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⑦ 悪役令嬢は望まれる



「……うっ……。ここは?」


 引っ張られるように急速に意識が浮上する。瞼を上げると、見慣れた天蓋が目に入る。如何やら自室のようだ。だがおかしい。私は幽霊となったが、ヒュース殿下のおかげで心残りが無くなった。つまり成仏した筈である。もしかすると、次の転生を果たしたのだろうか。不思議に思いながら体を起こした。


「シロエ!! 良かった! 目が覚めたのだね!」

「……え!? ヒュース殿下!?」


 横からの響いた声に首を動かすと、ヒュース殿下が笑顔を向けると抱きしめられた。突然の抱擁に私は混乱し、思わず叫び声を上げた。全身が熱くなる。

 確か、私は幽霊になり成仏した筈である。何故、彼に抱きしめられているのだろう。幽霊の状態では触れられなかったが、今は彼の体温を感じることが出来る。


「王太子殿下。シロノエール様が混乱されておりますよ」

「……嗚呼。ごめん……嬉しくつい……」

「……い……いえ……」


 混乱を極めていると自室の扉が開き、王室付き魔導師が姿を現した。彼と会うのは儀式以来である。

 殿下は体を少し離すと、私の背中を支える。気遣いは嬉しいが恥ずかしく、彼の顔を見ることが出来ない。


「さて、今回の件についてですが……おめでとうございます!」

「……え? ええ?」


 魔導師は真剣な表情を浮かべた後に、優しく微笑んだ。そして魔法で色鮮やかな花々が、私と殿下に降り注ぐ。綺麗な光景だが、何を祝福されているのか理解出来ずに首を傾げた。


「今回の儀式は、お二方の相性を調べることが目的でした。お二方は将来の国王夫妻ですので少し仕様が異なりまして、相手への本心に気が付いていない場合。意識だけの状態になり、ご自身のお気持ちと向き合っていただきます」

「と、ということは……。私は生きています?」


 説明を整理すると私が意識だけの状態になったのは、やまりあの魔法の水晶によるものだ。私は自身の状態について訊ねる。


「はい。ご自身の本心に気が付くと、意識が戻るようになっております。意識の無いお身体は時を止める魔法により守られておしました。その所為で王太子殿下は大変落ち込まれてしまったのですが……」

「……っ! それはそうだろう!? 愛しいシロエが目の前で……」


 私が幽霊となって現れたという誤解を生んだのは、身体の時間を止められたからだろう。鼓動がなければ勘違いをしてもおかしくない。


「申し訳ございません。お二方が真の夫婦になる為の儀式ですので、国王陛下より口止めされておりました」

「分かっている……しかし、この傷はそう簡単に癒えそうにない……」

「殿下。私に出来ることがあれば、仰って下さいませ」


 頭を下げる魔導師の言葉に、ヒュース殿下は苦しそうな表情をする。儀式の為とはいえ、私が本心に気が付いていなことにより起きた騒動だ。私に出来ることがあれば協力をしたい。


「シロノエール。ずっと僕の隣に居てくれ」

「え? あ、はい……え……?」


 彼の願い事を聞き、隣に居るぐらいならばと了承する。しかし数秒遅れて、彼の隣が意味するものに気が付いた。


「プロポーズだよ。了承したよね?」

「あ……えっと……その……」


 にっこりと笑う殿下に何も言えなくなる。私は悪役令嬢だが、殿下の言葉に了承してしまったのだ。言い訳を探すが、殿下の温もりを感じると思考が止まる。


「本当はもっとカッコ良くプロポーズをしたかったけど、今回の件でなりふり構わないことに決めたよ」

「ふぇ……」


 殿下の手が私の頬を優しく撫でる。素肌に触れるなど今回が始めてだ。全身が熱く、真っ赤な顔をしていることだろう。


「僕は君のことを愛している。シロエは?」

「……っ、私もヒュース様のことを愛しております」


 スカイブルーの瞳に、惚けている私が映る。彼の瞳に映れることがこんなにも嬉しいことだとは知らなかった。時計塔では過去形だったものを、現在形にして口にする。悪役令嬢だが彼を諦めなくて良い。ヒュース殿下に望まれているのだ。精一杯頑張ろう。そのことが嬉しくて仕方がない。


「うん、ありがとう。一緒に沢山幸せになろう」

「わ……わぁぁ……。は……はい……」


 私のおでこにキスをすると、優しく囁いた。すると魔法で作られた花々が私たちを祝福するように、降り注いだ。


 その後、幽霊の時に各地を旅してみようと考えていたことがヒュース殿下にばれ、新婚旅行と称して各地を巡ったり、再び魔法の水晶により幽霊化したりなど色々なことが起こるのだがそれはまた別のお話しである。




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