C田さんの話
俺がいつも通勤で使う道に、古びた家があるんだ。
郵便局の真裏にあるんだけど、人が住んでいる気配がないからずっと廃屋だと思っていた。
ある日、残業が長引いて帰りが深夜になったんだ。
疲れたからコンビニで弁当とビール買って、家までの道を急いでたら道の先に明かりが見えるわけ。
近づいてみたら、あの廃屋だと思ってた家に電気が点いてるんだよ。
誰かが引っ越してきたのかと思ったけど、表札は無いままだし、玄関周りの草も伸び放題。
変だな、と思ってそっと窓の方を見たんだけど、その窓、開いてるんだよ。
空気を入れ替えるみたいに、家中の窓を完全に開け放ってた。
防犯用の目の細かい金網が張ってあって、その向こうにダイニングキッチンが見えた。
生活感あふれる食器棚に、古めかしい花柄のテーブルクロスが敷かれた机が置かれてる。
窓からふんわりと醤油を煮詰めたようないい匂いがして、水の流れる音とカチャカチャと何かが擦れる音がした。
あー、食器を洗ってるんだ、って思った。
廃墟じゃなかったんだ。
人が住んでるなんて知らなかったなーってぼんやり考えながら家に帰って、ご飯食べて寝ようとした時にふと変な気分になった。
なんだろう。何か変だ。
さっきの家をよく思い出してみた。
防犯用だと思ってた窓の金網。
でも、その金網って、今まで一度も見たことがなかったんだ。
毎日毎日家の前を通ってるのに、わからなかった。
どう考えても、あの金網は家の内側から取り付けられているものだったんだよ。
家の窓という窓全てに、びっちりと金網が内側から打ち付けられてるんだ。
それだけじゃない。
まるで檻みたいに、壁中に金網が張り巡らされていた。
どう言えば伝わるかなぁ……家の壁の内側をそのまま丸ごと金網で囲ってあるんだよ。天井も、壁も全部。
だから家の中に、一回り小さい家の形の檻がすっぽり収まってるみたいだった。
その檻の中に食器棚とか机が普通に置かれてるんだ。
指がようやく一本通るかどうか、ってぐらいの細かい目をした金属の網だった。
防犯用ならやり過ぎだし、生活するにも不便すぎるだろ?
だって、そんな物を取り付けたら家の中から窓を開けるために、いちいち金網を外さなきゃいけない。
何でそんなことをしてるのか俺には全然意味わかんないから、これはただの想像なんだけど……
普通の家とは逆の方向から金網を取り付けてる、ってことは理由も別物なんじゃないかって思わないか?
あの家は、たぶん防犯対策をしてると思われたくないんだ。
金網でガチガチに窓や家を補強して、何も入れないようにしてる。
でも「誰も入れないようにしてる」とは絶対に思われたくないんだ。
いや、想像だよ?俺の想像。
でも、想像したら、怖くなっちゃって。あの気味が悪い家の中で、誰かが今も息を潜めて生活してるんだ。
その人は金網に囲まれた家の内側で、何が家に入ってくるのを警戒してるんだろう。




