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完徹の勇者  作者: きりま
領地拡大編

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第四十三話 方向性

 畑領主さん方のご意見を伺ったことで、少しは前進しているようだと勇者は自信を深めた。


「うむ、随分と助かったぞ!」

「ではまた後ほど」


 畑での相談を終えると、勇者は彼らを平地へと送り出し、また畑へと戻った。


 一気に膨れ上がった領地に領民をどうするか、その処遇をどうするか。

 移住希望者だからと丘へ移す理由はすでにない。


 出て行こうとした者を引きとめ移動してもらったのは、その分の人手が必要なこともあったが、属する場所を明確にするためだ。

 そうやって分けたほうが、飛び地を常にうろつかれるよりは、その他平地領主さん方も居心地が良いだろうと配慮したつもりだった。

 しかし今や、その必要がないのだ。


「まさかの俺様が大領主様か……人生とは摩訶不思議なものよ」


 どのみち平地の管理もあるので、全員に移られても困る。


(全てを統合して配置しなおせるのだから、耕地を広げるには楽になったと喜ぶべきだろうな)


 勇者は空を仰ぎ見た。

 冬期に入れば、雨でも降るときは雪になるだろうか。

 今まで見て回った場所での、季節の移り変わりについて思いめぐらした。


 海は近いが、今のところ天候は穏やかだ。

 土砂降りのような雨も降っていない。

 明け方には肌寒い日もあるが、日中も極端に気温が上がることもなく過ごし易い日々が続いている。


(ここに来てから数ヶ月か。そろそろ季節にも変化がありそうなものだが。なるべくその前に、ある程度の結果が見込めるよう頑張るしかない)


 お手製鍬を手に取ると、全てを忘れて大地へと鋭く切り込んだ。





 その晩の竃前は大変な騒ぎとなった。

 全ての平地民が竃周りに集い、殺風景な場所が狭く思える。

 さすがに歓迎会だからといって、全員に食事をふるまうことは出来なかったが、各々が持ち寄っていた。


 単に挨拶をするためだけではない。

 行き倒れ君達が、前回のように勇者の意向を伝えてくれていたのだ。

 彼らは挨拶がてら、勇者へと証書を手渡した。


 勇者は複雑な気持ちでそれらを受け取った。

 素直に喜べる規模を超えてしまっているのだ。

 故郷の村に関することは、己の夢だから苦労さえも楽しいものだったが。

 急に、責任という言葉が頭にまとわりつくように思えていた。


 彼らの夢まで背負う重みがのしかかる。

 だからこそ、生半可な態度は取れない。


 全ての証書を腕に抱え、勇者は元領主さんとなった彼らに、しっかりと気持ちを伝えた。


「どこまでご期待に沿えるかは分からんが、俺様は自身を超える覚悟でもってこの地を治めていくつもりだ。だからこそ、無茶を言うだろう。なにしろ頭痛のでっかい種もある。俺様の領民となったからには、一丸となって努力してもらうぞ!」


 来たばかりで何もない地だ。

 変化を求めていたのかもしれない。

 今晩くらいは楽しく過ごそうと、大騒ぎに混じった。

 酒はなくとも人は結構弾けられるようだ。


 すっかり日は暮れていた。

 それぞれと言葉を交わして竃へと戻ると、すでに仲間達は疲れて集まっていた。


「まるでお祭ですなー」

「楽しいならいいことだよ」


 護衛君から湯のみを受け取り、勇者も腰を落ち着ける。


「そういえばノロマよ。最近めっきり髪が薄いが何を企んでいるのだ」

「未だふっさーです。影が薄いと言われるのも心外ですな。むしろその理由について、ご相談したいので」


 最近あまり見かけなかったので、何か禄でもない呪術でもやらかしているのではないかと勇者は疑念の目を向ける。

 しかしノロマは、森深く出かけていたという。


「なんと、一人で森をさ迷い歩いていたのかね」

「薬をどうにかしろと言ってたでしょうに!」


 そもそも薬をあてにしたからこそ、煎じる場所を確保するため急いで城を建てたのだ。


「それもそうだった。しかし一人でふらつくのは感心せんぞ。不可思議な植物に脅かされ木の根に躓き、転げた先に天然の落とし穴があって、なおかつ串のように尖った石筍せきじゅんがそこに生えていたらどうするのだ。誰かが助けに行くまでもなく嫌な絶命をするのだぞ」


 以前歩き回ったときには、命を脅かすような獣などとは出会わなかったが、だからといって事故が起こらないわけではない。


「やけに限定的ですね。しかも即絶命ならば一人も二人も同じではないので」


 ノロマは怪訝な目で勇者を見た。


「屍を拾えるかどうか重要な問題ではないか。誰に知られることなく朽ちるなど、俺様の領地近くで気味が悪いし」

「そんなこったろうと思った!」


 そこへ行き倒れ君が質問した。


「というかノロマさん、薬草畑はどうしたんすか」

「おほぉそうだった。ですからね、頑張って増やせそうな種類の植物を探してきたのですよ。で、それについてご相談なんです」

「ようやくやる気になったのか」

「散々脅しておいてどの口がッ! まあその、人が増えたのならば、俺も誰かを助手にお借りできないかと思ったわけですよ」

「なるほど、それなら早くそうと言わんか。予定が狂ってしまう」


 勇者は懐から書付帳を取り出すと、『ノロマ畑』と記した。


「どんなのがお好みかね」

「といわれましても。そうですな」

「ノロマと薬草採取に付き合う体力があり、畑の面倒を見る経験があり、小細工に長けた手先を持つ者か」

「いっ言われた。まあそんな都合の良い方がいらっしゃるかは存じませんが」

「駄目なら条件を緩めていけばいい。ではあたりをつけておこうではないか」


 勇者はにこにことして、紙に木炭を走らせた。

 予定が狂うと言いはしたが、実のところ取っ掛かりに悩んでいたのだ。




 ノロマの提案で、ようやくタダノフへも気が回った。


「タダノフは領内をどうするつもりなのだ」


 今はまだまだ場所を開いてもらったりと、超力仕事をお願いしている。

 岩を移動したいときなどはタダノフに頼んだほうが早い。

 まだ体裁を整えている村の方でも、活躍中だった。


 勇者はタダノフが餌置き場が欲しいのと、餌をたらふく食べたいということしか知らない。

 領地の確保はしたが、家が建てられる程度あればいいしそもそも管理できないから広い場所はいらないと言い切っていた。


 勇者が来たからついてきただけだ。

 たまたま里帰りしていたときに拾ったから、短い期間だったが、それにしてもよく食うので村の食料庫への危機感を覚えたほどだ。

 勇者としても、こんな大飯食らいを貧窮した故郷に置いておくわけにいかなかったというのもある。


 故郷を出てから鍛えてもらいながら、代わりに餌を調達して町をぶらついていたときのことを思い返す。

 タダノフが何か望んでいるようなことを見聞きしなかったかと思ったが、やはり餌一色だ。

 何かできることを探してやりたいがと考えあぐねていると、タダノフが口を開いた。


「ふふん。あたしでも畑仕事ができるようになったんだよ」

「ほほう」


 意外なことだった。

 手伝いだけでは時間も余るが、その間は肉体強化に勤しんでいると思っていた。


「おーじ様がね、あたしでも適当こいて育てられるっていう芋をくれたのさ。二人の愛情を育ててるんだ。気合も入るってもんだよ」


 タダノフは頬骨あたりを上気させて、もじもじと筋肉を波打たせる。


(コリヌめ体よく追い払ったな)

(うまいこと回避してるようですなコリヌ殿)

(コリヌさんの機転を学びたいっす)


 勇者は生暖かい目でタダノフを眺める。

 今までは仲間一号だからとタダノフの味方ばかりしてきた。

 この分なら、幸せそうだから少しは放っておいてもよさそうである。

 タダノフの様子に申し訳なくもあるが、たまにはコリヌの心の平穏にも貢献しておこうと決めた。


「頑張っているではないか。ならばタダノフ、もうちっと本格的に取り組んでみないかね。餌置き場を一杯にしたいのだろう?」


 勇者は薄目の笑顔で提案する。


「なんだか企んでる顔だけど……あたしの得でもあるみたいだし、聞こうじゃないか」

「タダノフも人の手を借りて畑を広げてみるのだ。それくらいの場所はあるだろう」

「それもそうか、税でたくさん必要なんだろ? 訓練場用の広場も十分に確保できてるし、それもいいね」


 訓練場が重要項目だったとは、それ以上どこを鍛えるのだと言いたくもあるが、結構真面目に鍛えているようだと勇者は感心した。


「元領主さんの中にちょうどよい者がいるのだよ。すぐにも手配しよう」



 コリヌも地道に畑をこさえているが、日々の糧用である。

 一応コリヌにも、何をするつもりか人手はいるかと尋ねた。


「もちろん私の夢は茶畑です。これは農家出身の護衛も、どう育てるのか知らないようでしてな。挑戦するに相応しいと思いますぞ」


 今はそれどころではないがと苦笑する。


「幾分後回しになるが、追々調べていこうではないか」


 勇者は、夢があるならば出来る限りは叶えるお手伝いをしたいと思った。

 あれこれと書きとめると懐にしまい、白湯を啜りながら領民達を眺めた。


 海を渡れば簡単に故郷に帰ることもできる。

 それが、どこかお祭気分で、気合の入りきらない理由なのかもしれない。



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