第42話:自称弟子の少年と、暴走する円盤(※家事代行は頼んでません)
お隣さんとの間に「円満な無関心」という名の鉄壁を築いた翌日。僕の平穏は、物理的な衝撃音とともに打ち砕かれた。
「カノン師匠! 僕を、世界一の『サボりマスター』にしてください! 楽をして生きるための真理を、その尊いため息から学びたいんです!」
庭の防衛線を、泥だらけになりながら根性(物理)で突破してきたのは、十歳くらいの鼻垂れ小僧だった。
「……はぁ。パパ、アビィ。この子、僕のこと『サボり師匠』って呼んでるよ。……君、サボるためにそんなに努力しちゃダメだよ。それはもう、立派な勤勉だよ……」
僕は頭を抱えて、居間のソファに沈み込んだ。
「主殿、お察しします。……ですが、この少年、眼光の鋭さが100%の『ニート予備軍』。放っておけば勝手に屋敷の床に根を張りそうですな。……おや、お嬢様。その背後に抱えている怪しげな円盤は何ですかな?」
「これ? 魔界の深夜通販で買った『自動清掃魔導具:ルン・バ(魔界モデル)』よ! これさえあれば、カンちゃんの屋敷は常にピカピカ、アタシたちの家事も減るってわけ!」
アビィが誇らしげにスイッチを入れた瞬間、漆黒の円盤が赤く目を光らせ、時速八十キロで部屋中を跳ね回り始めた。
「――ターゲット:不浄な足跡、および『やる気のない少年』を検知。即刻、吸引・排除を開始します――」
「ひぇぇぇ! 助けて師匠! 掃除機に食われるぅぅ!」
弟子志願の少年が、バキューム音を轟かせる円盤に追い回され、僕のコタツの周りをぐるぐると走り回る。
「……はぁ。……もう、家の中が騒がしすぎるんだよ。掃除機は暴走するし、弟子は叫ぶし……。僕はただ、静かにこのパイの残りを食べたかっただけなのに……」
僕は、コタツの天板を猛スピードで横切ろうとした魔法掃除機と、それに必死にしがみつく少年のあまりにカオスな光景に耐えかねて、胃の底から最も「停止」に近いため息を吐き出した。
「『どん底ため息砲・強制シャットダウン(ハピネス・バスター・システムエラー)』!!」
ズゥゥゥゥゥゥゥゥン…………ッ!!
僕のため息が放たれた瞬間、暴走していた魔導掃除機は「……あ、自分、掃除する意味とか見出せなくなったわ」と賢者タイムに入り、その場でカチリと停止。少年もその勢いで放り出され、僕の足元に転がった。
「流石は主殿。魔界の最新テクノロジーすらも『虚脱』によって再起動不能にさせるとは。……さて少年。主殿の掃除の邪魔(?)をした罰として、君には今日から私の下で、100%の精度での『床の雑巾がけ』という名の修行を命じます」
「えぇっ!? サボるための修行じゃないの!? ……あ、でも、師匠の足元にいられるなら、やります!」
「……はぁ。……パパ、その子、飽きたら適当に帰しておいてね。……あ、アビィ、通販の利用停止、100%の力でやっておいて……」
僕は、パパに連行されていく「新入り」と、ゴミを一ミリも吸わずに置物と化した黒い円盤を眺めながら、増え続ける同居人の賑やかさに深い、深いため息をつくのだった。




