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第八話 帝都駅の怪異因子 上


 ホノカが日向隊と共に帝都駅へ駆けつけると、そこにはすでに避難誘導を行っている帝国守護隊の軍人の姿があった。

 そんな彼らと少し離れた位置で怪異因子が暴れ回ってる。

 イタチのような姿をした怪異因子だ。目で確認できるだけで九体いる。


(これはまた、なかなか数が多い)


 周囲の様子を観察しながらホノカが考えていると、左耳につけた通信機に反応があった。


『ホノカ、そっちは現場についた?』


 聞こえてきたのはヒノカの声だ。


「はい、到着しました。月花隊はどうですか?」

『ちょうどホノカ達と反対の場所にいるよ。これから避難誘導の協力と、周辺の確認作業に入る。遭遇したら討伐するよ』

「了解。帝都駅の前にいるのは低級の怪異因子ですね。姿はイタチに似ています」

『イタチか……となると媒介は刃物系か石か葉かな。何か分かったら連絡する。気をつけてね』

「そちらも気をつけて」

『はーい!』


 ヒノカの元気な声と共に通信が切れる。

 彼が言った『媒介』とは怪異因子の核のようなものだ。刃物や宝石、植物や骨、獣の死骸など、その種類は様々で、そこに『霊力』という不可思議な力が溜まる事で怪異因子は発生する。

 霊力は多かれ少なかれこの世に存在するモノのほとんどに宿っていて、それらが環境的な理由や、精神的な理由――例えば人の情念がなどがそれに当たる――で媒介に集まった結果、怪異因子と成るのだ。

 その発生方法から、もしかしたら怪異因子は付喪神の一種ではないかと考える学者もいた。

 そして怪異因子の姿形や性質は媒介となったモノで変化する。媒介(それ)が何であるか分かれば怪異因子の行動を予測しやすいのだ。

 今回の怪異因子からヒノカは「カマイタチ」という妖怪を連想したのだろう。


「隊長さんよ、いつまでグダグダ話してんだよ。さっさとぶっ飛ばしちまっていいんだろ?」


 ヒノカとの通信が終わると、アカシが苛立った様子でそう言った。

 アカシは身の丈ほどある機械仕掛けの槍を肩に乗せ、じろりとホノカを見下ろしている。普通の人間なら怯んでしまうような形相だが、生憎とこういう手合いにもホノカは慣れている。


「敵の数が多いので、そういうわけにはいきません。月花隊からの位置情報を確認しつつ、取りこぼしのないように生きます」


 顔色一つ変えずにホノカが言うと、アカシは軽く目を見開いた。予想した反応と違ったからか、少し驚いているように感じられる。


「そいつは細かいこった」

「小型の怪異因子は動きが速い分、逃がすと厄介ですから」

「逃がす? オイオイ、誰に向かって言ってんだ、お嬢ちゃん?」


 鼻で笑ったアカシに、ウツギの表情が険しくなる。


「おい、アカシ! 隊長に向かってその口の利き方は」

「うるせぇな。実力も、いつまで続くかも分からねぇ隊長を、どう敬えってんだ?」


 アカシはそう言うと槍をぐるりと回し構え直すと、


「いつもそうやって何とかなっている相手だ。隊長サマはその間、ウツギがお守りしてやんな。スギノ、ヒビキ。行くぜ」


 そう言って怪異因子に向かって走って行った。名前を呼ばれたスギノはちらりとホノカを見た後で「ああ」と言ってアカシに続く。ヒビキは「あ、ちょっと! アカシさん、スギノさん!」と困った様子でホノカへ顔を向けた後、彼らを追いかけて行った。


「なるほど……。話には聞いていましたが、この感じだと他の隊長ともだいぶ揉めたでしょう?」

「すみません……。その時と比べると、あれでも多少は気遣っているみたいなんですけどね。失礼な言い方になってしまいますが、隊長は女性で年下ですし。あと……」

「御桜、ですか」


 ホノカがそう言うと、ウツギは少し驚いた様子で「はい」と頷いた。

 やはりそこかとホノカは心の中で独り言つ。別にホノカ達も、自分達が御桜ミハヤの子供だという事を内緒にするつもりはない。そもそも『御桜』という苗字の人間が日向隊・月花隊の隊長に就任すれば、関係者だと思われるのが普通である。

 聞かれたら答えるつもりではいるが、御桜ミハヤの子供という理由だけで隊に受け入れてもらうつもりは、ホノカ達は毛頭になかった。

 それは今までの隊長に対しても、自分達に対しても失礼な事だからだ。それを隊員達に伝える必要がある。

 ――だが、それは全部、この騒動を収めてからの話である。


「その話はここを片付けてからにしましょう。ウツギさん、月花隊からの通信許可を常にオンに。位置情報を共有します」

「了解しました!」


 ホノカの指示にウツギは力強く返事をすると、太刀をすらりと抜いた。他の隊員達と同じ機械仕掛けの太刀――これは『蒸気装備』というもので霊力で動く武器である。

 怪異因子には物理的な攻撃は効き辛いが、霊力を纏わせた攻撃は効果があった。そこで蒸気装備が開発されたのだ。

 蒸気装備の側面には霊力を液体に変換させる試験官が組み込まれており、これを利用して様々な効果や性能を付与できる。霊力の液体――霊力水さえあれば、蒸気装備は自分の霊力でも動くし、他人の霊力でも動かす事が出来る。これを使って帝国守護隊の軍人は怪異因子を討伐していた。

 ウツギの蒸気装備に組み込まれている試験官を見れば数は五本。帝国守護隊の一般的な軍人は三本前後が多いので、彼はなかなか霊力が多い人間のようだ。


(なるほど、なるほど)


 そう思いながら、ホノカは他の隊員達の方へ目を向けた。


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