幕間_敵も話し合う。
ライヒ大帝国側で軍容を考えているように、敵側。つまり、南方最大のマフィア“ホワイトホエールファミリー”と西方の巨悪“大食らいの悪魔団”。二つの巨悪も“緑銀城”を落とす軍容を考えている。
しかし、敵は“緑銀城”を落とす策。つまり、軍師がいない。戦術を組み立てる者がいなかった。今まで小規模のゲリラ戦が起きては力ずくで突破することが多かった。
だけど、今回は力ずくで突破するほどラニカ公爵家も馬鹿じゃない。数の差を覆すだけの兵法を考えてきてもおかしくない。
第一、西方は地形上攻め込むポイントが限られている。故に攻め込むポイントを見誤れば全軍が全滅する恐れがある。
さらに言っちゃえば、“ホワイトホエールファミリー”と“大食らいの悪魔団”の合同でありつつ、傘下組織を交えた大軍である。
力押しができたとしても、地形を利用されて全滅させる戦術を用いられたら間違いなく全滅する結果が目に見えているのを、二つの巨悪も理解している。
何度も言うようだが――。
「親父! ダメだ。どう考えても西方の地形が俺たちの行く手を遮っちまう!」
「そっか。普通に攻め込むだけでも難しいか。ったく、南方もそうだが、西方も一筋縄じゃあいかねぇか」
息子からの報告に“ホワイトホエールファミリー”の親父――エドワード・T・ウェールズ。
「母さん! やはり、ホエールの言う通り、普通に攻めれん」
「チッ。西方の地形が邪魔をするか。こっちは大軍だ。展開するだけでも広さが必要だってのによぅ~」
愚痴る“大食らいの悪魔団”の女王――リンネン・F・メリオダス。
両者ともに手を組むのは初めてな上に、大規模での運用も初めての経験である。
戦の初心者であっても西方の地形から大軍が動かせるポイントを探している。
探している最中、二つの巨悪に情報を提供した協力者がエドワードとリンネンに助言をする。
「では、“ジガンテ盆地”と“サングエサ平原”はどうでしょう?」
「“ジガンテ盆地”と“サングエサ平原”?」
「どこだ、そこは……」
エドワードの腹心――マルフォイと、リンネンの次男――ファンルドが聞き返す。
「ここでございます」
協力者が地図に指を指した。指さしたポイントは西方でもめったに見ない平原と盆地であった。
「地図から見ても広いな」
「ああ、西方でもめったにない平原だ」
二人揃って広大さに目を見開く。協力者はつらつらと語る。
「この二つはかつて、ライヒ大帝国が西方へ版図拡大をしていた頃、戦場となったポイント。大軍を展開するだけの広さはあります」
と、だけを告げた。
「それに、敵もここから攻めてくるのを予想しています」
「はぁ~!?」
リンネンが協力者に食って掛かる。一度、リンネンが口火を切ったら止まらないのを家族もマフィアも知っている。
「じゃあ他のところから攻めるしかねぇだろ!!」
「お言葉ですが、“ジガンテ盆地”と“サングエサ平原”以外から攻め込める場所などありません。そもそも、ライヒ大帝国は環境がバラバラであるため、攻めるポイントが限られています」
(それにあの男の策略の前では力尽くで突破するのは不可能に等しい)
見え透いた結果を突きつけたとしても納得しないだろうと読み切り、何も言わなかった。しかも、協力者は直感していた。
(そろそろ、ライヒ大帝国側も戦力を増員する。同規模の戦力となる以上、戦術次第で戦況が大きく変わってしまうのを……)
協力者は戦の理を熟知している。
かつて、協力者一派はライヒ大帝国を攻め落とそうとしたが、初代五大将軍の前に為すすべもなく完膚なきまでに敗北したからだ。
圧倒的な武力だけでなく権謀術数とも言える戦術の前に敗北したのだ。
(コイツらはライヒ大帝国の恐ろしさを知らない。確かに世代交代し、戦離れの世代も多い。時代の風潮が戦を少なくしていた。だが、その根っこは軍事大国であることに変わりない)
協力者はそう判断している。
と、その時、マフィアの構成員が部屋に入ってくる。
「親父! “緑銀城”に異変が……」
「どうした?」
「調査に赴いた奴らからの緊急を要する奉告が入った。どうやら、ライヒ大帝国も重い腰を上げやがった。
増援部隊を送りやがった!」
「その数は?」
「元々、“緑銀城”には一万弱の布陣を展開していたが、中央から三万強の増援が来たって報告だ。しかも、ただの増援じゃねぇ! ライヒ大帝国総力をあげて送り込んできたと考えてもいい!」
「何!?」
「総勢四万強。こっちと引けを取らない戦力差になったか」
戦力差が雀の涙程度の差になったことに驚く一同。
「それで誰が来た?」
「報告では戦猫の紋章旗を掲げる軍勢です!」
「ね、猫?」
「猫の紋章旗?」
顔を見合わせる“ホワイトホエールファミリー”と“大食らいの悪魔団”の面々。
しかして、協力者は瞬時に理解する。
(猫の紋章旗……しかも、戦猫か。その紋章旗は初代媛巫女の紋章旗。つまり、媛巫女騎士団のみが扱っていた紋章旗。ということは、あの女の末裔か)
「それと、獅子の紋章旗も竜、鷹、狼、蛇の紋章旗も見かけたとのことです!」
「何だ、動物のオンパレードか」
「紋章旗……それは一体……」
マルフォイとファンルドが訝しかんだ。
「…………」
協力者のみが紋章旗を聞いただけで内心冷や汗が流れまくりだった。
(まさか、ライヒ皇家と五大公爵家が軍を率いてやってくるのか? それにしても、懐かしき紋章旗の顔ぶれだ。これはライヒ大帝国が一丸となって、二つの巨悪を叩き潰そうとしている)
タラリと汗を流す。
「動物のオンパレードか知らねぇけど、俺たちの相手じゃねぇよ。親父。こりゃあ広い平原と盆地で決戦の火蓋を開いたほうがいいと思うぜ」
マルフォイがエドワードに進言する。
「ああ、そうだな。マルフォイ。俺たちは“ジガンテ盆地”とやらで暴れるぞ」
「ああ」
「お前は“サングエサ平原”とやらで暴れろ、リンネン」
「ああ。こっちも西方の地形はある程度頭に入ってる。なんとでもやれるさ」
ニィッと口角を釣り上げるリンネン。フッと不敵な笑みを浮かべるエドワード。
だけど、協力者は気づいてた。
(愚かな……あの平原と盆地は“禁断の地”。あそこはライヒ大帝国において最強の援軍が眠っている場所なのさ)
見え透いた敗北に協力者は内心ほくそ笑んだ。
(精々、醜く足掻くがいい)
邪悪なまでにほくそ笑んだ。
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