第46話:魔界の家庭訪問と、僕の三者面談(※保護者じゃありません)
国境線で兵士たちがピクニックを始めて数日。平和を噛み締めていた僕の屋敷の呼び鈴が、鼓膜を突き破るような轟音とともに鳴り響いた。
「テオ・ベルゼビュート君のご家庭はこちらですか? 私は魔界立『怠惰と破壊の育成学院』の教頭、ザガンです!」
現れたのは、真っ黒なスーツを着た、ヤギの頭を持つ紳士(?)だった。彼は有無を言わさぬ勢いで居間に上がり込み、鞄から一通の通知表を取り出した。
「……はぁ。パパ、アビィ。このヤギさん、僕を保護者だと思い込んでるみたいなんだけど。……あの、僕はただの『サボりの師匠』で、親戚でも何でもないですよ……」
僕は**頭を抱えて**、居間の隅っこへ逃げようとした。しかし、パパが優雅に僕の背中を押し、特等席に座らせた。
「主殿、逃げてはいけません。テオの100%の成長を世に示すのは、師匠である主殿の義務。……教頭先生、三者面談を始めましょう。テオの保護者(代理)として、このカノン様が全てをお答えします」
「ちょ、パパ! 勝手に引き受けないでよ!」
「さすがパパ! 相手が魔界の教頭だろうと、カンちゃんの凄さを見せつけてやりましょう!」
アビィがカスタネットでファンファーレを鳴らす中、ヤギの教頭が厳しい表情で僕を睨んだ。
「カノン殿。テオ君は魔界でも有数の『破壊の才能』を持っていました。しかし、この屋敷に来てからというもの、彼の提出するレポートは『効率的な二度寝について』や『無駄な魔法消費を抑えるための節電術』ばかり! これは一体どういう教育ですか!?」
「……はぁ。教頭先生。破壊なんて、後片付けが大変なだけじゃないですか。……テオは、世界を壊すより、自分の平穏を守る方が大事だって気づいただけですよ……」
「ふざけるな! 魔族は強欲であれ! 破壊的であれ! さあ、テオ君! 今すぐこの屋敷を消し飛ばして、お前の本来の力を証明するのだ!」
教頭がテオを煽る。テオは困った顔で僕と教頭を見比べ、手に持っていた雑巾をギュッと握りしめた。空気がピリピリと張り詰め、魔界の重圧が居間を支配しようとしたその時。
僕は、教育論という名の「他人の期待の押し付け」に、本日最大級の、そして「子供を自由にさせてやれよ」という怒りを込めた**ため息**を吐き出した。
「『どん底ため息砲・義務教育の解放』!!」
ズゥゥゥゥゥゥゥゥン…………ッ!!
僕のため息がヤギの教頭を直撃した瞬間、彼のピンと張っていた角がフニャリと曲がり、持っていた通知表が真っ白な白紙へと変わった。
彼の目から「教育者としての使命感」が消え、代わりに「……あれ、今日、有給取って温泉行けばよくね?」という、あまりに人間味溢れる怠惰が宿った。
「……あ。……。……成績、とか。……進路、とか……。……そもそも、魔界の子供を管理するなんて、一番コストパフォーマンスが悪い仕事じゃないか……」
教頭は鞄を放り出し、「……私、今日からヤギらしく、その辺の草を食べて生きていくよ……」と呟きながら、四足歩行で屋敷の庭へと去っていった。
「流石は主殿。魔界の教育制度そのものを『無意味』という名のため息で廃校に追い込むとは。……さてテオ、教頭先生がいなくなった隙に、今日のおやつの準備(100%の手抜き)をしましょうか」
「はい、師匠! 僕、一生ついていきます!」
「……はぁ。……パパ、庭の草を食べてる教頭先生、明日には魔界に帰してあげてね……」
僕は、教頭の持ってきた白紙の通知表を丸めて枕に詰めながら、教育という名の呪縛から(ヤギを)解放してしまった自分の力に、さらなる深い、深いため息をつくのだった。




