銀の屋根
銀の屋根瓦が太陽の光に輝く街がありました。
辺りはうっすらと紫の霧に覆われて、街は秋色の森に抱かれていました。
そこでは子供たちは健やかに、赤ん坊は笑顔、大人たちも明るく、犬も猫も太り、不幸なものは一人もありませんでした。
毎日毎日、人々は些細なことで噂ばなしをし合い、微笑みあっていました。子供は元気に木登りをしました。
そんなに幸せな街には、ある決まりがありました。
街の人々はそれを知りつつも、毎日を精一杯楽しく生きました。
とうとう、その日はやって来ました。
空は墨のように黒く、森は泥のように崩れ、人々が不安におののく日が。
一人の子が、お母さんにしがみつきました。怖くて仕方がないのでした。お母さんは子供を抱き締めました。
地面が揺れ始めました。人々は動揺して、おろおろと家族のもとへ走りました。家族ごとに固まって、それぞれ地面を見ました。
地面が少しずつ、下がっていきました。
銀の屋根瓦が、落ちました。
すると、全てが一度に落ち始めました。犬や猫、目を閉じ、抱き締めあった人々、銀の屋根瓦。
大きな穴に、街は落ちていきました。
街のあったところは、奈落になりました。
そして、奈落の底から伸びた巨大な舌がベロリと、唇を舐めました。
そのあと、ゆっくりと口は閉じました。
後に残ったのは腐った森と、永遠の黒い空だけでした。
《了》