気づく想い
短編第9話です。
一話完結!!
季節を廻っていきます。
TOKIシリーズですが関係ありません。
登場神物はTOKIの話シリーズ本編に出てくる者達を使っております。
ある山の中にひっそりと一つの村があった。住んでいる半分以上はお年寄りという若者があまりいない静かな村だ。
そんな村の中に唯一、小学校が存在していた。名前は高梅山分校。この学校はいつ廃校になるかわからないギリギリを彷徨っている学校であった。
この学校の裏に住んでいる呑気な神様、稲荷神のイナは神社が小学校の近くにあるからか何故か幼女の姿だ。
元々きつねだったイナは人型になるのが苦手らしく、少しだけ変化が下手くそだった。服装は巾着袋のような帽子をかぶり、羽織袴である。黒い髪は肩先で切りそろえられていてもみあげを紐で可愛らしく結んでいた。
「あーあ。」
そんな不思議な格好をしているイナが小さな社に腰かけてため息を漏らしていた。
「何々?ため息ついて。」
ため息をついたイナの前方に一人の女がいた。女は神社の石段に座り、イナに呆れた目を向けていた。
その女は麦わら帽子にピンクのシャツ、オレンジのスカートを履いている少し地味な少女だった。
「暇だよ。地味子!」
イナは麦わら帽子の女を地味子と呼んだ。
「あのね、私は地味子じゃない!ヤモリ!民家を守る神、家守龍神!やもり!」
地味子を否定し、ヤモリと名乗った少女は不機嫌な顔に変わった。
「ああ、ごめん。ごめん。ヤモリ。……暇すぎて頭がぼうっとしてきたよ。」
「まあ、確かに暇。十月に入ってから何にもしてないよね。」
今は十月中旬だ。だいぶん寒くなってきて日も短くなった。なんだか中だるみをする時期である。
しばらくぼうっとしていたヤモリだったがあることを思い出し、急に目を輝かせた。
「ねえ、イナ!いいこと思いついた!」
「ん?何?お昼寝するのはちょっと今日は寒いし……。」
「お昼寝じゃなくてカフェ行こう!喫茶店!ほら、この学校の上にある高梅ダムの近くに人が全然いない喫茶店あったよね!」
ヤモリの発言にイナが勢いよく立ち上がった。
「それだ!それいい!私は人に見えないからお支払いはヤモリに頼むけどいい?」
「いいよ。それくらい払ってあげる!ああ、久しぶりに温かい紅茶でも飲もうかな。」
「ケーキ食べたい!ケーキ!」
ヤモリが思いついた名案にイナの気分が一気に上がった。
「じゃあ、行こうか。イナ。」
「うん!うん!今行こう!やれいこう!」
イナとヤモリはいつものテンションを思い出し、うきうきとした気持ちで喫茶店へと向かった。自然は多いのだがこの辺には都会のように気軽に行ける場所というものがなかった。
唯一あるのが山を下った先にある駄菓子屋か山の上にある喫茶店だった。
イナとヤモリは神社の石段を下りてから分校の校庭を横切り、竹林の道に出た。今はお昼過ぎだが冷たい風が吹き抜けていた。今日は少し肌寒い。
「えーと……この道をずっと上へ登っていくんだよね。」
イナとヤモリは足早に竹林の坂道を上へと登って行った。しばらく歩くと湖のように広い高梅ダムが見えてきた。ダムの下にある梅山湖にはスワンボートが寂しく風に揺られていた。
今日は平日なので観光客はほとんどいない。
ダムに続く道のわきに少しレトロな雰囲気の喫茶店があった。
「あった!カフェ梅子。」
その喫茶店の横に『カフェ梅子』とおしゃれなデザイン文字で立て看板がひっそりと立っていた。
ヤモリはイナを連れて古いドアを開け、店内へと入った。
「いらっしゃいませ。」
店内に入った瞬間、おばあさんが笑顔でこちらに挨拶をしてきた。
「えーと、一人なんですけど二人座れる席がいいです。」
ヤモリはおばあさんに一言添えた。ヤモリは人に見えるがイナは人には見えない。一人席に誘導される恐れがあったからだ。
「はいはい。お好きなお席へどうぞ。」
おばあさんはにこやかにそう発すると奥へと去っていった。よくみるとほとんどの席が空いている。イナとヤモリは窓の近くの二人席を選んで座った。
「さて、イナ。どれにする?」
「お!チーズケーキおいしそう!アイスミルクある!アイスミルクいいな!」
ヤモリとイナはメニューをめくりながら嬉々とした表情で頼むものを決めていた。
その時、ゆらりと影が近づいてきた。イナとヤモリはおばあさんが注文を取りに来たのかと思い、にこやかに顔を上げた。
しかし、テーブルのわきに立っていた影はおばあさんではなかった。
ヤモリとイナの近くで立っていたのは天然パーマの銀髪をなびかせた羽織袴の男性だった。
「……げっ。」
イナはぽかんとしていたがヤモリは顔色を悪くしながらその男を見上げていた。男はにこやかな表情でヤモリに話しかけてきた。