加わる増援。
それは数日を待たずにして来訪した。
斥候を送ってから既に二日が経過している。その一日後に“緑銀城”へ予想外の珍客。否、予想外の大軍が押し寄せてきた。
「うわぁ~、東側はすごい軍勢だ」
ズィルバーが息を吐くように言葉を出せば――
「あれって、ファーレン公爵家の紋章旗だよね?」
ユンが大軍の中でひときわ目立つ紋章旗を発見する。
竜の意匠を象った紋章旗。それはファーレン公爵家の証である。同時にもう一つの意味を持つ。
「あれって、ヘルトの紋章旗じゃん」
レインがポロッと口にする。
「え?」
「たしかに、あっ、メランの紋章旗。懐かしい」
「え? あの紋章旗って初代様の紋章旗!?」
レンも狼の意匠を象った紋章旗を見て呟く。カズは驚きをあらわにする。
「いつ以来かしら、初代五大将軍が使ってた紋章旗を見るのはいつぶりかしら」
ネルは紋章旗を見て、千年ぶりの懐かしさが込み上がってくる。
「おい、戦猫の紋章旗! まさか、あれを掲げてる、ってことは……」
「うーん。見たところ、火鳥の香りを感じる。多分、アヤちゃんね。もしくは皇女様の誰かが掲げてると思う」
「あの紋章旗を掲げるなんて……なんと恐ろしや……」
ブルリと寒気を催すヴァン。
顔を見合わせるカズら。
「戦猫の紋章旗はライヒ大帝国において神聖な旗だ。獅子の紋章旗と同じくらいに神聖な旗だ」
「神聖な旗?」
ズィルバーは語る。紋章旗の意味を――
「紋章旗に象っている生き物は公爵家の代名詞だが、別の代名詞がある」
「別の代名詞……」
「それは伝説の偉人を意味する。狼は初代北方大将軍メラン。蛇は初代東方大将軍ベルデ。鷹は初代南方大将軍ルフス。馬は初代西方大将軍アルブム。竜は初代中央大将軍ヘルト。
この五人を表す。獅子は初代皇帝を表す。そして、戦猫は高貴な証。初代媛巫女を表す」
ズィルバーが明かせば、カズらは驚いた。レインらは当然でしょと言わんばかりの顔を浮かべている。
「そして、獅子と戦猫の紋章旗を掲げることが許されてるのはライヒ皇家のみだ」
「ってことは、他の紋章旗を掲げることが許されてるのが五大公爵家ってわけか」
「そのとおり、っと……ユージ。副官さんがお呼びだぜ」
真下を見やれば、シャルルが立ち往生していた。いや、正確に言えば、テンパっている。
「ホントだ、それじゃあ行ってくるよ」
「せっかくだし、俺らもいくか」
「そうだな」
ユージが出迎えようとしたけど、ズィルバーたちもついていく。二度手間を増やすぐらいなら減らしたほうが得であった。
“緑銀城”の居城出入り口でシャルルはオロオロしていた。普段、取り乱さないシャルルでも相手が相手なので取り乱している。
「も、もも、申し訳、ございません。たとえ……」
アワアワと慌てるシャルル。
それもそのはず、ボディーチェックをする相手がエリザベス殿下だったからだ。
「おい、後ろがつっかえているんだぞ、早くしろ」
増援に来た皇族親衛隊の大佐グレンが叫ぶ。
「う、うるさい。“蒼天なる馬”だって皇女殿下が来るなんて思わないじゃん!!」
彼女の叫びに「確かに」と呟くエルラとヒルデも頷く。ついでに言えば、ミウもセイ、スズ、ミリスも頷く。本来なら、身内が参戦するのはまずいことだが、非常事態なので当主が許したのだろうと考えた。
「シャルル。僕が許そう」
「ユージ!」
オロオロするシャルルにユージが天の声を差し伸べる。すると、ヒューッと風が吹く。
風がリズたちの身体に一瞬だけまとわりついた後、ユージは知覚する。
「うん。全員に異常が見られない。どうぞ、通ってください」
次期当主が許しを得た。
「ありがとう。ユージくん」
「ただし、通るのはエリザベス殿下と五大公爵家の者たち、並びに皇族親衛隊の上官たちだけにします」
ユージは入る人数を限定する。むろん、それには理由があった。
「これだけの人数を迎え入れるだけのキャパがありません。今、僕の部下が斥候で敵を見ています。親衛隊の皆さんにつきましてはそのお手伝いをしてもらいたい」
ユージが深々と頭を下げる。
「了解した。グレン! シン!」
「ああ、クレト。お前が全体の指示を任せる」
「いくよ、グレン部隊!」
「「「「「はい!」」」」」
グレン一行はユージの頼みを聞き、斥候に赴いた。
「それでは呼ばれた皆さんはこちらへ」
ユージがリズたちを迎え入れる中、ズィルバーは同時にやってきたユウトらと対面する。
「よぅ、バカユウト。元気そうでなによりだ」
「あぁ、何だとズィルバー!!」
食って掛かるユウトにズィルバーは煽る煽る。
「もぅ……」
「ユウトさんは……」
やれやれと頭を振るティアとシノア。二人の口喧嘩は相変わらずだなと常々に思った。
「さて、キララさんとノイさんは来てください。お二人の助言が欲しいからね」
追加人員を招き入れるのだった。
ようやく、ライヒ大帝国側も戦略を、戦術を組み立てることができた。
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