第40話:止まった世界と、僕の責任(※神様の代わりはやりません)
地獄の王がアロハシャツを着て帰っていった翌日。僕がいつものようにコタツで二度寝を楽しもうとすると、何かがおかしかった。
窓の外を見ると、木から落ちかけたリンゴが空中で止まり、飛んでいた小鳥が羽ばたきの途中で静止している。
「……はぁ。パパ、アビィ。世界がフリーズしてるんだけど。これ、僕のせいかな……?」
僕は頭を抱えて、動かなくなった時計の針を眺めた。
「主殿、お察しの通り。天界が輝きを忘れ、地獄が懲罰を放棄した結果、世界の『動因(やる気)』が底を突きましたな。重力も時間も、『自分、もう働かなくていいっすよね?』とストライキを起こしております」
「最悪よカンちゃん! アタシのカスタネットを叩いても、音が空中で止まって聞こえないの! 世界が完全に『お休みモード』に入っちゃったわよ!」
アビィが空中に指を突き立てると、そこには止まった音の波紋が目に見える形で浮いていた。
世界が「無」ではなく「静止」してしまった。このままでは、ミカンを食べるための「咀嚼」という運動すら、いずれ面倒くさくなって止まってしまう。
「……はぁ。僕がなんとかしなきゃいけないんだね。……でも、どうやって? もうため息を吐く元気もないよ……」
「主殿、ご安心を。100%の権能を持つ私が、主殿に代わって『新世界の管理者』となり、この怠惰な法則を再構築いたしましょう。……さあ、主殿。このコタツを『玉座』として、主殿が新しい神となるのです!」
パパが指を鳴らすと、僕のコタツが黄金色に輝き、背後に宇宙の縮図のようなエフェクトが浮かび上がった。
「やめて! 僕は神様なんて激務、絶対にやりたくない! 24時間365日、全人類の願い事を聞くなんて、ため息が枯れちゃうよ!」
僕は、パパの「過剰な主君への愛」による神格化の暴走に耐えかねて、止まった世界そのものを「突き動かす」のではなく、その「重すぎる期待」を中和するための、渾身のため息を吐き出した。
「『どん底ため息砲・現状維持』!!」
ズゥゥゥゥゥゥゥゥン…………ッ!!
僕のため息が静止した空間に染み込んでいく。
すると、止まっていたリンゴがポトリと落ち、小鳥が再び羽ばたき始めた。世界が「新世界」になることを拒否し、「今までの、ほどほどに面倒くさい日常」へと無理やり引き戻されたのだ。
「……あ。……。……パパ、神様は、今の神様(やる気のない天使たち)に任せておけばいいんだよ。僕はただ、この部屋で寝ていたいだけなの」
「流石は主殿。神になれるチャンスすら『面倒くさい』の一言で投げ捨て、旧態依然とした不完全な世界を肯定するとは。……これぞ真の隠者の美学ですな」
「……はぁ。美学とかじゃないよ。ただ、責任を取りたくないだけなんだ……」
僕は、動き出した時計の針を見守りながら、パパが新調した「神の玉座(※機能はただのふかふかクッション)」に腰掛け、再び平穏な、そしてほどほどに不便な日常を噛み締めるのだった。




