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狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子  作者: 雛仲 まひる
ちょっと? 九尾3人娘イラストそろい踏み感謝際! ちょっと? 九尾な女の子 番外編&短編
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~ 狐と紅葉 ~

 私の名前? 私にはまだ名前が無い。


「次の方どうぞ、69番の番号札をお持ちの妖さん。3番窓口までどうぞ」


 今、私は人間が対妖被害対策に組織した、妖殲滅組織GEO本部の住民化(人間界でいうところの住民課)に来ている。


 意に沿わないけれど、これから人間の女の子として人間界で生きることになるからだ。


 “対妖怪殲滅組織”(Ghost extermination organization)通称GEO=ゲオ。近年になって活発化し、人間に害を成す妖が増えてきたことから、妖退治を任務とする国家組織らしい。


 しかし妖退治をするだけが仕事というわけでもないらしい。


 人間に有益であり協力的、また人間として人間界で生きることを選択した妖に対しての人間界で生きていくために必要な事や物を教え、与えてくれることもしているらしい。


 だが私には良く分らない。


 なぜ妖の中には仇敵とも言える人間と仲良く共存したいと思う奴らがいるのか分からない。


 人間どもは妖から世の全てを奪い、闇の世界へと追いやって自分たちが主となり世界を牛耳っているというのに……。


「こんにちは。ではあなたが今後人間界で生き、そして人間と同じように生活を営む上で必要になる手続きをはじめますね。事前に記入してきて貰った書類を見せて頂けますか?」


「……」


「これですね、では拝見しますね。先ずはあなたのお名前は……?」


 人間界で生き人間界での人間として名乗りたい名前を記入する欄を未記入のまま提出した。


 だって私には名前が無いもの、名乗りたい名前もないもの。


「ではあなたの種族を聞かせて頂けますか? これまで登録済みの中からあなたと同じ血族の妖さんたちが名乗った苗字を参考に考えていきましょうか」


「犬神、私は犬神」


「そう犬神なんですね。では可愛らしい犬神さん。犬神は大きな一族の一つです。犬神を代表する苗字は【犬飼】【犬上】【犬持】などありますが、別にあなたが付けたい苗字を自由に選択できますよ」


「犬飼は知っている」


「では犬飼にしますか?」


 私は静かに首を横に振った。犬神であることは変わらない、だけどなぜなら私は“狼”だから。狼の付喪神だもの。


「私は狼」


「おおかみ? 大神? 大神にしますか?」


「大神……それでいい」


「では次はお名前を決めましょうか?」


「……名前?」


「はい、名前です」


「名前……」


 しばし私は考えてみた。考えている内に“あの人”と初めて出会った日の事を思い出した。





 あれはもう数百年も前のこと。季節は冬に向かう秋、黄金色の夕日が美しい晩秋の日の事。


 あの人はあの日。人の姿を取って犬神一族から離れ人里を越えた、その日、深い山々を越えたところに開けた銀色をした穂を垂れ風にそよぐススキの野で私の前に突如、姿を現した。


 一面銀色の野に黄金色の夕陽を背負って、その夕陽が霞んでしまいそうなくらいに美しい蜂蜜色の長い髪の毛を後ろで髪紐で結わえ、見るからに細い肢体を艶やかな着物で身を包んでいた。


 燃え盛る炎のような真紅の眼、その紅い目の上に乗る形の良い細い眉、その中心を形の良い鼻筋が通り、その下には同性でも奪いたくなる程の小さくて薄い可愛らしい唇が均整のとれた美しく可愛らしい小さな顔に乗せた人の姿をした妖だった。


 燃え盛る炎のようで情熱に満ちた紅い眼で、なにかを、誰かを探しているような……それでいてなぜか紅い眼は寂しげに、虚ろに辺りを見渡しては小さな唇から切なげな溜息を漏らしていた。


 私はその美しいあやかしのことが気になった。


 長い時を生き、狼から付喪神という妖になってから初めて他人が気になって聞き耳を立てた。


「はぁ~。……どこ? どこにいるの? ウチがこんなにも探したげているのに……、あんたってば何処にもいないんだから……」


 あんた? ということは物ではなく自分以外の誰か。


 目の前にいる妖は、こんなにもはっきり見えているのにその姿は時折、陽炎のように揺らぎ、存在自体が不安定で危なげでいて儚げに見えた。


 これはきっと思念体だ。


 彼女の強い想いが思念体となってまで、想い人を探し求めて現世に姿が見えるほどにまでなって現れたんだ。


 彼女との一度目の出会いは、彼女は私の存在に気付くことなく、木枯らしの運んで来た紅葉も終わり、風に散らされた紅葉の紅い葉と共に消えてしまった。


 それから暫くの間を置いて、深い深い白銀に埋め尽くされた世界で、私はまた彼女と再会することになる。


 もうダメ……、いっそこのまま力尽きてしまえたなら、あの賑やかだった頃に、仲間たちが大勢いた頃に帰れるのかな?


 深い深い山中、深い深い雪の中、ひとり、犬神一族を離れた私は他の妖たちの標的となり追われ傷付き倒れた。意識が薄れて行く中にあの日、犬神一族を離れた日に見た蜂蜜色の髪の毛をした美しい少女が現れた。


「どうしたの? こんなに傷付いちゃって。あんたひとりになったところを他の妖どもに襲われたわけ? バカね、犬神如きが単独行動をとってひとりになるなんて、あんたら犬神なんて弱いんだから群れていればいいのよ、群れていれば」


 彼女が放った言葉に私は憤りを感じた。


 犬神は弱い妖の部類じゃない。寧ろ妖の中でも強い部類の一族だ。それに私はその上に立つ狼だ。


 弱くはない、決して他の妖たちに後れを取ることなどない。一対一なら。


「だからバカだって言ってんのっ! なにあんたひとりになって大多数の妖に追い込まれて死にそうになってんの? あんたには仲間が居るでしょ? なのに仲間と袂を別って来ちゃうなんてバカだって言ってんのっ。ほんと……バカなんだから、そんな寂しそうな目をしちゃってさ……。あんたには会いたくなったら何時でも会える仲間たちがいるでしょうに……」


 蜂蜜色の美少女は言いたい事だけを言って言葉を閉じ、髪の毛と同じ色をしたもふもふの尻尾を九本出すと、その内の一本の尻尾から一振りの刀を取り出した。


「これあんたにあげるわ、火絶銀狼丸っていう人間が拵えた妖殺しの刀のひと振りよ。あんたはこれからも生きなさい。生きて仲間と共に過ごしなさい。この刀はその手助けになると思うわ」


 黄金色の九本の尾? もしかして……。


「あなたは九尾の狐? 九尾の狐なの?」


 妖界でも人間界でも有名な大妖怪九尾の狐。だけど九尾の狐は人間たちに討たれ、今は封印されているはずなんじゃ……。


「そう、ウチは九尾の狐よ。正真正銘の白面金毛九尾の狐だわ。まあ本体じゃないんだけれどね」


 だから思念体なんだ。


「あんたの髪の毛ってさ? 綺麗な桜色よね、桜といえば春よね? 春といえば暖かい季節だわ。それなのになんであんたはそんなにも凍えるような寂しそうな眼をしているのかしら」


 えと……それって髪の毛の色とか関係なくね?


「まあいいわ。似合わない、似合わないっつてんのっ。あんたさ? そんなに可愛い容姿してるんだから、とりあえずは生きときゃいいのよ、生きときゃ。いいこと? 可愛いは正義よ」


 凄い……流石は噂に聞いて来た九尾の狐だ。言う事が理不尽で傲慢だ。


 彼女は倒れて動けない私に近付き、思念体の体でそっと私の体に手を振れた。その瞬間に流れ込んでくる物凄い量の妖気が体に入って来た。


「ありがと、狐。……私は狼、狼の付喪神よ」


 彼女は「あ、そ」と素っ気なく返事を返しただけだった。


 私なんかにまったく興味を示した様子も無く、彼女は前に見た時のように辺りを見渡し誰かを探しているみたいだった。


「はぁ~……。ここにも居ない……」


 切なげに溜息を吐いて肩を落とした彼女の思念体が陽炎のように揺らぎ始めた。


「狐? あなたはいったい誰を探しているの? もしよければ助けてくれたお礼に私も探すのを手伝ってあげる」


「はぁ? あんた、そんな調子のいい事言って、ウチからあの人を奪うつもりなんでしょ?」


 あの人? じゃあ探しているのは人間?


「違う。私は狐にお礼を……、いいえ、狐となら私は……」


 上手くやっていける気がする。力を疎まれ強さを妬まれてきた私を解ってくれるのは、封印されて幾時が過ぎようとも語り継がれる大妖怪九尾の狐、強い妖のあなただけ。


「私が狐の封印を解いて復活させてあげる」


「ダメよ。ウチはまだ復活の時じゃないわ。だって……あの人がいないんだもん、そんな時代を生きてもウチには無意味だわ」


「そんな……狐には私が、私がずっと傍にいてあげる。寂しい想いは絶対にさせない」


「ありがと、でもね? ウチはまだいいわ」


 ……そんな悲しい顔をしないでよ狐。


 彼女の思念体は悲しみの表情のを浮かべたまま、二度目は白銀の世界から消えてしまった。





 一度目は紅葉の葉とともに消えてしまった“あの人”にやっと会える。


「あの? 名前は決まったかしら狼さん?」


「紅葉。紅葉にする」


「まあそれは良い名前だわ。大神おおがみ 紅葉もみじ……さん、っと。あともう暫く御手続に時間が掛りますけど、これであなたも人間界の住民ね。ようこそ人間界へ。大神 紅葉さん」




 蜂蜜色の長い髪の毛を後ろで大きな赤いリボンで結んで、見るからに細い肢体を青と白のコントラストが鮮やかな制服に包み、白くしなやかな美脚を白いニーソックスが覆う太ももはゴムの辺りで締めつけて扇情的な絶対領域を惜しげも無く晒している。


 そんな美少女の彼女の現世での名前は久遠寺くおんじ 美九音みくね


 不安定で危なげで儚かったあの時とは違い、危なげないしっかりとしたゆるぎない彼女の姿が私の眼に映っている。


「ちょっと? 知泰っ。ウチに内緒でニコニコおはよー∠(#`Д´)/プリン食べたでしょ? それになに? あんたまたベッドの下に、お、おおお、おっぱいの大きい女の子が沢山載った本、買ってたでしょ! ウ、ウウウ、ウチには……ウチの可愛らしいおっぱいには全然興味示さないって、どういうことっ! この浮気者っ」


「なにを言っとるんだ、お前はっ! 公衆の面前で人を浮気の常習犯みたいに言うなっ! てかお前、俺の彼女でもなんでもねぇーじゃねぇーかっ」


「そ、そうだけど……幼馴染だもん! 幼馴染みの趣味嗜好について知っておくのは幼馴染みとしての常識よ」


「どんな常識なんだよ、それっ! お前の常識を一般常識のように言うな」


 そんなちょっと? 九尾な女の子は燃え盛る様な紅い眼で、腕組みをして、ひとりの冴えない男の子に向かいぷりぷり文句を付け怒りながら罵っている。


 だけどそんな彼女が私には、どこか嬉しそうで楽しそうで、そして幸せそうに見えた。


 それが私がこの時代で三度出会った九尾の狐である“あの人”だった。


挿絵(By みてみん)


「ああもうああもうっ! ああ言えばこう言うんだからっ、知泰はっ」


「…………」


「ねぇ聞いてるの? 知泰っ」


 狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子 番外編 ~ 狐と紅葉 ~


  お終い。







 こんばんは。雛仲 まひるです。


 頂いたイラストに小話を添えました。


 お礼の意味合い感謝の意です。コラボとなると話が負けちゃって恐れ多くて(笑)


 「ちょっと? 九尾」を拝読くださりお気に入りしてくれている読者さまに、イラストの美九音の可愛らしさに負けないように、もっと気合を入れた物語にしていかなければ、と決意する今日この頃ですw


 イラストを頂いた直ぐには小話も思い付かなくて、話も纏まっていなくて書けませんでしたが、本日、変な電波が降りてきましたのでw


 今回はいつか書いてみたいと思っていた大神 紅葉、狼の付喪神で妖の彼女と美九音(九尾の狐)の出会いです。


 作中にちょっぴり出ていますが、紅葉視点でこのお話は書きたいな、と思っていました。


 イラストに小話を付けてお礼を出来たら、それしか出来ない僕なんですが(笑)


 これまでもイラストには番外編などの小話を添えさせていただいていますので、恒例行事みたいなものなんですがね。^^


 遅くなりましたけどイラストを描いて下さった絵師様のTOTOさんに喜んで頂ければ幸いです。


 また「ちょっと? 九尾」を御拝読下さる皆様にも喜んでいただければ、と思います。


ご拝読アリガタウ。


暫くの間、番外編、特別編にお付き合いくださいね^^


では次回もお楽しみにねっ!

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