最後のプレゼント
ー深夜1時
外は真っ暗だった。ラニスには街灯がない。だから夜を照らすのは、月明かりと小さな星々だけだった。それにほとんどの人達が農家をやっているので、夜はとても静かだった。
そんな中、静かだったこの街はいきなり悲鳴と叫び声に包まれた。
「お願い!やめて!!離してよ!」
「どうか見逃してください!お願いします!!」
「誰がお前みたいな奴に娘を渡すか!!」
その悲鳴や叫びは鳴り止まなかったので、とうとう僕やルーク、お母さんにお父さんも目が覚めたらしい。四人は一緒の部屋で寝ているのでいつも一緒だが、お父さんが外の様子を見てくる、と言って出ていった。
その間にお母さんは僕達の頭を撫でて言った。
「大丈夫よ。きっとすぐ犯人も捕まるから。安心して……」
だが、僕達の頭を撫でているお母さんの手は微かに震えていた。
しばらくして、お父さんが帰ってきて小さな声で言った。
「子どもの誘拐が今起きている。それで、この国にいる子どもを全員集めているそうだ」
この国にいる子どもは国が小さいという事もあって、数が多くない。多くても四十人くらいだろう。だから、この国の子どもは皆顔見知りだ。誰がいて、誰がいないかなんてすぐに分かる。
「嘘でしょ……。怖いよ……」
僕は怖くて、両目から涙が出てきてしまった。ルークも堪えているのだろうが、いざ現実を知ると怖いのだろう。全身が震えていて、顔も真っ青だった。
「アドル、ルーク。大丈夫だ。絶対にお父さんとお母さんが守ってやるからな」
「ええ。大丈夫よ」
お母さんとお父さんがギュと抱きしめてくれたところは、温かく感じた。
(大丈夫だよね……。きっとお母さんとお父さんが守ってくれるはずだもん……)
こう思った僕は間違いだったのだろうか。それともこうなる事がもう決まっていた未来だったのか……。それとも僕達がこの現実を受け止めきれていなかったのか…………。
次の瞬間、家のドアが乱暴に開けられた。僕達は恐怖を感じる意外に何も出来なかった。声を出す事すらも何故か出来なかった。理由は簡単だ。この先にある未来がなんとなくだが分かってしまったからだ。
僕とルーク、お母さんは言葉を失っていたが最初にお父さんが立ち上がり、僕たちを落ち着かせるために優しい声色で言った。
「お父さんが今家に入ってきた悪いやつを倒してくるから、お前達はここで待っていろよ」
お父さんは頑張って笑顔でいたが、怖いのだろう。手足はガタガタと小刻みに震えていた。お母さんはその姿を見て言った。
「ダメよ!この子達は守れたとしても貴方がどうなってしまうか分からないじゃない!!」
するとお父さんは何を思ったのか、僕達のことをギュッと抱きしめて、
「お父さんの家族はお前達だけだ。だから、最後くらい守らせてくれ……。お父さんの心の底から愛している家族をこの身を犠牲にしてでも守りたいんだ……」
そう言い残して、部屋から出て行った。
ここから先の記憶はあまりにも曖昧だった。だがその中でも覚えている事は、お父さんは僕達を守るために必死になって敵を追い払おうとしたら負けてしまった事……。今度はお母さんが僕達を守ろうとして必死に必死に、泣きながらも戦ったが……ダメだった事。二人は僕達を守る正義のヒーローみたいだった。
僕とルークはその後、知らない男の人に誘拐されてしまった。
誰かの呼ぶ声が聞こえる。誰の声だろ。だけど、僕の事を呼んでいる事だけが分かる。
「アドル!アドルしっかりしろ!アドル!」
僕はその声をよく聞いてみると、聞き覚えがある声だった。僕が間違えるはずはない。
僕はその声を聞くと、急に目が覚めた。
「お兄ちゃん…………ッ!」
「大丈夫か!?アドル」
「うん!お兄ちゃんも大丈夫?」
「ああ。お兄ちゃんは大丈夫だから、心配するな」
(良かった……。お兄ちゃんは無事だったんだ……。あれ……。でも……)
僕はふと気づいたので、お兄ちゃんに聞いてみた。
「お兄ちゃん。お父さんとお母さんはどこにいるの?」
僕がそう聞くと、ルークの顔は急に悲しい表情になった。だがしばらくして、ルークは冷たくて広い部屋を見回して言った。
「アドル。周りをよく見てごらん。ここは俺たちが住んでいた所より離れた場所だ。だから、父さんと母さんがどうしているかは、その……分からないんだ」
僕は最初、何を言われているのか分からなかった。ただ周りを見回していると、泣いている子や助けてと体を震わせながら呟いている子が沢山いた。そして理解した。
(あ…………。僕って家に来てた悪い人達に拐われたんだ……)
現実がどんどん分かっていくにつれて、夢なんじゃないか……。こんなのは怖い夢だと思っていたが……。現実だった。それは紛れもない、絶望という名の現実。
「お兄ちゃん……。怖いよ……」
「大丈夫だ。お兄ちゃんが父さんと母さんの代わりに絶対アドルの事を守ってやるからな。だから安心しろ!」
ルークはそう言って僕を抱きしめた。ルークは僕が安心するまでずっと抱きしめてくれた。
しばらくすると、誰かの足音が僕達がいるところに近づいてきた。近づいてくるにつれて、だんだんと姿が見えた。
一人は黒い帽子を被り、ロングコートを着ている男。もう一人は、落ち着いた顔立ちの男だ。
二人は周囲の様子を流し見ていた。そしてとても明るい声で言った。
「泣いている子は今から黙ってねー。そうしないと、俺たちが何をするか……。小さな子でも分かるように言ってあげるねー」
そう言いながら、黒い帽子を被り、ロングコートを着ていた男が近くにいた小さな女の子を部屋の真ん中に立たせた。
「今から何をやるのか、口で言うよりも見た方が早いからよーく見ててねー」
声は不思議な程明るかったが、顔は少しも笑っていない。
女の子は何をされるか分からない恐怖で、さっきよりもっと泣き出してしまった。それはそうだ。見た目からして、まだ十歳にも満たないのだろう。こんな事、大人でも耐えられないだろう。
女の子がもっと泣き出したのが、二人の男からしたら癇に障ったのか。こんな悪党の考える事は一ミリも理解出来ないが、怒っている事だけは伝わってきた。
そして次の瞬間見ている者は全員、目を見開いて驚いた。
「すこーし耐えてねー」
ボキッとその場に広がった音が鳴った瞬間、皆静かになった。しかし女の子は意識がだんだん現実に戻っていくにつれて、もっと泣き出した。
「痛い!痛いよ!腕が……。なんで!動かないよ!!」
僕はそれを見て、助けてあげたいと思った。小さな女の子の腕の骨は折られている。だからこそ助けてあげたい……。しかし僕の頭の中が恐怖でいっぱいだった。僕が早く立ち上がって助ければ、女の子は助かるかもしれない。だが僕はどうなるのだろう。どうなるか分からないからこそ身体がいう事を聞かない。
そう思っていると、ルークがぼそりと小さな声で言った。
「アドル。大人しくここで待っていなさい。お兄ちゃんはあの女の子を助けてくる」
ルークは立ち上がった。そして女の子の方へと歩いていく。その姿は僕達を守る為に必死になっている両親に似ていた。
「おいッ!!その女の子から離れろ!!こんな小さな子を傷つけて何が楽しい!?」
二人組の男はルークのその姿が鬱陶しい、と言わんばかりの態度を取った。
「誰だ?お前?こいつの知り合いか?」
ルークも怖いのだろう。女の子を助ける為とはいえ、自分がどうなるかも分からないのに助けに行っているのだから。しかしルークは怯まなかった。
「ルークだ!その子の知り合いではないが、助けに来たって別にいいだろう!!お前達こそ何者なんだ?!」
「へぇー。めっちゃ度胸あるね!気に入った。その度胸に免じて名前は教えてやる」
黒い帽子を被り、ロングコートを着ている男が名前を言った。
「俺の名前はウィスだ。それでこっちの落ち着いてる方がジークだ」
落ち着いた顔立ちの男、ジークはめんどくさそうに言った。
「おい、ウィス。俺は名乗る必要があったのか?」
「まぁ、いいだろ。それよりもルークと言ったか。お前は偉いなー。こんな女の子を助けに来るなるて……。これからお前に何するかも分からないし、俺達がこの子を解放するとも一言も言ってないんだけどねーー」
「それでもだ!僕は悲しい思いをしている人を見たくない!だから僕は立ち上がる!確かにお前達は怖いさ。これから何をされるか考えただけで震えるよ!!だけど僕は僕自身を犠牲にしてでも周りの人を助けたいんだよ……ッ!!」
ルークは決してウィスとジークから視線を逸らさない。獲物を見つけた肉食獣のように見つめ続ける。
「だからお前はここまで来たって訳か……」
しばらく沈黙が訪れたが、すぐに消えた。
「ヒーヒッヒッヒッヒー!!面白い!!いいだろう!この女の子は解放してやるよ!だけどルーク。お前は覚悟しろよ!ヒッヒッヒー」
ルークはその言葉を聞きながら、女の子も元に近づき応急処置程度の治療をした。ルークは医者ではないので女の子の腕を完全に治すことは出来ない。しかし、小さい頃アドルが怪我をした時に治療をした経験を生かして女の子の治療をした。
「お兄ちゃん、ありがとう……。ごめんなさい……。私のせいで……」
丁度治療が終わったので、ルークは女の子の前で膝をつき、目線を合わせて言った。
「気にするな……。それよりも俺は上手く腕を治すことは出来ない。ここには治療する道具なんてないから、本当に気休め程度にしか出来ない。だからここから出られるまでの辛抱だ。それまで頑張れるか?」
「うん!私、頑張る!」
ルークは女の子の頭を撫でながら、
「いい子だ!」
と力強く言って、その場を後にした。
その日はそんな感じで終わった。
それから、アドルを含めここにいる小さな子は酷い目にあった。しかし、ルークだけは僕達よりも酷かった。酷いと言う言葉で一括りにしていいものではないくらい、ルークは色々な目にあった。
しかし、ルークは何も言わなかった。僕が心配して声をかけても、「気にするな」の一言だけ……。ルークに救われた女の子に対しても同じ事しか言わない。
だが、ルークは確実にボロボロになっていく。最初は僕達を落ち着かせるために力強く言っていた「気にするな」という言葉も時間が経つにつれてどんどん力がなくなっていく。それはそうだろう。僕達が寝ている間にもルークは別室で二人組の男に何かをされているのだから……。ルークがいるのであろう奥の部屋からは悲鳴が上がるようになった。
そして日が経つにつれて、僕とルークの一緒にいる時間はどんどん少なくなって……。ついには無くなって……。久しぶりに見る事が出来たと思えば、僕の知っているルークではなくなっていた。
それは僕の知っているお兄ちゃんではなかった。今のルークは昔の、一緒に遊んでいた頃の面影すらない。痩せ細り、骨がくっきりと浮かぶ身体。目の下にある大きく黒い隈。ボロボロの服。すでに光を無くしてしまった瞳。ボサボサの髪。そして何より驚いたのは、「殺してくれ……。助けてくれ……」という一言。
ルークがそんな事を言うのを僕は初めて聞いた。いつも僕と遊んでくれた、明るくて優しいお兄ちゃんはどこかへ行ってしまった。
僕は見て見ていられなくなり、ルークの元へ走って近づいた。
「お兄ちゃん!!お兄ちゃん!しっかりして…………ッ!」
「………………」
無言。何も言わない。口を開く事すらない。ただ呟いている一言は。
「殺してくれ……。助けてくれ……」
「なにを言ってるの……。お兄ちゃん!お兄ちゃん……ッ!ここに来る前に、一緒にバイオリンを演奏してた時に約束したよね……ッ!一緒にバイオリンで色んな曲を演奏しようって……ッ!お願い!いつものお兄ちゃんに戻って来てよ!!」
その場に響き渡るのは、僕の叫び声だけだった……。
だが、ウィスが笑いながら言った。
「ヒーヒッヒッヒッヒー。お前のお兄ちゃんはもうダメなんだよ!なんでか教えてあげるよ!それは俺たちがこいつを痛めつけて汚れを溜めて心を壊しちゃったからだよー!もうお前の知ってるお兄ちゃんに戻ることはない!永遠にな……ッ!ヒーヒッヒッヒッヒー」
僕はその言葉を聞くと、膝を折って座り込んでしまった。自分と一緒に遊んでくれたお兄ちゃん。ここにいる人達を必死に守ってくれたお兄ちゃん。しかし、もう元のルークに戻る事はない……。
僕が絶望していると、遠くから声がした。それは聞き覚えのある声。小さな女の子の声だった。そして、女の子は大きな声で言った。
「あきらめないで!お兄ちゃん!こんな人達の言う事を鵜呑みにしちゃダメ!今はダメかもしれない!だけど、ここから出られたら私を助けてくれた立派なお兄さんみたいに、今度は貴方がお兄さんを救う番なんだよ!だからあきらめないで……ッ!貴方なら出来るはずだから……ッ!」
女の子はそう言うと、はぁーはぁー、と息をついていた。ここではあまり食事を提供されなかったから力がすぐに尽きてしまうのだろう。だが、必死に言ってくれた女の子の言葉は僕の心を動かした。
(そうだよ!あの子の言う通りだよ!今度は僕がお兄ちゃんを救う番なんだ!!)
僕は立ち上がってルークの元へ駆け寄り、抱きしめた。
「お兄ちゃん!もう大丈夫だよッ!!今度は僕がお兄ちゃんの事を守るから!だから心配しないで……ッ!今は死にたいって思うかもしれない。殺してって思うかもしれない。だけど、僕が必ずお兄ちゃんが生きる為のみちしるべになるから!安心して……。ゆっくりでいいから……。たくさん時間をかけていいから……。だからお願い……。またいつか僕にいつものお兄ちゃんの姿で、バイオリンを演奏したりして遊ぼうよ……ッ」
僕は泣きながら言った。こんなに泣く事はもう二度と無いのではないかと思うくらいに泣きながら、言葉を紡いだ。
しばらく僕がルークを抱きしめているとウィスは驚いた表情でいたが、すぐに元に戻った。
「ヒーヒッヒッヒッヒー。お前、何言ってるの?お前のお兄ちゃんはもう汚れが溜まりすぎて元に戻る事はない!!お前の事を名前で呼ぶ事もない!何もかもがもう手遅れなんだよ!諦めろ!さもないと、お前もお兄ちゃんと同じ目に合わせるぞ……ッ!」
僕はその時、恐怖という感情が心を支配したがそのうちに何故か無くなった。それはきっと、ルークが僕の事を守ってくれたように僕もルークを守りたかったから…………。
「僕は絶対に諦めない!お兄ちゃんが僕にそうしてくれたように、今度は僕がお兄ちゃんやここにいる人達を守るんだ!」
「生意気なガキだなーー!お前も!じゃあ、お仕置きをするよ!痛いからって泣かないでねーー」
ウィスは僕に向かって拳を振り上げた。それを見て思った。
(ダメだ……。僕じゃ、お兄ちゃんみたいにみんなの事守れない……。ごめんなさい。お兄ちゃん。ごめんなさいみんな。こんな僕でも許してください…………。)
そう思いながら、拳が頬に当たる事を覚悟しているといつまで経っても拳が僕の頬に当たる事はない。思い切って目を開けてみると、そのにはルークが立ち上がってウィスの拳を受け止めていた。
「お兄ちゃん……ッ!!!」
「心配かけてごめんな……。あと少しだから待っててくれ……」
ルークはボロボロなはずなのにウィスに攻撃をしている。それを見かねたジークが加勢しようとするが、僕はそれを全力で止めた。
ルークはウィスの事を殴ったり、逆にウィスがルークを殴ったり……。しかしそれでもルークの方が有利に動いていた。奇跡と言ってもいい光景だった。ルークはここにいる誰よりも酷い事をされ、体力がなくなっていたはずなのに、それでも立って、僕達を守り抜く為に必死に戦っているのだから。
僕もその光景を見て、ジークを押し倒して、その上に馬乗りになって殴り続けた。ルークをここまで痛めてつけた仕返しと早くここから解放してほしい、という思いを込めて……。
しばらくして、戦いに幕が降りた。最終的にルークはウィスを気絶させ戦闘不能に、ジークは僕が起き上がれないくらいに痛めつけて終わった。
戦いが終わって、僕はホッとした。そして、周りの子ども達からも「すごい!助けてくれてありがとう!」と言う声が聞こえる。
僕がホッとしている一方でルークはまだホッとしていない。何故だろう、と思い話しかけてみる。
「お兄ちゃん……。悪い人達を倒せてホッとしたね……」
「そうだな」
ただでさえ体力がない状態で戦ったので疲れたのだろうか。今回ルークがウィスに勝てたのは奇跡と言っていいのだから。それにしてもおかしいと思っていると、ルークが話し始めた。
「アドル。よく聞け。これは一回しか言わない。だからよく聞くんだ……」
「分かった……」
「まず、最初に……。しばらくしたらここに騎士団の人が来るはずだ。お兄ちゃんが呼んでおいたから……。まぁ、悪い人達にそれがバレて酷い目にあったって言うのもあるんだけど……。そんなのはどうでもいい。それと騎士団の人達が来たらしばらく保護してもらえるそうだ。だから、アドル。これからの事は任せたぞ。ここにいる子達の事も……。よろしくな……」
(なんだろう。ここに騎士団が来てくれる事に対して、安心してる反面ルークの言っている事の数々の意味が分からない。まるで、これからは俺がいなくてもちゃんと守ってやれよ、と言わんばかりの言動……。嫌な予感がする)
そう思っていると、アドルは倒れている敵の方へ歩き出し、そばに落ちていた銃を手に取り自分の心臓へ向けて発砲した。
僕はあまりにも一瞬の出来事に驚いたが急いでルークのいる方へと走っていった。
「お兄ちゃんッ!!何やってるの!!こんな事しちゃダメでしょ!ねぇ!ねぇってば!」
倒れているルークの手を握りしめながら言った。すると、ルークは最後の言葉を発した。
「アドル……。お前は立派だったぞ……。お兄ちゃんを……、ここにいる子達を助ける為に立ち上がった…………。それは、簡単に出来る事じゃない。えらいぞー……。お兄ちゃんはすごく嬉しい……」
「お兄ちゃん……。何を言って……」
徐々に、ルークの体から熱が無くなっていく。
「アドル……。お兄ちゃん、アドルとまたバイオリンで演奏しなかったなー……。でももうダメだなー。アドル……。これは、お兄ちゃんの最後のお願いだからよく聞いてくれ……。困っている人を見つけたら……、、身分なんて関係なく……助けてあげなさい………………。そうすれば、お前の味方は少しずつ増えていくよ…………。だから…………」
「お兄ちゃん…………?」
握りしめていたルークの手から力が無くなった。体の熱が戻る事もない。つまり……。
「お兄ちゃん。嘘だよね……。嘘って言ってよ!!」
「………………」
言葉が返ってくる事は永遠にない。だってもう…………。涙が止まらない。
(どうして……。どうして…………。どうして、どうして、どうして……。僕を置いて行っちゃったんだろう…………)
自分の心に問いかけて見ても答えが出る事はなかった。
もう限界だった。
「お兄ちゃーーーーーーーーーーーーーんッ!!!」
僕の声はその場に反響する。だが全てを見ていた周りの子ども達も泣きながら、静かに手を合わせていた。
ーその後
しばらくしてルークが言っていた通り、騎士団がやってきた。どうやってここに来られたのか、ルークがどうやって騎士団の人と連絡を取ったのかはもう分からない。
騎士団の人達は、ここにいる子ども達を保護していった。泣いている子も沢山いた。
そのうち騎士団は僕の元へやって来た。僕はルークが死んでからずっと静かに泣き続けていた。
騎士団は僕の様子を見て、察してくれたのだろう。他の人を呼び僕と、そしてもう息を吹き返す事のないルークを保護してくれた。
騎士団に保護されていてラニスに帰れたのはしばらく立ってからだった。
ー半年後
攫われていた子ども達がラニスに帰れる日がやって来た。皆、親に会える事を喜んでいる。ラニスまでは騎士団が馬車を出して送ってくれた。
そしてとうとう長い日をかけてやっとラニスに帰る事が出来た。
ある子は親に抱きしめてもらったり、ある子は怖かった、と親に言っていたり……。皆、ラニスに帰る事が出来て、親に会える事が出来て喜んでいる。
そんな中、僕は両親を探したが見つからなかったので急いで家に向かった。すると、そんな僕を見ていた一人の男が言った。
「坊やはあの家の子か?」
「そうだけど……」
何を聞きたいのか分からなかった。でもとりあえず返事だけして早く家に向かおうと、再び足を動かしたその時。
「そうか……。可哀想だな……」
動かそうとしていた足を止めて、男に問う。
「どういうこと?」
何故だろう。ルークが目の前で死んでしまった時みたいな嫌な予感がする。
「…………。お前さんの両親は、、、」
「……ッ!!!!!」
もう最後まで言われなくてもなんとなく分かった。だけど、僕は信じたくなかった。だから僕は全力疾走で家に向かった。
勢いよく家のドアを開けると、そのには誰もいなかった。家に誰かいる気配もない。だが、僕はリビングに向かって歩いていき、リビングのドアをそっと開けた。
リビングのテーブルの上にあったのは、大きな荷物と一通の手紙だった。僕は手紙を手に取り、そっと開けて中を読んだ。
「愛する息子、アドルとルークへ
今、どこにいますか?お母さんとお父さんはずっと探していました。だけど、貴方達は見つからない……。もう天国へ行ってしまったのですか?もう何ヶ月も帰って来ていません……。心配で心配で仕方ありません。
お母さんとお父さんは情けないですが、疲れてしまいました。愛する息子が帰ってくるとは思っていても嫌な事ばかり考えてしまう。もう嫌なのです。息子の無事を願って待っているはずがもう天国にいるのだろうという事ばかり考えてしまう……。もう天国へ行ってしまったなら私達も貴方達に会いに行こうと思います。だから、お父さんとお母さんも愛する息子がいるであろう天国へいきます。
この手紙を読んだ人が愛する息子達だったらと思うと悲しいです。ですが、もし貴方達が生きていてこの手紙を読んだのであれば、どうかこの世界を存分に楽しんで……。私達が先に天国に行ったのを恨んでもいいです。その代わりに、貴方達は存分に生きて、長く長くこの世界を生きて天国に来るのであれば、私達に沢山お話を聞かせてね。
アドル。貴方には最後に言わせて頂戴。誕生日おめでとう。
さようなら。私達の愛しの息子達」
僕はそれを読んだら涙が止まらなかった。(もうお母さんもお父さんもルークもいないこの世界で生きる意味なんであるのだろうか。いっその事僕もみんなのところに……)
そう思ったが実行出来なかった。なぜなら、お母さんとお父さんが遺した手紙に書いてあるから。
『この世界を存分に楽しんで……』
この言葉が、僕自身をこの世界に繋ぎ止める言葉となった。
僕は手紙を読んだ後に隣に置いてある大きな荷物に視線を移し、ゆっくりと開けてみた。さっきは気づかなかったが、丁寧にラッピングされている。
ラッピングを取ってみると大きなケースが入っていた。そして恐る恐るケースを開けてみるとそこには入っていた。
「バイオリン…………」
真新しいバイオリンが入っていた。新品独特の匂いを纏っているバイオリンが入っていた。僕は自然とバイオリンを手に取っていた。
よく見てみるとバイオリンに何か彫ってある事に気づく。僕はそこに彫ってある文字を見ていたら、もっと涙が出てきた。そのにはこう書かれていた。
「HAPPY BIRTHDAY アドル」
それを見るともう耐えられなくなってしまった。お母さんとお父さん、そしてルークまでもがこの世にはいない。だけど最後の最後で僕にプレゼントをくれた。きっと買う為のお金を貯めるのも大変だっただろう。だが、僕が欲しいと言っていたものをくれた。
僕はもう涙を堪える事も出来ずに泣き叫んだ。
「お母さん……ッ!お父さん……ッ!お兄ちゃん……ッ!!!ありがとう…………ッ!!!」
しばらくの間、繰り返し、繰り返し、ずっと泣き叫びながら僕はバイオリンである曲を演奏した。それはもう叶わない事だが、僕の家族がまた目を覚ましてくれる事を願うように……。
「皆……。天国で聞いててね…………。『目覚めの曲』」
僕は一日中、バイオリンを弾き続けるのであった。
ー数年後
私はバイオリンで音楽を演奏しながら旅をする事にした。天国にいる皆がくれた最後のプレゼントと一緒に私は旅を続ける。皆に守ってもらえたこの大切な命が尽きるまで……。
そう意識を固めて、私はラニスを後にした。
こんにちは。今回もリリーラ王国物語を読んでくださりありがとうございます。
アドルの過去はどうでしたか?悲しい話だったと私自身は思います。
ですがこれからも頑張っていきますので、リリーラ王国物語を支えてくださると幸いです。




