口は災いのもと1-2
墓村夕子は考える。世の中に蔓延する嘘のほとんどは許容されるべきなのではないかと。他者を思って吐く嘘のことだけを言っているのではない。自分の利益になり得る嘘もまた許されるべきだ。たとえそれが他者に迷惑をかけるものだとしても、致命傷になり得ないのであれば構わないではないか(そういった意味では無意味な嘘も許されるべきだ)。人間が個としてある以上、個は自分の利益を追い求めて生きていく。全て自分の為だ。
自分の為に努力する人間は必然的に嘘を吐くし、そうやって面倒事を回避しながら利益を得ている。ここで相手を傷つけないように嘘を吐くのも、不利益を被らない為に必要な事だ。
自分の親しい人物に対して配慮し、優しく生きていくということは自分の利益になる。そう考えれば、優しさというのは嘘とほとんど同義なのだ。煩わしい優しさというのは見え透いた嘘という意味だ。うまく嘘を吐けていないだけの話である。
とは言え人間なのだからうまく嘘を吐けないことだってもちろんある。夕子が理解できないのはそれを鬼の首でも取ったかのように批判する輩だ。優しくされたいくせにそういう中途半端な事をするから理不尽を飲み込まなければならない世界になったのだ。
世間は嘘も優しさと同じく許すべきだ。嘘がなければこの世はとても残酷なものになってしまうのだから。
しかし、そんな事を言ったところで現実は変わらない。結局人間は矛盾を受け入れ、理不尽を飲み込まなくては生きていくこともままならない。とかくこの世は生きにくいのである。
そこまで考えて夕子は思考を捨てる。
「めちゃくちゃつまらない話だな、こりゃ。漱石先生に失礼だし」
自分の思考ながら耐えられない。見苦しい。
公園のベンチで、遊んでいる子供たちを見ながら考えていることがこんなにつまらない戯言だとは。夕子は自分の思考に辟易しながら缶ジュースに口を付ける。
「あーあ、つまんないな。部活もつまんないし、雪ちゃんは全然構ってくんないし、なんか面白いことでもないかねえ」
退屈な少女は再び考えを巡らせる。今度は無為なことではなく、自分を楽しませることのできるものを意識する。
そういえば今日、同じクラスの助川光太郎が何やら騒いでいた。なんでも口裂け女に出会ってしまったんだとか。
なるほど胡散臭い話ではあるが、これは使える。
何に使えるかはお楽しみ。というより、夕子自身にも判らない。
しかしこれはきっと面白い事になるという予感があった。
「よし。そうと決まればさっそく明日、オカ研の人に話してみるか」