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完徹の勇者  作者: きりま
領地拡大編

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第四十一話 うごうご筍の里

 無事に元領主さん方の受け入れ場所が決まると、早速移住を開始した。

 ほどなくして勇者領西側の麓近くには、布を張った簡易住居がぽこぽこと生えた。

 まるで雨後の筍である。

 平地で家と呼べるものを建てているのは、人手のある畑領主さん方だけであった。

 そう考えると、たとえ歪な掘っ立て小屋の勇者城も、相対的に見ればまさに豪邸と呼んでも差し支えないであろう。

 なんせ今や柵まであるのだ。


 勇者は日課中だ。

 色々と起こりすぎて、久々な気がするほど新鮮な気持ちになる。

 岩場から見る平地が日々少しずつ変遷する様に、胸を熱くした。


「やはり俺様のお城ちゃんが一番かわいい。そうだな行き倒れよ」


 深呼吸すると、岩場で屈伸運動を始めた。

 しばらく曲げ伸ばしをしてから誰の返事もないことに気付く。


 高い岩場から、後方の地面を見下ろす。

 普段はそこにぼんやりと佇んでいるはずだ。


「どうかしたかね行き倒れ?」


 やはりそこに佇んでいた。


「ああ俺に話しかけてたんすか」

「他に誰がいる」


 勇者は怪訝な顔をしたが、いつもぶつくさ独り言をほざいているのだ。

 急に話を振られるので困る行き倒れ君だ。


 理由もあった。

 勇者の代わりに、あれこれと書き留められるようにと指導を受けている。

 今は参考にと渡された、勇者の走り書きを読まされていた。

 規模が大きくなるにつれて、文書化は必須となるのだろうと身をもって分かった。

 頭がぼんやりするので苦手だが、必要ならばと頑張っているところだった。


 最近では、勇者の配下に相応しくもっと体力をつけろと、体操にも参加させられていたので、休めるのが嬉しいという不埒な考えがあったのも否定はしない。



「一生懸命読んでたもんで。それで、なんすか」

「いや……真面目に頑張ってるなら良いのだ。邪魔して悪かった」


 勇者は、言い直そうと口を開きかけてやめた。


(だーからー俺様のお城ちゃんが最高にまぶいだろ!)


 わざわざそんなこと、改めて言うようなことではない。

 よく考えると恥ずかしすぎることに気付いたのだ。


(うっわーまぶい、だって。死語だよ死語。危うく恥をさらすところだった)


 恥ずかしいと思うポイントが違うのを知ったら、行き倒れ君も残念に思ったことだろう。




 その後の朝食には、歓迎会を兼ねて、元領主さん方を招いた。

 予定を伝えるためでもある。


「本日は、元領主さん方へ任せたいことや、新たな領地への作業の割り振りをお伝えしたい」


 簡素な野菜汁がふるまわれたが、元領主さん方は喜んで啜った。

 勇者は簡単に予定を伝えるにとどめ、後は実際に行動すればよいと、食べ終わるや立ち上がった。


「ちょっとばかり元領主さん達と出かけてくる。行き倒れよ、畑特別区を頼んだぞ」

「特別区……いつも通りにやっときます」


 勇者からは毎回わけの分からない単語が飛び出すが、指している内容に変わりはない。



 勇者達が平地へ向かうと、領主さん方が集まってきた。


「なんだね皆さんわらわらと」


 彼らの目は輝いていた。


「どうなったかね鶏領主さんに皮革職人領主さん!」

「裏でどんなえげつない取引が開催されたのだろうか!」

「木こり領主さんとこから薪をもらいたいんだが」


 あれこれ心配という名の噂話に盛り上がっていたようだ。


「俺達はもう領主さんじゃないこけ」

「ぱかーんとさっぱり譲って身奇麗になったぜ」


 憑き物でも祓ったかのような物言いはやめて欲しいと思いつつ、勇者は騒ぐ周囲を宥めた。


「彼らは丘の麓らへんに住んでもらうことにした。場所を移動しただけで、今までと特に何も変わりはないから安心していたまえ!」


 ひとまず、譲り受けた領地の内、隣同士になる場所を見に来ていた。


(ここらに勇者砦でも築いちゃおうかなふふ)


 そんな私欲がむくむくと湧いたが、それは秘めたままにするとして、勇者は周囲に告げた。


「今は丘の領内の作業で手一杯でな。ひとまず様子を確かめに来たのだ。常にいることはできないが、お隣さん方にはなるべく迷惑がかからないように見回りはする予定だ」


 ほうほうと観衆は思い切り頷く。


「やることがたくさんあるのだ。それでは失礼するぞ」


 なんだか様子がおかしな風だと勇者は感じていたが、そのままに切り上げさせてもらった。

 予定は詰まっているのだ。



 勇者と元領主さん達は、置き土産だった資材や畑周辺の道具などを、広い場所へと集めてまとめていく。


 それを周囲の領主さん方が、自分の作業をほっぽりだして手伝ってくれた。

 どうにも彼らの目付きは気になったが、早く済んだのは助かった。


 まさかそれが、何かを含んだ行為だとは勇者に気付くことはできなかった。

 元領主さん達は、平地仲間であるから、周囲の思うところを察知していた。

 にこにこ顔で、手伝いに参加する人々へと応対している。


 作業を終えての立ち去り際に、周囲からは満足気な笑顔と、ちょっとしたご挨拶とは思えないしみじみとした言葉がかけられた。


「本当に、よく働くお方だね」

「そっかね。勇者さんは海を渡る前から、異彩を放っていたが」

「それが悪いほうではないと分かって、本当に安心したよ」


 勇者も頭が予定で一杯でなければ、元領主さん達の態度を見て、気が付けたはずである。

 自身でも認めていた通り、勇者に取り扱える許容量は超えていたのだった。


 勇者への追い風が吹く。

 近々嬉しい悲鳴が勇者ヶ丘へと響くのだ。



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