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A坂さんの話

 小学生の時に、変なクラスメイトがいてさ。

 陰気で、休み時間でも下向いたまま教室の椅子に座ってるような奴。

 みんなが話しかけてもほとんど反応しないし、俺が「遊ぼう」って誘っても無視するんだ。

 最初は声をかけてた子らも、だんだんソイツから離れていった。

 ある時、ソイツが席替えで俺の隣になったんだ。

 俺、めちゃくちゃ嫌だったんだよ。

 アンタだって、仲良くも無いつまんねー奴と隣の席になったら嫌だろ?

 授業中に声をかけたり、ソイツを小突いてみたりしたんだけど、やっぱり反応しねーの。

 それが更につまんなくて。


 でさぁ、えーっと、あれは国語の授業の終わりだったはずなんだけど。

 作文の授業があったんだ。

 家族について書きなさい、みたいなお題だった気がする。

 いや、俺は何を書いたんだか全然覚えてないんだよ。

 でも、俺の隣の奴が何を書いたかははっきり覚えてるんだ。


『ぼくのお姉ちゃん』ってタイトルだったから、たぶん自分の家族か、好きなものについて書いたんだと思う。

 で、その隣の席の奴が書いた作文が……その、何て言ったらいいんだ……?シスコンみたい、って言うのかな?

「お姉ちゃんが大好き」「お姉ちゃんに会いたい」的な文章で。

 隣でそれを覗き込んだ俺は、それを馬鹿にする気持ちで取り上げて、みんなの前で大声で読んじゃったんだ。

 いつも無反応なソイツが、お姉ちゃんに甘えたような作文書いてるのが面白くて、情感たっぷりに甘えた声で朗読してやった。

 それで、「なぁ、みんなコレ見ろよ!」って作文の用紙を裏返して、みんなに見えるように向けたんだ。


 みんなはそれを見て、苦笑いしたり、嘲笑ったり……「きもちわるーい」って言う奴もいた。

 俺は、今でもその日を後悔してる。


 いじめを後悔してる、なんて良いものじゃないんだ。

 みんなに見えるように掲げた原稿用紙の裏側に、鉛筆で小さく書かれた文字が目に入ったんだよ。


『ぜんぶ、うそです』


 そう書いてあった。

 俺、その言葉を見た瞬間に、これは見てはいけないものだって思った。

 何も気づかないふりして、すぐに隣の席のソイツに作文を返した。

 でも、そいつ、言うんだ。


「ありがとう」って。


 みんなの前で、作文を馬鹿にして読まれたのに、初めて笑いながらお礼を言ったんだ。

 誰かが告げ口したんだと思うけど、その後、俺は先生に呼び出された。


「彼のお姉さんは、ずっと昔に行方不明になってしまったんだよ。それなのに君は……」って先生は作文を馬鹿にしたことをずいぶん怒ってたよ。

 でも『ぜんぶ、うそです』の文字には先生は何も触れなかった。

 もしかしたら、気付いてなかったのかもしれない。


 俺……俺、さ。


 ソイツが「ありがとう」って言ったのは、作文を返したからじゃなくて『ぜんぶ、うそです』の字を俺が見たからじゃないかと思うんだ。

 なぜかわからないけど、その字だけがソイツの本当の言葉に思えるんだ。


『ぜんぶ、うそです』


 あれってどこまで全部なんだろう。

 本当に全部が全部ウソなら、それは───


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