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第12話

クリスマス当日、淡々とバイトをこなしながら、芹沢くんとのデートプランを考えていた。

ファミレスで食事ってのは何とも学生らしくていい。

高校生の彼に気を遣わせることもなし、自分が奢ることになってもリーズナブルだし。

まぁもちろんカッコつけたいがためにご馳走するつもりだけど。


終始上機嫌に仕事を終わらせて、バイト仲間の誘いをことごとく断って帰路についた。

さすがにそのまま行くのは時間的に早いので、一度帰宅してからマンション前で待ち合わせることになっていた。


あ~楽しみ

あ~~~楽しみ~~~♪


頭の中はウッキウキで、つい先日灯くんと別れ話をしたことなんて、微塵も引きずってなかった。

俺はこういう感じだから、あっちこっちフラフラしちゃうのかなぁ、なんて思いはするけど、そんな自分の性分をいちいち気にすることもなく・・・

ワクワクしながらうちに帰り、鞄をポイっとほっぽり出して、ささっとデート服に着替えて、入念に鏡の前でセットする。

セットって言っても、俺は肩につくくらい長めの髪型なので、いつも通りハーフアップにするくらいで、ワックスをつけたりはしない。

ベタベタして嫌いだし・・・

黒が混じってきた茶髪は、そろそろ染め直した方がいいかもしれない。


ま、それはさておき・・・


お尻のポケットに財布を入れて、いつものコートを羽織って、スマホとハンカチを入れた。

机の引き出しを開けて、普段付けている香水じゃなく、落ち着いた香りのものを選んで、手首とうなじに少しだけつけた。

いつものマフラーをちょっとシャレた結び方で巻く。

よし・・・


時間があったので少しコーヒーを飲んで落ち着いた後、しっかり歯磨きをして家を出る。

俺は誰相手の待ち合わせだとしても、遅刻しないようにしてる。

遅刻が人付き合いでプラスに働くことなんて、到底ないように思うからだ。

メッセージの返信だって、わざと遅らせたりしない。

駆け引きなんて面倒だし、円滑にやり取り出来た方が効率いいに決まってるから。


意気揚々と玄関を出てさっとスマホを確認する。


よし、5分前・・・


ドアに鍵をかけて、足元をチェック。ブーツは汚れてない。

廊下をカツカツ歩いて冷たい空気を肺に吸い込み、エレベーターのボタンを押した。

オレンジ色に点灯する数字が上から降りてくる。

音もなくスッと目の前にやってきたそこに乗り込み、少し降りると、ぽ~んと電子音がして停まった。

パッと視線を上げると、思わず頬が緩んだ。

開いたドアに芹沢くんが嬉しそうに乗り込む。


「理人さん・・・えへ・・・お待たせしなくてよかったです。」


「えへへ~タイミングバッチリじゃ~~ん♪」


嬉しくなって寄り添って腰に手を回すと、芹沢くんは恥ずかしそうに視線を落とした。


「あ~ごめ・・・セクハラしちゃった。」


スッと手を離して離れると、彼はキョロキョロしながらエレベーターが降りるのを待った。


「・・・理人さん・・・」


「ん~?」


「・・・え・・・えと・・・・・・何でもないです・・・・」


静かにエレベーターのドアが開いて、若干頬を赤らめる彼に、何だか無性に頬が緩む。


「ふふ・・・なに~?」


二人してマンションのエントランスを出て、刺すように冷たい空気を防ぐために、ポケットに手を入れた。

照れて答えてくれなさそうな芹沢くんは、苦笑いを返して俺の歩幅に合わせるために少し小走りになった。


かわい・・・


まだまだ小柄な彼が、ついて歩く様を見てるだけで癒される。


「芹沢くん・・・」


「はい」


「手ぇつなご」


左手をポケットから出すと、また戸惑ってアワアワする様子が、尊くてもう死ぬかもしれない。


「デートに誘ってくれたんだから、俺の事嫌いなわけじゃないよね?手ぇ繋ぐのは嫌?」


ガンガン攻めていくつもりで言い放つと、ドキマギする彼は恥ずかしそうに口をつぐんだ後、自分からパッと手を取った。


「ふふ・・・か~~~んわい♡」


ニヤける口元を抑えて小声で漏らすと、追い打ちをかけるような可愛い上目遣いが返ってきて、今度は俺が目を逸らせた。


あ~も~・・・・


人通りがある歩道に出て、不審がられないためにもニヤつくのを必死でこらえた。

まだ小さくて細い手は、何だかふと自分が幼い頃を思い出させる。

まだ小中学生だった時は、俺も灯くんに手を引かれて、あちこち近所で遊んでもらったっけ。


「あ、あの・・・」


「ん?」


横断歩道前で並んで待っていると、芹沢くんは気を遣うように口を開いた。


「近くのファミレス・・・理人さんは行ったことありますか?」


「あ~・・・いや、ないかも。友達とブラブラする時は、いわゆる・・・若者が集まるような街に行くし、こなへんは住宅街だから、あえて近くに食べに行こうってなったことないなぁ。」


「そうなんですね。」


「・・・芹沢くんはあるの?」


青信号を渡りながら顔を覗くと、彼は特に顔色を変えずにコクリと頷いた。


「まぁチェーン店だし、リーズナブルでデザートも充実してるし、高校生なら行くよなぁ。芹沢くんさ、ファミレスのドリンクバーでジュース混合させる派?」


俺がちょっとふざけて言うと、年相応な笑顔でクスクス笑ってくれた。


その後も他愛ない話をしながら一緒に歩いて、スッカリ緊張も解けたのか、学校で一緒にいる友達のように接してくれた。


「ファミレスってーとー・・・ピザとかハンバーグセットが主流な感じすっけど~・・・どーしよっか。」


店内はそこそこ混んでいて賑やかだけど、角っこのテーブル席に通されて、目の前の可愛い芹沢くんを堪能していた。

端末のメニューを指で滑らせながらいると、反対側から覗くように見ていた彼は、真剣な表情で悩んでいる。


「芹沢くん、ちょっと隣に座ってもいい?」


「え・・・?はい・・・」


端末を持って隣に移動して、選びやすいように画面を見せた。


「・・あ・・・理人さん・・・俺こっちのメニューで見るから大丈夫だよ?」


テーブルに立てて置かれていたメニュー表を持ち上げる彼に、頬杖を突きつつ横目で見つめた。


「ん~・・・隣に座れる口実ゲット~って思って移動したんだよ?」


「・・・あ・・・・う・・・・」


「後~・・・その調子でため口で話していいし、理人さんって他人行儀だからさ、せめて『理人くん』で。」


「・・・・うん・・・・。」


口説かれ慣れてない子ってここまで素直に照れるんかぁ・・・


誤魔化す笑みさえ返せない彼は、近距離にいるのに目を合わせてくれなくて、終始恥ずかしそうにしながらメニューを選んだ。

料理が到着するまでもずっと隣に座って話していたけど、芹沢くんは時々チラっと俺の顔を見る程度で、落ち着かない様子だ。


「・・・ねぇねぇ・・」


顔を覗き込むようにテーブルに腕をついて、可愛いお顔を近距離で見つめてみた。


「・・なに・・・?」


依然として恥ずかしがる芹沢くんは、少しお尻をずらして距離を取ってから視線を返した。


「・・・俺が近距離にいるのそんな嫌?」


そっと俺も近づき直して、腰に手を回すのはセクハラなので、大人しく膝の上に置かれた小さな手を握った。

同じ温度でぬくい感触が、何だか無性に愛おしい。


「い、嫌というか・・・」


「ふふ・・・ま、あんまからかい過ぎんのもあれだから、嫌われないうちに止めとくけどさ。」


手を離してメニュー端末の画面をポチっと戻して、ゆっくり向かいのソファへと戻った。


「・・・翻弄されるのはダメだと思って・・・」


芹沢くんは小声でそう言うので、聞き返すように見つめ返した。


「その・・・理人くんはカッコイイし・・・頭もいいし・・・きっと・・・色々・・・扱いに慣れてる人だろうし・・・その・・・」


もじもじして少し恥ずかし気にする彼を見つめながら、頬杖をついてるとどんどん口角が持ち上がってくる。


「なに~?好きになっちゃいそうってこと?」


芹沢くんは視線を逸らしながら、眉をひそめて「ん~」と唸る。


「・・・絆されたり、流されたりしたくないんです・・・。」


「ふぅん・・・?なんで?」


「その・・・無意識に惹かれるなぁっていう人でも、ちゃんと中身を知りたいし、見たいので・・・。いや、あの・・・俺如きが値踏みしてんの厚かましいんですけど!全然理人くんを品定めしてるとか、そういうわけじゃないから!」


「ほう・・・いいじゃん、品定めしてよ。俺芹沢くんの彼氏に立候補してるよ?」


あ、しまった。これはもう告白かぁ・・・?


自分の軽い発言を反省しながらいると、芹沢くんはまた視線を泳がせた。


「あ・・・・・ありがとうございます・・・・。」


「ふふ・・・」


それ以上何をどう言ったらいいのかわからないという困惑が見えたので、他愛ない話題に切り替えて、とりあえず仲良くなるために努めた。



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