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1.フリードリヒ様との結婚

 その日も私は庭の薔薇を写生していた。

 貴族のくせに戸外に出てキャンバスに向かっている女、エミリア・リーベンタール。それが私だった。

 リーベンタール家の爵位は伯爵である。それは低くもなく高くもない爵位だ。

 そんな貴族としては普通の家柄の次女として生まれた私は、地味で大人しく特にとりえもない令嬢だ。

 勉強も運動も出来るわけではなく気も弱いため、よく利用される。

 だが、それも仕方のないと思ってしまうほど私は冴えなかった。

 趣味も碌なものではなかった。ご覧の通り庭の植物の写生である。

 美しい絵など画家を呼んで書かせるもので、汚れても良いような服を着て令嬢がやるものではない。

 年頃の令嬢は刺繡をするものだが、あいにく私は酷く不器用なので最低限しかできない。

 話についていくため流行りの恋愛小説くらいなら読むが、読んでいる時は楽しくても、現実に戻ると自分と縁遠い話であることに気づき、虚しくなる。

 けれども、絵を描いている間は無心になれるので、上手くはないがよく描いている。まぁ、下手くそなので描いた絵は大体捨てているけれど。あんなもの残しておいても邪魔なだけだ。

 私には姉と妹が1人ずついた。

 長女のエリーザ姉様は文武両道で、我が家には男児がいなかったためお父様の期待を一身に受け経営学を学んでいた。その優秀さから貴族学校では多くの人望を集め、伯爵という、とりたてて高い身分ではないにもかかわらず上級貴族である一部の公爵家とも交流があった。

 三女のニコルは見目麗しい少女だった。その幼くも整った顔立ちは多くの異性を惹きつけ、常に流行りのものを身に着けていた。それは他の令嬢からも羨まれるほどで、彼女もまた多くの侯爵家の男性や公爵に愛されていた。その可愛さからお母さまにも大変愛され、一緒に買い物に行っては服やアクセサリーを大量に買い込んで帰って来た。

 対して私はお父様にもお母様にも好かれていない。

「平凡なのだから、せめて恥ずかしくない存在でいてくれ」

 それがお父様とお母様が私に望んだものだった。

 昔は期待してくれていたのだが何をやらせてもパッとしないので、我が家の存続になんの役にも立たないのである。お母様とお父様に好かれないのも無理はない。

「はぁ、今夜はまた社交パーティか」

 絵筆を置いて天を仰ぐ。

 エリーザ姉様と妹のニコルが出るのに私だけ出さないというのはおかしいということで、お父様とお母様は私も参加させる。

 しかし、実際のところ私は空気である。

 私のところに来る男性貴族はあまりいないし、あっても目当ての令嬢とお喋りするためのつなぎだったり、1人ぽつんといる可哀そうな令嬢の話し相手になってやろうとしてくれる優しい人達だ。

 ちなみに、私も女性として声を掛けられることがない訳ではない。

 しかし、大体が他の女性の2番手としてだった。浮気相手だと気づかず付き合い、後に判明し別れるという事が何度かある。

 という訳でもうお判りいただけたと思うが、私は至って何のとりえもない、害になるわけではないが、何かの役に立つこともない女という訳だ。



「以前から言っていた通り、姉のエリーゼが20歳になり結婚をする。それに合わせニコル、エミリアにも他家へ嫁いでもらう」

 お姉様の誕生日が1か月前に控えた今日、お父様がディナーの後にそう言った。

 エリーゼ姉様が我が家を継ぎ実質的な当主になるため、経営に邪魔な妹2人をさっさと嫁に出そうというお父様の考えだった。

 我が国は18で成年になる。妹のニコルが大人になるタイミングを待って3人で結婚という事だ。

 エリーゼ姉様は伯爵家の5男と結婚することが決まっていた。我が家に婿入りし、エリーゼ姉様と一緒に我が家の事業や領地経営を担っていくのである。

 これも我が家を大きくすることに余念のないお父様の考えだった。5男は相手の家からすればあまり大事ではなく、むしろずっと家にいられても邪魔である。相手の家からすればどうでもいい5男を引き受けてくれて喜ばしく、こちらからすれば婿入りしてくれて領地経営に口出しされにくい都合のいい結婚相手だった。

 一方ニコルは侯爵家の次男と結婚することが決まっていた。

 我が家より上級の嫁ぎ先に、お父様とお母様は歓喜していた。どうも、ニコルの美しい容姿が侯爵家の男性の目に留まったらしく、相手がかなり無理をして結婚までこぎつけたらしい。その身分差の恋の噂で一時社交界は持ちきりだった。お相手はイケメンで、ニコルに首ったけなので、ひどい扱いをされることもなく良い嫁ぎ先だろう。

 私はというと同じ爵位である伯爵の男性との結婚が…

「エミリア、残念ながらお前の結婚は白紙となった」

「…え?」

 あまりの驚きにそれ以上何も言えなくなった。

 何で?何か悪いことでもしただろうか?お会いした時は当たり障りのない会話をしたはずなのだけれど…

「実は、お相手のオイゲン様は他に想っている方がいたそうで、その人と添い遂げることになったの!」

 お母様が興奮気味に言う。ニコルも嬉しそうに言った。

「私たちの身分差のある恋愛に触発されたのですって!無理だと諦めていたけど、お父様とお母様を説得して結婚をお許しいただいそうよ!相手は男爵令嬢のハンナ様ですって!」

 きゃぁきゃぁとお母様とニコルは盛り上がっていた。

 エリーゼ姉様とお父様は呆れたようにため息をついている。

 一方の私は、急に自らの未来が白紙になり呆然としていた。妹のニコルが先に結婚する上に、婚約破棄されるなど我が家の恥晒しにも程がある。私がパッとしなさすぎるからオイゲン様に鞍替えされるのだ。もっとお姉様のように気の利いた会話ができれば、ニコルのように容姿が整っていればこんなことにはならなかったはずだ。

「では、私の結婚はどうなるのでしょうか……?」

「良い話を持ってきた!」

 お父様が良い笑顔で言う。

 一方お母様はどこか気の毒そうだった。

「なんとお前に大公様からの結婚話が来たのだ!」

「「えぇぇぇぇぇ?!?!」」

 驚きのあまり、ニコルと私はひっくり返りそうになった。

 エリーザ姉様も目を見開いている。

「ヴァルトブルグ家のフリードリヒ様だ」

 ヴァルトブルグ家とは由緒正しき家系である。バーデン大公とも呼ばれ、バーデン大公領の領主でもある。

 バーデン大公領は我が国2番目の領地を有し、我が家はその一部を統治している。

 つまり雲の上のような存在の上司みたいな立ち位置なのだ。

「ダメ元で多くの貴族に手紙を送りまくり99%断られたが、なんとフリードリヒ様から色よい返事を頂けた。いやー最初は見間違えかと思ったぞ」

 そりゃそうでしょうね。本当に見間違いじゃないのかしら。ヴォルトブルグ家よ?フリードリヒ様よ?騙されているのではない?

「あの、本当にフリードリヒ様ですか?」

「そうだが?」

「最近離婚されましたよね?」

「そうだな。つい半年前に」

「お歳は34歳と記憶しているのですが」

 ここでお母様が気の毒そうな顔をした理由が分かった。15歳も歳の差のあるおじさんと結婚させられる娘を不憫に思ったのだろう。

「まぁ、よかろう。貰ってくれただけありがたいと思いなさい。歳の差なんて慣れれば大したことではない」

「お姉様…」

 ニコルとはあまり仲が良くないので、ここまで同情されたのは初めてだった。

 エリーゼ姉様も私と目を合わせない。

「謹んでお受けいたします」

「そうかそうか!では今後の婚姻の手続きは予定通り進めよう!」

 女3人のお通夜のような雰囲気を尻目に、お父様はスキップして去っていった。

「エミリアお姉様、まさかここまで運がないとは驚きですわ。今回は私、何もしませんでしたのに」

 私は大体2番手の女だが、1度本気で恋愛をしたことがある。燃えるような恋だったが、1年経たずしてニコルに取られたのだった。

 それからも、私が好きな男子はよく取られた。しかもそれはニコルにとって、ただの遊びなのだ。私がショックを受ける様子を見て嬉しそうにするだけなのである。ニコルは自分より上位の相手にはそんなことをせず、下位だと認識すると無差別にこんなことをして遊んでいた。

「まぁ、さすがに34歳の殿方は私の守備範囲外ですわ。おじさんですし」

「家の役に立てることを光栄に思うことね。大公様にご迷惑をおかけしないように」

 エリーゼ姉様は表情を変えずにそう言った。お姉様はお父様から英才教育を受け、家を発展させることを一番に考えている。

「そうですね。頑張ります…」

 少し悲し気な目をして私は言った。



「いやっほーーーーい!!!」

 部屋からメイドを締め出すと、私はベッドにダイブした。

「フリードリヒ様?!フリードリヒ様?!夢では?!夢では?!?」

 私はこっそりベッドの下に隠している鍵のついた宝箱から写真を取り出した。

「この、超絶イケメンが旦那様…?!」

 パレードの時に撮られた貴重な一枚の写真。そこにはフリードリヒ様が写っている。そう、私は何を隠そう、かなりの年上好きだったのだ!

「うへへへへへへへ。推しと結婚推しと結婚。生きていてよかったー!!!」

 興奮のあまりベッドでゴロゴロする。口角が上がったまま降りてこない。涎も出そう。

 私の社交パーティでの唯一の楽しみ。それはフリードリヒ様を眺めることだ。

 しかし、奥様と離婚されてからフリードリヒ様はパーティに出席していなかった。半年ぶりにフリードリヒ様が見られるだけでも幸せなのに、合法的に四六時中同じ屋敷にいられるなんて、そんなことあっていいのだろうか。

「えへへへへへ。推しと同じ空気を吸えるなんて幸せ……」

 多分私、誰にも見せられない顔をしている。脳内におかしな物質が発生しているに違いない。

 好きでもない男と結婚生活を送ると思っていたら、まさかの推しと結婚。

 私はどうやら前世で相当な徳を積んだらしい。

小説家になろうのサイトでは初めての投稿になります。イマイチ慣れていませんので、不備がありましたら申し訳ありません。


追記:早速フリードリヒの年齢と家の名前に間違いがありました。

カール家→ヴォルトブルグ

33歳→34歳

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