残っていた魔物が押しかかろうと剣を掲げ斬りかかろうとする。誠は無属性魔法『ハイスピード』を発動し攻撃を回避。
「行くぜ!『スパーク』!」
ジョセフは左拳に魔力を一点集中させ『スパーク』を発動する。腹部を殴られたゴリラもどきは殴打された衝撃から5メートルほど吹き飛び地面が抉れ倒れ込む。ゴリラもどきはすぐさま立ち上がり「貴様の拳など……」とでも言っているかのように咆哮をあげ再度ジョセフに攻撃を仕掛けようとするもその瞬間腹部がボコボコと溶岩を滾らせるマグマのように膨れ上がり勢いよく破裂した。
ゴリラもどきの腹部に強力な電気信号を送り腹部から脳へと伝達したことにより起こった現象だ。誠は当然ジョセフが発動した魔法に興味津々だったようだ。
ジョセフと誠の戦闘をただ茫然と見ているだけのテレサ達は援護しようとするも誠が魔法で一気に殲滅しているため殆ど誠の一人勝ち状態でジョセフは誠が仕留め損ねた雑魚を処理する流れ作業感覚でゴブリンを名刀陸奥守吉行で一刀両断したりとソロでクエストした方がいいんじゃないかとツッコミを入れたくなるレベルだ。
誠はどうもわざと一部仕留め損ねたふりをしてジョセフの技量を試しているような気がしてジョセフは誠の行為に対して少し癪に障るがリサ達が危険な目に遭うことはないのだが悪く言えばハードモードでもチート状態で無双するヌルゲーをプレイするようなものだ。
「誠、これなら俺達必要ないんじゃないか?」
「そんなことはないよ。仕留め損ねた魔物はだってジョセフが倒してくれてるんだからちゃんと必要だよ。実際君がいなかったら味方に犠牲者が出るだろうし」
「やはりな……誠は俺が確実に仕留められることを分かってわざと逃している部分があるな。もし俺が後処理できなかったらどう言い訳するつもりだったんだ?まあ今はそんなことを考えている場合ではないな……」
(ドラゴン討伐が今回のクエストというわけだからそれさえ無事にこなせればいい)ジョセフはそれだけしか考えていなかった。それで終わりだと思っていたからだ。
「なんかあたし達の活躍全然なかったんですけど……」
マリーは誠を睨みながらぐちぐちと愚痴を言い出すがマリーも依然は誠と同じようなことをしていたことを完全に忘れておりテレサ、ジンジャー、佐藤夏樹、リサにジョセフは(お前が言うな!)と内心ツッコミを入れたいほどで、アイリスはこの状況を理解していなかった。
誠のギルドメンバーのトキ、リン、マギー、レイラは苦笑いしながらも「流石は誠」と褒めちぎり誠は「それ程でもないよ」と謙虚になる。実際神様から授かったチート能力であるわけだから「どうだ!俺様の実力は凄いだろ!」とドヤ顔なんてできるわけではなかった。
佐藤夏樹はあまりにも暇すぎて鼻くそをほじり欠伸をしたりとかなりの怠惰ぶりを周囲に披露していた。
「正直これさ、俺達いらねえじゃん!あのハーレム野郎が殆ど活躍しているしこれならマリーやジョセフの方が全然いいよ。ジョセフはちゃんと活躍の場をくれたりとしてくれたし」
「活躍の場って……俺そんなに佐藤夏樹と一緒にクエストこなした回数多い方じゃないんだけど言いたくなる気持ちも分からなくもないんだがね。女の子に囲まれて無双してりゃ不満の一つや二つ言いたくもなるさ……」
マリーはあまりにもチートすぎるため後衛での援護に集中させているが誠もサポートをする感じで戦闘している方が物語的には面白いのかもしれない。今いるこの世界はラノベでもアニメの世界でもないため確実に仕留めるなら一気に殲滅できたことに越したことはないのだ。
ドラゴン討伐の依頼を受けているわけだが本命のドラゴンは全然出現する気配すら感じず何しに来たのかさっぱり分からず魔物を討伐しているだけで誠は神様から底上げしてもらっているだけ全く魔力が消耗している感じすらしない。
ジョセフは誠の後処理をしているが『スパーク』を使いすぎたからか息遣いもかなり荒くなってしまった。こんな醜態をジョセフ自身晒したくはなかったのだがこんなに連続で戦う羽目になるなんて思ってもいなかったからだ。
佐藤夏樹達は唖然とした様子でつっ立っているだけでかなり退屈そうにしていたがジョセフの息遣いを見て「変わってやろうか?」とジョセフの方へと駆け付けジョセフに声をかける。
「すまない……俺がもっと魔力量が多いならよかったのだが佐藤夏樹、やれるのか?」
「俺だってやれるさ。だからジョセフはリサとイチャイチャしときなよ」
佐藤夏樹はジョセフに皮肉を言い誠の方へと向かいバトンタッチすることになった。日本でヒキニートしていたとは言え細身ではありながらそれなりに筋肉質ではあるから簡単には死ぬことはないだろうとジョセフは引き継ぎをしてもらう。
「マリー、もし佐藤夏樹がやばそうだったら支援してやってくれないか?」
ジョセフはマリーに小声で指示を出しマリーはそれを快く引き受けてくれた。(簡単に死なせはせん!)その思いからなのかジョセフは佐藤夏樹に対しては少し過保護な一面が出てしまう。
期待していないわけではないが異世界生活歴の佐藤夏樹よりも長い先輩としてはジョセフは後輩のことを心配するのは妥当な判断だと思っていた。
そうこうしているとダンジョンのようなところまで来ていおりこれは大丈夫なのかと不安を感じつつもマリーと誠がいるから死ぬことはないだろうが慎重に行くしかないと思った。ジョセフの魔力は消耗した状態でリサに回復してもらっているとはいえ完全に魔力と体力が回復している毛ではなかった。ここでドラゴンと遭遇してジョセフが使える魔法で一番火力のある『パープルサンダー』を使えば吐血だけでは済まないため気を緩めることができずにいた。
「神よ、我らに聖なる灯りを与えてくれたまえ『フラッシュ』!」
ダンジョンだからなのか、周囲はかなり暗く魔物に襲われる可能性もあり素早く動くのはかなり困難だ。そう思っていた矢先にマリーが気遣ってくれたのか光属性魔法『フラッシュ』を発動。
「マリー、俺の代わりに『フラッシュ』を?」
「ジョセフ君どうせドラゴンを戦うってなったら絶対『パープルサンダー』使う気でいたでしょ?ついでだからあたしの魔法で魔力回復しとくわよ。……『マジックヒール』」
マリーが『マジックヒール』なるまた新しい魔法をジョセフに発動し、さっきまで魔法を使いすぎて消耗しきっていた魔力は嘘みたいに回復しており、これなら『パープルサンダー』を一度くらい使っても吐血しないで済むと確信することができた。
佐藤夏樹はやるぞ!といった感じの姿勢で拳を重ねる。
「俺の刀を使え!」
ジョセフは佐藤夏樹に名刀龍王丸を投げ渡しキャッチャーフライの如く受け取り鞘から刀を抜き出す。名刀龍王丸は異世界製の日本刀ともいえる刀だが材質は日本刀と違うため異世界刀と言った方が正しいのだろうが名刀龍王丸の刃紋は名刀陸奥守吉行に匹敵する美しさでついつい見惚れてしまう程だ。
「日本人なら誰もが一度は持ってみたい刀を持っているんだ。佐藤夏樹も多少はしゃぐくらいは誰も文句は言うまい」
「それにしてもいいのかよ?これお前が高い金払って作ってもらった特注品だろ?」
「その刀は特殊な素材を使って作った刀だ。魔法が使えない今のお前でも無事に生き残るなら龍王丸がぴったりだ」
「そんなにこの刀すげーのかよ?」
「さあな?……」
ジョセフは名刀龍王丸を数回程度しか使用していないためこの刀の性能がどれほどのものなのかまだ把握しきれていない。そもそもジョセフは異世界で戦いを数多くしているわけではないため性能を発揮する場面がなかったため本来の性能がどれほどのものなのかまでは知らずにいた。
経年劣化している名刀陸奥守吉行と比較すれば切れ味と耐久性は上であることは間違いないのだが、ジョセフが使うよりも佐藤夏樹が扱ってくれた方がいいのだろうとジョセフは判断した。
「佐藤夏樹、ジョセフの刀を壊すんじゃないぞ!」
テレサはハイテンションになっている佐藤夏樹に念を押し「はいはい」と頷く。
マリーが『フラッシュ』で洞窟内に光を灯したとはいってもどこから魔物が出現するのか分からない状態でありいつまでもピクニック気分ではいられなくなった。
「みんな、気をしっかり持っておいた方がいいわよ……」
引き攣った顔をしながらマリーは鋭い目つきで周囲に警戒を促す。マリーは『スヌーピング』をジョセフ達が気を緩めている間に発動していたみたいだ。そのおかげでジョセフ達は戦闘態勢に入ることができる。マリーがいるかいないかだけでも戦況は変わるわけで支援役としてはかなりの適任だ。
『フラッシュ』で明るくしたはずの洞窟内が少しずつ暗くなっていきマリーが「そんなばかな……」と舌打ちしながら歯を鳴らし眉間に皺を作る。それくらい強力な魔物が近づいてきているのだろう。
霊感のないジョセフでもこの禍々しい邪気を感じることができる程にまでやばいとすら思えていた。リサは魔物の心の声が聴こえてきたからなのか青ざめた表情をしながら耳を塞ぐ。
「リサ、大丈夫か?」
「大丈夫です。ただこれほどまでに酷い悪というものを感じたことがありませんので……」
「私も少し怖いのだ、ジョセフ~」
アイリスとリサがここまでおびえてしまう程だ。ここはジョセフと誠以外は出口まで退避してもらった方がいいのだがそんな余裕があるのかまでは計算していなかった。
「私は例えどんな敵でも騎士としてここで引き下がるわけにはいかない!」
「私だって引き受けたからにはここで逃げる気はないね……」
テレサは女性でありながら騎士道を貫き、ジンジャーは声を震わせながらも商人の意地を見せる。普通の人間なら自分の身に危険が生じると分かれば逃げるのが常識であり、それでも逃げずに戦うという姿勢を持てるというのは誰にでもできることではない。
ジョセフ達の中でまともに戦闘できるのがマリーを除けばテレサとジンジャーだけであるため時間稼ぎとして逃げることも可能なのだろうけど誰も逃げようと思うものはいなかった。当然ながらジョセフ自身踵を返そうと思うことはなかったが恐怖心というものが植え付けられそうになる程とても禍々しく淀んだ空気が洞窟内で漂い始める。
「今までのゴブリン達とも違う気迫に気圧されそうだ。それぐらい今回はハードモードだということだ」
ジョセフは異世界で鍛えられた五感を、感覚を研ぎ澄ませながらドラゴンかそれ以上の何かが潜んでいることを推測していた。
「もしかしてドラゴンなわけないよな……こんな洞窟の中にドラゴンが入れそうな場所なんてなかったし」
「この気はドラゴンなんかじゃないわ!恐らく魔人族の中でも上位種よ」
佐藤夏樹は怖気づいたからなのか声を震わせ、マリーはドラゴンではなく魔人族であることを推測する。ファンタジー作品で言えば洞窟の最深部に入ったわけでもないのにボスクラスの敵が出現することなんてのはそうないだろう。だが、ここはゲームの世界ではなくて現実であり、ゲームやアニメとは違う予測できないイレギュラーが生じても何らおかしくはないのだ。
「無属性魔法『未来視』で今どんな敵と戦うのか未来を見ていたけど真っ向勝負なんてしようものなら確実に死ぬわよ。あたしと誠って人以外は……」
深刻そうな顔で死の警告をし始めたマリーが言葉を発する。今まで涼しい顔をしていたマリーが珍しく言葉を発するのだ。(ジョセフは『パープルサンダー』を使ったとしても勝てるか怪しい……)ジョセフは自分が死むのではないかと薄々感ずいていた。
「『未来視』って魔法を使ったみたいだけどいつの間にそんなの発動したんだ?」
ジョセフはマリーに疑問を感じながら尋ねる。
「この魔法は詠唱しなくても発動できる固有魔法だから声に出さなくても発動は可能よ」
マリーは親切に教えてくれたのだが長く会話をさせてくれる猶予も与えてくれないようで一人の魔人族が少しずつ近づいてくる。
「よくぞこの洞窟に無事侵入できたものだな。だがそれもここで終わりだ。」
魔人族はいきなりゆっくりと拍手をしながら不気味な笑みを浮かべる。見た目自体はジョセフ達人間と大差変わらず黒髪短髪で瞳は黄色、そして中二病を彷彿させるロングコートを纏っている。
「……僕のイメージしている魔人族とは違うみたいだね」
誠は今から殺されるかもしれないという状況でも顔色一つ変えずにしており、ジョセフ達は唖然とする。
「いや、てかお前こいつに殺されるかもしれないってのによくそんな余裕でいられるな?チート日本人だから『僕は死なないよ』とかいうんじゃないだろうな?」
「別にそんなことはないよ。ただ魔人族っていうからツノあるのかなって思って」
「ツノ生えてるイコール魔人族なわけないだろ!このハーレム野郎!」
誠は佐藤夏樹のキレのあるツッコミをボケで返す。ここでお笑いコントしている場合じゃないのに場の雰囲気を和ませようとしている誠にはジョセフ自身度肝を抜かれてしまう程だ。
魔人族を名乗る中二病スタイルの男は一向に勝負を仕掛けてこないことにイライラしていたからなのか腕を組みつま先で地面を蹴りながらトントン音を鳴らしたりしていた。
「ハーレム野郎って……別に僕は好きでそうなったわけじゃないんだけどね」
「結果的にオタクの理想を実現させているじゃねえかお前はよ!」
誠は苦笑いをしながら佐藤夏樹を宥めようとしているのだが嫉妬が爆発した状態で癇癪を起しているため誠の言葉が耳に入ることはない。ジョセフは「やれやれ……」と呆れてしまいリサ達も「佐藤夏樹さんは本当にしょうもない……」と唖然としている。
「君達、いつまでそうやってお喋りをしているんだ?この私がわざわざ殺しに来たっていうのに無視し私をコケにするとはいい度胸だ……いい加減にしろよ貴様ら!一人残らず《《なぶり殺し》》にしてくれる!」
さっきまで冷静沈着にしてそうな感じの魔人族は右拳を出し大きく口を開け怒号をあげる。
「『スパーク』!」
面倒くさそうな顔でジョセフは拳に『スパーク』を一点集中し魔人族の胸部に一発パンチを入れる。魔人族は5~6メートル程吹き飛び地面が浅く抉れ歯ごたえはあった。
「きっ、貴様~!不意打ちとは卑怯な……」
「お前のような厨二野郎に言われる筋合いはない!」
「何言っているか分からないが貴様が外道であることは分かった!」
魔人族は何を言い出すかと思ったら卑怯だ何だのと《《殺しに来た》》とわざわざ予告していながら一発『スパーク』で覆われた拳で殴ったら急に感情剥き出しになっていたりとこの世界の住人の考えがジョセフには理解出来なかった。
「そもそもが俺達を殺しに来た奴ぶん殴ることのどこが悪いんだ?敵意剥き出しになってる奴にハイそうですかと殺されろとでも言いたいのか?」
「ふん、どのみち貴様のヘナチョコパンチなど効きはせぬわ!早速貴様が死ねぇ!ぬぁぬ……」
魔人族は右掌を出し魔法を発動をしようとした瞬間、胸部に激痛が走ったからなのか胸を抑えながら膝をつき蹲る。
「貴様……毒でも仕込んだか?」
「お前の肺の動きを狂わせただけさ。だがお前本当はそんなにダメージないだろ?油断させといて俺を殺すタイミングを見計らっているのもバレバレだ……」
「バレていたか……だが貴様の攻撃は本当に肺が潰れるところだった……この私にここまでのダメージを与えられた人間は貴様が初めてだ。死ねぇ!」
魔人族は今度こそジョセフ達をまとめて殺すつもりで右掌を出し魔法を発動しようとするも「日本人パ~ンチ!」と佐藤夏樹は大声で叫びながら魔人族の顔面にパンチをお見舞いする。
またもや魔法の発動を邪魔されたと魔人族はカンカンに怒り「いちいち癇に障る野郎どもだな!卑怯者共が!」と言葉遣いが汚くなり始める。某バトル漫画のあのキャラのように。
魔人族は右掌から再度魔法を発動するために出し呪文を詠唱し始める。魔法陣がラノベやアニメみたいに手から飛び出しとても綺麗だ。
「邪神よ、魔王よ我に闇の力を授けてくれたまえ!『ダークスピア』!」
漆黒の矢が瞬時に飛び出し俺の方へと軌道に乗る。間一髪でよけることができたのだがもし少しでもかすれば確実にジョセフの体が吹き飛んでいただろう。
「これが魔人族の力……ゴンザとかい奴より手ごわそうだな……」
「ゴンザ?ああ、あの泣き虫ゴンザのことか。あいつは確か人間に殺されたと聞いたがお前だったのか」
あんなに人間相手に粋がっていながら《《泣き虫》》呼ばわりとは魔人族の世界はかなり基準が高すぎるようだ。ジョセフは魔人族を二人も倒したからと浮足立っていたのだと思い、自惚れが度を過ぎていたことを内心反省していた。
「ここは逃げるか……」
ジョセフは魔人族から逃げることにした。リサは心が読めるためジョセフが逃げる理由を瞬時に察することができるからいいもののテレサ達から見れば敵前逃亡したようにしか見えないだろう。
だがそれでよかったのだ。
魔人族を油断させること自体がジョセフの作戦なのだから。興奮状態でいるあの魔人族は現在まともな判断力を持っていない。それを利用することでマリーに討伐を任せる方が無難であろう。
「マリーさん……ジョセフ様が心の中で……」
リサはジョセフが心の中で思っていたことを小声で耳元で話していた。リサの話しを聞いたマリーはうんうんと頷きジョセフが思っていたことを実行しようと行動に移す。
「『サンダーアロー』!」
誠の右手から『サンダーアロー』が放出され魔人族の右腕をかする。魔力量は多くても魔力コントロールできないため火力は低くゴブリンやスライムなどの低レベルの魔物相手出ないと無双できないのだ。
「慈悲深き地母神よ、我らに聖なる光を与えたまえ『ホーリーライトビーム』!」
マリーの杖からエネルギー波のようなものが集中し『ホーリーライトビーム』が魔人族の身体を貫く。ジョセフの作戦自体は成功と言ってもいいのだが肝心な魔王が復活したのかどうかジョセフは確認することを忘れていた。
「この……卑怯者共っ、が……」
魔人族は下半身がマリーの魔法により失い出血多量で残り僅かの命と言えよう。ジョセフは魔人族の方へとゆっくりと向かい見下ろすような目で魔人族に尋ねる。
「おい、死ぬ前に聞きたいことがある。ワトソン王国を支配しようとした魔王は復活したのか?」
「ふっ……復活したさ……あのお方はっ、あの程度の封印なら自力で……」
魔人族は吐血しながらも丁寧にジョセフ達に説明をしていた。どうせ死ぬのだ。言っても罰は当たらないとでも思ったのだろう。
「そうか、ならばその魔王は別世界から来た存在である説があるみたいだがどうなんだ?」
「あの、お方は……確かに貴様の言うように別世界から来たものだ。そして貴様達が束になっても勝てはしない……そしてワトソン王国を……いや、この世界を支配するだろう……」
魔人族は最後の力を振り絞り「魔人族に栄光あれ!」と叫び力尽きる。
ドラゴン討伐が目的なのにこんなにも魔力を消費してはドラゴンを討伐する前にジョセフ自身どうかなりそうでいた。
魔人族を討伐した後洞窟を抜けドラゴンがいそうな場所を誠から聞き出そうとしたのだが自分のパーティメンバーとイチャイチャしているためタイミングがずれてしまう。
「誠君、ドラゴンなんだけどどこにいるのかしら?」
「えっ?」
マリーは突然、誠に真顔で尋ねる。今まで気にしていなかったのだがマリーの様子が何だかいつもよりもおっかないようで何かにイライラしているのかな程度にしか思っていなかったが誠に対する態度は明らかにおかしい。
「ゴブリンのような低レベルの魔物をジョセフ君に討伐させたりさっきの魔人族だってわざと討伐させているんじゃないか?と疑いたくなる程に偶然が重なっているし」
「本当に僕はジョセフにドラゴンを討伐の依頼をしたくているんだけどなあ……」
誠は何かを隠しているかのように声を震わせる。マリーがここまで怒っているのは初めてだし普段あんなにサバサバしていてひょうきんなのにここまで不穏にいるのはおかしい。
「あたしは心を読んだりとかはできないけどあなたの策略はなんとなく分かる気がするのよ。ジョセフ君の技量を試して魔王を討伐させたいんでしょう?ドラゴン討伐を口実に魔人族と遭遇させたりと」
「マリーさんの言っていることも一理あるけど魔人族がまさかあの洞窟を拠点にしていたなんてのは想定外だったんだ。ジョセフは無報酬でゴブリンを討伐したっていうからどれほどの技量なのか実際知りたかったし……」
「だったら早くドラゴンのいる場所教えなさいよ。そのドラゴンのビジョンとかは見ているんでしょ?」
マリーは誠にしつこく質問攻めを始め、誠は肩を竦めながら溜め息を吐く。
「分かったよ……マリーさん、僕の手に触れてくれないかな?ドラゴンのビジョンを見せればマリーさんも詮索することもできるだろうし」
誠は右手を出しマリーは躊躇いもなく手に触れる。
「『メモリースキャン』!」
マリーは無属性魔法『メモリースキャン』を発動し誠の記憶を読み取りドラゴンのビジョンを見る。そのドラゴンは黒く大きさはおおよそコンビニと同程度の大きさで漆黒の鱗に覆われとても強そうな外見をしていた。
「マリー、ドラゴンはどんな見た目をしているのか分かったのか?」
テレサはマリーに尋ねマリーはうんと頷き無属性魔法『スヌーピング』を発動し詮索を開始した。
「ドラゴンはどうやらこの辺にはいないみたいよ。ホームズ王国の領土にいるのは間違いないみたいだけどね。『エニィウェアゲート』!」
マリーは『エニィウェアゲート』を発動しすぐさまドラゴンの場所へと向かうためにジョセフ達も一緒にマリーのもとへと駆け付ける。
「誠君、あなたはここで待っていて。ドラゴンはあたし達だけで討伐するから」
マリーは冷徹な目で誠に一言言い残し、ジョセフ達は『エニィウェアゲート』の中に入り込みマリーが殿になり入ると同時に空間は元に戻り誠は冷や汗をかきながら唖然としていた。
「僕、何か失礼なことしてしまったかなあ?」
「誠さんがちゃんとドラゴンのいる場所に案内しないから着いてくるなと言われたんですよ。全く、誠さんはたまに抜けている部分があるからそこは改善するべきです!」
誠は自分が何故マリーに同行拒否されたのか理解していない様子でレイラがその理由を説明する。
「取り敢えず彼らが無事に戻ってくるのを待とうか……」
「大丈夫なんですか?あのジョセフって人誠と違って魔法数回使っただけでばてているのに無事にいられると思うの?」
リンは呑気な誠を見て呆れ気味に溜め息を吐く。
誠が何故呑気にいられるのかというとマリーという誠と同等かそれ以上の魔力を持ち、威力の高い魔法を発動できる魔法使いということもあり無事に生還できることを信じていた。
マリーの『エニィウェアゲート』のおかげでドラゴンのいる場所にまで一瞬で到着することができたのだが肝心のドラゴンは草原で眠りついており不意打ちで倒すってのは物語上面白みもくそもないのだが漫画やアニメの世界ではない。ここは躊躇わずに素早く倒していくべきだ。
「マリー、ドラゴンが起きたら面倒くさいからとっとと魔法で倒してくれないか?」
ジョセフはマリーに指示を出す。
「それじゃあドラゴンの鱗か牙だけ残っていればいいのよね?」
「……まあ、倒したという証拠さえあればいいし……」
マリーは詠唱を始める。ジョセフはマリーの実力を信じているからこそ頼める。
「『レールアローガン』!」
光属性魔法『レールアローガン』を右掌から魔法陣を出し発動。
ドラゴンの方へと軌道は乗りドラゴンはマリーの攻撃を予測していたのか目を覚まし上手く躱す。
「あたしの魔法を躱すだなんて……このドラゴン、ただものじゃないわ……」
マリーは珍しく自信を無くしたかのような声で震わせながら膝をつく。テレサとジンジャーは剣を抜き構える。無属性魔法に適性のあるジンジャーなら簡単には負けないだろうが魔法の使えないテレサには相性が悪い。それでも、テレサとジンジャーの気持ちを尊重したいとマリーは思った。
「テレサ、ジンジャー、無理のないようにな……」
「ジョセフこそ、無理はするな」
テレサは切れ長の目でジョセフのことを心配する。そうゆう気遣いができるところは流石騎士長の娘と言った方がいいな。
「『身体強化』!」
無属性魔法『身体強化』攻撃力だけでなく防御力、総合的な身体能力を上昇させる魔法だ。ジンジャーは魔法が使えないテレサを『身体強化』でパーティメンバーで一番の反応速度を持つテレサに魔法を発動する。
「ジョセフは光属性魔法で攻撃を、ジンジャーは私の援護をしてほしい!」
「「了解!」」
ジンジャーやジョセフに的確な指示を出すテレサは瞬時にフォーメーションを整える。マリーには佐藤夏樹とリサ、アイリスの護衛に回ってもらっている。今のマリーの精神状態を考えれば前線に出しても役不足になるだけであり、妥当な判断とも捉えられるだろう。
ドラゴンは鋭い爪を持った右手で切り裂こうと攻撃を仕掛けジンジャーはお得意の無属性魔法『ハイスピード』で回避。鋭い爪により地面を深く抉れており、まともに受けていればマリーの魔法で傷を治癒できるかは怪しいところだ。
「『スパーク』斬り!」
ジョセフは名刀陸奥守吉行に『スパーク』を流し、溶接機のように『スパーク』で高熱帯びた名刀陸奥守でドラゴンに斬りかかるも鱗の部分がダイヤモンドのように硬すぎて亀裂すら入ず、寧ろ当たりどころが悪ければ刀がぽっきり折れる可能性だってある。
「このクエストはもしかしたら失敗してしまうかもしれないな」
冒険者にとって失敗とは死を意味することでもある。
佐藤夏樹は後方から弓矢で狙撃をしているのだが鋼のように固い鱗のせいで矢が弾き飛ばされ牽制にもならず役不足のようだ。
「やっぱり普通の弓矢じゃ貫けねえ……こんなのムリゲーじゃねえかよ!ちくしょうあのハーレム野郎……生きて帰ってこれたら一発ぶん殴ってやるう……」
右拳を力いっぱい握りしめ歯を食いしばりながら佐藤夏樹は誠を思い浮かべる。ドラゴンは激しく咆哮をあげ口から炎を放出し草原は一瞬にして炎の渦に飲み込まれ、焦げ臭いが鼻腔を刺激する。
「仕方ないな……やはりあの魔法を使うしかない」
「ジョセフ様、無茶は駄目です!今の状態を考えればこれ以上魔法を使えば……」
リサはジョセフが『パープルサンダー』を使用することに強く反対しておりジョセフの腕に強く捕まる。テレサは固い鱗が駄目なら柔らかそうな腹部を狙おうとするもドラゴンは尻尾を激しく振り回し薙ぎ払う。
テレサは激しく吹き飛ばされ木に叩きつけられ息ができずに苦しむ。ジンジャーが事前に身体能力を強化する魔法でも発動していたからなのか肺などの気管に損傷が加わるほどのダメージは負っていないみたいだ。
「風よ、我らに力をお貸しください。『ウィンドカッター』!」
アイリスは風属性魔法『ウィンドカッター』を発動しカマイタチのようにズバズバと草原を音速で切り裂くのだがドラゴンの皮膚を切り裂けるほどの威力があったからなのかドラゴンは焦燥しながら回避する。あの硬かった鱗がピキピキと軽く亀裂が入っていることに驚きだったのだがアイリスがここまで戦闘できるお嬢様だとは思ってもいなかった。
リサもアイリスも温室育ちでありながら何故魔法をこうも簡単に使って戦闘に参加できるのだろうと日本にいた頃ならジョセフは確実に思っていたのだろうがこの異世界では実戦経験のないテレサでさえそれなりに戦闘できているわけだからリサやアイリスが戦えてもおかしくはないのだ。
「おっし~い、私の魔法を披露しようと思ったのに避けられちゃった……」
アイリスは悔しそうにしながら俯き目を強く瞑る。
「最大出力で行く!『パープルサンダー』斬り!」
ジョセフは『パープルサンダー』を『スパーク』の時と同じように名刀陸奥守吉行に流し高出力ビームソードのように刀身が伸びドラゴンの鱗に亀裂が激しく生じ皮膚をも切り裂く。
ドラゴンは激しく出血し始め動きもかなりよろめいていた。一瞬、ジョセフは眩暈が生じてしまい激しく吐血しながらふらついてしまう。
「『スパーク』を使用した後に『パープルサンダー』を発動したからなのか体の反応が鈍くなり体もふらつき目のピントが合わない……」
ジョセフは自分はここで死ぬのではと思いっていた。
それほどにまでジョセフの体は予想以上に深刻のようだ。
「ジョセフ様!」
リサは涙を流しながらジョセフの方へと駆け付け急いで光属性回復魔法『ホーリーヒール』を俺に使用する。だが、リサの魔力量では応急処置程度の対応しかできずマリーの時みたいには完治するのに時間がかかりそうだ。
マリーはジョセフ達の戦いを不貞腐れた状態でただ茫然と見ているだけだ。
「マリー、てめえ何ボーっと見ているだけなんだよ!ジョセフが死にかけているってのに何故ドラゴンをぶっ倒さないんだよ!?」
佐藤夏樹はマリーの胸ぐらを掴み怒号をあげる。
「だって、あたしの攻撃が外れたんだもん……」
「一回外れたくらいなんだよ!そんなんで自信なくしてどうするんだ!早くお前が行かないとどの道ここでみんな死ぬかもしれないんだぞ!」
必死にマリーを説得する佐藤夏樹は仲間のことを真剣に考え、マリーは自信喪失になりながらも「また外したら……」と声をこぼす。
「それでも、それでもダメなら何度だって立ち向かうんだよ!人間ってのはよ、何度壁にぶつかっても乗り越えなきゃいけねえんだよ!」
「分かったわ……やればいいんでしょ……」
マリーは不貞腐れながらもドラゴンに再度挑戦することを試みる。
「俺達が囮になるからその隙に魔法を使うんだ」
佐藤夏樹はマリーに指示しドラゴンに弓矢で狙撃し続ける。ドラゴンの方へと軌道に乗った佐藤夏樹の放った矢は出血している部位に命中し、矢はドラゴンの体内へと入り込み出血量は激しくなる。
テレサとジンジャーはチャンスだと思い腹部や首元を剣で斬りこんだり刺したりと傷口を増やしドラゴンを弱らせる。
ドラゴンはふらつき倒れそうになっても抵抗を続け炎を噴射しようとした瞬間ジョセフは残っている力を振り絞りもう一度『パープルサンダー』をドラゴンの口に目掛けて発動する。
「グラルルゥ〜……!」
『パープルサンダー』は命中しドラゴンの口は裂け、悲鳴をあげるように呻き声をあげ横へと激しく耐えれ込み砂埃が舞う。それにしてもすごいな、口が裂けたっていうのに声を出せる体力が残っているとはドラゴンの耐久力は尋常ではなかった。
「ぐはぁっ!」
魔力が有り余っていた時ほどの出力で発動していないのにジョセフは激しく吐血をしており、『パープルサンダー』が如何に殺人的な魔法なんだとジョセフは思いながら地面へと叩きつけられるように倒れ込んでいた。
「今だ、マリー!」
佐藤夏樹はマリーに言う。
「『レールアローガン』!」
光属性魔法でも上位種の魔法『レールアローガン』通常の人間なら一発使えば殆どの魔力を使い切ってしまうのだがマリーの元々の魔力量を考えれば勇者級のチートなのが分かる。ジョセフの『パープルサンダー』よりも出力は高いようで某バトル漫画のエネルギー波を放出していた。
マリーの『レールアローガン』から発せられる稲妻の衝撃により地面は激しく抉れドラゴンの手だけが残った状態で地上から消滅していた。
ドラゴンを討伐後マリーはすぐさま『パープルサンダー』を使用して瀕死になったジョセフを回復しようとするのだが『ヒール』では完治する前にジョセフの命が尽きるとのことからマリーは多大な魔力量を必要とする『ホーリーヒール』を使用。
暫くは安静にしなきゃいけないとのことでマリーはワトソン王国の宮廷に『エニィウェアゲート』を開きリサとジョセフだけ先に帰りテレサ達は誠達のもとへと『エニィウェアゲート』を開く。
「ジョセフ君、もう『パープルサンダー』は使わない方がいいわよ。あの魔法は光属性と闇属性を複合した魔法であたしでも複合魔法使えば無事でいられるか分からないほどに危険なものだからよ。それに元々あたしが魔力解放してから体が魔法に馴染んでいないんだからもう複合魔法は使っちゃだめよ!」
マリーは『エニィウェアゲート』を開く前にジョセフに念を押しながらジョセフに複合魔法『パープルサンダー』を使用することを禁じた。
(使うなと言われても使わざるを得ない敵に出会うかもしれないというのにそんな悠長にいられるわけないだろ!)とジョセフは内心思っていた。だが、リサをこれ以上悲しませないためにも使用頻度を極力避けてマリーに戦闘任せるのも手の内であろう。元々マリー自体個人プレイしまくりな人間であるためその辺の配慮はしてくれるだろう。
「ジョセフ様、これ以上一人で戦おうとしないでください。ジョセフ様はいつも一人何かを抱え込んで無理しているのは心を読まずとも感じ取れるものですわ……」
宮廷に戻った後リサと寝室で二人きりになりジョセフはリサに説教をされる。
「そうだな、俺は一人で戦っているわけではなかったな……リサの言うことは正確な評論だ。仲間の力を借りることということを普段しなかったからすぐにとはいかないが今後はリサ達のことを頼れるように努力するよ」
今まではジョセフのワンマンプレイだったがチームで戦うことの大切さというものがドラゴンとの戦いで痛感しマリー達が今頃誠達とどのような会話をしているのかが気になってしょうがない。ジョセフにもマリーのようにいきたい場所へ移動できる能力だったり魔法があればいいのにと思っていたのだがないものねだりしていても出来るわけじゃない。
リサと二人でベッドへと眠りにつきリサの小さな胸がジョセフの腕に当たるがもう慣れた。別にリサに欲情して如何わしいことをしようと思う程ロリコン趣味を持ち合わせているわけじゃないし「リサたんハァハァ……」なんて変態じみた妄想なんかはしない。というよりそんなことを妄想したら確実にドン引きされてゴミを見るような目で見られるに違いないだろうからだ。
リサがジンジャーくらい巨乳でもう少し身長が高く年上のお姉さんだったら考えなくもないのだろうが、二次元の美少女にも匹敵するほどの可愛さもあるわけでジョセフ自身満更でもなかった。
『エニィウェアゲート』で誠のもとへと向かったマリーは誠にドラゴンの爪と牙をぶっきらぼうに投げ渡した。
「本当に僕なしでドラゴンを討伐したんだね……」
誠はまさか本当に討伐するとは思っていなかったようでかなり驚愕していた。
「ええ、おかげでジョセフ君が無茶しすぎて瀕死になったからすぐに魔法で回復してリサちゃんと一緒に帰ってもらったわよ」
「それは済まないことをしてしまったね……」
「あなたがドラゴン討伐なんて依頼をしなければジョセフ君が死にかけることもなかったのよ!その責任はどうするつもりだったの?」
マリーは怒号をあげ誠に質問攻めを始める。誠は「ジョセフなら無事に討伐してくれると信じていたから……」と言うだけで反省しているようには見えない。
誠自身に悪気がないのは傍から見ても分かるがそれで命を落とすとなればただで済むわけがない。マリーは同じ冒険者仲間として仲間を心配することは当たり前だったのだ。
マリーはすぐさま『エニィウェアゲート』を開きワトソン王国へと戻り、佐藤夏樹は誠に「べーっだ!」と舌を出す。テレサは「みっともないぞ!佐藤夏樹!」とツッコミを入れジンジャーはテレサを宥めアイリスは唖然としている。
「誠さん、マリーさんに嫌われてしまいましたね」
リンは誠に一言そう言う。誠の髪の毛とロングコートが風でなびき考え事をしていた。
(僕はあのマリーって人が何故あそこまで僕に敵意剥き出しなのか理解できないけどもしも僕がマリーの言うことを無視して同行していればジョセフを瀕死に追い込む真似はしていなかったのになあ……でも今はそんなことを考えている場合ではないかな。またジョセフと共に行動もできるだろうし)誠は相変わらず危険な目に合わせていることに自覚がなく何故マリーがあんなに起こっているのかが理解できずにいた。
今の誠は再びまた一緒に行動できることを信じフッと笑う。リン、トキ、レイラ、マギーは何故誠が笑っているのか理解できず茫然としており「まあ誠さんのことだし……」と質問することはなかった。
「それにしてもよう、何でマリーはあのハーレム野郎にあんな殺意剥き出しなんだ?」
「私もそれ気になるな」
「ジョセフが瀕死になる前からそんなんだったけど何かあったの?」
佐藤夏樹がマリーに尋ねテレサ、ジンジャーも続けて質問をする。
「…………別に何もないわよ?」
マリーはいつものようにひょうきんな顔でニコッとしてそう言う。テレサ達はそれでもやっぱり気になるみたいでしつこく尋ねるのだがマリーは一向に答えようとしない。
それどころかマリーは話題を逸らそうとドラゴン討伐したことをギルドに報告すべしとすぐさまギルドの方へと佐藤夏樹達を強引に連れて向かう。
ギルド前へと『エニィウェアゲート』を使い到着しギルドへと足を踏み入れる。ギルドの受付にはいつものようにお姉さんがいてマリーはドラゴンを討伐した戦利品としてドラゴンの牙と爪を受付のお姉さんに手渡しをする。
明らかに誠の時と態度が違い佐藤夏樹達は頭にクエスチョンマークを浮かばせる。
佐藤夏樹は(女ってやっぱ怖えなあ……)と内心改めて実感する。国民的アイドルが表向き清楚でとても愛嬌のある優しい女のことだと思ったら蓋を開けると中身は下品で男好きのビッチで性悪女であることを知り幻滅するのと同じだ。佐藤夏樹は日本にいた頃を思い出し頭を掻きむしり始める。
理想としていた異世界でのウハウハハーレムを誠という転生者が体現し、チート能力を神様から授かっていることを考えれば情緒不安定になりかねない。




