第35話:英雄の銅像と、僕の肖像権(※勝手に彫らないでください)
世界中の「無気力」を吸い込んで三日三晩泥のように眠り、ようやく僕が目を覚ました時。窓の外では、聞き慣れないファンファーレと、石を削る凄まじい音が響いていた。
「……はぁ。パパ、外がうるさくて二度寝ができないんだけど。何が起きてるの?」
「主殿、お目覚めですか。実は、主殿が世界を『無気力の危機』から救ったあの勇姿に感動した市民たちが、感謝の印として広場に巨大な記念碑を建てておられまして」
「……記念碑? 嫌な予感しかしないんだけど」
僕が窓から顔を出すと、そこには広場の中心にそびえ立つ、全高十メートルはあろうかという**「全力で虚無を吸い込む僕」**の巨大な銅像が鎮座していた。しかも、なぜか像の口からはシュゴーッという音と共に、薄紫色の煙が吹き出している。
「……パパ。あの銅像、なんで煙を吐いてるの?」
「ああ、あれは私の100%の魔力で施した微調整ですな。主殿が吸い込んだ『過剰な怠惰』を、あの像を通じて適度に薄めて放出することで、街全体に『極上のリラックス効果』をもたらすパワースポットに改造いたしました」
「いいじゃない、カンちゃん! あの像のおかげで、街の人はみんな『もう今日はこれでいいや』って気分になって、無駄な争いも起きないわよ。アタシも像の足元で、カスタネット教室を開こうと思ってるの!」
見れば、広場の群衆はみんな銅像を見上げて、恍惚とした表情で地面に座り込んでいる。平和といえば平和だが、僕としては恥ずかしすぎて死にたい。
「……はぁ。僕の顔から変な煙を出さないでよ。それに、あの銅像、実物より三割増しで情けない顔に彫られてる気がするんだけど……」
僕は自分の肖像権が無視されている現状と、その像がもたらす「強制リラックス」のシュールさに耐えかねて、屋敷の中から広場の銅像に向けて、魂のため息を吐き出した。
「『どん底ため息砲・肖像権の主張』!!」
ズゥゥゥゥゥゥゥゥン…………ッ!!
僕のため息が放たれた瞬間、銅像から出ていた紫の煙がピタッと止まり、像の表面にピキピキと亀裂が入った。……が、ここでパパの「完全体」としての余計なこだわりが炸裂する。
「おっと、主殿。その程度のため息で壊れてしまうようでは、私の管理不足。……瞬時に修復し、ついでに材質を黄金とダイヤモンドの合金に変更いたしましょう!」
パパが指を鳴らした瞬間、銅像はまばゆい黄金色に輝き、もはや「隠者」ではなく「成金」のような神々しさを放ち始めた。
「な、なんだあの輝きは!? カノン様は黄金の光すらも吸い込まれるのか! 拝め! みんな拝むんだ!」
広場のボルテージは最高潮に。
「……はぁ。もう、逆効果だよ。パパ、あれ、夜になったらこっそり撤去しておいてね……」
僕は、輝きを増した自分の巨大な顔を見ないようにカーテンを閉め、パパが買ってきた最高級の(やる気を取り戻した農家による)ミカンをヤケ食いするのだった。




