脱出×帰還×休息
ハァ~っと一行がその場に座り込む。
本来なら休みたいところだけど、残念ながらそうと言えないのも現実。
現実とは時に無情である。
パラパラと塵が、瓦礫が落ちてくる。
「嘘だろ……」
「それも当然ね。あれだけ暴れたら地下迷宮自体も耐えきれないわね」
ティアないしはアルトゥールが致し方ないと言い切るもキラキラと粒子が舞い始めた。
「…………どうやら私らもここまでみたいね」
「魂の奥底で休むのか?」
ズィルバーがアルトゥールに声を飛ばす。
「ええ、この娘の中で休んでおくわ。無茶しちゃったし。アルザードもそうでしょ?」
アルザードに話を振ると
「そうね。私もこれ以上の継続は無理ね」
アルザードらも身体からキラキラと粒子が舞い始めた。
「ここは大人しくカズの中に休んでいるわ。久々の外界だったし。つい顔を出したくなっちゃったからさ」
なんて言っちゃっているアルザード。
お茶目なところがあるけど、そこはおいおいとしておこう。
「って言っている合間にも瓦礫が崩れ方が大きくなっている」
(さすがに“古代竜言語”の影響力は大きい。いや、“創星覇竜波”の威力に耐えきれないか。
悔しい話だけど……)
「おいおい、なんだよこれ……なんで崩れるんだよ」
ユウトがアタオカなことを言い出す。
「キミのせいだろーが!!」
「ユウトさんのせいでしょ!!」
全員から文句やら罵詈雑言の嵐。
さすがのユウトも「うおっ」と驚く。驚くに決まっている。原因は自分にあるのだから。
「ったく、自分のせいだと自覚せんか。っていうか、なんでキミが“竜皇女”の転生先なのかが驚きだっての!」
(付き合わされる。こっちもストレスだっての!)
胸中で苛立ちを吐き散らし、ストレスを蓄積する羽目となった。
「って……んなことを言っている場合じゃない。急いで脱出するぞ!」
「そうじゃん。今は脱出しないと――!?」
(とは言っても、今、俺たちがいる地点は地下迷宮の最深部。アステリオンの迷宮と違って攻略したわけじゃない。つまり、自力での脱出ってことになる。だけど、この広さと深さから最短距離で移動するだけの時間も体力、“闘気”なんざほとんど……)
もはや、無理難題に直面していた。どうすればいいのか困り果てていると……
「やれやれ、さすがに“竜種”の魂と融合していても帰るだけの力は残っていませんか」
このタイミングでユウトを、ドラグルを覚醒させた青年――イーゲルが姿を現した。
「――! 誰だ!」
荒げるズィルバー。
「これは驚かせてしまった。俺はイーゲル。イーゲル・ハニヤスと言う。まあこの地下迷宮の管理――」
「そんなはずがないだろ」
ズィルバーがきっぱりと否定する。
「おや? どうしてかな?」
イーゲルが彼に聞き返してくる。その答えをズィルバーは知っている。
「イーゲル・ハニヤスってのは大昔に存在した人間の名前……しかも、創造神が人間を信じるきっかけを与えた人物の弟君だったはず」
「……そこまでお調べになられていたとは、博識ですね」
「褒められたことじゃない。何しろ世界の歴史の殆どは千年前からほとんど失伝している。そもそも、“竜種”に認められた人間のみに歴史の深淵を覗くように仕向けた側がよく言うじゃないか」
ズィルバーは歴史の全容を知る人間。故に仕向けた側の目論見も理解している。
故に問いただしたい。
なぜ、このようなことをしたのか。それがいつになっても引っかかっていた。
歴史を隠蔽することを悪く思っていない。ズィルバーも歴史の隠蔽した側なので悪く言うつもりはない。
だが、気になっていた。歴史を隠蔽した意義を……それを聞かなければいけない気がした。
「なるほど。歴史の全容を知る人間だったか。ならばわかるだろう。世界は未だに混沌に満ちていることを知らんわけではあるまい」
「むろん、その上で聞いている。だから答えてほしい。なぜ隠蔽する道を選んだ。ここはいかなる目も届かない完全無欠のシェルターだ。ここでなら話せられるだろう」
ズィルバーの質問にイーゲルは息を吐いて答えた。
「むろん、私は未だに許されていない。“オリュンポス十二神”に唆されたクソ野郎をこの手で殺さないかぎりにな。今までクソ野郎によって滅ぼされた国は数多くある。その国にライヒ大帝国も含まれていた。それは貴様も知っていよう」
「…………邪神教か。忌々しい」
「ん?」
ズィルバーの呟きにユウトたちは顔を見合わせる。逆にキララは憎らしい表情を浮かべる。
「アイツがまだ生きているというのか?」
「過去数百年、クソ野郎に加担している一派は存在した。ライヒ大帝国を未曾有の危機に直面させようとしていたのは事実だ。
ここ数年前、“教団”もクソ野郎が加担しているのは間違いない」
「……あの野郎。まだ性懲りもなく……」
「憎らしい……死ねよ……」
憎しみを募らせるズィルバーとキララの両名。
「邪神教の教祖は今なお生きている。歴史の一端……否、全貌を知れば知るほど、世界の闇は大きく深い。その闇に立ち向かえるのは後にも先にも闇を知る者のみ。
つまり、ライヒ皇家と五大公爵家。そして、闇を知り、関わりを持ってしまった者が対象となる」
イーゲルはズィルバーだけにとどまらず、ティアたちにも目を向ける。
「さて、ドラグルの……我が娘の魂を転生した少年よ」
「え? 俺?」
自分に指をさすユウト。イーゲルはパンっと手を叩く。
叩いた途端、まだら模様の卵が出てきた。
「この卵を授ける」
「俺に卵を?」
「その卵は最上級精霊“龍”の原点……“王帝龍”の卵だ」
「はっ!? マジか!?」
「あん? どういうことだ?」
「さあ?」
顔を見合わせるユウトとシノア。
ズィルバーだけは驚いている。“王帝龍”というのがどのような精霊なのかを知っている。
それは“竜神アルビオン”あるいは“破壊竜アルビオン”ことキララも動揺の表情を浮かべていた。
「き、き……“王帝龍”!?」
「“龍”系統の精霊の祖そのもの。精霊属性の中でも非常に珍しい“竜属性”の精霊じゃないか!?」
「しかも、精霊じゃなく現存しない“神獣”じゃない!?」
二人の驚きにユウトとシノアもビックリ仰天する。
いや、ティアたちも驚きを隠せない。
“王帝龍”というのが“神獣”であり、精霊の祖であったことが驚いた。
ここで誰もが思った。“五神帝”以外の精霊は神獣を祖とした生態系じゃないのかと思いたくなる。
しかして、ズィルバーが否定する。
「あっ、精霊に関してはほぼ自然現象を生き物として形作るために創造神が生み出した精神生命体。
みんなが思っているように“神獣”が精霊の祖というわけじゃない。“王帝龍”が特殊だ。創造神が生み出した神獣だ。そもそも、神獣ってのは“オリュンポス十二神”が生み出した生命体。物質を持つ生命体でありながら精神生命体であるという中途半端な進化をしてしまった生命体だ」
「中途半端な進化?」
「ズィルバー。それは一体……」
ティアが詳しく聞こうとするもイーゲルが話の腰を折る。
「おっと、詳しい話は皇宮図書室で読むといい。もしくは五大公爵家の書庫に残されている書物を読めば歴史の深奥を知ることができる。
こんなところで語られる話じゃない」
話の腰を折ってくれた。
「それよりもここから脱出しろ。さすがにキミらは暴れすぎた。
いや、同時に試練を乗り越えてみせた。どのような形であれ試練に乗り越えたことは喜ばしい。
試練とは壁であるのと同時に試験者に足りないものを導き出すためにある。此度の試練でキミらは大きな壁にぶつかっただろう。
キミらはこの先いろんな壁にぶつかり続ける。その壁を乗り越える術を身に付けていけばいい。
ここにいない彼女たちにもそう伝えてほしい。キミらは大きな障害を前に打ちひしがれてもいい。
ただし、自分の道を捨てないでほしい、とね」
「わかった。俺の口からみんなに伝えよう。それよりも急いだほうがいいな」
「そこは心配するな。私が外へ転送させよう」
「おいおい、転送魔法や転移魔法は空間属性の魔法は高難易度だぞ!?」
ズィルバーは目を見開く。キララもうんうんと頷いている。
「知っている。時空の狭間に閉じ込められる危険性があるのが転移魔法だ。
安心しろ。彼女から転移魔法の極意を学んでいる。時空の狭間に閉ざされることも醜き姿にさせないよ」
ズィルバーもそうだが、イーゲルも末恐ろしいことを平気で口にしている。
「ちょっと待てー!」
「さあ始めよう」
全員の声がシンクロしていたが、イーゲルはそれを無視して、転移魔法を実行する。
「我は創造神に愛されし王子なり。偉大なる創造神よ。御身の力をお借りし、彼方への旅立ちを許されよ」
それは別れの挨拶であり、ここへ立ち戻らせない誓いの言葉に聞こえた。
「これより先、ここへ立ち戻ることは許されない。
我が娘の転生者よ。そして、転生者を愛する姫君よ。貴殿らの幸せを願おう。
“王帝龍”は未来への先払いとしておこうか」
あえて、特定しない言い方をするイーゲルだが、ズィルバーとティアからすれば名指ししているようにしか見えない。
現に、シノアは顔を真っ赤っ赤にしていた。
「さあ、行きなさい。“転移”!」
魔法名を告げたのと同時にズィルバーたちの足元に青白く光りだした。
「未来はキミたちの手にある。世界が未だに答えを求めるかぎり」
その言葉を皮切りにズィルバーたちは“ギーガス山脈”の頂上部まで転移されたのだった。
しかも、古代竜言語による転移なので正確性もそうだが、精密性も高い。
地上まで戻されたズィルバーたちを見届けた後、イーゲルは独りでに呟いた。
「これで満足かな……アルトルージュ。
私は先に英雄神殿へ行っている。偉大なる“竜種”様との戦いを見届けられないのは悔しいけど、未来を託せるだけの若人が芽吹こうとしている。
いつの日にか、キミが来るのを待っている」
呟いたのと同時に彼の身体は透けて消えていくのだった。
彼の魂ははるかな遠くの場所へ旅立った。
「…………」
「ここは……」
「地上?」
“ドラグル島”地上まで戻ってきた。
ズィルバーは晴れ渡る空を見て、理解する。
「また一難去ったか」
笑みを浮かべて帰路にたった。
「ほら、街まで行くぞ」
「あっ、ちょっとまってよ」
これから先数多くの敵が彼らの行く手を遮る。
でも、彼らの歩みは止まらない。
遙かなる未来へ突き進むために――
To be continue…
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