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本気になれない理人くん  作者: 理春


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第13話

クリスマスの夜、つい数か月前までは、デート出来る相手が見つかるなんて思ってなかったけど、今はこうして可愛い手を繋ぎながら、夜道を歩いていられる。

ファミレスで食事を終えた俺たちは、時々他愛ない話をして白い息を吐き出しながら、ポツポツ点在する街灯を辿るように帰路についていた。


「そういや芹沢くんさ、ここが地元だったりする?」


「ううん。・・・お母さんが離婚して・・・それで二人暮らしするために引っ越してきた感じで。」


「あ~~・・・なるほど。俺は母さんの仕事の都合でさ、交通の便がいいし、俺も大学近いしってんで引っ越してきたんだよね。入学する前くらいに。」


「そうなんだ。」


「ん。」


歩幅の小さい芹沢くんに合わせて、ゆっくり歩くのが何だか心地いいし、真っ暗になった住宅街の静けさは嫌いじゃなかった。


「・・・あの」


「ん?」


芹沢くんは気を遣うようにまたパッと顔を上げて言った。


「あの、その・・・俺・・・口下手であんまり・・・上手く会話出来なくて・・ごめんなさい。」


「・・・?」


芹沢くんは恐らく、謝罪癖があるんだろう。後気遣い屋なのかもしれない。


「別に俺は気にしてないよ?」


「・・・そう?」


「うん。」


「あの・・・・後あの・・・」


「ん~?」


「俺・・・最近はあんまりだけどその・・・場面ばめん緘黙かんもく症で・・・急に黙っちゃったらごめん・・・。」


「・・・ごめん、緘黙症が何か俺知らないや・・・」


「えと・・・特定の場面や状況で、言葉が出なくなって、話せなくなる症状で・・・。頭の中に言いたいことは浮かぶんだけど、声に出来ない感じ・・・。」


「ほう・・・勉強になったわ。」


「・・・子供に多い症状なんだけど・・・その・・・俺小さい頃から・・・いじめに遭ってたことがあって・・・」


何気なく説明のためにこぼれた言葉に、少し苦い思い出と不快感が蘇った。


「それでその・・・相手から強く責められたり、罵声を浴びせられたりすると、緘黙症になっちゃって・・・」


「なるほどね・・・。そっかそっか・・・。・・・・俺は別に芹沢くんを責めたりしないし、怒鳴る機会もないから、大丈夫だよ。」


「うん・・・ありがとう。」


芹沢くんはヘラっと可愛い笑顔を返して、ニコニコ口元を持ち上げたまま、嬉しそうにまた視線を落として歩いた。


かわい・・・・・・♡


「ね~芹沢くんさ~~」


「はい・・・」


「どういう男がタイプ?」


「えっ・・・・と・・・・」


「あ~・・・てか芹沢くんは女の子も好きだっけ・・・。どういう人がタイプ?」


出来れば芹沢くんが好きなタイプの人間になりたくて、そう尋ねると、彼は少し考えてから、チラっと視線を返した。


「・・・優しすぎない人・・・」


「・・・優しすぎない・・・・?」


「うん・・・。優しい人はその・・・誰にでもなのか、自分が特別なのかわからないし・・・。好意を持って優しくされても・・・我慢があって優しくしてくれてたら、俺は鈍感だからそれに気づけないまま傷つけちゃう気がするし・・・。自分の気持ちとかを、置いといて優しくしてほしくはなくて・・・多少自分の意見が強くても、優しさの使いどころわかってくれてる人がいいなって・・・。」


「・・・・は~~~ん・・・・。なかなか深いこと言うな~~・・・・」


俺が感心していると、芹沢くんは苦笑いを落として少しだけ繋いだ手に力を込めた。


この子は感受性の強い子なのかもしれない・・・。

年上の顔色を窺ったり、もしくは家族の顔色を窺ったり、そういう癖があるのも事実で

それは今までの家庭環境や、いじめに遭っていたという情報からしても、周りから不遇な扱いを受けてきた結果だろう。

けど芹沢くんは、弱気な少年には見えるけど、卑屈なことはあまり口にはしてない。

その二つはセットになってることが多いけど、彼からは自分の将来への希望や、人との関わり方の前向きな姿勢が伺える。

振り返って落ち込みそうになる気持ちを、前向きさに変えているような・・・そんな気がした。


「そっかそっか・・・。」


優しすぎない人・・・・自己犠牲のない人・・・?

飴と鞭ってことか・・・?


俺が真剣に思い耽っていると、芹沢くんは少し焦ったように問いかけた。


「あの、理人くんの好きなタイプは?」


それは自分が聞かれたから聞いただけで、俺への好意の表れではないのはわかっているけど、仲良くなろうと会話してくれることが嬉しかった。


「え~?芹沢くんみたいな子だけど?」


「俺みたい・・・?」


デレデレして反射的に出た言葉に、彼は真剣に聞き返した。


「あ~・・・えっと~・・・でもあれだなぁ・・・簡単に言うと、甘えてくれる子の方が好きかな。今の芹沢くんよりもっと小さい頃は、甘えたい派だったから、年上のお兄さんが好きだったけど・・甘えられたり、束縛されるのも好きだし~・・・。そういうタイプの人じゃなければ、スマートで大人なイケメンも好きかなぁ。」


自分が述べたそれは、あくまで取っ掛かりとして惹かれる部分だけど、誰かと長く付き合ったことない俺には、そういう薄っぺらいことしか言えなかった。


「そうなんだ・・・」


芹沢くんは静かにそう呟いて、また前を向いて歩く。


ファミレスから俺たちが住むマンションまでは、歩いて20分程しか距離がない。

もっと仲良くなりたいけど、好感度を上げつつ親交を深めるのってムズイんだよなぁ。


芹沢くんはたぶん、本気出して口説けばすぐ落とせるタイプの子のようにも思える。

けど話している一つ一つから考えるに、わりと人間関係に慎重派だ。

俺がぐいぐい好意を押し付けても、気後れして逆効果な気がする。

最初からこっちに矢印が向いてれば、仲良くなるのは早いけど、今は友達っていうたどたどしい状況から、俺が無理やり恋愛の方に引っ張ってる感じだもんなぁ。


焦ってはいけないと思いながらも、恋人ほしさに気持ちが逸る自分がいた。


「はぁ・・・」


暗い夜道で思わずため息が漏れて、案の定芹沢くんは心配気に俺を見上げた。


「・・・どうしたの?」


「え・・・や~・・・何だろ・・・まともに恋愛したことないから、難しいなぁって思ってさ。」


すると芹沢くんは眉をしかめて、小首を傾げる。


「・・・でもあの・・・理人くん・・・男女問わずモテそうだなぁって思うけど・・・」


「あ~・・・まぁ・・・ねぇ・・・。でもまぁ俺が悪い所もあるんだけど、皆だいたい遊び目的で声かけてくるんだよ。」


「・・・そうなんだ・・・。」


「そ~。ま、もちろん真剣に好意を持って接してくれる子も、中にはいるとは思うけど・・・。そもそも女の子は恋愛対象外だし、男の人でどストライクな人が好きになってくれたことってないんだよねぇ。」


「そっか・・・」


「ていうかそもそも・・・お互いが惹かれ合う、みたいな運命的な恋愛もしたことないからさ、贅沢な話だけどね・・・。だから難しいなぁって思っちゃうのかもなぁ。」


そろそろマンション前の横断歩道に辿り着こうかというところで、芹沢くんはまた、俺の話を粗方聞き終わって頷いた。


「・・・もっと・・・」


「うん?」


目の前を過ぎる車の走行音に紛れて、彼の小さくて細い声が、無情に刈り取られていく。


「もっと理人くんの話聞きたいなぁって思って・・・」


「・・・え~?ありがと~♡」


嬉しくなってヘラヘラすると、芹沢くんは同じく柔らかい笑顔を向けて言った。


「・・・理人くんは、この後うちに帰って、これくらいの時間帯って何してるの?」


俺はさっとスマホをポケットから取り出して、時間を確認した。

食事を済ませてそのまま帰路についたので、まだ20時半だ。


「ん~・・そうだなぁ・・・。とりあえず風呂入って~・・・冬休みだから課題もないし、適当にパソコンで動画とか観ながら、ゆっくりする感じかな。」


「そうなんだ。」


「・・・芹沢くんは?」


「えっと・・・俺も同じような感じかも・・・。でも冬休みの宿題があるから、ちょっと手を付けて終わらせられるものをやっとくのもありかな・・・。」


「あ~そうかそうか、そうだよね。・・・ふふ、てっきり、まだ話したいからおうちに来てほしいなぁって言われるのかと思っちゃったわぁ♡」


思わず浮かれて言うと、彼は意外にもまた変わらない調子で「ふふ」と微笑んだ。


「俺も出来たらそうしてほしいなぁって思ったよ。でも理人くんが一人でまったりする時間、奪っちゃうのも悪いから・・・。」


この子は・・・


「・・・ん~・・・」


仲良く並んで横断歩道を渡って、いったい何をどこから説明しようか迷っていた。


「えっとねぇ・・・芹沢くん」


「うん」


「俺はねぇ・・・恋愛対象が男の子のみの、ゲイなんだよ。」


「うん・・・」


「芹沢くんは、特に恋人がいらっしゃらないフリーの男子高校生じゃんか。」


「うん」


「俺が口説こうとしてるのは自覚してる?」


マンションの入り口前まで来て、彼は恥ずかしそうにキョロキョロしながら立ち止った。

煌々と照らす灯りの元、俺も立ち止まって芹沢くんに向き直る。


「なんていうか・・・自分で言うのもなんだけどさ、チャラいなぁって思われやすいんだよ俺。まぁ実際遊んでるし、経験だけは豊富だから・・・チャラいのは間違いないし。すぐ芹沢くんみたいな可愛い男の子に色目使ってデレデレしてるからさ・・・。そういう奴をさ、気軽に部屋に招き入れようなんてこたぁ・・・ちょっとよろしくねぇよ。」


少しおどけながら注意喚起すると、彼は途端に暗い表情を落として俯いた。


「ごめんなさい・・・」


「あ~~・・・いや、叱ってるわけじゃないからね!?別にいいんだよ?何も知らない無垢なままで男を家にあげてさ、俺に食べられちゃっても・・・もしくは俺とは違う男の子が好きな奴とそういうことになってもさ、合意の上で行われたことなら法律上は大丈夫なんだよ!んでも芹沢くんの精神衛生上さ、よくないことと思うなら避けた方がいいんじゃないかなぁっていう、ちょっと年上からのアドバイスだから。偉そうに聞こえてたならごめんね?」


最大限配慮に配慮を重ねて言うと、芹沢くんは真剣な顔つきでまた頷いた。


「うん。・・・理人くんありがとう。」


「んえ~?」


「その・・・世間知らずな子供を相手にするの、疲れるなぁって思われちゃうかもしれないって・・・思って・・・」


「いや・・・別にそんなことは思わないよ。」


「うん・・・。あの・・でも俺・・・理人くんとちゃんと友達になりたい・・・から・・・。ちゃんと注意してくれてありがとう。」


なんて真面目ないい子なんだろうか・・・

思わず浄化されそうになりながら、クリスマスの夜は何事も無く幕を下ろした。



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